春ねむり|奪われてることにもっと怒っていい

死にゆく人に対して、私は大きな声で呼ぶことしかできない

──愛にもいろいろあるけど、ねむりさんがイメージするのはどういう愛ですか?

ただそこにあるということを認めてあげるのが、たぶん一番根源的な愛だと思うんですよ。それを自分自身に対してできたら、それが究極の自己肯定で、そしたら他人のことも認められる。神様から与えられてるのでもなく、誰から認められてるのでもなく、ただ自分という一個体がここにあるということをそのまま認めてあげる。それ以上でも以下でもないと思うから、人間の存在って。人間同士の愛とか恋とかは、社会的に後付けされたものでしかないと思うんです。悪いことではないけど、そこに根拠を置くといろいろ歪んでしまう。

──「愛よりたしかなものなんてない」で何度も繰り返しシャウトしている“愛”というのはそれなんですね。

「春と修羅」に「鳴らして」っていう曲がありますけど、あれは実体験が元になってるって前回話したじゃないですか。あの「中央線飛び込めなかったよ」ってLINEをくれた友達の名前が“愛”なんですよ。「春と修羅」を作ったあとに思ったんですけど、本当に死にゆく人には、何もしてあげられないんですよね。音楽は特に。私たちがどんなに手を差し伸べても、本人がほんの少しだけでも「助けてほしい」とか「生きたい」と思ってくれてないと、あっけなくあっち側に行っちゃうんです。そしたら、それでも、私はより大きな声で呼ぶことしかできない。だから、それをやるしかないなって思って。「鳴らして」は、回り回って誰よりも自分に言ってるんです。だから今回はよりいっそううるせー曲を書いてやろう!と。

──なるほど。

地球が1個の有機的な生命体だとしたら、自分はその生命体を構成する細胞の1つだと思うんですけど、自分の体もそういうふうにできてるじゃないですか。昔読んだ宇宙図鑑に「わたしたちは星のかけら」っていう小さいコラムがあって、それがすごく好きだったんです。内容はあんまり覚えてないんですけど、惑星のかけらから人間の体は生まれたっていう説があるよ、みたいな話で、すごく素敵だなと思って。私たちは星のかけらで、そこに木が生えてるみたいに、花が咲いてるみたいに、ただそこにあること。私たちはみんな星の子供なんだって本当に思えること。たぶんそれが、それだけが愛なんだと思うんです。

優しい人から順番に死んでいく

──「ファンファーレ」でも「愛と怒りのファンファーレ」と歌っていますしね。

昔から変わらず怒ってます(笑)。「Pink Unicorn」も怒りから生まれた曲だし。2年前にバンドマンの友達が死んだんですけど、そのときの周りの反応が気持ち悪すぎて。私、嫌いなんですよ。メモ帳に故人との思い出と自分の気持ちをつづってスクショしてSNSに上げるやつ。1人じゃ抱えきれなくて、どうしようもなくて書いてる人はいいんですよ。でも「お前そんな仲よかったか?」みたいな人が「どうして? 信じられない」みたいなこと言ってるのを見ると、「いや、お前のその神経が信じられねえから」って気持ちになっちゃうんです(笑)。

──僕も似たような経験をしたことが何度かあります。

春ねむり

人の死で傷ついた気持ちがそんな簡単に癒えるわけないのに、すぐ日常に落とし込んでんじゃねえって思って……あー、思い出したら悲しくなってきた。そういうものに触れると吐きそうになるっていうか、物理的に吐いちゃうんですけど、その話を仲のいい人にしたら、「それは人間を人間だと思ってるからだよ。この世に生きてる人間の8割は条件反射で生きてるんだから、虫だと思って接したほうがいいよ」って言われて「確かに」って納得しました。

──「わたしピンク色のユニコーン きみの神さまになんてしないで」と歌っているのは?

「見えざるピンクのユニコーン」っていうインターネットミームがあるんです。無神論者や宗教懐疑論者が超越的存在を揶揄したもので、つまり信者は目に見えないのにピンク色と知っているっていう。ホントそうだなと思ったんですよ。春ねむりっていうものに対して、もしあなたがそういうふうに感じるのであれば、それは見えないのにピンク色と知っているユニコーンと一緒だと思うよ、っていうことです。

──強い思い入れを持たれることが多いと言っていたので、そういう経験が書かせた曲かと思いきや、それより怒りのほうが大きいんですね。

大きいですね。本当にブチ切れてたので(笑)。あのことがあってから1カ月ぐらいずーっと、24時間中16時間くらい「あいつが気持ち悪い、こいつが気持ち悪い」って話をしてたと思います。最悪だけど、自分が変わる経験ではあったと思います。

──変わるというのは?

私、自分の生きてる世界がどういう場所なのかってことをあんまり知らずに育ってきたんです。そこそこ裕福な家で育って、中高一貫の女子校に通って、大学もまあまあいいとこに行ってて、一般的な教養のある人が周りに多かったんですね。ところが大学を出ていざ大人になったら、自分が思ってることが全然当たり前じゃないって知ったんです。人は悪意で他人を傷付けるし、自分のことを善なるものだって信じてる。そういう人がこの世にはいっぱいいるんですよ。それで2、3年前はずっと死にたいとか消えたいと思ってたんですけど、死にたくないって思うようになって。でも、人って死にたくないって思うときに死ぬんですよ。死にそうになってるから死にたくないって思うわけで。「あの人、死んだときこんな気持ちだったんだな」って最近思うようになって、マジでやばいです(笑)。

──いやいや、ホントに死なないでくださいね。

だからすごく作るんだと思うんです。腹の立つことばっかりなんですよね。優しい人から順番に死んでいくし。去年の7月に飼っていたモルモットが死んじゃったんです。その名前が「りんご」で。

──それで「りんごのうた」?

春ねむり

そうです。「なんであんなに善良な存在がたった7年で死ななきゃならないんだ?」って腹が立ちすぎて、情緒が大変なことになりました。善良なものと触れ合うって本当に大事だなって思います。この曲、歌うと泣いちゃうからライブでできないんですよ(笑)。レコーディングも大変でした。

──話を聞いていると、やっぱり「愛と怒りのファンファーレ」というフレーズは春ねむりというアーティストを象徴している気がします。

意外と言ってる人いなかったなって思って。あと「ファンファーレ」ってタイトルで本当にファンファーレから始まる曲ってあるのかなって調べました。「なさそうだな、よし、いける」みたいな(笑)。