ナタリー PowerPush - 花澤香菜
等身大の「私自身」を表現した25の歌
子供の頃の記憶を掘り起こす作業から
──作詞のための旅ではなく、ロケの旅先で生まれた歌詞なんですよね。アルバム制作期間は常に歌詞のことを意識しながら?
花澤 ずーっと考えてましたね。でも歌詞を書くとなると、やっぱり経験していないことは書けないなと思いました。気持ちも入らないし。自分の中で大事な思い出になっていることは詞にしやすいんだなって。
北川 まず宿題で「自分の中で記憶に残っている風景や思い出を箇条書きで書いてみて」とは言われてましたね。子供の頃からの記憶が僕のほうにもどんどん送られてきて、へえーって(笑)。
花澤 あはは(笑)。ホントに箇条書きで、ちっちゃい頃からの記憶をバーッと書いて岩里さんと北川さんに送り付けました(笑)。
──歌詞に反映されてないものでもけっこうですが、そうやって掘り起こした記憶の中で、自分でも驚いたようなインパクトの強い記憶はありましたか?
花澤 うーん、なんだろう。私、4つ下の弟がいるんですけど、弟との思い出はいっぱいありますね。嘘をいっぱい教えたりとか、化粧をさせたりとか(笑)。ひどいお姉ちゃんだったと思います。
──嘘をいっぱい?
花澤 「富士山の『さん』は数字の3だよ。『ふじいち』はこの山、んで『ふじに』は鳥取にある」とか。
北川 何それ(笑)。
花澤 「うちの地元もけっこうすごいんだよ!」って。あとでお母さんに怒られた記憶があります(笑)。
──そういう歌詞になりにくい記憶も(笑)、花澤さんの作品を読み解く上では興味深いですよね。
北川 記憶を掘り起こす作業からスタートして……岩里さんが書いた歌詞もその中から拾い上げたエピソードが膨らませてあったり、本人が書いてないものでもどこかに花澤香菜の原風景が入っているんです。だから全体を通してより本人に近付いたものにはなったかなと。意外なのは、女性2人で話し合って作っているのに、結果出てくる言葉が男らしいものが多いんですよ(笑)。「えと、もうちょっとかわいくしてもらっていい?」みたいな。
花澤 そこのせめぎ合いがあったんですよね(笑)。「claire」のようにかわいらしい風景を物語として描いた世界観が私も好きなんだけど、私自身はかわいい部分が足りないので(笑)。
──それを男性である北川さんが制止するという(笑)。
花澤 やっぱり女子と男子で表現の仕方が違うのかもしれないですね(笑)。私たちが書くと「~なのさ」になるんですけど、北川さんは「~なの」で止めたほうがいいって。
北川 そうそう、そのへんの表現を細かく話し合いましたね。
──確かに世間一般のイメージする花澤香菜像だと「なの」のほうがしっくりくるかもしれない。でも本人は「なのさ」なんですね。
花澤 そうですね。「なのさ」とか「なんだ」とか。
北川 そこのやりとりは面白かったですね。やっぱり語尾で全然印象が違うし。放っとくと2人ともゴツゴツした言葉を選ぶから(笑)。
一番泣ける曲は……?
──では“歌手・花澤香菜”としてはいかがでしょう。初ワンマンまでの流れを経ての“2ndシーズン”として、何か自分の中で変化を感じるところはありましたか?
花澤 等身大の自分を反映しているぶん、より自然に歌えたところはあります。「claire」のときは声優としてのスケジュールの中に「レコーディング」が入っているような感じで、初めてお会いするいろんな方々とディスカッションしながらという流れだったんですけど、今回はもっと「作品を作っている」という感覚でいたというか……。25曲だからもう部活動のように(笑)、週に2回ぐらい集まる機会があって。「claire」に参加してくださっていた方々とは2回目ということもあって、前よりもリラックスできていたと思います。
北川 「claire」に参加した人たちは今回もみんな参加してくれてるんですよ。ライブも観に来てくれていたり、打ち上げでも一緒だったりしたから、気持ち的には前よりもっとフレンドリーだったかもしれない。
──作家陣としても、話したりライブを観た印象でまた書く曲が変わってきたでしょうしね。じゃあ次はどう書こうかな、こういう曲もいけるかもな、という楽しみもあったのかも。それぞれ得意技にプラスアルファ、花澤さんならこれやれるだろう、みたいな要素を盛り込んできているような。
北川 みんな前作ではそれぞれに曲を作って、1枚の作品としてできあがったものを聴いたときに「なるほど」と気付くところがあったと思うんですよね。だったら俺はこういう曲が書けるよ、みたいな。こちらのリクエストとは別に、こういう曲を歌ってほしいというアイデアがいっぱい出たと思うんですよね。それを今回ぶつけてきたなという感じはあります。
──参加メンバーが発表された段階でも大きな話題になりましたけど(参照:花澤香菜、豪華作家集結の2枚組アルバム詳細明らかに)、この顔ぶれに反応した人も実際に曲を聴いてみてさらに驚くと思うんですよ。
北川 そうだね。NONA REEVESの2人(「YESTERDAY BOYFRIEND」作詞:西寺郷太 / 作・編曲:奥田健介)とか特に驚かれるかも。そうそう、(西寺)郷太くんには前に「CALL ME EVERYDAY」(4thシングル「Silent Snow」に収録)の歌詞を書いてもらったんだけど、今回歌詞をお願いしたときは、あえて誰が書いた曲か教えないで頼んだんですよ。そしたら「これ誰が書いたか知らないけど、たぶんすごく気が合うと思う」って(笑)。
花澤 あっはっは(笑)。
──自分とこのギタリスト捕まえて(笑)。
北川 言わないで振ってみたらどうなるんだろうと思って(笑)。
──カジヒデキさんの「パパ、アイ・ラブ・ユー!!」は前作の「ライブラリーで恋をして!」ともまた違うギターポップ路線でありながら、やはり“カジくん”節全開で。
花澤 カジさんの曲は、私がテーマとしていくつか出させていただいたものやお話したことがそのまんま入っていて。パパとのデートの歌で、子供の頃は一緒にどんな映画を観た?って聞かれたから「E.T.とか、グレムリンとか」って答えたんですけど……(笑)。
──そのまま歌詞になってる。
花澤 もっと思い出ない?って聞かれて「パパの作るカリフォルニアロールはすごくおいしいです」って答えたり。
北川 すべて盛り込まれてる。全部入り(笑)。
花澤 でも正直、この曲が一番泣けるんです(笑)。電車とかで順番に聴いていてこの曲が流れると、「ああ泣いちゃう泣いちゃう。ああ、パパーッ!」って(笑)。
北川 「カリフォルニアロール さ・い・こ・う!!」で泣いちゃうんだ(笑)。
- ニューアルバム「25」 / 2014年2月26日発売 / アニプレックス
- 初回限定盤 [CD2枚組+Blu-ray] / 4725円 / SVWC-7988~90
- 通常盤 [CD2枚組] / 3990円 / SVWC-7991~2
DISC 1
- バースデイ
- 25 Hours a Day
- Brand New Days
- 恋する惑星
- マラソン
- YESTERDAY BOYFRIEND
- 無邪気なキミと真夏のメロディ
- Make a Difference
- 旅立つ彼女と古い背表紙
- Summer Sunset
- 同心円上のディスタンス
- flattery?
- Waltz for Praha
DISC 2
- 片思いが世界を救う
- ダエンケイ
- パパ、アイ・ラブ・ユー!!
- Eeny, meeny, miny, moe
- 粉雪
- Young Oh! Oh!
- 曖昧な世界
- 真夜中の秘密会議
- Merry Go Round
- last contrast
- 花びら
- Good Conversation
初回限定盤Blu-ray DISC収録内容
- 「I wish the door to the dream does not close.」(16分)
花澤香菜(はなざわかな)
1989年2月25日生まれ、東京都出身の声優。2006年放送の「ゼーガペイン」で初のヒロインとなるカミナギ・リョーコ役を演じ、2007年には「月面兎兵器ミーナ」「スケッチブック ~full color's~」「ぽてまよ」といった作品で次々と主要キャラクター役に抜擢された。その後も「こばと。」「化物語」「海月姫」などの人気アニメでヒロインを演じるかたわら、多数の作品でキャラクターソングを歌い、2011年放送の「ロウきゅーぶ!」では声優ユニット「RO-KYU-BU!」のメンバーとしても活躍。2012年4月にはシングル「星空☆ディスティネーション」でソロデビューを果たした。2013年2月20日には1stフルアルバム「claire」を発表し、同年3月には大阪・NHK大阪ホール、東京・渋谷公会堂にて初のワンマンライブを行い、いずれも大成功に収めた。同年12月に発売された5thシングル「恋する惑星」に続き、2014年2月には25曲入りの2枚組アルバム「25」をリリース。4月からは4都市を回る初の全国ツアー「花澤香菜 live 2014 "25"」を行う。