アナログにはいい意味での曖昧さや揺れがある
永積 でも太賀くんと同世代の20代とかでフィルムカメラ使ってる人って、今いるの?
仲野 今は逆にフィルムカメラを使ってる人が多いです。
永積 そうなんだ!
──編集部に写真の持ち込みに来る若いカメラマンさんもフィルムカメラを使ってる人がけっこういますよ。
仲野 若い世代は多いですよね。僕が撮り始めた頃はトイカメラが流行っていて、「もう1回フィルムブームが来るか?」みたいな感じだったんですけど、ここ数年で徐々に流行り出して、自分はいい感じで波に乗れたかなって(笑)。
──若い世代がフィルムカメラを好む感覚って、どういうところから来るんですかね。「昔懐かしの」といったノスタルジーではないだろうし。
仲野 ノスタルジーではないですね。もしかしたらデジタルカメラだと写りすぎちゃうというのがあるのかもしれません。
永積 僕らはフィルムカメラで撮影するのが当たり前の時代に育ったから、デジタルカメラが登場したとき、「ここまでバッチリ写るんだ!」って驚いたんだけど、太賀くんにとっても「写りすぎてる」と思うことがあるんだね。面白いね。
仲野 もちろんデジタルのよさもあると思うんですけど、フィルムで撮った写真には言葉にできないような独特の温もりがあるじゃないですか。その温もりって、温度がないようなものに囲まれて育ってきた僕らの世代からしたらすごく新鮮なんです。
永積 なるほどね。
──それって若いミュージシャンがアナログ的な音像を求めたりするのと共通する感覚だったりするんですかね。
永積 うん、一緒なんじゃないかと思う。僕もアナログテープを使うことがあるし。何かアイデアを発想するとき、デジタルだとクリアすぎてそこで止まっちゃう感覚がよくある。アナログってよくも悪くも曖昧な音像でさ。カセットテープなんかもザーッとした音像の向こう側から、何か違う音が聴こえてくるような感覚があるよね。いい意味での曖昧さや揺れがある。そういうものに閃きを渡される瞬間があったりするし。
仲野 計算しようと思えば計算し尽くせる今の時代、思ってもみなかったような面白いことが起きるのって、アナログのほうが多いのかもしれないですね。例えばフィルムカメラで写真を撮ったら、その場で仕上がりが確認できないわけで。それって映画の世界でも、きっとあると思うんですよね。フィルムで撮影している映画って、少ないですけど、まだまだあって。時代が進んでいくにつれて減っていってしまうのかもしれないですけど、いつの時代も、そういった温もりだとか言葉にできない何かに価値を見出す人は一定数いると思うので、お願いだからこの文化がずっと残っていってほしいなと僕は思います。
「好きだ」という気持ちって3文字だけでは表現できない
永積 太賀くんの中にもそういう感覚があることを知れたのがすごくうれしい。「やっぱそうだよね」っていうか。みんなが本当に知りたいことって、まだ言語化もビジュアル化もされていないようなものだと思う。結局、人って確かなものよりも、揺れているものとか曖昧なものに心を動かされるような気がする。
仲野 映画も音楽も写真もきっとそうだと思うんですけど、言葉で言い尽くせてしまうことって実は限られていて、そこからあふれ出たもののほうが圧倒的に多くの情報量を持っているように思うんです。映画の役割って、そこからこぼれちゃった言葉たちをどう可視化させるかみたいなことでもあるような気がして。例えば「好きだ」という気持ちって、「好きだ」の3文字だけでは表現できないじゃないですか。
永積 うんうん。
仲野 なので永積さんがおっしゃるように、言葉にできないことってまだまだ可能性がありますよね。曖昧なもののほうが“本当”に近い感じがするというか。でも、伝えたいことって言葉でうまく形容できないですよね。僕はしゃべるのがうまくないから、なおさらそう思っちゃうんですけど。今も伝えたいことがちゃんと伝えられているのか(笑)。
永積 すごいよくわかる。
──実際、永積さんも言葉で表現できない衝動みたいなものを音楽を通じてずっと表現しているわけですよね。
永積 そうだね。そうだったらいいなーというか。曲作りはもちろんだけど、自分の場合はライブをやるということが一番大きなポイントで。その日のその瞬間、そこにいる人たちとどうやって、つながり合えるかということだから。そういう意味では、歌詞なんかも本来は毎回変わっていくものなんじゃないかと思うし。その日のオーディエンスの雰囲気とかでね。
仲野 永積さんは曲の間に突然違う曲を歌い出したりするじゃないですか(笑)。あれすごいですよね。
永積 あれは閃きのままにやってる(笑)。僕は歌詞を書くのがそこまで得意ではなくて、どっちかっていうと空気感みたいなものが伝わればいいなと思っていて。言葉にできない感情のほうが多いから、それをどういうふうに届けられるかなということをいつも思ってる。自分が伝えたいことが相手に伝わってるかどうかはわからないんだけど、その“わからない”感じも面白いよね。
仲野 言葉をどんなに尽くしても伝えられないものってありますよね。
生きたことのない時間を一瞬生きられる感じ
永積 これも聞きたかったんだけど、太賀くんが俳優を続けているエネルギーの根幹ってどういうところにあるんだろう?
仲野 僕たち俳優は基本的に脚本を書いているわけではないし、企画を立ち上げているわけでもないので、やっぱり誰かの言葉を借りて表現するっていうことになるんですけど、僕自身は作家さんだったり監督さんの思いに乗れるかどうかみたいなことをモチベーションにしているところが大きいです。そのときそのときで自分が感じていた思いをズバッと表現してくれている脚本に出会えたりするとうれしいですよね。自家発電で何かを表現するわけではないので、いろんな人と出会えて、いろんな角度で表現できるのが役者という仕事の醍醐味なのかなと思います。
永積 役によっては、自分では絶対言わないだろうなって言葉を相手にぶつけたりするときもあるわけだよね?
仲野 そうですね。そもそも日常で、そんなに怒ったり泣いたりってしないじゃないですか(笑)。でも演じているときはそれが公然とできるので、ある種の自由さがあるんですよね。なんならプライベートよりも自由を感じられるかもしれないっていうときがたまにあったりして。それは素敵だなって思います。
──例えば永積さんが他アーティストの楽曲をカバーするときとか、やっぱり違う誰かを演じているような感覚になったりするんですか?
永積 そうだね。演じるというのとは違うかもしれないけど、例えば僕はくるりの「男の子と女の子」という曲が大好きでカバーしてるんだけど、あの曲の中に出てくる「僕をどこまでも愛してくれよ / 何ももて余さないで」って言葉とか日常の自分では絶対に言えないよね。それを口にできる喜びはある。あと、「そして僕は途方に暮れる」という大澤誉志幸さんの曲は見慣れない服を着た彼女が別れ際に家を出ていくという歌詞で始まるのだけどメロディに乗せて、その歌詞を歌った瞬間に幻灯機みたいに景色が自分の中に浮かび上がってくるんだよね。「きっと色っぽい女の人なんだろうな」とか、「こんな匂いがするのかな?」とか勝手に思っちゃう(笑)。
仲野 ガーッとイメージが湧き上がるんですね(笑)。
永積 そう。ガーッとイメージが浮かんで、その女の人に俺も会ってみたくなる(笑)。夕暮れなんかに寂しい気持ちになったとき、「そして僕は途方に暮れる」を歌うと、なんかその女の人に会えた気がするんだよ。
仲野 いいですね。
永積 そういう気持ちで入り込める曲が何曲かある。生きたことない時間を一瞬生きられる感じって、きっと俳優さんにはあるんだろうね。
仲野 似てるかもしれないですね、確かに。
永積 その反面、入り込みたくないような役もあると思うんだけど(笑)。
仲野 あります、あります! 「もう嫌だ! 現場行きたくない! 地獄じゃん!」みたいな(笑)。
永積 でも仕事として必ず役を体に通さないといけないわけだもんね。
仲野 受けた以上はできる限りアプローチしなければと思ってがんばります。ストレス……とまでは言わないですけど、つらいときはつらいです(笑)。
永積 ははは(笑)。
今後も太賀くんの表現に刺激を受け続けるんだと思う
──そろそろ時間ということで、今一番話してみたかった太賀さんと実際話していかがでしたか?
永積 なんかね、もう……もらっちゃう。
仲野 もらっちゃう(笑)。
永積 パワーをね(笑)。雰囲気とか振る舞いとか、やっぱり気合いを感じるし。何かを始めようとした気持ちと、それを貫きたいという気持ちに共感しました。今後も太賀くんが表現するものに刺激を受け続けていくんだと思う。そういうことによって、自分が作る音楽にも血が巡ってくるっていうか。これはちょっと負けられないなとか、なるほどこういうふうにやったんだとかさ。そういう人と出会えるのはうれしいね。
──太賀さんはいかがですか?
仲野 嘘みたいな話なんですけど、この対談のお話をいただく2日くらい前に、埃をかぶっていたギターをひさびさに引っ張り出して弾いたんです。そのときに弾いたのがハナレグミの「きみはぼくのともだち」だったんですよ。
永積 マジで!
仲野 下手なギターを弾きながら「やっぱいい曲だなー!」とか言って。
永積 ははははは(笑)。うれしいー!
仲野 その直後に対談のお話をいただいたんで、「キター!!」と思って(笑)。僕は今日がすごく楽しみでした。「やっと会える!」と思って。うれしくてしょうがないんです、今この状態が。僕自身ハナレグミの曲にものすごく支えられているし、普段から聴いているので生活の中に永積さんの歌が自然にあるんです。そういう方とこうやって、表現や感覚的な部分について、じっくりお話しできたことはこれからの自分の糧になると思います。今日は本当にありがとうございました。
永積 こちらこそありがとう。
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ハナレグミ 単独インタビュー