音楽ナタリー Power Push - G.RINA
しあわせになりたいと思うだけでいい、この景色の中で
参考にできるものがなかった
──1曲目の「想像未来 feat. 鎮座DOPENESS」はなんと表現したらいいんでしょう? いろんなものが折衷されてますね。
この曲はアルバムの中でも一番実験的な曲かもしれない(笑)。もともとトラックだけあったんだけど、すごく難しくてどうやればいいか迷っていたんです。鎮座DOPENESSくんとはいつか一緒にやりたいと思っていたんですが、彼にこのトラックを聴いてもらったら「ぜひこれでやりたい」と言ってくれて。
──どんなところが難しかったんですか?
今回のアルバムは「Lotta Love」の延長線上のサウンドではあるんですが、そっくり同じことはしたくなかったんですね。この曲では、あえて黒っぽくない80'sサウンドを、ヒップホップ的なアプローチから取り入れてみようと思って。「こういう音色はあまりサンプリングされないなあ」というようなエレキギターのフレーズを使いました。
──確かにあのエレキギターのループは独特ですね。
既発曲からのサンプリングではなく自分の演奏をループさせたものなんですけどね。そして組み合わせるビートの鳴らし方やパターン、歌の乗せ方、いろんな試行錯誤を繰り返しました。
──この曲の「望めば想像どおりになってゆくぞ」という歌詞と、10曲目「しあわせの準備」の「しあわせになるためには しあわせになりたいと思うだけでいいのよ」という歌詞は通じてると思いました。
そうですね。
──でもこういうことってなかなか言葉にならないと思うんです。すごく微妙な感覚というか。
はい……その歌詞の中で私が一番伝えたいことは、“この景色の中で”ということなんですよ。現状の欠けている部分ばかりを見ていないで、自分がすでに持っている大切なものに気が付いてねって。
愛だけじゃなく性の部分まで突っ込んだラブソング
──歌詞を書くうえで重視したことはなんですか?
はっきりと感情を特定しないというか。聴く人の想像の余地があるように書きたいとは思っています。サウンドとしても聴き流せるけど、ワンフレーズだけ「おやっ?」って引っかかるような、ときどきドキっとするような表現ができたりするようなバランス。ポジティブなことを伝えたいときでも、例えば人を励ます方法はいろいろありますよね? 直球すぎる表現よりも、なるべくそれとなく伝わればいいなって。
──わかりやすいものが求められる昨今の世の中では、どの塩梅まで「それとなく」するかは難しいですよね。
それはずっと試行錯誤してます。でも私もけっこう長く活動しているから、歌詞も自分の年齢に合った大人な内容にしたいと思ったんです。そこになんのためらいもなかった。大人になってくると感じ方もいろいろある。だから「こう書いたら届かないんじゃないか」ではなく、こういう伝え方でも届く人がどこかにいるって信じて書きました。
──「フライデーラヴ feat. yoshiro(underslowjams)」はアダルトな歌ですよね。すれ違いまくってる男女模様。でも自分はずいぶん前に結婚して色恋沙汰とは縁遠い生活をしているので、実感なさすぎてイマイチピンと来ませんでした。
いやいや、わからないじゃないですか? これからそういうこともあるかもしれないですよ(笑)。この曲は「結婚したから恋愛はもう関係ない」とかじゃなくて、想定外の状況に置かれた人のままならない様を歌っているんです。
──G.RINAさんはラブソングが多いイメージです。
そうかもしれないですね。人の営みを描くと、いろんな形でラブには触れることになりますね(笑)。そしてときには恋や愛だけじゃくて性の部分まで、あからさまでなくても触れたいなと思っています。
──性愛も描き方の塩梅が難しくないですか?
そういう意味でも取り組みがいがありますよね。タブー視されてるとまでは言わないけど、あまり言葉になってないと思うから。性愛を歌うってR&Bの魅力の1つでもあると思うし、避けて通ったらもったいない気がしますね。
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収録曲
- 想像未来 feat. 鎮座DOPENESS
- close2u
- All Around The World feat. 土岐麻子
- そばにおいで
- フライデーラヴ feat. yoshiro(underslowjams)
- 街のレクイエム
- memories
- 夏のめまい feat. 田我流
- ヴァンパイア ハンティング feat. Kick A Show
- しあわせの準備
G.RINA(ジーリナ)
東京出身のシンガーソングライター、ビートメイカー、DJ。2003年に作詞作曲、演奏、プログラミングを自ら手がけた1stアルバム「サーカスの娘 -A Girl From A Circus-」でデビュー。これまで5枚のオリジナルアルバムをセルフプロデュースでリリースしているほか、土岐麻子、南波志帆、坂本冬美らさまざまなアーティストへ歌詞や楽曲を提供。客演としても参加している。およそ5年間の活動休止を経て2015年に「Lotta Love」、そして2017年に「LIVE & LEARN」と、縁のある歌手やラッパーをゲストに迎えたアルバムを発表。またG.RINA & Midnight Sun名義では、ダンサーを交えたライブパフォーマンスを展開している。