花澤香菜のニューシングル「インタリオ」がリリースされた。
表題曲「インタリオ」は、花澤がメインキャラクターの1人である寶月詠子の声を務めるテレビアニメ「ダークギャザリング」10月クールのエンディングテーマ。同作品の7月クールのエンディングテーマとして発表された「灰色」から、さらに深い音世界へと誘う、儚く壮大なバラードになっている。今回のシングルには「インタリオ」「灰色」に加え、もう1つの新曲「ギミギミ♡ラヴ」も収録。音楽ナタリーでは花澤にインタビューし、「ダークギャザリング」と新曲の話題を中心に、アーティスト活動や声優業に関して幅広く話を聞いた。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 堀内彩香
ホラー作品への身構え方がちょっと変わった
──ニューシングルの新曲「インタリオ」は、テレビアニメ「ダークギャザリング」第2クールのエンディング主題歌です。花澤さんは「ダークギャザリング」に声優として出演されていますが、アフレコは全部終わったんですか?
はい。アフレコはもう終わりました。
──以前、ホラーは苦手だとおっしゃっていましたが、演じてみていかがでしたか?
今までもホラー作品に出させてもらったことはあるんですけど、怖がる側の役が多かったんですね。その場合は、自分もキャラクターと一緒に怖がればいいというか(笑)、キャラクターの気持ちと自分自身の気持ちが自然とシンクロするやりやすさがあって。それに対して「ダークギャザリング」の詠子ちゃんはわりと心霊現象に対してポジティブで、積極的に関わっていこうとするタイプなんですよね。
──心霊スポット巡りが大好きなキャラクターですもんね。
心霊現象を好意的に捉えて、むしろ興奮しちゃうくらいの子で(笑)。それって、私がパン屋さんに入って「おいしそうなパンがいっぱいあるー!」ってうれしくなるときの興奮と似てるんじゃないかなと思ったんですよね。あと、ラジオを聴いていて「今日のゲスト最高じゃん! あの人とあの人がしゃべってる!」みたいな、脳汁が出る瞬間(笑)。その状態に近いんだろうなと想像することで彼女の気持ちがわりと理解できてきて、楽しんで演じられるようになったと思います。
──なるほど。怖いもの自体は苦手でも“何かを好きな気持ち”は共有できるから、自分の好きなものに置き換えながら気持ちを作っていったわけですね。
それは「ダークギャザリング」に限らず、作品を演じるときによくやることではあるんですけど。その結果、ホラー作品に対する身構え方がちょっと変わったかもしれないです。
──「ホラーを楽しんでやろう」くらいの気持ちにもなれそう?
「楽しんでやろう」まではどうかなあ(笑)。まあ、グロ描写とかになると直視はできないものの、こういう心霊系はわりとイケるのかもしれないという気持ちにはなってきてますね。お化け屋敷とかはまだ怖いですけど(笑)。
──「ダークギャザリング」にはいわゆる“オカルトあるある”的な描写も随所に出てきますし、そのあたりの知識が増えるとより楽しめそうですよね。
そう思います。「H市の電話ボックス」とか「H城址」とか、たぶん心霊マニアにはおなじみのスポットが元ネタなんだろうなって。
──今日はちょうどH城址のエピソードが放送されたばかりのタイミングですけど(※取材は9月下旬に実施)、正直めちゃくちゃ怖かったです。
怖かったですよねー! しかもそのあとすぐにまた「Fトンネル」というすごく怖い心霊スポットへ行くことになったりして、2クール目から怖さが加速している感じです。アフレコ中はあまりにも怖すぎて気持ち悪くなっちゃうくらいでしたが(笑)、そんな第2クールも引き続き楽しんでいただけるとうれしいです。
花澤香菜の抱える“呪い”
──では、そのアニメ第2クールでエンディングに流れる「インタリオ」について伺います。第1クールのエンディング主題歌「灰色」の正統後継者のような楽曲に仕上がっていますね。
はい。「灰色」は物語にリンクしながらその余韻を楽しめる本当にダークな楽曲だったんですが、今回の「インタリオ」はよりドラマチックというか。個人個人の抱える、人には言えないような暗い部分に寄り添ってくれる楽曲になっていると思います。歌い方的にもちょっとミュージカルっぽく……歌い出しが「トゥナイト」なので、私としては「ウエスト・サイド・ストーリー」をどうしても意識してしまう部分もあって(笑)。「灰色」はあえて無垢に歌うことを意識していたんですけど、「インタリオ」では語りかけるように歌うことを心がけましたね。
──曲のテイスト自体は近いんですけど、おっしゃる通りボーカル表現はけっこう対照的だなと感じました。続けて聴くと特に。
そうですね、確かに。
──宮川弾さんが手がけた歌詞がかなり抽象的と言いますか、解釈が難しそうだなとも感じたんですが。
弾さんからはこの詞に込めた意味とかを事前に全然教えてもらえなかったんですけど(笑)、「インタリオ」というのは「陰刻」と訳される彫刻技法のことでして。つまり自分自身に刻まれた、自分ではどうしようもない刻印のようなものを表していると思うんですね。それがさっきお話しした“暗い部分”ということなんですけど。
──言ってみれば“引き受けなければいけない呪い”みたいなことですよね。
なので歌うときはそれを自分の経験と照らし合わせながら、イメージを膨らませていきました。
──例えば、花澤さんはどんな呪いを抱えているんですか? 変な質問ですけど(笑)。
私の呪いかあ……いろいろあると思います。例えば、私は子役時代に「やっぱりさんま大先生」というバラエティ番組に出ていたんですけど、それで小さい頃から「何か爪痕を残さなきゃ」という考え方が染み付いてしまっていて。今でもイベントなどで人前に出るときには、「ほかの人と違う何かを残さなければ!」みたいな意識にどうしてもなってしまうところがあるんです。前のマネージャーさんとかには「そんなこと考えなくていいから」と言われ続けていました。「うちは正統派で売っていきたいんだから」って(笑)。
──「あなたに求められているのはそこじゃないです」と。
そうそうそう。でも、やらずにはいられないという(笑)。呪いだと思います、そういうのは。
──でも、その呪いが逆によりどころになる瞬間もあったりしますよね。
ああー、そうですね。積み重ねていくと自信にもなるし。
──実際、いわゆるバラエティ的な場で「爪痕を!」と前のめりになれる声優さんは珍しいわけで、それは明確に花澤さんの武器になっていると思います。
どうですかね(笑)。わからないけど、「そういう性分だからしょうがないよね」って思い切りやれたりするのは、きっと声優のお仕事にも生きているとは思います。「どう思われるかはさておき、やってしまえ!」という思い切りが大事だったりするし、そうすることによって思ってもみなかった素晴らしい結果を生む場合もあるので。
──この「インタリオ」の歌詞も、必ずしも否定的なニュアンスだけではないですよね。
そう思います。自分ではどうにもできないことに対しても、「それでもいいじゃない」と言ってくれている感じはしますね。詠子ちゃんにしたって、螢多朗くんに対してストーカーまがいのことをしちゃったり、けっこうヤバい子じゃないですか(笑)。よくないことだとわかっていても止められない衝動があるんだけど、彼女の場合は螢くんとのいい関係性を築けているからこそ成り立っているところがあって。
──左手の霊障にしても、詠子にとっては呪いであると同時に螢多朗との絆でもあるわけで。
ホントにそうですね。「インタリオ」はそんなふうに、すべてを包み込んでくれる楽曲になっているかなと思います。
次のページ »
作品とともに記憶に残るものに