初の作詞はスッと書くことができた
──そして今作で初めてHACHIさんの作品に参加したのが、未来古代楽団のお二人。もともと未来古代楽団の楽曲を好きで聴いていたんですよね。
はい。私はコーラスワークが好きなのですが、未来古代楽団さんは民族音楽調のコーラスがきれいに重なる楽曲が多くて。なおかつ、私は世界観の深い楽曲も好きなので、一方的にずっと聴かせてもらっていました。レコーディングでもコーラスを録るのが大好きなので、未来古代楽団さんに提供いただいた楽曲を歌っているときはすごく楽しかったです。
──今回は、壮大なスケール感の「万有引力」とタイトな四つ打ちビートと異国情緒が合わさった「檻」、対照的な曲調ですが惹き合うような雰囲気のある2曲を提供しています。
実はこの2曲には、とあるギミックを仕込んでいるんです。これはぜひ自然に気付いてもらえるとうれしいのですが、どこかでお話ししないと気付かれない恐れがあるので、ギミックがあることだけはここで伝えておきます(笑)。今回はギミックや遊びのある楽曲が多いんですよ。例えば「スウィングバイ」は「速度を上げていく。」という歌詞のところでオケのテンポがどんどん速くなりますし。
──「スウィングバイ」を制作したgaze//he's meさんは、昨年リリースされたKMNZさん、VESPERBELLさん、HACHIさんというバーチャルシンガー3組によるコンピレーションEP「HARMONICS」で「バスタイムプラネタリウム」のリミックスを手がけた方ですよね。
そのリミックスがきっかけでgazeさんの楽曲に触れるようになったのですが、宇宙感があるアンビエンスのサウンドが得意な方なので、今回のアルバムのコンセプトにぴったりだと思ってお願いしました。
──「スウィングバイ」はアルバムの幕開けにふさわしい、開放感と疾走感のあるナンバーです。
「スウィングバイ」というタイトルも宇宙にかけたもので、天体の重力を利用して軌道を変更したり速度を上げたりすることを指す言葉なのですが、それを私とBEESが引き寄せ合って速度を上げていくことになぞらえた、素敵なテーマの曲なんです。しかも最後の「La La La」と歌うシンガロングのパートには、私が所属している事務所のライブユニオンのメンバーにも歌ってもらっていて。みんなの応援のおかげでメジャーデビューすることができたし、これから先も一緒に力を出し合って次を目指して進んで行くぞ!というイメージの前向きな歌になっています。
──やはりライブユニオンで活動をともにするバーチャルシンガーの方たちは、HACHIさんにとって大切な存在なんですね。
本当に大好きな子たちなので。メジャーから最初に配信リリースした「Dusk」のミュージックビデオにも参加してもらっていますし、何かの始まりのタイミングにはいつもみんなの力を借りている気がします。
──gaze//he's meさんはそのほかにも、アルバムのオーバーチュア的なインスト曲「line, sphere, dot.」と結びのナンバー「レコードのように」を提供されています。中でも「レコードのように」では、HACHIさんが初めて作詞に挑戦しています。スッと歌詞を書くことができたそうですね。
すごくスムーズに書くことができて、トラックをいただいたその日に歌詞を提出したらびっくりされました(笑)。この曲はシンプルにBEESへの感謝の気持ちと、「いつもそばにいるからね」ということを伝える曲です。私はリスナーに寄り添って活動してきたのですが、その“寄り添い”は感謝のうえに成り立っているものなので、「いつもそばにいてくれてありがとう。だから私もそばにいることを忘れないし、いつでもあなたのそばで歌うからね」ということを伝えたくて。1対1、私からあなたに対する感謝の気持ち。もちろんいつも思っていることなのですが、それを言語化するとなるとけっこう恥ずかしかったです(笑)。
──でも、常に思っていることだからこそスッと書けたんでしょうね。レコーディングのときも気持ちを込めて歌えたのではないでしょうか。
アルバムの中でも一番録りやすくて、スルッと歌うことができました。ただ、Recのときに、今までは楽曲を作ってくださったクリエイターさんのディレクション通りに歌うことが多かったのですが、この曲は自分で作詞したのでかなり自我が出てしまって(笑)。これまでゼロからイチを自分で作り上げることがなかったので、それは初めての感覚でした。自分の歌いやすい歌詞の書き方や発声しやすい言葉というのもわかってきて、新たな視点で自分の歌と向き合えたと思います。
──ボーカル的にも距離の近さを感じさせる、特定の誰かに向けて届けている歌声のように感じました。
そうですね。メジャーデビューするにあたって、たぶん、リスナーの中には「今までの距離よりも離れていってしまうんじゃないか」と不安を抱いている人もいると思うんです。でも、私はいつもそばにいるから安心してね、という気持ちも込めています。
きっとHACHIの何かがどうにかなってしまう
──ほかにもPowerlessさん提供の重厚なパワーバラード「VESTIGIA」、ロックバンドのクレナズムが楽曲提供および演奏を担ったエモーショナルなミディアムナンバー「fragment」が収録されていて、HACHIさんの情緒あふれる歌声を存分に堪能できるアルバムになりました。改めて今作のテーマの1つ“届ける”になぞらえて、まだ見ぬどんな人にこの作品が届いてほしいかをお聞かせください。
私はバーチャルシンガーとして活動しているので、まだバーチャルの文化に馴染みのない人もそうですし、そういう界隈や垣根に関係なく、いろんな人に純粋に届いてほしいなと思っています。普段の配信では海外のいろんな地域の方も観てくれているので、言葉の壁もどんどん越えていけるとうれしいですね。
──それこそアルバムのリリース後には、台北公演を含むZeppツアー「HACHI Zepp Live Tour 2024 "for ASTRA."」の開催も控えています。どんなライブになりそうでしょうか?
前回のワンマンライブを経て、HACHIチームやライブ制作チームのみんながノリノリになってしまって、映像や演出がすごくパワーアップしているんですよ。過去のライブを軽く超えるような演出になっているので、逆に私がそれに負けないように必死になっているところです(笑)。ここだけの話ですが、きっとHACHIの何かがどうにかなってしまうので、期待していただけたらと思います!(笑)
──最後に、このインタビュー記事もレコードのように記録としてネット上に残り続けると思いますので、「将来の自分」に向けて届けたいメッセージをいただけますでしょうか。
過去の自分に向けてのメッセージは何度か考えたことありますけど、将来の自分かあ……「人に感謝することを忘れるなよ」くらいしか思いつかないです(笑)。あとはバーチャルの姿で日本武道館のステージに立つのが、私がずっと言い続けている夢なので、「がんばって武道館に立ってね」とかかなあ。
──ちなみに武道館に行ったことは?
実はないんです。アーティストさんのライブ映像ではもちろん見たことはあるんですけど。
──初めての武道館が自分のライブというのもいいですね。
うわっ、それ、カッコいいですね! そうなれるようにこれからも一歩ずつがんばります!
公演情報
HACHI 2024 Zepp Live Tour「for ASTRA.」
- 2024年12月14日(土)東京都 Zepp Shinjuku(TOKYO)
- 2025年1月10日(金)台北 Zepp New Taipei
プロフィール
HACHI(ハチ)
2019年に活動をスタートさせたバーチャルシンガー。透明感のある“シルキーボイス”とエモーショナルな表現力が特徴。海外公演を含むツアーや有観客 / オンラインライブを開催しつつ、YouTubeで週2回の定期配信を実施して歌を届け、親近感のある語り口のトークも含めてリスナーの心に寄り添い続けている。2024年11月にアルバム「for ASTRA.」でキングレコードよりメジャーデビューを果たした。