音楽ナタリー Power Push - HAN-KUN

トリニダード・トバゴで見つけたもの

HAN-KUNが約2年ぶりとなるソロアルバム「Island Vibes」を完成させた。彼は本作のために半年間ニューヨークに滞在。その間アメリカのマイアミのほか、トリニダード・トバゴ、ジャマイカにも赴き、現地のバイブスを吸収して、じっくりと制作を行った。なぜニューヨークに向かったのか? 各地で得たもの、このアルバムに込めたものとは何か? HAN-KUNに語ってもらった。

取材・文 / 宮崎敬太 撮影 / Mayumi Nashida

最先端の音楽が発信される街へ

──今回の作品はこれまでリリースしてきたソロアルバムの「VOICE MAGICIAN」シリーズではないんですね。

HAN-KUN

はい。それは「Island Vibes」をコンセプトにしたアルバムだからです。「VOICE MAGICIAN」シリーズは反骨心や「レゲエ」という音楽を伝えるために、さらに「レゲエは夏だけじゃないんだぜ!」という思いも持って作っていましたが、今回はアイランドミュージックが持つ“夏感”をすごく意識して制作を進めました。それは僕がニューヨーク滞在中の半年間に経験したことや、その間に訪れたジャマイカやトリニダード・トバゴで感じたことを表現してみたかったからです。だから今回は「VOICE MAGICIAN」シリーズではないんです。

──そもそも、なぜ海外に長期滞在しようと思ったんですか?

毎年、年初めに制作で1カ月くらいジャマイカに行っているんです。でも本当は海外で音楽と向き合う時間をもっと長く作りたくて。そしたらたまたま今年の1月から7月まで、湘南乃風がおのおのの制作期間だったんで、自分のソロもあるし「この機会に海外で制作をしてみたい」と家族やグループ、スタッフに相談してみたんです。そしたらみんな快く背中を押してくれました。

──滞在する土地にニューヨークを選んだのは?

ニューヨークは世界の音楽の中心だと思うんです。そこでどんなふうに音楽が作られて、世界に発信されていくのか、またどういう人がどういう考えと手順でそれをやってるかを見てみたかった。ジャマイカには何回か行っていて、そういうものがどうなっているのかが少しずつですが見え始めてきたところなので。

──30代になってからの海外への長期滞在を決めたときの心境はいかがでしたか。

そうですね。やっぱり遊びに行くわけじゃないから、行くと決まった瞬間からすごいプレッシャーを感じましたね。責任というか。行くからには変わらなきゃならないって。でも具体的にどう変わればいいのかもわかりませんでした。

プレッシャーから解放されたトリニダード・トバゴ

──半年間も海外で生活するってなると、けっこう羽を伸ばせるような感じもしますけど。

HAN-KUN

確かに「『イエーイ! フリーダーム!』みたいな感じだったでしょ?」とか、友達にすごい言われました(笑)。でも全然そんなことなくて。ニューヨークに行った最初の頃は何をすればいいかも全然わかんなくて、常に超重たい荷物を背負ってる感じでした。そんなこと考える必要はなかったのかもしれないけど、僕自身が「変わったな」と思ってる程度じゃ、周りの人にその変化を気付いてもらえないと思ったんです。だからその頃は、昨日の自分より今日の自分のほうが確実にステップアップしてなきゃいけないって感覚で毎日を過ごしてました。

──その頃はニューヨークではどんな暮らしをしていたんですか?

ニューヨークって、本当に歩いていればエンタテインメントに出会えるような街だから、自分がやろうと思えばなんでもできてしまうと思うんです。だからまず音楽にまつわることは片っ端からやりました。スタジオには週3~4回行ってたし、毎日最先端の音をチェックして、どういう曲がチャートを賑わしてて、クラブやライブハウスでは何がかかってて、お客さんはどんな反応をしてるのかっていうのを見てました。

──そんな生活と並行して制作された「Island Vibes」は、トレンドを取り入れた最先端のサウンドというよりは、ルーツレゲエに近い作品だと思います。このアルバムの形はいつ頃決まったんですか?

2カ月くらい過ごしてからですね。ニューヨークでずっと音楽漬けになって暗中模索してたんですが、その頃から徐々に「新しい何かを無理に見出そうとするより、本当に自分の好きな音楽をやるのがいいんじゃないか」って思い始めて。それでトリニダード・トバゴに3~4日くらい行ったんですよ。そしたらトリニダード・トバゴで、初めてレゲエを聴いたときの感覚、純粋に音楽を楽しむ感覚を思い出したんです。

──純粋に音楽を楽しむ感覚というのは?

最近僕は音楽を楽しんでやってたつもりだったんだけど、実はどこかで「楽しもう」と暗示をかけながらやってたところがあって。聴いてくれてる人がいて、支えてくれるスタッフがいて、自分があるっていうことを強く意識してたんですよ。だからこそ「リスナーが求める音楽は?」とか「ライブで喜ばれるパフォーマンスは?」とか、そういうことをすごく考えちゃって。でもそれって、お客さんに寄り添っているようで、実は自分のエゴ丸出しというか、自分が勝手にニーズを想像してただけなんじゃないかな、と。さらに音楽を取り巻くいろいろなものに囚われすぎてたと思ったんです。

──HAN-KUNにとって、音楽は仕事でもありますからね。

HAN-KUN

はい。もちろん仕事であることを意識するのは大切だし、必要なのもわかっています。でもそういうのが自分の「音楽が好きだ」という思いと、いい感じに混ざらない瞬間が多々あったんです。そしたらトリニダード・トバゴには純粋な楽しさしかなかった。昔レゲエを好きになって、レコードを掘りまくってた頃のあの感覚。もう本当に「超やべー」ってなりました(笑)。それで、今回のアルバムでは自分が昔レゲエから受けた衝撃を表現したいと思ったんです。

──もっとシンプルに考えちゃおうと。

そうですね。あの頃はもっと好き勝手やってたし。だから今回はレゲエのビートやコードに眠ってるポジティブな力に身を任せて、考え込まずに出てきたフロウや言葉をそのまま形にしました。「これぞレゲエ」って言える片意地張らない音楽というか。

──そこからニューヨークに戻って本格的に制作を始めたんですね。でもニューヨークみたいな最先端の音があふれてる街で、あえてオーセンティックなレゲエをやるのは難しくなかったですか?

それはもう大変でしたよ! 途中で「違うかも……」とか思いましたもん。でも作っていくうちに、オーセンティックなスタイルのレゲエを現代的にアップデートできれば、むしろこの音こそが最先端になりうるんじゃないかって感じたんです。もちろんトレンドの音を表現したいという欲求もあったんで、それはDISC 2のミックスCDに詰め込みました(笑)。ミックスCD用に録り下ろした曲やリミックスした曲とかもたくさんあるんですよ。

ニューアルバム「Island Vibes」/ 2016年8月24日発売 / [2CD] 2500円 / TOY'S FACTORY / TFCC-86567
「Island Vibes」
DISC 1 収録曲
  1. Intro
  2. Island Vibes
  3. I Don't Care
  4. Keep It Goin' On
  5. Lovin' U
  6. I&I
  7. #IROIRO
DISC 2 収録曲
  • HAN-KUN DANCEHALL MEGA MIX ~Don’t Think, Just Feel…~ mixed by DELTA FORCE
「Island Vibes」リリースパーティー
2016年9月30日(金)
東京都 新木場STUDIO COAST
OPEN & START 14:00
HAN-KUN(ハンクン)
HAN-KUN

2003年に湘南乃風のメンバーとしてアルバム「湘南乃風 ~Real Riders~」でデビュー。2008年7月に初のソロアルバム「VOICE MAGICIAN」をリリース。以降、「VOICE MAGICIAN」シリーズとして4枚のソロアルバムを発表している。グループとしての活動、およびソロ活動のほかSPICY CHOCOLATE、INFINITY16、山嵐などの作品にもフィーチャリングゲストとして多数参加。2016年8月に新作ソロアルバム「Island Vibes」をリリースする。