「音楽は敵だ!」
──ボカロ曲の投稿ペースなどを振り返ってみると、楽曲制作のスピードが速い印象がありますが、曲の題材はすんなりと生まれてくるタイプですか?
曲の種はたくさん生まれますが、種から芽を出すのがすごく大変なタイプだと自覚しています。曲の芽が出始めると、そこから完成までは早いと思います。3日間で曲が完成するときもありますし、ちゃんと芽が出てれば1週間もあればだいたいできるかなあと思います。
──曲の種はどういうところから生まれるんでしょうか?
生きているだけで自然と曲の種が生まれるんです。特に音楽をやっていない期間がすごく大事で、前回のアルバム(2019年11月発売の「Love & Music」)を作ったあと、しばらく音楽から離れていたんですが、その間に考えていたこととか、人と話して学んだことを貯め込んで曲作りの種にしています。
──音楽から離れたときはどんなことをするんですか?
なんだろうな。ゲームしたり、動画をぼーっと見たり。本当にそれだけで終わっちゃう日もあるくらいなんですが、ぼーっとしている中でいろんなことを考え込んじゃうんですよね。ただ考えているだけなんですけど、考えすぎて落ち込んで夜眠れなくなってしまうこともあって。アルバム制作が煮詰まってくると「音楽は敵だ!」くらいに思い始めて、しばらく曲作りはやらないように決めているんですが、考えごとをしていると曲にしたい種がどんどん増えていって、気が付くと音楽を作り始めていることが多いですね。
──Guianoさんにとって音楽は切っても切り離せない関係なんだと思います。
腐れ縁ですね(笑)。顔も見たくない!と思った翌日に、こっちから仲直りを持ちかけてる、みたいな。
コンセプトないから適当に「A」
──アルバムのタイトル「A」にはどういう意味が込められているんでしょうか?
「A」というタイトル、文字に特に意味はないんです。前作の「Love & Music」はコンセプトがハッキリしていたんですが、コンセプトがあると曲を選ばなきゃいけないし、アルバム全体のトーンを合わせないといけないんですよね。曲の振れ幅にも影響するし、本当はこういう曲を書きたかったのにコンセプトに合わないからボツ、みたいなこともあった。その反省を生かして、今回のアルバムは「コンセプトがない」というコンセプトでアルバムを作り始めたんです。思う存分曲を作って、自分がとにかく「いい」と思った曲を詰め込むアルバムが作りたくて。タイトルは「コンセプトも何もないから適当に『A』でいいか」ぐらいの感じで付けています。
──前作がボカロ曲を集めたアルバムだったのに対し、今作はご自身がボーカルを担当した曲で構成されています。ボカロが歌う前提で曲を作るときと、自分が歌う曲を作るときで何か勝手の違いは感じましたか?
一番大きく感じたのは、ボカロの発音と人間のボーカルの発音の違いですね。例えばアルバムの1曲目「晴れるなら」のサビは「い」の発音から始まるんですが、「い」の高音はものすごく発声しにくいんです。ボカロだと発声を理由に言葉を変えるようなことは考えないんですが、自分で歌うとなると歌詞を根本的に考え直すかどうかけっこう悩みました。自分で歌うことが影響して曲の完成形が変わっている部分はけっこうあると思います。
──歌詞を書くときの視点は変わりましたか?
あまり意識はしていなかったけど、ボカロだから書いていたことと、自分で歌うから書いていることにちょっとした違いがあるような気はしています。肉声だからこそ出るニュアンスもあるし、ボカロに歌ってもらうからこそ冷たさを表現できることもある。どっちがいいとかではなくて、ボカロだとこれを捨てなきゃいけないけどこっちを拾える、みたいな。だからボカロを作っていた時期から進化した、みたいな意識はないんです。僕は今、この表現に惹かれているから自分で歌っているだけで、次のステップみたいに捉えてほしくはないなって。
意味のない曲
──「Love & Music」の発売時に公開されたGuianoさんとカンザキイオリさんの対談の中で、Guianoさんが「ポップを極めたい」とおっしゃっていたんですよね。今作の収録曲の中に「ポップソング」というストレートなタイトルの曲があって、ポップへの意識の強さを感じさせられます。
「ポップ」に関する思いは当時から変わってなくて、自分の中のポップをちゃんと追求したうえで音楽を作りたいと常々考えているんですが、「ポップソング」はちょっと歪んでいて、どちらかと言うと自分の中のポップというより、世間一般で俗に言われているポップを表現したくて書いた曲ですね。
──「この歌に意味なんてひとつもない」という皮肉めいた歌詞は、世間にあふれている“ポップ”に向けて書かれた言葉だということですか?
そうですね。みんな物事に意味を求めてすぎていないかな、と思っていて。生きているのにも意味がある、とか。曲の意味もそうですよね。作り手が意図した以上にリスナーが考察をし始めたりして。なので「ポップソング」ではなるべく意味のない曲を作ろうと思っていたんですが、「意味なんてひとつもない」と言い切ると逆に「意味がない」という意味が生まれちゃったので、僕の目論見はうまくいかなかったかもしれません(笑)。ただ、サビでは意味のなさを突き詰めた歌詞が書けたかなと思います。
──「君のことを思うだけなんだ」や「ノスタルジーに街が光る」といった部分ですね。
自分なりのイメージで、“よくあるポップの表現”を練習してみたくて。ちょっと皮肉っぽくなっちゃいましたけど、僕の中では練習であり、挑戦でもあります。
──アルバムを通して聴いてみて、基本的にギターで作曲をしているイメージがありましたが、「ポップソング」と「夜考」の2曲はピアノの音を中心としたちょっと毛色の違う曲として並んで収録されているのが印象的でした。
ギターのほうが弾き慣れているので、ギターで作曲することが多いんですが、単純にピアノの音で曲を構成したくなるときがあって。例えば「ポップソング」はピアノのバッキングから作っていて、バッキングができたときにブラスバンドを入れようと決めて曲に肉付けをしていった感じです。
──「ポップソング」にはブラスの音が、「夜考」には木管楽器の音が入っていて、編曲の引き出しも多彩なイメージがあります。
いろんな音楽をインプットしているからか、メロディを考えるとその音に合うサウンドが頭の中に湧いてくるんです。僕が弾けない楽器でもDTMだったら再現できるし、もし自分が作れない音にぶつかったとしても、1週間ぐらいその音だけに集中して作り込むようにしてなんとか形にするようにしています。
型破りな花譜のボーカル
──「アイスクリーム」にはバーチャルシンガーの花譜さんが参加しています。タイトルにあるアイスクリームは花譜さんの好物として知られるものでしたから、Guianoさんが花譜さんに向けて用意した曲ですよね?
そうですね。ただ一部ちょっと違って、この曲は4月にリリースされるCeVIO(音声合成ソフトウェア)の「可不」に歌わせるために書いた曲なんです。でも曲を作りながら「絶対花譜ちゃんにも歌ってもらおう」と決めていたので、今回アルバムでその思いが成就してうれしいですね。
──YouTubeにはすでに可不による「アイスクリーム」が公開されていますので、本人歌唱のバージョンと聴き比べるのも面白いですね。
CeVIO可不で作っているときから「花譜ちゃんだったらこう歌うだろうな」とイメージしていたんですが、実際に本人に歌ってもらうと想定と全然違うんですよね。花譜ちゃんの歌い方ってやっぱり型破りで、いい意味で思ったようにはいかない。CeVIO可不と聴き比べると、やっぱり花譜ちゃんが歌ったバージョンはエモーショナルで、改めて彼女のボーカリストとしての魅力に気付かされました。同じ事務所に所属していますけど、花譜ちゃんとは会ったこともないし、話したこともないんですよ。
──ということは、ボーカルのディレクションなどすべてお任せで?
そうですね。コロナ禍の制作でもあったので、完全に花譜ちゃんにお任せで歌ってもらいました。僕、人任せにするほうが性に合っているというか、そのほうが満足できるタイプなんですよ。ボカロ曲を投稿していた頃は動画用のイラストをいろんな絵師さんに描いてもらう機会があったんですが、そのときも極力何も言わないようにしていました。曲のイメージは最低限伝えていたんですが、例えば色とか風景のイメージみたいなものは伝えず、その方の創作にすべてお任せするほうが面白くて。なんでも1人で作りがちな性格なので、そうやって人と作る部分は任せることで楽しみたいんです。
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コンビを組むなら理芽ちゃんを指名したい