音楽ナタリー Power Push - 秦 基博×花沢健吾
音楽とマンガ、それぞれの作り手の“Q & A”
創作における他者の存在
──花沢さんは普段、どんな音楽を聴いていらっしゃるんですか?
花沢 最近はあんまり聴かなくなってますね、正直。いいなと思うと、すぐに影響を受けてしまうんですよ。特にネームを描いているときはまったくの無音です。ほかの情報が入ってくると、すぐそっちのほうにズレちゃうので。作画のときは音楽を聴きますけど、洋楽を適当に流していることが多いかな。
秦 言葉があると……。
花沢 引き寄せられちゃうんですよね。悲しい曲を聴きながら描いてると、笑顔を描くはずだったのに悲しそうな顔になったりするし。あ、でも、(秦がボーカリストとして参加した)レキシの「年貢 for you feat. 旗本ひろし、足軽先生」はずっと聴いてます。あれはさわやかですよねー。
秦 そうですね(笑)。
花沢 あれはコラボレーションですけど、秦さんはほかの人に曲を提供することもありますよね。そういうときは、その人が歌っているところをイメージして作るんですか?
秦 そのときによって違いますね。僕は曲だけを提供して、歌詞はご本人が書く場合もあるし、プロデューサーの方がいて具体的に音の話をすることもあって。「8ビートで、コードはこんな感じで。あとは好きに作ってください」とか。
着想の仕組み
──「Q & A」は映画「天空の蜂」の主題歌ですが、どんなイメージで制作されたんですか?
秦 今回は映画が完成していたので、まずはそれを観させてもらって。その中で自分とリンクできる部分を探すというか、映画が伝えたいテーマの中から「どれだったら自分の言葉で歌えるだろう?」って考えて書きました。物語の中心は、自衛隊の巨大ヘリを設計した人と原発を設計した人の2人なんですね。最初は同じような境遇にいるんだけど、ストーリーが進んでいく中で立場が180度違ってきて。「それを分けたのはどこだったんだろう?」というのも考えました。
花沢 なるほど。
秦 ヘリも原発も使い方によってはすごく役に立つものでもあり、危険なものでもあると思うんですよ。そのことを含めて、紙一重、二律背反の難しさを強く感じて。善悪がはっきりしない状態で揺れている感じだったり、誰かにとっての幸せが、ほかの誰かにとっては不幸せになることだったり……。でも「答えがわからない」なんて言っていられないこともあるし、その中で何を答えとして選択するかという意味で「Q & A」というタイトルにしたんです。
──曲調についてのリクエストは?
秦 それは特になかったんですが、映画はスケール感、スピード感がすごかったので、アグレッシブな曲調にしたいなとは思っていましたね。花沢先生は、作品の着想はどんなふうに得ているんですか? 特に「アイアムアヒーロー」はこれまでの作品と全然違っているので……。
花沢 「アイアムアヒーロー」は……その前の2作があんまり振るわなかったんですよ。
秦 え、そんなことないと思いますけど(笑)。
花沢 いや、そうなんですよ。少なくともお金が入ってきたわけではないし、スタッフ代で全部消えちゃって。だから、「アイアムアヒーロー」はフラストレーションですよね。「全部ぶっ壊れてしまえばいい」という破壊衝動というか。で、「どういう破壊があるだろう?」と考えたときに「ゾンビものって、意外とないよな」と思って。しかもリア充のほうが感染しやすいということにすれば、俺の感情も乗せられるなと。
秦 ご自分の感情を乗せるというのは、やっぱり重要なんですか?
花沢 そうですね。絵的にはかなりクールに描いてるんですが、感情はハッキリしていないと読者に伝わらないんじゃないかなって。「アイアムアヒーロー」のときは最初の段階からモチベーションの起伏があったから、そこがよかったのかもしれないですね。秦さんは怒りを音楽にぶつけることってありますか? 負の感情を歌詞に乗せるとか。
秦 ありますよ。曲にモヤモヤした気持ちを乗せるというか。
花沢 そういう曲を歌わなくちゃいけないとき、もしハッピーな状態だったらどうするんですか? 気持ちを怒りのほうに寄せたりすることもあります?
秦 そこに関しては意識してなくて、歌うときにギャップを感じることもないんです。それはたぶん、歌の主人公が100%自分ではないからでしょうね。“すべて自分”だったら、歌うときに「これは今の俺じゃない」って思うかもしれないですけど。
花沢 曲を書いた段階で自分と切り離してるんですね。
秦 そうですね。真ん中の気持ちは残ってるんですけどね、その曲を書いているときの。曲にするときはイメージを広げたり、客観的な情景を入れたりするんですけど、真ん中に自分がいるかどうはすごく大事。それがないと「なんで自分が歌うんだろう?」ということになってしまうので。
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- 秦 基博 ニューシングル「Q & A」2015年9月9日発売 / アリオラジャパン / オーガスタレコード
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- 通常盤 [CD] 1300円 / AUCL-186 / Amazon.co.jp
収録曲
- Q & A
- 恋はやさし野辺の花よ
- Dear Mr.Tomorrow (with String Quartet)
- Q & A(backing track)
秦 基博(ハタモトヒロ)
オフィスオーガスタに所属する、1980年生まれ宮崎県出身のシンガーソングライター。横浜を中心に弾き語りでのライブ活動を開始し、2006年11月にシングル「シンクロ」でデビュー。強さを秘めた柔らかな声と抒情豊かな詞、耳に残るポップなメロディで大きな注目を浴びる。2007年9月に発表した1stフルアルバム「コントラスト」がヒットを記録し、2009年3月に初の東京・日本武道館公演を実施。2011年には自身3度目の武道館公演を全編弾き語りで成功させた。2013年10月に自身が選曲したセレクションアルバム「ひとみみぼれ」をリリース。そして2014年8月発表の3DCGアニメ映画「STAND BY ME ドラえもん」の主題歌「ひまわりの約束」は大ヒットを記録し、今もなおロングセールスを続けている。2015年6月には映画「あん」の主題歌「水彩の月」をリリースし、同年7月に青森県の縄文遺跡群の魅力を伝える「あおもり縄文大使」に任命され、三内丸山遺跡での野外公演は4000人の観客を動員し話題を集める。9月に自身にとって19枚目のシングルとなる「Q & A」をリリースした。
花沢健吾(ハナザワケンゴ)
1974年青森県生まれ。アシスタントを経て、2004年に「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)にて連載された「ルサンチマン」でデビュー。2005年から2008年にかけて同誌で連載していた、妄想ばかりのダメ男に訪れた恋を描いた「ボーイズ・オン・ザ・ラン」は、素人童貞の男性を主人公としていることから、非モテ男性ファンからの熱い支持を獲得。2010年に映画化、2012年にテレビドラマ化された。現在は「ビッグコミックスピリッツ」で「アイアムアヒーロー」を連載中。同作品は2016年に映画としても公開予定。