ナタリー PowerPush - 花澤香菜

等身大の「私自身」を表現した25の歌

花澤香菜 × 北川勝利 インタビュー

「25歳の誕生日に合わせて、25曲入りで」

──おそらくファンの皆さん誰もが気になっていることだと思うのですが、そもそもなぜ25曲も入ったアルバムを作ろうと?

花澤香菜 1stアルバムのライブ(参照:花澤香菜、初のワンマン大成功&豪華ツアーパンフ通販開始)が終わったあとすぐに、みんなで集まって「次何をしますか?」って会議を開いたんです。

──2012年春から個人名義による音楽活動がスタートして、1年かけて1stアルバム「claire」が完成……という一連の流れが、初のワンマンライブで締めくくられて“シーズン1”としてきれいに収まったなという感じがありました。だからこそ“シーズン2”はどうなるんだろうと考えていたんですけど、すぐに動き始めたんですね。

花澤 せっかくあんなにライブが楽しかったから、音楽を続けたいとお話させてもらって。

──そこが不安だったんですよ。声優として多忙な中で音楽活動とじっくり向き合って、1つの流れが完結したら「もういいや」って満足しちゃうんじゃないかって(笑)。でも自分から手を挙げるほどに楽しかったんですね。

花澤香菜

花澤 はい。大阪のライブは本当に初めてのワンマンライブだったからすごく緊張して、個人的な反省点がたくさんあったんです。だから次の東京のライブでは絶対に悔いが残らないようにがんばろう!って思いっきりやらせてもらったら、すごく楽しくて「もっとライブしたい!」って。レコーディングも楽しいし、できることならずっと続けたいと思ってたんです。

──その前のめりな音楽への思いが、25曲入りのアルバムになったと(笑)。

北川勝利(ROUND TABLE) どうかしてますよね(笑)。

──音楽活動に対して本気だという宣言のためにそうしたかのような(笑)。しかも既発曲を詰め込んだり、インタールードをたくさん挟んだりというわけでなく、シングル曲も先行カットの「恋する惑星」だけで全部書き下ろしばかりという。「恋する惑星」のカップリングを含めると27曲ですよ。

北川 最初の会議で話しているときに、スタッフが「来年2月25日、25歳の誕生日に合わせて、25曲入りで」って言い出して「ん?」って。でも僕らとしても、1stアルバムは力を出しきってすごいものが作れたなという自信があったぶん、2枚目となると「1枚目はよかったけど……」って思われちゃうかもなって気持ちもうっすらあったんです。かと言って目先のことだけ変えて新しいモードですよ、みたいなのはイヤだったんですよ。だから「25曲入り」というアイデアが出たとき、曲がたくさん入っていてそれが拡散していく感じはアリだなと思ったんです。曲のクオリティはさらに上を目指しつつ、どこを取っても花澤香菜のいいところが見られるようなアルバムになったらいいなって。そう思ってスタートしたものの……わかってはいたけど、やはり大変でした。

──サウンドプロデューサーの立場となると恐ろしいことですよね(笑)。トータルプロデュースはもちろんのこと、北川さん自身が作曲したものだけで14曲あるんですよ。

花澤 ホントですよ!(笑)

北川 あれ、そんなにあるんだっけ(笑)。

「理想の女の子像」から等身大の「私自身」へ

──「25曲作りましょう」という話になったとき、花澤さん自身はどう思いましたか?

花澤 25曲と言われても、具体的にどんなものなのか想像できなかったんですよね。とりあえず歌入れは25回あるなあって(笑)。1枚目のアルバムは恋愛をテーマに理想の女の子像をイメージしたものになりましたけど、今度は自分により近付けた、より私自身の要素が入ったアルバムにしたいというのがテーマとして上がっていたので、それも楽しみだなって思ってました。

──その花澤さん個人の要素というところがハッキリ出ているのが歌詞ですね。作詞初体験だった1stアルバム収録「おやすみ、また明日」は、前回のインタビューではかなり苦戦したというお話をされていましたが、今作では一気に4曲も。

花澤 これは岩里(祐穂)さんのおかげなんです。このアルバムを作るにあたって、岩里さんと直接お会いして2人きりでお話する機会をいただいて。私についてたくさんお話させていただいたんです。

左から花澤香菜、北川勝利。

北川 前作はそれぞれの作家さんと話し合って、曲ごとに世界観を作っていったんだけど、今回はアルバム全体の歌詞の方向性を決める上で岩里さんに中心として入ってもらうようお願いしたんです。そしたら「じゃあちょっと2人で会ってくるから」って。そこからは「こんな話をしたよ」とか「こんな内容の歌詞を書こうと思う」とか、ちょくちょく連絡をもらいながら。具体的にどんな話をしてたのか僕は知らないけど。

花澤 うふふふふ(笑)。

北川 岩里さん中心で書いてもらいながら、香菜ちゃん本人が書くためのアイデアを伝えているってことだけはなんとなく聞いてました。

花澤 作詞をするにあたって、自分の思いの何がテーマになるのかをチョイスするのが難しかったんですね。まずは岩里さんに「こういうエピソードがあるんですけど、どう歌詞にしていくといいんですか?」とか「これだと何がテーマになりますかね」というのをお話させてもらって。

──「おやすみ、また明日」には初めて書いた歌詞ならではのよさもあったと思うんですけど、新しい4曲はどれもちゃんと“作詞”してる、という印象で。例えば「マラソン」は、このタイトルを見てまず「えっ、マラソン?」と思ったんですよ。

北川 だよねえ。制作に入ったのもこの曲が最初だったんだけど、「歌詞ができたんだ」って言うからどんな曲かって聞いたら「マラソンです」って(笑)。

──「花澤香菜がマラソン!?」って思いますよね(笑)。「マラソン」というキャッチでドキッとさせた上で、マラソンという単語を一切使わず心理描写をしている。これは堂々たる“作詞”だなあと。

花澤香菜

花澤 いひー(笑)。

──そんな歌詞が、前作までのサウンドとは違う、インディギターロック的なワイルドで疾走感のある音に乗せて歌われているというのがまた新鮮で。

北川 歌詞が前半までできたところで送られてきたので、それを元に曲を書いたんです。「マラソン……どんな感じをイメージしてるんだろう」と考えながら。25曲ということもあって、音楽的にはさらに幅広くしていこうという思いがあったので、ギターがジャキーンみたいな曲もいいかもなって思ったんです。

花澤 北川さんが一発であの曲を書いてきてくれて、岩里さんと「……これだー!」って(笑)。

──詞先だと知るとまた印象が変わってきますね。サウンドの疾走感からひらめいた歌詞だとばかり思っていたので。

北川 25曲で行くって決まった段階では、まだどんな曲を作るのかまったく決めてなかったんですよ。これまでに作ってきたソフトできらびやかな楽曲ももちろん入れるつもりだったけど、そうじゃない曲からスタートさせたのは、アルバムの方向性を見定める上で大きかったかもしれないですね。「真夜中の秘密会議」も詞先だったよね。

花澤 「粉雪」もそうでした。撮影で北海道に行ったときに……。

北川 そうそう、撮影先から歌詞が送られてきて(笑)。北海道の無人駅だっけ? すごく印象に残ったんでしょうね。すぐに歌詞が送られてきて。

──管楽器のみをバックにした、すごく不思議な仕上がりですよね。

北川 すぐに曲を作ってギターをポロリンと弾いたものに合わせて歌ってもらって……「できあがったから聴いてみてよ」って渡すときにはサックス5本だけになってるっていう(笑)。

花澤 えっ、何が起こってこうなったんだろう?ってびっくりしました(笑)。

ニューアルバム「25」 / 2014年2月26日発売 / アニプレックス
初回限定盤 [CD2枚組+Blu-ray] / 4725円 / SVWC-7988~90
通常盤 [CD2枚組] / 3990円 / SVWC-7991~2
DISC 1
  1. バースデイ
  2. 25 Hours a Day
  3. Brand New Days
  4. 恋する惑星
  5. マラソン
  6. YESTERDAY BOYFRIEND
  7. 無邪気なキミと真夏のメロディ
  8. Make a Difference
  9. 旅立つ彼女と古い背表紙
  10. Summer Sunset
  11. 同心円上のディスタンス
  12. flattery?
  13. Waltz for Praha
DISC 2
  1. 片思いが世界を救う
  2. ダエンケイ
  3. パパ、アイ・ラブ・ユー!!
  4. Eeny, meeny, miny, moe
  5. 粉雪
  6. Young Oh! Oh!
  7. 曖昧な世界
  8. 真夜中の秘密会議
  9. Merry Go Round
  10. last contrast
  11. 花びら
  12. Good Conversation
初回限定盤Blu-ray DISC収録内容
  • 「I wish the door to the dream does not close.」(16分)
花澤香菜(はなざわかな)

花澤香菜

1989年2月25日生まれ、東京都出身の声優。2006年放送の「ゼーガペイン」で初のヒロインとなるカミナギ・リョーコ役を演じ、2007年には「月面兎兵器ミーナ」「スケッチブック ~full color's~」「ぽてまよ」といった作品で次々と主要キャラクター役に抜擢された。その後も「こばと。」「化物語」「海月姫」などの人気アニメでヒロインを演じるかたわら、多数の作品でキャラクターソングを歌い、2011年放送の「ロウきゅーぶ!」では声優ユニット「RO-KYU-BU!」のメンバーとしても活躍。2012年4月にはシングル「星空☆ディスティネーション」でソロデビューを果たした。2013年2月20日には1stフルアルバム「claire」を発表し、同年3月には大阪・NHK大阪ホール、東京・渋谷公会堂にて初のワンマンライブを行い、いずれも大成功に収めた。同年12月に発売された5thシングル「恋する惑星」に続き、2014年2月には25曲入りの2枚組アルバム「25」をリリース。4月からは4都市を回る初の全国ツアー「花澤香菜 live 2014 "25"」を行う。