音楽ナタリー Power Push - 永積 崇(ハナレグミ)×野田洋次郎(RADWIMPS)
共鳴しあう魂──2人が語る「おあいこ」制作秘話
「目の前の人に甘えるみたいに歌ってください」
──個性的な曲が並ぶこのアルバムですが、野田さんが書き下ろした「おあいこ」は中でもひときわ強い存在感を放っています。永積さんは野田さんに、どういうことを期待して曲を依頼したんでしょうか?
永積 洋次郎がCharaさんに書いた「ラブラドール」って曲を聴いたとき、自分の中の血が騒いだんですよね。何か脈打ってるものがあるというか、静けさの中で、でもどこかすごく叫んでる感じというか。その感覚は自分の中にもあるもので、たぶん俺はそこにグッときたんです。洋次郎の曲を聴いてると、自分の中にある言葉にならない部分を全部言われてるような気がして、そういう言葉を自分の口から発してみたいと思ったし、その世界を手にしてみたかったというか。
──野田さんは永積さんから依頼を受けていかがでしたか?
野田 いや、それがけっこうガチで悩んで、返事を2カ月ぐらい待ってもらったんです。
──何がひっかかってたんでしょうか?
野田 やっぱりもともと崇くんの歌が好きだし、1人のお客さんとしてハナレグミの新曲に期待してる自分がいて、その期待を自分で超えなきゃいけないから。それにハナレグミの音楽は俺がいなくても完成されてて、そこで自分がやる意味はなんだろうって思ったんです。そこがふわふわしたままだと絶対ろくなものにならない。
永積 その感じすごくわかる。簡単に答えは出ないよなって俺も思うもん。
野田 それですごく考えて、ハナレグミの歌っていつでもそれを聴く人のための歌だなって思ったんです。聴く人を救ったり、明日をちゃんと生きられるようにしてあげられる歌っていうか。俺自身もハナレグミの歌を聴いて「よし、大丈夫だ」って思うこともあったし。でもそのとき、ふと「崇くんはしんどいんじゃないか」と思ったんですよね。
──しんどい?
野田 常に誰かのために歌ってるから。だったらここで1回、誰かのためじゃなく自分のために歌ってもらおうと。宇宙で一番わがままになっていい。崇くん自身が抑えていた言葉を、恥ずかしいかもしれないけど、今回はあえて歌ってもらおう。そういう歌が作れたら、俺がやる意味があると思ったんです。崇くんには「目の前の人に甘えるみたいに歌ってください」「今まで言えなかった言葉かもしれないけど、俺が勝手に書いただけだから」って伝えて歌ってもらいました。
2人で過ごした景色を思いながら歌った
──レコーディングの現場はどうでしたか?
永積 ものすごく濃い、幸せな時間でしたね。「イエーイ!」っていう楽しさじゃなくて、緊張感がすごかった。「おあいこ」は30テイクぐらい録ったんですよ。たぶんそれぐらいやらないと自分の歌にならなかったんだと思うんだけど。
野田 あれ全部無駄じゃなかった。30回やってたどり着いたよね。
永積 うん、いっぱい歌いたいっていうか、交わりたいっていうか。曲が生まれてからレコーディングまでの間って、すごく熱い大事な時間だから、俺は繰り返し歌うんだよね。その分レコーディングを終えると、曲の一部分が旅立ってくような気がする。昇華されるというか、魂が天に半分ぐらい召される感じというか。
──レコーディングには原田郁子さんも参加してるんですよね。
永積 郁子と俺と洋次郎の3人でアレンジしたんだけど、ひらめくままに音を足していって、どんどんすごいことになっていった。ものを作ってるときの幸せってこういう瞬間だよなと思って。何か大きな光に向かってまっすぐに走ってくような。
野田 1テイク録るたびに「うおーっ!」てなってたもんね。郁子が入れる1音1音もやっぱり素晴らしくて。何よりも2サビで出てくるコーラス。郁子が鍵盤入れてるときにトークバックのマイクで拾った彼女の声を聴いて「ちょっと待って! 今の何!?」って。それでコーラスを入れてもらったんだよね。全部必然だったと思う。
永積 こういう瞬間がまだ俺に来てくれるんだ、みたいな。ずっとやっていたいって思ってた。
野田 今回のアルバムはどの曲を聴いてもそういう手応えを感じるんです。ほかの曲に関しても「ああ、わかる」「この曲ずっと前から知ってる気がする」みたいな、そういう感覚があって。たぶん崇くんがとことん歌い込んで、ちゃんと自分の曲にした上でレコーディングしてるからだと思うんですけど。
永積 洋次郎は人を本気にさせる人なんですよ。命がけでやりたくなる。洋次郎自身がそういうものをずっと作ってる人だからだと思うんだけど。でもだからって深刻じゃないんです。会ってしゃべるとふわっとしてたりして、ただ楽しいなって思える。そういう気配も含めて、俺は今まで洋次郎と過ごした景色を思いながら歌ってたところはありますね。
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- ハナレグミ ニューアルバム「What are you looking for」2015年8月19日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
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収録曲
- Overnight trip to Chiang Mai
[作曲:永積 崇] - 祝福
[作詞・作曲:YO-KING] - 旅に出ると
[作詞:大宮エリー / 作曲:永積 崇] - フリーダムライダー
[作詞:永積 崇 / 作曲:永積 崇、池田貴史] - 無印良人
[作詞:永積 崇 / 作曲:堀込泰行] - 11Dandy
[作詞・作曲:永積 崇] - ぼくはぼくでいるのが
[作詞:永積 崇、辻村豪文 / 作曲:辻村豪文] - おあいこ
[作詞・作曲:野田洋次郎] - Oi
[作詞・作曲:永積 崇] - 金平糖
[作詞・作曲:永積 崇] - いいぜ
[作詞・作曲:永積 崇] - 360°
[作詞・作曲:Cobhams Emmanuel Asuquo、Elemide Bukola / 日本語詞:永積 崇] - 逃避行 ~よなよなおっぱじめ!! live ver.~
[作詞:大宮エリー / 作曲:永積 崇]
ハナレグミ
1974年東京生まれの永積 崇(ex. SUPER BUTTER DOG)によるソロユニット。2002年11月に1stアルバム「音タイム」をリリースし、そのおだやかな歌声が好評を得る。2005年9月には 東京・小金井公園でフリーライブ「hana-uta fes.」を開催し、台風に伴う大雨にもかかわらず約2万人の観客を集めた。2009年6月に4年半ぶりとなるアルバム「あいのわ」をリリースし、ツアーファイナルの東京・日本武道館公演を成功させる。2011年9月には5thアルバム「オアシス」を発表。2013年5月リリースのカバーアルバム「だれそかれそ」では多くの名曲をさまざまなアプローチで歌い上げ、ボーカリストとしての力量を見せている。2015年8月、野田洋次郎(RADWIMPS)、YO-KING(真心ブラザーズ)、池田貴史(レキシ)、堀込泰行(ex. キリンジ)、辻村豪文(キセル)、大宮エリーら、さまざまなアーティストが参加したニューアルバム「What are you looking for」をリリース。
RADWIMPS(ラッドウィンプス)
2001年に野田洋次郎(Vo, G)が友人に誘われバンド結成。バンド名の「RADWIMPS」とは「カッコいい弱虫」という意味を持つ造語。2002年8月に「YOKOHAMA HIGHSCHOOL MUSIC FESTIVAL 2002」に出場してグランプリを獲得し、2003年7月にはアルバム「RADWIMPS」をインディーズからリリースするも、野田の受験を理由に活動休止。2004年3月に現メンバーで活動再開し、2005年11月にシングル「25コ目の染色体」でメジャーデビュー。2007年8月には神奈川・横浜アリーナでのワンマンライブも開催し、大成功を収めた。2009年3月に「アルトコロニーの定理」、2011年3月に「絶体絶命」、2013年12月に「×と○と罪と」とフルアルバムを発表。東日本大震災の発生直後には特設サイトを立ち上げ、以降毎年3月11日にYouTubeを通じて被災地復興の思いを込めた楽曲を発表している。2015年6月、野田の初主演映画「トイレのピエタ」の主題歌「ピクニック」をシングルとしてリリース。