吉祥寺を拠点に活動する4人組バンド・グソクムズのメジャー1stアルバム「ハロー!グッドモーニング!」がリリースされた。
2019年のシングル「泡沫の音」リリースを機に、懐かしくも洗練された歌声とサウンドでにわかに注目を浴び始めたグソクムズ。その後もシングル「すべからく通り雨」やアルバム「グソクムズ」といった作品で支持を集めてきた彼らの音楽は、しばし「ネオ風街」や「シティフォーク」というキーワードとともに語られてきた。しかし、そんな中リリースされたメジャーデビュー作「ハロー!グッドモーニング!」は、それらのワードに収まりきらない、実に多彩でジャンルレスなアルバムとなっている。そんな「ハロー!グッドモーニング!」はいかにして完成したのか。音楽ナタリー初登場となる本特集では、メンバー全員がソングライティングを手がけるバンドの成り立ちを紐解きながら、アルバム制作の裏側を聞いた。取材場所は雨がそぼ降る吉祥寺。「すべからく通り雨」よろしく屋根の下に逃げ込んだ彼らの写真とともに、4人の言葉をじっくりと味わってほしい。
また特集の後半では、20th Century、Negicco・Kaede、鳥羽周作など、バンドにゆかりのある著名人9組からのコメントを掲載。「グソクムズの魅力とは?」という素朴な問いに、それぞれ回答してもらった。
取材・文 / 石井佑来撮影 / 小財美香子
スタジオ代わりに使っていた井の頭公園
──今日はバンドの活動拠点でもある吉祥寺に集まっていただきました。グソクムズは、10代の頃にたなかさんと加藤さんが組んでいたフォークユニットをもとに結成されたんですよね。その頃から吉祥寺にはよく来ていたんでしょうか。
加藤祐樹(G) 最初の頃は小金井で遊んでたよね。
たなかえいぞを(Vo, G) そうだね。最初は小金井公園というところで遊んでたけど、駅からすごく遠くて。このへんで駅の近くに公園がある場所と言ったら吉祥寺ぐらいしかないから、それで吉祥寺に集まるようになった感じかな。10代の頃はお金もなかったから、井の頭公園で遊んだり楽器を弾いたりしていて。
──スタジオ代わりに公園を使っていたんですね。その頃のお互いの印象はいかがでしたか?
たなか 仲よくなり始めてからすぐバンドになったので、友達としての印象みたいなものがあまりないんですよね。僕が高校を卒業して、加藤くんが高校3年生になった頃からよく遊ぶようになったけど、そこから1カ月ぐらいでグソクムズができたので。
加藤 高1の頃から知り合いではあったけどね。なんなら堀部さんのほうが昔から知ってるし。
──それはどういったつながりで?
堀部祐介(B) もともと加藤くんは高校の後輩だったんですけど、その高校にえいぞをの中学時代の友達がいて。その友達を通して2人と知り合いました。で、2015年ぐらいからグソクムズをサポートするようになり、2016年にメンバーとして加入しました。
──なるほど。2018年に加入した中島さんはどういった経緯でお三方と知り合ったんですか?
たなか なかじさんは僕らが使ってたスタジオで店員として働いてて。それが知り合ったきっかけですね。
中島雄士(Dr) 当時グソクムズはスタジオ内で評判がよかったんですよ。スタジオで賞を獲ったりしてて。
たなか うわ! なんかあったね、それ。
堀部 グッドミュージック大賞ね(笑)。
中島 そうそう、グッドミュージック大賞(笑)。スタジオ利用者からデモ音源を募集して、そこからスタジオのスタッフがいいと思うものを選ぶという企画で。もともと店長が吉祥寺で働いていたこともあって、グソクムズのことは話に聞いていたんですよ。だから賞をもらってるのを見て「これがその人たちか」と思いましたね。まさか自分が加入することになるとは思ってなかったけど。
──その中島さんの加入から6年が経ち、メジャーデビューというところまでたどり着いたわけですが、6年の間に「このバンドいけるな」という手応えを感じる出来事はありましたか?
たなか 僕は明確にあります。2019年12月に三鷹の小さな会場でライブをやったときに埼玉や神奈川、なんなら山梨からわざわざ僕らを観に来てくれた人たちがいて。それまでは近所に住んでる知り合いとかしか呼べなかったから、そこで初めて「知らない人が自分たちの曲を聴いてくれてるんだ」と思えたんですよね。
──2019年というとシングル「泡沫の音」をリリースして、グソクムズの存在が注目され始めた頃ですよね。
たなか そうですね。
加藤 真面目にレコーディングし始めた頃ってことだよね。それまでは適当に集まって、ライブのためにスタジオに入って……みたいな感じで、意味もなく活動していた。それが真面目にレコーディングし始めたらゴッチさん(ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文)に届いたり、「POPEYE」に載ったりして。
たなか そうそう。それが自分の中ではすごく快感だったし、やっと手応えを感じることができたんだよね。
──「真面目にレコーディングしよう」というスイッチが入ったのは、何がきっかけだったんですか?
たなか もともとはMTRを使って録音していたけど、それを見て中島さんが「1回ちゃんと録ってもらったほうがいいんじゃない?」と言ってきたんですよ。「それで満足しなかったら、また自分たちでやればいいし、1回ちゃんとお金を払ってみなよ」って。
加藤 エンジニアもなかじさんがアテンドしてくれたしね。
──サポートメンバーでありながらバンドの中枢に入っていったわけですね。
中島 もともと口出したがりなんですよ。「もっとこうしたらいいのに」と思うところがあったら、すぐに言いたくなっちゃう。当時はサポートメンバーだったから自分自身はレコーディング代がかからないので、それをいいことにちょっとずつそそのかして。で、いい感じの波に乗ったところで正式に加入する(笑)。
加藤 P-VINE(グソクムズが以前所属していたレーベル)に音源を送ったのもなかじさんだもんね。
たなか え、そうなの?
中島 そうだよ。音源を受け付けてる事務所とかレーベルをリストにして、当時手伝ってくれてたスタッフに送ってもらったの。そしたら「P-VINEは年齢制限があるから送れない」と言われたんだけど、「それでも送ったほうがいい」と言って。そしたら、なんやかんや拾ってもらえました(笑)。
押さえるところは押さえつつ、好きにやりたいときは好きにやる
──グソクムズの最大の武器であり特徴が、4人それぞれが作詞作曲できるところですよね。それぞれのソングライティングに異なる持ち味があると思うのですが、各メンバーがほかの人の楽曲にどのような印象を持っているか聞かせてもらえますか? まず、たなかさんの楽曲はいかがでしょう。
堀部 えいぞをの楽曲はメロディがとてもきれいだと思います。スコーンと抜けるときのタイミングだったり音だったりがすごく気持ちいい。「自分が歌って心地いい曲を書いてるんだろうな」と思います。
中島 確かにそうかもね。あとは「基本的に感覚で作ってるんだろうな」とも思う。子供が粘土で遊ぶ感じに近いというか。「ここは広げる! ここは厚くする! ここでキュッとして!」みたいな、そういう大胆さがある(笑)。
加藤 基本的にふわっとしてるよね。だからほかのメンバーにコードとかをいじられちゃう。
たなか それはいじられてもいいと思ってるからね。一応僕も曲は作ってますけど、形を整えるのはメンバーなので。みんなでいいものを作れればそれでいいかなと思ってます。
加藤 でも今回のアルバムの曲は「グッドモーニング」といい「マイガール」といい、わりとたなかのデモ通りだよね。「ユメのはじまり。」はコードとかはめちゃくちゃ直したけど。
──「ユメのはじまり。」は、サビの伸びやかなメロディだったりコーラスの入れ方だったり、今回のアルバムで一番“みんながイメージするグソクムズらしさ”がある曲だと思いました。
堀部 そういう、“僕らの中の王道”的な曲を書くのはえいぞをが一番うまいと思います。
──たなかさんは「王道な曲を書くぞ」と意識して作ってるんですか?
たなか 意識してますね。ちゃんとこういう曲も書いておかないと、好きにやらせてもらえないかなと思ってて。あんまり自由にやりすぎると「お前、自分がやりたい曲ばっか作りやがって」とメンバーにもスタッフにもファンにも思われちゃうじゃないですか(笑)。押さえるところは押さえつつ、好きにやりたいときは好きにやる。それが僕のモットーです。
──では堀部さんの曲については、皆さんどのようなイメージがありますか? 今回のアルバムで言うと「シグナル」「こんな夜には」「君の隣」の3曲が堀部さん作です。
加藤 堀部さんは先生ですね。堀部さんをお手本にして曲を作ってます。堀部さんの曲にギターを入れるのって、本当に勉強になるんですよ。「このコード進行すごいなあ。おしゃれだなあ」みたいな発見がたくさんある。
堀部 ありがとうございます(笑)。
たなか 堀部はきっといろんな曲をカバーして学んできたんでしょうね。僕はそういうことをまったくしてこなかったから、それもあってすごく勉強になります。堀部の曲で「こういうコードの形があるんだ」って知るみたいな。そういうことがめちゃくちゃ多いんですよ。
中島 ちょっとずつ難しくしてるんでしょ?
堀部 ちょっとずつね(笑)。
──授業のカリキュラムみたいに(笑)。
たなか ギターのストロークも堀部を意識して弾くことがありますし、レコーディングでは堀部に弾いてもらって、それを聴きながらライブまでに練習するということも多くて。
加藤 あと、おしゃれなコードを使えるのに「こんな夜には」みたいなシンプルな曲を作ってくるあたりも素晴らしいんですよね。
堀部 そういう曲を書くとみんな喜ぶから。「簡単そうな曲作ってきた!」って。
中島 「テンションコードないじゃん!」ってね(笑)。
堀部 でもシンプルなコードでメロディが強い曲を作るのってけっこう難しくて。テンションコードとかおしゃれなコードをいっぱい使うと、なんとなくそれっぽい雰囲気は出るけど、逆にそれを使わないとなると、ごまかしが利かなくなる。だからシンプルな曲って、弾くのは簡単でも、作るのは意外と繊細な作業が必要だったりするんです。
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理論派の加藤、器用な中島