音楽ナタリー PowerPush - ハルカトミユキ

サウンドとビジュアルに刻まれた変化の道程

ハルカトミユキが1stミニアルバム「世界」をリリースした。

ハルカとミユキの2人は2015年1月から毎月1曲ずつ新曲を発表。これまでに従来のイメージを一新する4曲を配信している。そしてその楽曲群と並行して制作された本作「世界」でも彼女たちは、サウンド、アートワークの両面で、自身が”新しい世界”に至ったことを告げている。

まずジャケットの中のハルカは白い肌が引き立つ深紅のルージュを引き、また淡い金髪に染めたベリーショート姿を披露、対するミユキもサイドを刈り上げたアグレッシブなヘアスタイルに変身。そしてハルカはこれまでになく雄弁な歌を歌い、ミユキもまた、最近ハマっているというニューロマンティクス(1980年代のエレクトロポップの一種。アーティスティックで中性的なイケメンたちがパフォームして一世を風靡した)を取り入れたサウンドに挑戦している。そしてプロデューサーのNAOKI-T、ナカムラヒロシ(i-dep)らの協力を得て新鮮なミニアルバムを作り上げた。

彼女たちによるとこれほどの変貌を遂げたのには大きな理由があったという。約1年ぶりに音楽ナタリーのインタビューに応じた2人にここに至った経緯を語ってもらった。

取材・文 / 今井智子 インタビュー撮影 / 上山陽介

記憶がないくらい音楽的にも精神的にも悩んでいた

──1stミニアルバム「世界」は、サウンド、ビジュアルの両面で今までと違う自分たちを表現していると思うんですけど、なぜこのようなテーマ、イメージに?

ハルカ(Vo, G) この前に出した「そんなことどうだっていい、この歌を君が好きだと言ってくれたら。」(2014年5月発表)から、リリースがけっこう空いているんですけど、その作品から今までの間、かなり悩んでいたことの影響が大きくて。

──どういうことで悩んでいたんですか?

ハルカ 音楽的にというよりは、音楽をやるかどうかというレベルで悩んでいて。ミユキとは関係なく、私1人の悩みだったんですけど、それで体調も悪くなって。ただその間にワンマン(2014年11月の東名阪ツアー)があったんですけど、そこで歌うこと自体は楽しかったし、歌ってるときだけはその悩みが入り込んでくることもなくて。今回のミニアルバムはそういう状態からの再スタートっていう感じで作り始めたから、音もビジュアルも今までから大きく進化していたいなと思ったんです。

──悩んでしまった原因って?

ハルカ 私、嫌なことはけっこう忘れちゃうんですよ(笑)。悩んでる期間があまりにも長かった、悩み始めたのがかなり前のことなんで、ちょっと思い出せないんですけど、例えば書きたいと思う歌詞が書けなくなって……具体的に言うのは、ちょっと難しいです。

深夜2時のパンケーキ屋で「もう1回立ち上がってやろう」

──ミユキさんから見て「ハルカ、最近悩んでるわね」という感じはあったんですか?

ミユキ(Key, Cho) はい。げっそりしてたし、音楽をやる気もないみたいな感じだったので。だからその頃ハルカの家の近くまで深夜に行って2人で話し合いをしたんですよ、深夜2時にパンケーキ屋さんで。

ハルカ 私は、それすら覚えてない(笑)。

ミユキ(Key, Cho)

ミユキ 「もうやりたくない……でも」みたいなことを言ってたんですけど、ワンマンも決まってたから「ここでやめるのは違うと思う」って話をして。そのあとマネージャーさんも入れて話し合いをした上で「よし、じゃあ、もう1回立ち上がってやってみよう」ってなりました。

ハルカ その話し合いって「世界」(2015年1月配信)を作ってたとき? ……じゃないや。「その日が来たら」(「そんなことどうだっていい、この歌を君が好きだと言ってくれたら。」の収録曲)を作ってたときか。その頃自分的にはドン底だったから「その日が来たら」は、そのときのドキュメント的な曲で。終わりについてすごい考えていたのがそのときだったんです。そこからまた長く悩みは続くんですけど、そこが1つのピークではありましたね。

──この1年くらいは葛藤しながらハルカトミユキを動かしていた?

ハルカ だからライブがあったことが救いだったんです。あと曲も作っていて、その中には今回のミニアルバムに入らなかった曲、その頃ライブだけで吐き出すように歌っていた曲が何曲かあって。それで自分を音楽につなぎ止めてた感じでした。

──歌うことが1つの救いになった?

ハルカ 救いでした。歌うこともですし、お客さんとコミュニケーションをとってることとかも救いで。ライブという場が、自分のすごく内のほうにこもってるエネルギーや、自分でもわかってなかった感情とかが出てくる場になっていて。それまで一度もなかったんですけど、歌いながら涙があふれてきちゃったりした。そういう場だったんですね、ライブが。

──一緒にやってるミユキさんはそれを見てハラハラしてる感じ?

ミユキ そうですね。でもハルカがライブをやりながら前に進もうとしてるのは見えてましたし、私はそんなに落ちたりはしていなかったから、ハルカが復活するまでの間、けっこう時間に余裕があったんですよ。その期間にいろんな音楽を聴いて、自分がどんな音楽好きなのかを見直したりしてたんですけど、そこで1980年代の音楽を見つけたりもしていて。その発見は私的には大きな出来事でした。その頃はとにかく曲をどんどん作っては新しいハルカトミユキ像を表現できてないもの、到達できていないものをどんどん捨ててっていうことを繰り返してたんですけど、まだ音源になってない「フラワー」っていう去年のワンマンでやった曲は、新しいハルカトミユキの1つの形、80年代のニューロマ的なものを表現するものになりましたし。

ハルカ 私の知らない間にというか、私が悩んで止まってる間に、ミユキは時代を遡って、いつの間にか80年代にハマって、いつの間にかゲイカルチャーが好きになって。

ミユキ (笑)。

ハルカ 作る曲も変わってきて「あれ?」みたいな(笑)。

ミニアルバム「世界」 / 2015年4月22日発売 / Sony Music Associated Records
ミニアルバム「世界」
初回限定盤 [CD+DVD] / 2700円 / AICL-2859~60
通常盤 [CD] / 2160円 / AICL-2861
CD収録曲
  1. 世界
  2. tonight
  3. マゼンタ
  4. 君はまだ知らない
  5. バッドエンドの続きを
  6. ヨーグルト・ホリック
  7. 嘘ツキ
初回限定盤DVD収録内容

ハーモニー / Harmony #1 2015.2.6 東京キネマ倶楽部

  • 終バス(未発表曲)
  • 嘘ツキ
  • ニュートンの林檎
  • 青い夜更け
ハルカトミユキ

立教大学の音楽サークルで知り合った1989年生まれのハルカ(Vo, G)とミユキ(Key, Cho)によるフォークロックユニット。ライブを中心とした活動を展開し、2012年11月に初の全国流通音源「虚言者が夜明けを告げる。僕達が、いつまでも黙っていると思うな。」をリリース。静謐さと激しさをあわせ持つサウンド、刺激的な歌詞で大きな注目を集め、iTunes Storeが選ぶ2013年期待の新人アーティスト「ニューアーティスト2013」にも選ばれる。2013年3月、2作目のCD「真夜中の言葉は青い毒になり、鈍る世界にヒヤリと刺さる。」をリリース。同年11月にソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズよりメジャーデビューアルバム「シアノタイプ」を発表し、2014年には3作目「そんなことどうだっていい、この歌を君が好きだと言ってくれたら。」を発表し、2015年1月からは毎月新曲を配信で発表している。そして同年4月、初めてのミニアルバム「世界」をリリースした。