音楽ナタリー PowerPush - 花澤香菜

音楽に身を委ねる喜びの歌

ニューヨーク仕込みのグルーヴに身を委ねて

──ではここからは、アルバムに収録された新曲について順にお話を聞かせてください。まずは「I ♥ NEW DAY !」。ジャズの要素を取り入れつつ自由に音楽に身を委ねるという今作の狙いが、もっともわかりやすく形になった1曲かなと思います。

花澤香菜

歌は最初から最後まで一気につるっと録ったんですけど、この音楽に身を委ねて「私、今歌うのが楽しい!」って気持ちが思いっきり出てますね(笑)。3年前の私ではこんなふうには歌えなかったと思います。

──「I ♥ NEW DAY !」と3曲目の「Nobody Knows」はウィル・リー(B)やスティーブ・ジョーダン(Dr)といったニューヨークの名うてのミュージシャンを起用したゴージャスなサウンドで、歌詞の内容も含めて対になっている印象を受けました。同じ街での生活を異なる感情で描いているような。

そうなんですよ。「I ♥ NEW DAY !」は新しい生活を感じさせる晴れ晴れとした雰囲気だけど、「Nobody Knows」はちょっと影があるというか。

──どちらもゆったりとした16ビートに身を委ねて歌っている姿が想像できます。ライブで歌うのは本当に気持ちよさそうだなと。

絶対楽しいですよねー。演奏もじっくり楽しめる曲だと思うので、しょっちゅう後ろを向いちゃうかもしれない(笑)。

──この2曲の間にシングル曲「ほほ笑みモード」(参照:花澤香菜「ほほ笑みモード」インタビュー)が挟まれています。グルーヴ感のある生演奏2曲に打ち込みのハウスが挟まれる形ですが、意外と違和感はなくて。

すんなり聴けちゃいますよね。このアルバムの中だと浮いちゃうかなと思ってたんですけど、こんなに自然な感じで収まるとは思いませんでした。

“史上最大カナ”数を誇るコーラスワーク

──そして4曲目が宮川弾さん書き下ろしの「ブルーベリーナイト」。花澤さんはコメンタリー映像で「宮川さんの歌詞は乙女っぽい」とおっしゃってましたけど、メロディにも言葉の響きにもどこか一筋縄ではいかないヒネた感じもありますよね。早口になるところのギクシャクした響きがたまらなくて。

うふふふふ(笑)。ラップか!みたいな。ルドルフ・フェンツとか調べちゃいましたよ。かわいいだけじゃないんですよね、全然。歌はすごく難しいんですけど、宮川さんの音楽には慣れました(笑)。これが宮川さんの持ち味だなというのがわかってきたから、わりとすんなり歌えました。

──歌い方や歌詞の解釈について、宮川さんと何かお話はしましたか?

花澤香菜

宮川さん、歌詞には絶対何か意味があるのに、レコーディングのときは教えてくれないんですよ。雑談みたいな話はいっぱいしましたけど(笑)、こういうふうに歌ってほしいみたいな話は全然ないですね。でも、あとで曲の解説コメントをお願いしたら、1本の小説になるぐらい細かい設定を書いたものが届いて、それ先に教えてよ!って思いました(笑)。

──続いてクラムボンのミトさん作・編曲の「Trace」ですけど、花澤さん史上最も大人っぽいと言えるぐらい大人な雰囲気で。

ホントですねー。歌詞もちょっと幻想的で。以前、マネージャーとミトさんの間で「スティングの『Shape of My Heart』をやったら絶対にハマるよ!」という話で盛り上がったらしくて。実は今回のアルバムを作る前、「25」の打ち上げのときにミトさんのほうから「曲作ってきました」と持ってきてくださったんです(笑)。

──歌は大変でしたか?

主旋律よりもコーラスのほうが大変でした。何カナいるのかな……20カナかな?

──20カナ(笑)。20人分の花澤さんがコーラスをしているという。史上最大カナですか?

最大カナじゃないですかねー。修行のように歌を重ねたあとに「今度は何十カナやる?」って(笑)。

詞先と曲先

──「Trace」からやくしまるえつこさんトータルプロデュースのシングル「こきゅうとす」(参照:花澤香菜「こきゅうとす」インタビュー)が自然な流れでつながっていて、次は一気に場面転換するようなビッグバンドジャズ風味の「Night And Day」と。

このアルバムで最初にできあがったのがこの曲なんです。すごくカッコいい曲で、女エージェントになりきって歌うのが楽しくて(笑)。今回は「ニューヨーク」のほかに「我を忘れる」もキーワードかも(笑)。我を忘れて音楽にノリまくるみたいな。

──それってやっぱり楽しいことですか?

楽しいですねー。ずっとやりたかったんだけど、基礎の部分でうまくいかなかったんだと思うんです。何十曲もレコーディングするうちに、そういう筋肉が付いてきたのかなあって。

──次の「タップダンスの音が聴こえてきたら」は音数の少ない、短めの曲で。こういうサラッとした小品というのも、花澤さんの音楽の特長になっていると思います。

花澤香菜

そうですね。ROUND TABLE(サウンドプロデューサー北川勝利のユニット)にもこういう小さくてかわいい曲がいっぱいあって、私は好きなんですよね。パッと気分が切り替わるような感じで。あとこれもけっこうなカナ数です(笑)。でもあんまり丁寧に歌う感じじゃなくて、ビリー・ジョエルの「The Longest Time」のMVみたいに何人かで楽しくドゥワドゥワしているようなイメージで。

──あとこの曲は花澤さん自身の作詞ですね。コメンタリー映像では「曲先は怖い」とおっしゃってましたが。

そうなんですよ怖いんですよー。本当に難しくて、岩里(祐穂)さんに「できません!」って電話でお話したぐらい(笑)。北川さんからデモで「タップダンス」というテーマをいただいていたので、そこからなんとか膨らませていきました。苦手意識もちょっとは克服できたかなって思います。

──9曲目「We Are So in Love」は矢野博康さんの書き下ろしで、ニューウェイブ風味のフュージョンで。コメンタリーでは「知らなかったけど、私フュージョン好きだわー」としみじみおっしゃってました(笑)。

好きだわー(笑)。聴いていて心地いいですよね。キラキラしてるんだけど大人っぽくて、おしゃれにキラキラできるみたいな。

──「アンドロメダ」の発音がやけにいいのが気になりました。

あれは指示のもとです(笑)。最初は普通に「アンドロメダ」って歌ってたんですけど「もっとカッコよくいこう」って言われて「アンドゥーメダ」にしました(笑)。

──次の「プール」は花澤さんの自作詞ですけど、「タップダンス~」と違って詞先なんですよね。前作「25」の「マラソン」もそうですけど、花澤さんが詞先で書いた歌詞って……なんか暗くて観念的ですよね。

花澤香菜

そうなんですよ。なんなんでしょうね。基本こういうこと考えてるんでしょうね。ふふふふふ(笑)。そんなに根暗ってわけじゃないんですけど、自分と向き合うと……こういうことが出せるのって、歌詞だけだから。普段話していてこういうこと言わないし、こんなふうに考えてるんだよって伝える機会があるのはうれしいですね。

──そんな歌詞に北川さんが当てた曲が、初のレゲエ調という。

レゲエというとハロー!プロジェクトの「サマーれげぇ!レインボー」(7人祭)しか知らなかったので(笑)、こんなレゲエもあるんだなあって。

ニューアルバム「Blue Avenue」 / 2015年4月22日発売 / アニプレックス
初回限定盤 [CD+Blu-ray] / 4104円 / SVWC-70064~5
通常盤 [CD] / 3240円 / SVWC-70066
CD収録曲
  1. I ♥ NEW DAY !
    [作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:北川勝利 / ホーンアレンジ:村田陽一]
  2. ほほ笑みモード
    [作詞:岩里祐穂 / 作曲・編曲:Studio Apartment]
  3. Nobody Knows
    [作詞:岩里祐穂 / 作曲:北川勝利 / 編曲:北園みなみ、北川勝利]
  4. ブルーベリーナイト
    [作詞・作曲・編曲:宮川弾]
  5. Trace
    [作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:mito]
  6. こきゅうとす
    [作詞・作曲:ティカ・α / 編曲:やくしまるえつこ、山口元輝]
  7. Night And Day
    [作詞・作曲・編曲:北川勝利 / ホーンアレンジ:北園みなみ]
  8. タップダンスの音が聴こえてきたら
    [作詞:花澤香菜 / 作・編曲:北川勝利]
  9. We Are So in Love
    [作詞・作曲・編曲:矢野博康]
  10. プール
    [作詞:花澤香菜 / 作曲:北川勝利 / 編曲:zakbee & Hatayoung、北川勝利]
  11. Dream a Dream
    [作詞:岩里祐穂 / 作曲:Andy Connell、Corinne Drewery(Swing Out Sister)/ 編曲:Andy Connell / Produced by Swing Out Sister]
  12. マジカル・ファンタジー・ツアー
    [作詞・作曲・編曲:中塚武]
  13. 君がいなくちゃだめなんだ
    [作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:北川勝利 / ストリングスアレンジ:宮川弾]
  14. Blue Avenue を探して
    [作詞:西寺郷太 / 作・編曲:奥田健介]
初回限定盤Blu-ray収録内容
  • Special Avenue(ドキュメンタリー)
花澤香菜(ハナザワカナ)

花澤香菜

1989年2月25日生まれ、東京都出身の声優。2006年放送の「ゼーガペイン」で初のヒロインとなるカミナギ・リョーコ役を演じ、2007年には「月面兎兵器ミーナ」「スケッチブック ~full color's~」「ぽてまよ」といった作品で次々と主要キャラクター役に抜擢された。その後も「こばと。」「化物語」「海月姫」などの人気アニメでヒロインを演じるかたわら、多数の作品でキャラクターソングを歌い、2011年放送の「ロウきゅーぶ!」では声優ユニット「RO-KYU-BU!」のメンバーとしても活躍。2012年4月にはシングル「星空☆ディスティネーション」でソロデビューを果たした。2013年2月には1stフルアルバム「claire」を発表し、同年3月には大阪・NHK大阪ホール、東京・渋谷公会堂にて初のワンマンライブを行い、いずれも大成功に収めた。同年12月に発売された5thシングル「恋する惑星」に続き、2014年2月には25曲入りの2枚組アルバム「25」を発表。4月からは4都市を回る初の全国ツアー「花澤香菜 live 2014 "25"」を行った。2015年2月には通算8枚目のシングル「君がいなくちゃだめなんだ」をリリースし、同年4月には3rdアルバム「Blue Avenue」を発表。5月からは初の東京・日本武道館ワンマンを含むライブツアー「花澤香菜 live 2015 "Blue Avenue"」を行う。