「本当に人のことを好きになったことがないだろう」と言われて
──ところでアルバムタイトル「BLIND LOVE」にはどういう意味が込められているんですか?
浜崎 もともと違うタイトルにしようと思ってたんです。でも、このアルバムを作るのに2年間要したのはすごくよかったなと思っていて……そう、角松さんに「君は本当に人のことを好きになったことがないだろう」みたいなこと言われたんですけど(笑)。
角松 言ったね(笑)。
浜崎 そのときはちょっとムッとして「そんなことないです!」と反論したんですけど、「でも、そうかも」と思って。だから人のことをものすごく好きになってみたいんですよ。それこそ盲目的に。それは自分が唯一経験したことないことなので。今回のアルバムにはそういうことをしてみたいと思いながら書いた曲もいっぱいあります。曲にしたことで、自分が恋愛に対して求めているものが劇的ですごく激しいものだということに気付かされました。
──1曲目の「不眠」にはエロティックな歌詞もありますね。これは角松さんによるものですが。
角松 これはね、浜崎さんを取材し尽くして、最後の最後に作った曲。浜崎さんに寄っていって、そっちの世界で作っていいんだと思うと楽しくてしょうがなかった。
浜崎 ん? どういうことですか?
角松 ロックから始まって最後はハウスっぽく終わる、これって僕の中にある音楽ではあるんだけど、同じことをいきなり角松敏生でやったら、お客さんにわかってもらえるまで時間がかかると思うんですよ。だけど、浜崎さんのキャラクターと声で、浜崎さんのファンに向けてやるとなるとスッと表現できるから楽しいわけ。歌詞も、浜崎さんが今まで歌ってきた世界観を見てきたうえで書いたものだし、彼女の実体験や生い立ちも聞いてたから、それを歌詞の中にコラージュしたんです。オープニングの曲として、浜崎容子や作品自体を説明するのにふさわしいものにしようと思ったし。
浜崎 この曲を最初にいただいたとき、私があえて避けてたような言葉がふんだんに使われていたので、歌うのはけっこう緊張しました。「こういうことを歌わせるのか」みたいな感じで。
角松 避けてるだろうなと感じたから、これは僕が書いた詞だって言えば、言い訳が立つって思ったわけ。
浜崎 見透かされてるって思いました(笑)。
制作が終わるのは本当にさみしかった
──「人を好きになったことがないだろう」という話でしたが、浜崎さんはモテないタイプの方ではないですよね。
浜崎 はい、モテなくはないです(笑)。モテなくはないんですけど、「好き」と言われると「そうなんだあ、私も好きかも……」ってなっちゃうタイプなんで、自分のほうから「すごく好き!」って仕掛けることはあまりなくて。友達とかと話していて、「彼氏が」とか「恋人が」みたいな話を聞いてるとすごくうらやましいなと思うんです。自分はそんなに夢中になれない。夢中にはなれるんですけど、だいたい1クールで終わっちゃう(笑)。なかなか続かなくて、ずっと1人の人を思い続ける感覚がよくわからないんですよ。だから、結婚されてる方とか、長いこと付き合ってる方の話とか聞くと不思議でしょうがなくて。
角松 ご結婚されてる方は別としても、女性シンガーの方ってわりと恋愛のタームが短い人が多いと思うんですよね。表現者としては正常な心理なんじゃない?
浜崎 なるほど。そこらへんは男っぽいのかなって自分では思ってたんですけど、逆に女子力だったんですね。すいませんでした(笑)。それなりに恋多き女だとは思いますし、人のことをすぐに好きになれるっていうのはあると思うんですけど、飽きるのも早い(笑)。しかもそこで、曲にしたいと思っちゃうんですよ。全然しんどくない恋愛でも、ちょっとしんどい方向に持っていったりしちゃう。それで泣きながら詞や曲を書くのが好きっていう。
角松 そんな話を聞いてたから、「人を好きになったことねえな」って(笑)。
──そういうことを角松さんから言われることも貴重な経験ですね(笑)。
浜崎 本当ですよ。でも、思い返せば実はいろんな人に言われた言葉なんです、それ。なので角松さんにまた言われて、やっぱりそうかっていう。かつての恋人からも「人の気持ちがわかってない」「君が何を考えているのかわからない」みたいなことをさんざん言われたので。
角松 でもいいんじゃないですか、今の自分のスタンスとしては。だって、本当に人を好きにならなきゃ罪だってことじゃないからね。
浜崎 恋愛が人生においてすごく重要ってことになってるじゃないですか。世の中に恋愛の曲が多いのは、みんなが経験してるので共感を生みやすいからだとも思うんですね。あとはなんか、ムニャッとした気持ちは恋愛の歌にしやすい。
──負の感情は詞にしやすいということもよく聞きます。
浜崎 そう、幸せになっちゃいけないんだなあって思ってます。
──音楽家としては今は幸せな気分でしょうけど。
浜崎 幸せだし、うれしいなと思うし、制作が終わるのは本当にさみしかったです。2年かかって、しかも1回断られて、いつ再開するんですか?って状態で、自分もたくさん傷付いたので(笑)。でも、いざ最後の曲をレコーディングする日はさみしかったですね。これで終わっちゃうんだあって。
角松 思い出はいっぱいあるね。
浜崎 また一緒にやらせてもらえる機会があればって、私の中では思ってます!