今年メジャーデビュー5周年を迎えた八王子Pが、8月30日に新作「Last Dance Refrain」をリリースした。オリジナル作品としては「Desktop Cinderella」以来およそ2年ぶりとなる今作で彼は、クラブミュージックをポップスへと巧みに昇華させてきたこれまでの作風から、よりダンスミュージックの核心に迫るかのようなアプローチを随所に見せている。
本インタビューでは、そんな最新作誕生の背景と収録内容に関する話題を軸に、楽曲提供やDJといった幅広い活動が今作にもたらした影響から、ダンスミュージックやVocaloidシーンに起きていること、そしてリリースの翌日に生誕10周年を迎えた初音ミクへの思いまでを聞いた。一クリエイターとしてだけではなく、自身がプレイヤーでもありプロデューサーとしてもシーンに相対し続ける鬼才・八王子Pの核心とは。
取材・文 / 風間大洋 撮影 / 塚原孝顕
- 八王子P 「Last Dance Refrain 」
- 2017年8月30日発売 / TOY'S FACTORY
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初回限定盤
[CD+DVD]
2500円 / TFCC-86597 -
通常盤
[CD]
1800円 / TFCC-86598
- CD収録曲
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- Last Dance feat. 初音ミク / 八王子P
- 曖昧ライア feat. 初音ミク / 八王子P
- Bitter Majesty feat. 初音ミク / 八王子P
- No Equation feat. 初音ミク / 八王子P
- 名作!傑作!マスターピース!feat. 初音ミク / kz(livetune)×八王子P
- 創造テレパシー feat. 初音ミク / 八王子P
- バタフライ・グラフィティ feat. 初音ミク / 八王子P
- Refrain feat. 初音ミク / 八王子P
<初回限定盤ボーナストラック>
- ヒビカセ×Sweet Devil -Special Mashup-
- Hand in Hand -八王子P Remix-
- 初回限定盤DVD収録内容
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- 曖昧ライア feat. 初音ミク Music Clip
初音ミクが10周年、自分も何かできないかな?
──最新作「Last Dance Refrain」は、メジャーデビューから5周年という節目でのリリースとなりましたね。
僕がメジャーデビュー5周年と言うよりも、8月31日に初音ミクが10周年を迎えるにあたって、自分も何かできないかな?という思いのほうが強かったんですよね。そこへ向けて少しでも盛り上げたくて、そのためにどんなことをしたいかを考えたときに、1つの答えがアルバム制作でした。
──何しろ今作は全曲ミクですからね。
初めてそうなりました。いつもはいろんなVocaloidを使うんですけど、今回はアルバムじゃないし、10周年というタイミングでもあったので、ミクで統一しようかなと思って。
──アルバムというリリース形態をとらなかったのは何故だったんですか。
1曲1曲の密度を上げたいなと思ったんです。あとは単純に、自分の名義に“八”がついているから8曲入りならキリがいいだろう、と(笑)。アルバムじゃないのであれば、8曲ということは最初に決めていました。
──フルアルバム制作とは違いがありましたか?
正直、どっちも大変でしたけど、でも自分は大きなテーマをまとめること……例えば、アーティストさんによってはアルバム1枚を作るにあたってコンセプトやストーリーに沿って作っていく方もいますけど、僕はそこまでの規模感で考えるのが苦手で。やっぱり1曲1曲のサイズで考えるほうが好きだし、しっくりくるんです。フルアルバムよりハコが小さくなるし、今作はタイトルにもある“Refrain=繰り返し”ということを念頭に置いて作っていったので、その狙いを反映させる意味では作りやすかったですね。
──大変だった要素としてはどんな部分があったんでしょう。
アルバムを作るとき、どうしてもDJ的な考え方で1曲目から最後までが1つのショーのような感覚で作るので、どちらかというと歌詞の世界観よりもサウンド面のほうを重視して、激しい曲のあとにゆったりめの曲でブレイクを置いたり、次は明るい曲を持ってきて……という感じで組み立てていくことが多くて。フルアルバムの場合はリード曲を中心に楽曲を並べて全体のバランスを取りながら、隙間を埋めていく曲を考えていくんですけど、今回はその隙間が少ない難しさはありました。ただ、自分の中ではフルアルバムに近い感覚ではいますけど。
自分が作っていて楽しい音を優先した
──サウンド面に関して言えば、これまでのサウンドは土台にありながら、キラキラした感じやさわやかさよりもガツンとくるダンスミュージックの肉体性を感じたんです。ある種のエグみみたいな部分も。
おっしゃった通りで、そこは今の自分が聴いている音や作りたいものを素直に反映させたことが大きいです。特に前半の4曲とかには顕著に出ていて、キャッチーさは心がけているんですけど、ちょっとポップスのルールを無視して作ってみようと言うか。とにかく自分が作っていて楽しい音ということを優先して。
──今こういう音で表現したくなったというのは、やはりDJなどの活動からフィードバックされたんでしょうか。
そうですね……あまりこういうことを言っちゃいけないのかもしれないですけど、いわゆるザ・EDMみたいなものに飽きちゃって。世界のEDMアーティストにしても、トラップだったり、トロピカルハウス的なゆったりとしたビートとか、人によっていろんなジャンルに向かっていて、今ちょうど次の方向性を模索している時期ですよね。自分もそういう音を聴いていて「いいな」と思ったし、さらに言っちゃえば四つ打ちとかも、ちょっともう飽きたなっていう気持ちもあって(笑)、4曲目の「No Equation」なんかは四つ打ちのビートが一切入っていない。でも今回はアルバムではないし、いきなり違う方向に振り切れちゃうと今まで聴いてくれた人が取り残されちゃうので、求められている音とのバランスは考えながらでしたけど。
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なんだかんだ歴史は繰り返す