音楽ナタリー Power Push - G.RINA
しあわせになりたいと思うだけでいい、この景色の中で
役者的存在感のある人に参加してもらった
──「夏のめまい feat. 田我流」は問題作ですね! 田我流さんが遅い四つ打ちでラップするのは斬新でした。
その意外性は狙ったところでした(笑)。鎮座DOPENESSくんも田我流くんもすごくヒップホップ的な存在なんですけど、話してみるとハウスとかいろんな音楽を聴いてるんですよ。そういう多面性がある人に魅かれるところがあって。だったら私の作品では、その人の作品ではやれないことをやってもらおう、と。
──「ドキ まさかのノーブラ」「彼女はまるでアガサクリスティー」といった田我流さんのリリックには驚かされました(笑)。
もうさすがですよ(笑)。「こう書いてほしい」みたいなお願いは特にしてなくて、自分が作ったパートが入った状態でトラックを投げたら、このラップが乗って返ってきました。若干の調整はしましたけど、基本的にはほぼ変わってないです。
──前作に比べると今回のフィーチャリング曲は違和感を楽しませるような感じがしました。
前回フィーチャーしたPUNPEEくん、tofubeatsくん、やけのはらくん、LUVRAWくんは、みんな自分で曲を作ってプロデュースできる人たちだったんですよ。だから制作のやり取りをする中で、何度も音が往復したし、一緒に作り上げた感じがあって。でも今回は歌声が魅力的だったり、役者的存在感のある人だったり。そういう人に自分の世界観の中で演じてもらいたかったんです。単純に私が聴いてみたかった感じで。結果的に皆さんすごく持ち前のキャラクターを出してくれましたよね。
──そういう意味では「All Around The World」の土岐麻子さんも面白いですね。
土岐さんはご自身の作品ではちょっとシニカルな感じの歌詞を書かれたりするんです。それもすごく魅力的なんですが、お会いして話したときに受けたインスピレーションから、土岐さんの中にあるスウィートな部分を出してもらいたいなと思って「All Around The World」を書きました。スウィートといってもただただ甘いんじゃなくて、自立した大人の女性の、相手の手を引いて旅に出るような頼もしい感じもあるんですよ。
やってみると違う景色が見えてくる
──アルバムタイトルの「LIVE & LEARN」という言葉は、「しあわせの準備」の歌詞に集約されているように思いました。
私はプレイヤーやDJとして現場にいるので、若い女の子の悩みを聞くこともあったりして。そういうときに感じてきたこと……業界に限らずですが、ちょっとだけ長く生きてる人間として、かつては言えなかったことを歌にしてみようかなと。
──ちなみにどんなことに悩んでいるんですか?
それは人それぞれですよ。でも20~30代の女性は自分がどうありたいか、どう生きたいかということとは別に社会的に求められてることに過敏なりがちだったり。
──社会的に求められてること、とは?
結婚、出産、綺麗にしてなきゃいけない、いろんなことができてなきゃいけない、みたいな。そういうことの中で、人と比較したりして悩んでしまったり。女性に限ったことではないでしょうけど。そういう悩みは「何をやったら上がり」とかではなくて、次々出てくるんですよ(笑)。だけどね、相談される側には相談してくれる人の魅力的なところがよーく見えるように、そもそも幸せって気付くか、気が付かないか、ってことがたくさんある。もっと肯定していいんですよ。それだけで、ずっと前向きになれるんじゃないかなって。
──それこそがアルバムタイトルの「LIVE & LEARN」につながっていくんですね。
はい。私は前回も今回も「自分がCDという形でアルバムを作るのは最後かな」と思ってました。完成すると「出し切った……!」と思いましたし。だけど少しするとその次の景色が見えてくる。そういうことも「LIVE & LEARN」だなって思います。何かを続けているうちに、この景色もどんどん変わってゆくんですよ。
収録曲
- 想像未来 feat. 鎮座DOPENESS
- close2u
- All Around The World feat. 土岐麻子
- そばにおいで
- フライデーラヴ feat. yoshiro(underslowjams)
- 街のレクイエム
- memories
- 夏のめまい feat. 田我流
- ヴァンパイア ハンティング feat. Kick A Show
- しあわせの準備
G.RINA(ジーリナ)
東京出身のシンガーソングライター、ビートメイカー、DJ。2003年に作詞作曲、演奏、プログラミングを自ら手がけた1stアルバム「サーカスの娘 -A Girl From A Circus-」でデビュー。これまで5枚のオリジナルアルバムをセルフプロデュースでリリースしているほか、土岐麻子、南波志帆、坂本冬美らさまざまなアーティストへ歌詞や楽曲を提供。客演としても参加している。およそ5年間の活動休止を経て2015年に「Lotta Love」、そして2017年に「LIVE & LEARN」と、縁のある歌手やラッパーをゲストに迎えたアルバムを発表。またG.RINA & Midnight Sun名義では、ダンサーを交えたライブパフォーマンスを展開している。