音楽ナタリー Power Push - 秦 基博×花沢健吾

音楽とマンガ、それぞれの作り手の“Q & A”

自分の主張の移り変わり

花沢 自分の書いた歌詞を読み返すことってありますか?

 読み返すことはないですけど、気にすることはありますね。「この言葉はもう使ったな」とか。でも、好きな言葉をつい使ってしまう傾向もあって……。

花沢 それってどんな言葉なんですか?

秦 基博

 “滲む”とかかな。曲ができたときに、周りのスタッフから「それは何回も使ってる」って言われて、「じゃあ、変えよう」ということもありますね。

花沢 過去の作品と比べて、自分の主張が変わってきてるなって思うことはあります?

 ありますね。大きく変わったとは思わないですけど、表現の仕方、言い方は変わってきているので。初期の頃は情景描写が多かったんですが、どんどん心理描写が増えているのは自覚していて。そっちに寄り過ぎだなと思ったときは、情景が印象的な曲を書こうとすることもあります。

花沢 僕の場合は柱がなくて、常にブレてるんですよ(笑)。だから編集者にも「読み返したほうがいいですよ」って言われます。キャラクターの名前すら忘れてることもあるんですけど(笑)、読み返してみると、自分が描いた過去の作品にけっこうヒントがあるんですよね。「ここでこんなこと言ってるんだ」というのが、そのとき描いているものにつながることもあります。

 あー、なるほど。

わからないキャラクターを描く

花沢 ちなみに秦さんは女性目線から曲を書くことってあります?

 それはないんですよね。女言葉で歌詞を書くというのは昔からある手法だし、やってみたい気持ちもあるんですけど、どうも自信がなくて。「結局、女性のことはわからない」っていうのもあるし、書けないんですよ。なので、とことん男目線ですね。マンガの場合はいろんなキャラクターが出てきますよね。自分に近しいキャラ、相反するキャラ、性別もあるし。それはどうやって作ってるんですか?

花沢健吾

花沢 それがホントに苦痛なんですよ。女性に関しては僕も「理解できない」っていうのが前提なので、自分勝手に空想のキャラクターを作るしかなくて。そういうのって、いくら女性経験があっても関係ない気がします。男の作家で、女性をうまく描けてる人ってそんなにいないし。同性でも、イケメンのことはさらに理解できないんですけどね(笑)。余計に描くのが苦痛だし、だから不幸な目に遭わせたりするんですけど。

──「ボーイズ・オン・ザ・ラン」のイケメンのキャラクターも病気になりましたからね……。

 あれはすごい不幸でしたよね。

花沢 さすがにクレームが来ましたけどね、あのときは(笑)。

うまく描けないからマンガ家になれた

──キャラと言えば、「アイアムアヒーロー」の5巻に秦さんをモデルにしたキャラクターが登場しますね。

花沢健吾「アイアムアヒーロー」5巻より。©花沢健吾、小学館

 そうなんです! ポリポリお尻を掻いてて(笑)。「アイアムアヒーロー」もずっと連載で読んでたんですけど、見逃していたんですよ。武道館のライブに花沢先生が来てくださったときに直接教えていただいて、すぐに確認したら「あ、これだ!」って。

花沢 登場させた理由は特にないんですけどね(笑)。描いてみたいなって思っただけで。

 ははははは(笑)。うれしいです。しかもすごく意味ありげに出てきて。

花沢 でも、そのあとはまったく出てこないっていう(笑)。あのキャラクターも、秦さんに似てないんですよね……。もともと似顔絵が苦手なんですよ。

──モデルに似てるだけでは、キャラクターとして成立しないのでは?

花沢 ホントは何度も描いて、ちゃんと自分の作品のキャラにしないといけないんですけどね。ただ、模写はホントにうまくないんです。小さい頃「少年ジャンプ」が全盛だったから、みんなでアラレちゃんとかを描いてみるんですけど、すごいうまいヤツがいたりするんですよ。僕は全然描けなくて……。でも、だからこそマンガ家になれたのかもしれないですね。自分のオリジナルを描くしかないから。

 実在の人をキャラクターにすることって、けっこうあるんですか?

花沢 ありますね。「アイアムアヒーロー」の最初のほうは、気に入らない人をゾンビに感染させてました。そうやってストレスを解消して(笑)。

 ははははは!(笑)

花沢 今は「そんなことしなくてもいいのに」って思いますけどね。申し訳なかったなって。

秦 基博 ニューシングル「Q & A」2015年9月9日発売 / アリオラジャパン / オーガスタレコード
初回限定盤 [CD+ブックレット] 1700円 / AUCL-185 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 1300円 / AUCL-186 / Amazon.co.jp
収録曲
  1. Q & A
  2. 恋はやさし野辺の花よ
  3. Dear Mr.Tomorrow (with String Quartet)
  4. Q & A(backing track)
秦 基博(ハタモトヒロ)

秦 基博オフィスオーガスタに所属する、1980年生まれ宮崎県出身のシンガーソングライター。横浜を中心に弾き語りでのライブ活動を開始し、2006年11月にシングル「シンクロ」でデビュー。強さを秘めた柔らかな声と抒情豊かな詞、耳に残るポップなメロディで大きな注目を浴びる。2007年9月に発表した1stフルアルバム「コントラスト」がヒットを記録し、2009年3月に初の東京・日本武道館公演を実施。2011年には自身3度目の武道館公演を全編弾き語りで成功させた。2013年10月に自身が選曲したセレクションアルバム「ひとみみぼれ」をリリース。そして2014年8月発表の3DCGアニメ映画「STAND BY ME ドラえもん」の主題歌「ひまわりの約束」は大ヒットを記録し、今もなおロングセールスを続けている。2015年6月には映画「あん」の主題歌「水彩の月」をリリースし、同年7月に青森県の縄文遺跡群の魅力を伝える「あおもり縄文大使」に任命され、三内丸山遺跡での野外公演は4000人の観客を動員し話題を集める。9月に自身にとって19枚目のシングルとなる「Q & A」をリリースした。

花沢健吾(ハナザワケンゴ)

1974年青森県生まれ。アシスタントを経て、2004年に「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)にて連載された「ルサンチマン」でデビュー。2005年から2008年にかけて同誌で連載していた、妄想ばかりのダメ男に訪れた恋を描いた「ボーイズ・オン・ザ・ラン」は、素人童貞の男性を主人公としていることから、非モテ男性ファンからの熱い支持を獲得。2010年に映画化、2012年にテレビドラマ化された。現在は「ビッグコミックスピリッツ」で「アイアムアヒーロー」を連載中。同作品は2016年に映画としても公開予定。