音楽ナタリー Power Push - 八王子P×わかむらP

同僚であり、恩人 シーンを駆け抜けた2人のクロストーク

王子は「同僚」

──最初のオファーに限らず、動画制作については完全にわかむらさんに一任しているんですね。

八王子P そうですね。僕とわかむらさんの関係はもともと二次創作から始まってますから、相手から出てきたものを尊重したいって気持ちが強いんです。だから何か伝えるとしても「イメージカラーはこういうものです」とか「エモさを出したいです」とかその程度で。歌詞の解釈とかもわかむらさんにお任せすることで、逆に僕も楽しんでるところがありますね。一歩間違えばただの丸投げなんですけど(笑)。でもこれはわかむらさんとの信頼関係があるからこそお願いできることなのかなって思っています。

左から八王子P、わかむらP。

わかむらP 信頼関係は確かにあるんですけど、ちゃんと僕の中で線引きはあるんですよ。ニコニコ動画界隈の人たちって、なあなあな関係になっちゃう人もいるのかなって思うんですけど、僕は王子とあんまり個人的なやり取りを密にしすぎないようにしていて。例えば、音源の問い合わせとかはレコード会社の担当さんを挟むようにしています。

八王子P 確かにそうですね。

わかむらP なんだろうな、僕の中で王子は「同僚」って感じなんですよね。いい意味でビジネスライクというか(笑)。

八王子P なるほど。確かに同僚って感じ、わかります。

わかむらP ベタベタしすぎてなくて、同じプロジェクトを一緒に成功させようって気持ちで取り組んでいる同僚ですね。かと言って、仕事だから仕方なくやってるとかでは全然ないんですけど。お互いプロフェッショナルとして付き合ってる関係ですね。

八王子P やっぱり慣れ合いみたいな感じにはなりたくなかったから、今はすごくいい距離感で一緒に仕事ができていると思います。

わかむらP でも本当に、ここまで長い付き合いになるとは思ってなかったよね(笑)。

八王子P MVだけじゃなくて、例えば僕のボカロじゃない案件の映像をわかむらさんが作っているってパターンも多いんですよ。しかもそれをあとから知ることがよくあって。わかむらさんに連絡してみたら「今すごく忙しいんです」って言われて、よく話を聞いてみたら、違う案件で動いていた僕の曲に付ける映像を作っていたりする(笑)。

わかむらP 逆に僕が王子に発注することもあるんですよ。「Find Me」(2014年8月に発売された八王子Pのアルバム「Twinkle World」の収録曲)なんかは、僕が取ってきた仕事の音楽を王子にお願いして作ってもらった曲ですから。

八王子P だからボカロに限らず僕とわかむらさんが一緒に関わってる作品って、意外とたくさんあるんです。

わかむらさんは「恩人」

──先ほどわかむらさんにとって八王子さんは「同僚」に近いという話がありましたが、八王子さんにとってわかむらさんはどういう存在ですか?

八王子P 僕にとってわかむらさんは「恩人」ですね。僕をここまで押し上げてくれた1人が、わかむらさんであることは間違いないですから。ここ4、5年でニコ動界隈の人って消えていく人も多かったんですけど、ここまで長い期間一緒に走り続けてきてくれたわかむらさんにはやっぱり感謝の気持ちでいっぱいですね。

わかむらP 僕を押し上げてくれたのも王子だと思ってるよ。「electric love」とか「Sweet Devil」の動画が伸びてくれたから、僕がMAD以外の動画もやるんだって、知ってもらえたと思うし。ちょうど仕事を辞めたタイミングで縁があって、そこから僕はフリーランスとして活動していくことになるんですけど、王子の仕事がなかったらきっとこんなに長くフリーでやれてないですから(笑)。

僕が作りたい音とリスナーが求める音

──ベストアルバム「Eight -THE BEST OF 八王子P-」についても話を聞かせてください。ベスト盤の収録曲の多くに「-Eight Mix-」と付いていて、ただ曲をまとめただけでなくものすごく手間暇をかけて作られたアルバムだと感じました。

八王子P

八王子P クリエイターとしては過去に作った曲にすごく手を入れたくなるんですよ。曲によっては発表から7年くらい経ってるものもありますから、細かい音の調整をし直している部分は多いですね。でも僕が作りたい音と、リスナーさんが求める音が違うことってよくあると思うんです。ほかのアーティストさんのベスト盤のレビューとかを見てると「当時の音源のほうがよかった」っていう声がたくさんあったりして。なので極力当時の音源と比較しても違和感がないようにっていうのは、心がけながら作業しています。

──自分がやりたいこととファンが求めることをすり合わていく作業は大変ではないですか?

八王子P そうは言っても曲をどうするかの選択はクリエイター側に委ねられているから、そこまで悩む必要はないのかなって思っているんです。例えば音楽のよさを突き詰めて、当時のこの音はもうベストではないから、すべて今の音に差し替えるっていうのも1つの正解だと思うんです。ただ僕はどちらかと言うとリスナーが求めてる形を届けたいって思いを大事にしたかったから、極力当時の音源のイメージを崩さないように気を付けています。

主役はあくまで初音ミク

──ベスト盤には4曲の新曲が収められていて、そのうちの1曲「Blue Star」のMVではわかむらさんが制作を担当しています。

わかむらP このMVも原点回帰というか、初期の頃の発想に戻って作った作品ですね。ベスト盤に収録されるほかの新曲「気まぐれメルシィ」にはアニメっぽい映像が付くって聞いていたので、フックの効いた作品はそっちになるだろうと思って。それなら僕はちょっと王道テイストのものを作ろうというのと、新しい要素として王子の実写映像を入れてみたんです(参照:八王子P、本人実写映像交えた新曲MV公開)。

八王子P この「Blue Star」っていう曲は「MIKU EXPO 2016」のテーマソングとして書き下ろしたものなので、ライブで使われることを前提に作ってるんですよね。さらに「MIKU EXPO 2016」が海外でもツアーをやることが決まっていて、これまで僕が海外でDJをやってきた経験とかも形にしたいなって思いがあって。それで実写映像を使う案を提案させてもらったんです。

わかむらP 王子がカッコいいパフォーマンスを繰り広げている映像を使いつつも、この曲って初音ミクが主役ではあるので、実写が主張しすぎちゃいけないなと思って。だから楽曲が一番盛り上がるところの直前に王子の映像を入れるようにしています。そうすることで主役はミクであることを示しつつ、曲を盛り上げるDJ的な役割の王子の存在感も出るかなと思いまして。

八王子P あくまで初音ミクが主役っていうのは、僕も考えていたので、実写映像の使い方はドンピシャでした。上がってきたときに「これこれ!」と思って。さっきわかむらさんが言っていた「原点回帰」っていうのも合っていて、僕自身、この曲がベスト盤に入るってことを意識して作ってますから、過去の自分に立ち返る作業をしてたんですよね。それを汲み取って映像で表現してくれたっていうのはすごくうれしいです。

八王子P ベストアルバム「Eight -THE BEST OF 八王子P-」/ 2016年6月15日発売 / TOY'S FACTORY
初回限定盤 [CD2枚組+DVD] / 4800円 / TFCC-86559
通常盤 [CD2枚組] / 3300円 / TFCC-86560
iTunes Storeにて配信中!
BLACK STAR盤収録曲
  1. 気まぐれメルシィ feat. 初音ミク
  2. Sweet Devil -Eight Mix- feat. 初音ミク
  3. Baby Maniacs -Eight Mix- feat. 初音ミク
  4. fake doll feat. 初音ミク
  5. Little Scarlet Bad Girl feat. 初音ミク
  6. Carry Me Off feat. 初音ミク
  7. KiLLER LADY -Eight Mix- feat. GUMI
  8. GAME OVER feat. 初音ミク
  9. Heart Chrome feat. 杏音鳥音
  10. Mad Lovers -Eight Mix- feat. 巡音ルカ
  11. Free -Eight Mix- feat. 巡音ルカ
  12. candii -Eight Mix- feat. 初音ミク
  13. REWRITER feat. GUMI
  14. rock -Eight Mix- feat. 初音ミク・巡音ルカ
  15. Distorted Princess -Eight Mix- feat. 初音ミク・巡音ルカ
  16. Dream Creator feat. GUMI
  17. Beautiful Nightmare feat. 巡音ルカ
  18. Queen of the Night feat. 初音ミク・巡音ルカ
WHITE MOON盤収録曲
  1. Blue Star feat. 初音ミク
  2. Weekender Girl feat. 初音ミク
  3. エレクトリック・ラブ -Eight Mix- feat. 初音ミク
  4. デスクトップ・シンデレラ feat. 初音ミク
  5. Twinkle World feat. 初音ミク
  6. HORIZON feat. 初音ミク
  7. シューティングスター feat. 鏡音リン・鏡音レン
  8. Keep Only One Love -Eight Mix- feat. 初音ミク
  9. Tomorrow feat. 初音ミク
  10. TRAP×TRAP feat. 初音ミク
  11. エレクトリック・スター -Eight Mix- feat. GUMI
  12. FUTURE DRIVER feat. 初音ミク
  13. エレクトリック・マジック feat. 鏡音リン・鏡音レン
  14. whiteout -Eight Mix- feat. 初音ミク
  15. フカヨミ feat. 初音ミク
  16. 弱虫ロケット feat. 初音ミク
  17. Yeah! Yeah!! Yeah!!! feat. 初音ミク
  18. Step To Tomorrow feat. 初音ミク・鏡音リン・鏡音レン・巡音ルカ・GUMI
初回限定盤DVD収録内容
  1. 気まぐれメルシィ feat. 初音ミク
  2. Blue Star feat. 初音ミク
  3. Weekender Girl feat. 初音ミク
  4. Sweet Devil feat. 初音ミク
  5. fake doll feat. 初音ミク
  6. Dream Creator feat. GUMI
  7. Carry Me Off feat. 初音ミク
  8. TRAP×TRAP feat. 初音ミク
  9. Little Scarlet Bad Girl feat. 初音ミク
  10. Baby Maniacs feat. 初音ミク
  11. GAME OVER feat. 初音ミク
  12. デスクトップ・シンデレラ feat. 初音ミク
  13. HORIZON feat. 初音ミク
  14. Twinkle World feat. 初音ミク
  15. エレクトリック・ラブ feat. 初音ミク

八王子Pベストアルバム「Eight -THE BEST OF 八王子P」Release Party

2016年6月19日(日)
東京都 CIRCUS Tokyo
八王子P(ハチオウジピー)

VOCALOIDを使用して音源制作をするボカロPとして活躍する男性アーティスト。クールな四つ打ちトラックにキャッチーなメロディを乗せたダンスチューンを得意とする。2009年12月、ニコニコ動画で公開した「エレクトリック・ラブ」が注目を集め有名ボカロPの仲間入りを果たす。2011年11月に台湾でリリースしたアルバム「Sweet Devil」は現地の週間売上チャートで4位に入る健闘ぶりを見せた。2012年2月、アルバム「electric love」でメジャーデビュー。2013年にはTOY'S FACTORYからアルバム「ViViD WAVE」、2014年には「Twinkle World」、2015年9月に「Desktop Cinderella」を発表した。また2016年6月には八王子Pの活動開始8周年を記念して、ベストアルバム「Eight -THE BEST OF 八王子P-」がリリースされた。

わかむらP(ワカムラピー)

アートディレクター、デザイナー。2000年代後半にニコニコ動画に投稿したMAD動画が話題を呼び、人気の投稿者に。2010年9月に3DCGムービー製作ツール「MikuMikuDance」を使用した八王子P「エレクトリック・ラブ」のミュージックビデオをニコニコ動画で公開。以後、八王子Pが手がける楽曲のMVを数多く手がけている。