音楽ナタリー Power Push - 花澤香菜
“UK”をテーマに探求した素敵な世界
花澤香菜の通算4枚目となるオリジナルアルバム「Opportunity」が完成した。アルバムごとに自らの音楽活動を“シーズン”で区切ってきた彼女。4thシーズンは空気公団とタッグを組んだ「透明な女の子」、自ら全曲の作詞を手がけた「あたらしいうた」、かねてより憧れのアーティストだった秦基博との初コラボ「ざらざら」と3作のシングルを発表してきた。その集大成となる4thアルバムでテーマに掲げたのは“UKサウンド”。アルバムには国内の多彩な作家陣に加え、本場イギリスのアーティスト・Simply Redのミック・ハックネルも花澤のためのオリジナル楽曲を書き下ろしている。
音楽ナタリー10回目のインタビューとなる今回は、花澤本人にアルバム制作の過程と録り下ろしの新曲について語ってもらった。
取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 竹中圭樹(D-CORD)
積み重ねてきたものの先にある1枚
──今回のアルバムは“UKサウンド”をキーワードに制作されたと聞きました。どのような経緯から「今回はUKサウンドで行く」というアイデアが立ち上がったのでしょうか。
前作の「Blue Avenue」(参照:花澤香菜「Blue Avenue」インタビュー)は「ニューヨーク」がテーマだったんですけど、あのアルバムを作っているときすでに「次はロンドンに行くぞ! UKロックだ!」みたいな話を北川さん(1stアルバムからサウンドプロデュースを手がけるROUND TABLEの北川勝利)たちがしていて。私もそれは聞いていたんですけど、「UKロックとはなんだろう?」って、あまりパッと思い付くものがなかったんです。ひと口にUKと言っても、いろんなアーティストがいて、いろんな表現の仕方があるので。できあがったアルバムも、ひと言では表せない、いろんな刺激のある作品になったなと思います。
──ミック・ハックネルが曲を書き下ろしていたりという直接的なUK要素もありますが、アルバム全体としては、過去3作のアルバムでチャレンジしてきたことをさらに押し進めた作品という印象を受けました。すべて地続きにあるというか。
そうですね。1stアルバムの「claire」(2013年2月発売。参照:花澤香菜 1stフルアルバム「claire」特集)からずっと曲を書いてくださっている方もたくさんいて、「今度はこういう曲にしてみよう」というふうに重ねてきたものが、4枚目にしてしっかりと形作られていたら、それは素敵だなあと思います。
──花澤さんはアルバムごとに1stシーズン、2ndシーズン……と区切りを付けて音楽活動を進めてきましたが、シーズンごとの変化はご自身でも感じていますか?
はい。1stシーズンでは本当にゼロから、まず自分の声と向き合うことから始めて。2ndシーズンの「25」(2014年2月発売の2ndアルバム。参照:花澤香菜 2ndアルバム「25」特集)では「25歳の自分」に向き合って、3rdシーズンの「Blue Avenue」では「歌うとはどういうことなのか」という大きなテーマと向き合っていたような気がします。「Blue Avenue」のツアーは、初めての日本武道館も含めてすごく楽しかったんです。演奏しているみんなと一緒に、私も声という楽器で参加しているみたいな。そういう実感を持って4thシーズンに臨めているので……歌うのが超難しい曲も正直いっぱいあるんですけど(笑)、これまでの積み重ねがあったからこそ挑戦できているなと感じているので、「Opportunity」はまさに、これまで積み重ねてきたものの先にある1枚だと思います。次にアルバムを作るとなったら、もっといろんな表情を声で表現できるようになりたいですし。
ロンドンの印象
──声の部分で今作の特徴を捉えると、花澤さんご自身としてはどんな仕上がりになったと思いますか?
歌の表情としては、今回はクール目なものが多いですね。ロンドンガール的な雰囲気をイメージしたのもありますけど(笑)、全体的にそうしようと考えていたのではなくて、曲ごとの雰囲気にどんな歌声がマッチするのかを考えたとき、どちらかというとクール目かなあと思う曲が多かったんです。
──ジャケット撮影では実際にロンドンまで足を運んだんですよね。それまでイギリス、ロンドンにはどんな印象を持っていましたか?
やっぱり物語の背景としての印象ですね。「ハリー・ポッター」のようなファンタジーの世界。あとは人から聞いた話だとか……よく「日本人だと食べ物が肌に合わない」と聞かされていたり。
──では実際に肌で感じたロンドンの印象は?
景色が素晴らしかったです。ロンドンって都会は都会なんですけど、昔からの建物は外装を残すしきたりがあるので、中心部でも街並が素敵なんですよね。それにまず驚きました。The Old Bank of Englandという、昔からある銀行を改装したパブがあったり、素晴らしい取り組みだなあって。あと、イギリスの方と触れ合っていると「英国紳士とはこういうことか!」という場面にたくさん出くわしました(笑)。レディファーストはもちろん、私のつたない英語でも真剣に聞いてくださったりとか。「Blue Avenue」で訪れたニューヨークはもっと忙しい雰囲気でしたけど、ロンドンは時の流れがゆっくりしている印象でした。食べ物もおいしかったです(笑)。
「Opportunity」と「Chance」の違いは
──アルバムタイトルの「Opportunity」は直訳すると「機会」といった意味ですが、これはどういう意図で付けたんですか?
すでに何曲か録り終えて、アルバム全体の雰囲気が決まってきた頃に「そろそろタイトルを決めなきゃね」とみんなで案を出し合ったんですけど、その中の1つが「Opportunity」で。「Opportunity」は「Chance」と意味が似ているけど、「Chance」は偶然得た機会で、「Opportunity」は自ら勝ち取って引き寄せた機会なんです。「Opportunity」のほうが前のめりな感じがするし、すごくポジティブな意味合いを感じて、このタイトルに決めました。
──その「前のめりな感じ」というのは、音楽活動を始めた頃にはなかったもの?
そうですね、まさに。4thアルバムにしてようやく「Opportunity」と言えるようになったのかもしれない。
次のページ » 作詞家・岩里祐穂との特別な関係
- 4thアルバム「Opportunity」 / 2017年2月22日発売 / アニプレックス
- 初回限定盤 [CD+Blu-ray+フォトブック] 4104円 / SVWC-70251~2
- 通常盤 [CD] 3240円 / SVWC-70253
CD収録曲
- スウィンギング・ガール
[作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:kz]
ミト(B / クラムボン)
All Other Instruments:kz - あたらしいうた
[作詞:花澤香菜 / 作・編曲:北川勝利]
山本真央樹(Dr) / 千ヶ崎学(B / KIRINJI) / 末永華子(Piano) / 松江潤(G) / rionos(Strings Programming) / acane_madder(Cho, Programming) / 戸川卓士(Programming) - FRIENDS FOREVER
[作詞:西寺郷太 / 作曲:Mick Hucknall / 編曲:Andy Wright]
Roman Roth(Dr)Dejay Edmund(B)Dave Clayton(Key)Kenji Suzuki(G)Ian Kirkham(Sax)Kevin Robinson(Trumpet)John Johnson(Trombone)Andy Wright(Piano, Programming)Gavin Goldberg(G)acane_madder(Cho) / 北川勝利(Cho / ROUND TABLE)
Produced by Andy Wright - 星結ぶとき
[作詞:宮川弾 / 作・編曲:Spangle call Lilli line]
歌代龍勢(Dr) / 柳澤一誠(B) / 藤枝憲(G) / 笹原清明(G) / 林英和(Syn)
Other Instruments:大坪加奈 - 滞空時間
[作詞・作曲・編曲:宮川弾]
All Instruments:宮川弾 - カレイドスコープ
[作詞・作曲・編曲:沖井礼二]
原”GEN”秀樹(Dr, Tambourine) / 沖井礼二(B, G, Programming, Cho / TWEEDEES) / 湯本淳希(Trumpet / FIRE HORNS) / acane_madder(Cho) - 透明な女の子
[作詞・作曲:山崎ゆかり / 編曲・プロデュース:空気公団]
山崎ゆかり(Cho / 空気公団) / 戸川由幸(B / 空気公団) / 窪田渡(Piano, Organ, Syn / 空気公団) / オータコージ(Dr) / 奥田健介(G / NONA REEVES) - Marmalade Jam
[作詞・作曲・編曲:北川勝利]
千ヶ崎学(B / KIRINJI) / 松江潤(G)acane_madder(Cho, Programming) / 北川勝利(G, Programming / ROUND TABLE) - Opportunity
[作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:北川勝利]
北川勝利(G, Shaker / ROUND TABLE) / 末永華子(Piano) - ざらざら
[作詞:花澤香菜 / 作曲:秦基博 / 編曲:島田昌典]
あらきゆうこ(Dr) / 美久月千晴(B) / 島田昌典(Piano, Organ, Mellotron, Tambourine) / 秦基博(G) / 八橋義幸(G) / 室屋光一郎ストリングス(Strings) - 雲に歌えば
[作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:北川勝利]
北川勝利(B, G, Cho / ROUND TABLE) / acane_madder(Cho, Programming) - FLOWER MARKET
[作詞:岩里祐穂 作曲:片寄明人 編曲:片寄明人、北川勝利]
白根賢一(Dr) / 高桑圭(B) / 片寄明人(G) / 會田茂一(G) / 金澤ダイスケ(Organ, Syn) - brilliant
[作詞:花澤香菜 / 作・編曲:北川勝利]
みどりん(Dr / SOIL&"PIMP"SESSIONS) / 千ヶ崎学(B / KIRINJI) / 松江潤(G) / 北川勝利(G, Cho / ROUND TABLE) / acane_madder(Cho, Programming) - Seasons always change
[作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:矢野博康]
梅林太郎(G, Syn, Programming) / 矢野博康(Syn, Programming) - Blue Water
[作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:ミト]
All Instruments:ミト(クラムボン)
初回限定盤Blu-ray Disc収録内容
- Singing London with Kana
(ロンドン撮影の撮り下ろし映像)
初回限定盤仕様
- 三方背スリーブケース
- 撮りおろし48Pブックレット封入
- 特典Blu-ray付き
花澤香菜(ハナザワカナ)
1989年2月25日生まれ、東京都出身の声優。2006年放送の「ゼーガペイン」で初のヒロインとなるカミナギ・リョーコ役を演じ、2007年には「月面兎兵器ミーナ」「スケッチブック ~full color's~」「ぽてまよ」といった作品で次々と主要キャラクター役に抜擢された。その後も「こばと。」「化物語」「海月姫」などの人気アニメでヒロインを演じるかたわら、多数の作品でキャラクターソングを歌い、2011年放送の「ロウきゅーぶ!」では声優ユニット「RO-KYU-BU!」のメンバーとしても活躍。2012年4月にはシングル「星空☆ディスティネーション」でソロデビューを果たした。2013年2月には1stフルアルバム「claire」を発表し、同年3月には大阪・NHK大阪ホール、東京・渋谷公会堂にて初のワンマンライブを行い、いずれも大成功に収めた。同年12月に発売された5thシングル「恋する惑星」に続き、2014年2月には2ndアルバム「25」、2015年4月には3rdアルバム「Blue Avenue」を発表。同年5月にスタートしたツアー「花澤香菜 live 2015 "Blue Avenue"」では初の東京・日本武道館ワンマンも行われた。2016年2月には山崎ゆかり(空気公団)の全面プロデュースによる9thシングル「透明な女の子」、同年6月には全曲自作詞に挑戦した10thシングル「あたらしいうた」、11月には秦基博とのコラボレーションによる11thシングル「ざらざら」と3枚のシングルをリリース。2017年2月には4thアルバム「Opportunity」を発表し、4月から全国5都市を回るコンサートツアー「花澤香菜 live 2017 "Opportunity"」を行う。