遥海「My Heartbeat」インタビュー|今だから歌える思いを込めて。“私の鼓動”を刻んだ1stフルアルバム

2020年5月にシングル「Pride」でメジャーデビューを果たしたシンガーの遥海が、満を持して1月26日に1stフルアルバム「My Heartbeat」をリリースした。

本作には「Pride」や映画「科捜研の女 -劇場版-」の主題歌「声」など既発シングルのほか、新曲やこれまでライブで披露されていた曲など全10曲を収録。ペルピンズ-PeruPines-のRIOSKEをゲストに迎えた「Dotchi」では恋が始まるドキドキ感を歌ったり、ケレン味たっぷりのエレクトロチューン「Don't want your love」にはこれまでになく強いメッセージを込めたりと、新たな魅力をちりばめながらも親しみやすく等身大の作品が生み出されている。

昨年の暮れには国連主催のオンラインイベントにゲスト参加するなど、社会問題にも積極的にコミットしている遥海。そのモチベーションはどこから来ているのか? アルバムを紐解きながら、彼女の“今”をたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 黒田隆憲撮影 / 星野耕作

自分自身の“心”に近いアルバムにしたかった

──待ちに待った1stアルバム「My Heartbeat」のリリース、おめでとうございます。

ありがとうございます。でも、いまだに実感がないんですよね……応援してくださっている皆さんの手元に実際に届くまでは、まだまだ信じられないという気持ちのほうが強いです。

──そうなんですね。アルバムタイトルにはどんな気持ちを込めましたか?

タイトルは、日本語で「私の鼓動」という意味ですが、その名の通り自分自身の“心”に近いアルバムにしたいと思いながら作っていました。今作には「Pride」や「声」といった既発曲のほかに、アルバム用の書き下ろし曲など未発表曲が5曲収録されているのですが、「今だからこそ歌える曲」「今じゃないと歌えない曲」という基準でセレクトしていきましたね。なので、今の自分の気持ち、今の自分にできることが詰まった作品に仕上がったと思っています。

遥海

──今回は、未発表曲を中心にアルバムについてお聞きしていきます。まずは冒頭を飾る「Be Alright」から。この曲にはアップテンポで聴き手の背中をポンッと押してくれるような、ポジティブなパワーがみなぎっています。

レコーディングは2020年の春くらいに行ったので、アルバムの中ではけっこう早い段階にできあがっていた曲です。新型コロナウイルスの感染が世界中で広がっているその最中、コロナに対してどう対応したらいいのか、まだ全然わかっていなかった時期。私は5月のメジャーデビューに向けて、まさに「これから!」という感じで動き出そうとしていたのにすべてがストップしてしまって……そんなときに、コロナが収束したあとの世界を想像するようなこの曲の歌詞を歌うのが本当に大変でした。「こんな明るい歌、歌えるわけないよ!」と思って泣きながら歌っていました(笑)。

──泣きながらですか?

コロナ禍で悔しいことがたくさんあったし、しかもそれが誰のせいでもなかったし、誰のせいにもできなかったからこそ、自分の感情をどこへぶつけたらいいのかわからなくなってしまって。でも、「とにかくコロナが明けたら会いたい人に会いに行き、明日がないっていうくらい楽しもう!」という思いで歌いました。1年分の「ハッピー」を使った勢いでしたね(笑)。実際、そのときの遥海のベストが出せてよかったなと思うし、アルバムの冒頭にふさわしい仕上がりになったんじゃないかなと。

──ライブのオープニングとかにも聴きたくなる感じですよね。途中のホーンセクションも、ビヨンセのマーチングバンドみたいにカッコいい。

わかります! 今ちょうどライブのセトリを考えているところなんですよね。どうしようかなあ。超楽しみ。

これからはもっとみんなに寄り添いたい

──続く2曲目の「Dotchi」はペルピンズ-PeruPines-のRIOSKEさんをフィーチャリングゲストに迎えた、かわいらしいラブソングです。

これは私の恋愛実体験というか。付き合う前のドキドキする感じ……「好きなの? 嫌いなの? どっち?」っていう、相手の気持ちを聞きたいけど聞くのが怖い!みたいな、そういう思いを形にしたかったんです。こういう曲も、私はあまり歌ってこなかったなと。これまでは“強い自分”だけを見せてきたというか、「こうありたい」という理想の自分を歌うことによって、みんなを引っ張っていきたいと考えていたんですよね。でも、コロナ禍になって、自分自身もコロナに感染してしまったときに、自分はそんなに常に強いわけではないし、いつでも誰かを引っ張っていけるような存在ではないと思い知らされたんです。

──なるほど。

自分は歌で何を伝えていきたいと思っているのか、この機会に考え直してみて明確になったのが、「寄り添いたい」という気持ちだったんです。これからはもっとみんなに寄り添いたい、共感できるような曲を歌いたいと思ったときに「やっぱり恋愛の歌だよな」って。それでにこちゃん(RIOSKE)と朝の5時くらいまでずっとリモートで、ひたすら恋愛相談みたいなことをしながら仕上げた曲です。

──2番AメロでのRIOSKEさんと掛け合うところなどは、かなり赤裸々ですよね。「脇汗 マジ!ヤバイ?」という歌詞とか。

なかなか歌の中では使わないフレーズですよね(笑)。でも、女の子がデート前にマスカラがにじんでないか、ニキビが目立っていないかを気にするように、男の子も自分の匂いが気になったりするんだろうなって。にこちゃんも「このフレーズは絶対に入れたい!」と言っていたので、「じゃあ入れよう!」って。この曲に出てくる2人は最後に結ばれるんですけど、それまでのドキドキ感をうまく歌詞に落とし込めたなと思っています。

──「久々の君に 心が躍っているよ」という冒頭の歌詞は、コロナでひさしく会えなかった人と会える喜びを歌っているようにも聞こえます。

まさにそうです! 今はデートに限らず誰かのことを誘いづらいじゃないですか。コロナに対しての温度感が人によって違うから、気軽に誘ってしまうと引かれてしまうかも……みたいな不安もあるんですよね。それって私だけの感覚なのかなと思って周りの人に聞いてみたら、多かれ少なかれみんなそういう悩みを抱えていることがわかって。それでもなんとか会う約束をして、「ひさしぶりに会える!」となったときのうれしさ、ワクワク感もこの曲には込めたいなと思いました。

遥海
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「もっと自分を大事にしよう」とみんなが思ってくれたらうれしい

──エレクトロでクセの強い「Don't want your love」も、今までの遥海さんにはなかった曲調ですよね。ケレン味たっぷりのメロディも病み付きになります。

ありがとうございます。この曲と8曲目の「Two of Us」は、私がメジャーデビューする前からライブで歌ってきた曲なんですよ。「Don't want your love」を今まで発表してこなかったのは、これまで“愛”についてたくさん歌ってきた遥海が、「Don't want your love」(あなたの愛なんていらない)と歌うのは、表現として少し強すぎるかなと思ったからなんです。この曲をいただいたのは21歳くらいの頃で、まだ誰かに対してそんなふうに思うこともなかったから、ちょっと背伸びをしながら歌っていたところもあったかもしれない。

──なるほど。確かに強い表現ではあるけど、それと同時に「自分の気持ちを大事にしている女性の歌だな」と思ったんです。

それは私も同感です。「Don't want your love」は、自分の価値に気付いた女の子の歌でもあるんですよね。自分も含め、恋愛モードになると自分の身を削ってしまう女性ってけっこう多いと思うんですよ。嫌われたくなくて、つい相手に合わせてしまったり、自分の気持ちを抑えてしまったりする人が、私の周りにもたくさんいる。ひさしぶりに友人たち数人で会って話していたら、いつの間にか彼氏の愚痴大会みたいになってることもありますし(笑)。そういうのがずっとモヤモヤしていたというか、「自分の言いたいことを言えばいいのになあ」と思いつつ、自分もそれがなかなかできなかったんですよね。

──「嫌われたくない」と思って自分を抑えてしまうことって、恋愛じゃなくてもありますよね。

そうなんです。職場でも似たようなことはあると思うし、女性同士でも、もしかしたら男性でもそういうモヤモヤを抱えている人はいるのかもしれない。「Don't want your love」は、そういう人たちに「もっと自分の価値に気付いてあげようよ」と歌っている曲でもあるのかなと思います。この曲を聴いて、「もっと自分を大事にしよう」とみんなが思ってくれたらうれしいですね。

──「手放すことを恐れるのはもう やめると決めたの」というラインもとても印象的です。

手放す勇気についても、コロナ禍でたくさん考えました。世の中には自分の意思でコントロールできないものがたくさんある。というか、唯一コントロールできるのは、自分の感情だけなんですよね。自分の感情以外はコントロールできないのだとしたら、手放すことも1つの大事な選択肢だなと。私はコロナ禍で、本当にいろいろなものを手放してきました。うわべだけの関係も手放してきたし、私はすごく心配性で取り越し苦労もすごく多いんですけど、それも今後手放すことができたらいいなと思っています。