外に説明しにくいスタンスのGRAPEVINE
──与えられた環境の中で、自分が何をやれるか、どういうリアクションをしていくか。
そうですね。先ほどから後ろ向きと取られかねない発言をしてますけど、自分としては決して後ろ向きなわけではなくて。持ってるポテンシャルみたいなものに自信がないわけじゃないんです。そのポテンシャルがどこまで発揮できるかというのを長年かけて探してきて、この現場が一番向いてるんじゃないかな、というところですかね。GRAPEVINEって外に説明しにくいスタンスだと思うんですよ。悪く言えば中途半端。そういうやり方とか特色みたいなものを、ゆっくり理解し合えて今に至るんじゃないかという気がするんです。このバンドってどんなバンドって聞かれたら、自分でも説明しにくいですね。ロックはロックやけど……みたいな(笑)。
──GRAPEVINEのことを全然知らない、例えば外国の人に、「お前どんな音楽やってるんだ?」って聞かれたら?
「オルタナティブロックやってます!」と答えますね(笑)。
──オルタナティブってことは、メインストリームではないって意識がどこかにあるってことですね。
そうですね。メインストリームがなんなのかっていうのも、非常に多様化してる気がしますけど、今や。でも常にどんな時代でもメインストリームじゃない気はしてます。
──どうして?
どうしてでしょうねえ? メインストリームの人がやらないようなことばっかり考えてる。かと言ってサブカル的なものを打ち出すのもイヤなんですよ。あくまでもメインストリームに顔を出す可能性があるんじゃないか、ぐらいのとこにいたいかな、と。「でもこれじゃ無理だろう!」って言われるぐらいの感じがいいですね。
──今やロック自体がメインストリームじゃないですからね。
そうですね。だからもう俺らは前時代の人なのかな、とはよく思いますね。たぶん自分の音楽の聴き方がね、ジャズを聴こうがEDMを聴こうがソウルを聴こうが、「ロック耳」で聴いてるなと日々思いますね。
──「ロック耳」ってなんですか?
これも説明しにくいんですけど……自分たちなりのやり方を想像しながら聴いてしまうと言うか。例えばデジタルなリズムが鳴っているとして、これはキックだハットだって考えながら聴いている自分にふと気付くわけですよ。キックでもハットでもないのに。どんな音楽もロックバンドの音に置き換えちゃう。
らしさはつかみ所のないところ
──20年やってきて気付いた、GRAPEVINEらしさってなんだと思います?
そうですねえ……このつかみ所のないところですかね?(笑)
──例えば日々曲を作っていて、これをやったらGRAPEVINEじゃない、と思うときってどんなときですか?
実はそういうのないんですよ。これはGRAPEVINEっぽくないな、とか、オレらに向いてないな、というのが生じるときって、結局アレンジ面というかトリートメントの部分なんですね。我々は歌モノバンドなので、歌を作ってるんですけど、そういう曲の根幹においては何もタブーはないですね。
──田中さんの歌唱技術からすれば、どんな曲でもどんなスタイルでも歌いこなせちゃう、というのもあるんじゃないですか? どんな曲であっても田中さんが歌えばGRAPEVINEらしい歌になる。
それはあるかもしれない。かなり幅広く対応できますよ。ただ……自信はありますけど、もっと行けるかなと思う瞬間は多々あります。例えばもっと落ち着いたキーで歌いたいのに、落ち着いたキーで歌うと地味に聞こえる。だからアレンジの段階でそこそこ高いキーを維持せざるをえない。そういうことがよくあるんです。それが悔しくてね。
──でも最近1stアルバム「退屈の花」を聴き返してみて、かなりキーは低くなってると思いました。
だいぶやれるようになってきました。当時ってキーが高いのが流行ってるって思い込んでて。かつ、今風に言うとエモいと言いますか、一生懸命つらそうに歌ってるのがいいじゃないか、みたいなところがありましたね。2ndアルバム……3rdアルバムぐらいまではギリギリ出るところまでのキーで作るみたいな。
──それが初期GRAPEVINEの張り詰めた感じにつながっている。
でしょうね。そして、それはそれなりに成功したんでしょう。でもそれが徐々に変わってきて。もともと聴く音楽の趣味は老けてましたし、歳を取って、それなりに表現の幅も増えてきたんじゃないですかね。もっともっとやりたいことがやれるようになってきた。
──表現の幅が広がって、やりたいこと、出したい音が出せるようになってきたことと、バンドの初期のイメージとのギャップみたいなものを感じるときはなかったですか?
多々ありますね。今でも感じます。それがイヤな時期もありましたけど。例えば「スロウ」「光について」がそこそこ売れて、そのイメージが完全に付いたと思うんですね。ミディアムテンポで暗くてちょっと張り詰めた感じ。そういうイメージはどうにかしたいと思っていた時期もありました。今はもう、それもよしかなと思えるようになりましたけど。
解散したらミュージシャンではなくなりそう
──初期の頃と比べて変わったところもあるけど、根幹的なところは変わってないと思いました。
そうですね。恐らく根本的に好む傾向みたいなものは同じだと思いますね。ただ楽曲の面で、根幹的なところはあまり変わらないんですけど、アレンジメントの仕方はもっとゆるくなってると思うんです。昔はそれこそJ-POP、J-ROCKに寄せた作り方をしてたんですよ。AメロBメロサビ、みたいなきっちりした構成で。でもそういうこともいつの間にか全然無視するようになってましたね。歌モノをやってはいても、最後の1分しか歌が出てこないとか、そういうのも全然ありだと思うんですよ。
──それでも自分たちの根幹が「歌」であることに変わりはない。
そうですね、「歌」っていうのはアレンジメントの要素の1つだと思うんです。曲を1つのストーリーとして考えると、ギターやピアノなどの楽器同様に、歌が担う部分もある、という考え方でいいと思うんですよね。
──歌が主役だけど、ほかの楽器がしっかりと脇を固めることで、しっかりしたストーリーができる。
そうそう。そういう曲の作り方であるべきだと思いますね。
──全部を自分の色で染めようとは思わないわけですね。
あ、それはイヤなんですよ。日本の歌モノを聴いてると、ずーっと歌じゃないですか。最初から最後まで。「歌多いな!」と思うんです。言葉も多い。ああいう感じにしたくない。せっかく演奏が盛り上げようとしているのに、無理やり歌の世界にされてる気がして。歌詞も歌ではなく独立した読み物として読まれてる気がするし、そういう仕上がりにはしたくないなと思いますね。
──歌モノでありながら、歌だけが浮き上がっているのではなく、バンドが一体となって奏でるストーリーみたいなものがGRAPEVINEの音楽であると。
最近はそうですね。昔はもっと歌に寄せようと思ってたところはありますけど。
──売れたいとか、そういう野心も関係して?
もちろんそれもありました。なんかの間違いで売れるんじゃないかと期待したこともありましたから(笑)。
──でも一時的に派手に売れるよりも、20年間一定の地位を保ちながらコンスタントに活動を続けてきたほうが価値があると思います。なぜ20年も続けてこられたと思いますか。
……なぜかと問われればやっぱり……皆さんのおかげです、っていうとすごく嘘くさいですけど、周りの方々の力のおかげですかね。たぶんメンバーだけじゃ無理ですね。いろんな場面でラッキーだったと思います。最初に僕らを拾ってくれたディレクターだったり、プロデューサーだったり、メンバーが脱退したときに入ってくれたサポートメンバーだったり。そういうのをお客さんがゆっくり見守ってくれてるって環境はすごくよかったんじゃないですかね。
──1人でやってみたい気持ちってないんですか?
ないんですよねえ……恐らく解散したらミュージシャンではなくなりそうな気がします。趣味としてはやってるとしても。どちらかと言えばリスナー体質なんですよね。人の音楽に対してエラそうなこと言ってるのが向いてます(笑)。ちょっと憧れますけどね。すごく自分を持ってる人。往年のロックミュージシャンってそういう人が多いですよね。そういうのをカッコいいなと憧れながら、ネタとして茶化しつつやるのが性に合ってる気がします。
──なるほど。最後に今回のアルバムはGRAPEVINEにとってどういうアルバムになりましたか? あるいは、なると思いますか?
このアルバムの登場人物は、さまざまな問題を抱えた人たち、いわゆるメインストリームからはかけ離れた場所にいる人たちの声の集まりだなと思ったので、こういうタイトルを付けたんです。前のよりオーセンティックなアルバムになったかと思います。“3年殺し、5年殺し”ぐらいになってくれるとありがたいですね。3~5年後ぐらいに聴く人の心に刺さってくれればいいなと思います。
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西川弘剛(G)
- GRAPEVINE「ROADSIDE PROPHET」
- 2017年9月6日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
-
20th Anniversary
Limited Edition [CD+DVD]
4320円 / VIZL-1216 -
通常盤 [CD]
3240円 / VICL-64820
- CD収録曲
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- Arma
- ソープオペラ
- Shame
- これは水です
- Chain
- レアリスム婦人
- 楽園で遅い朝食
- The milk(of human kindness)
- 世界が変わるにつれて
- こめかみ
- 聖ルチア
- 20th Anniversary Limited Edition付属DVD収録内容
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- GRAPEVINE STUDIO LIVE 2017
- 覚醒
- EAST OF THE SUN
- KOL(キックアウト ラヴァー)
- Arma
- スロウ
- CORE
- 吹曝しのシェヴィ
- 放浪フリーク
- 「Arma」music video
- RECORDING DOCUMENT 2017
- GRAPEVINE STUDIO LIVE 2017
- GRAPEVINE Tour 2017
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- 2017年10月5日(木)東京都 LIQUIDROOM
- 2017年10月7日(土)新潟県 新潟LOTS
- 2017年10月8日(日)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2017年10月14日(土)兵庫県 Kobe SLOPE
- 2017年10月15日(日)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
- 2017年10月21日(土)熊本県 熊本B.9 V1
- 2017年10月22日(日)鹿児島県 CAPARVO HALL
- 2017年10月27日(金)岡山県 YEBISU YA PRO
- 2017年10月28日(土)愛媛県 松山サロンキティ
- 2017年11月5日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2017年11月11日(土)岩手県 Club Change WAVE
- 2017年11月12日(日)宮城県 Rensa
- 2017年11月18日(土)福岡県 BEAT STATION
- 2017年11月19日(日)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2017年11月23日(木・祝)愛知県 DIAMOND HALL
- 2017年11月24日(金)大阪府 NHK大阪ホール
- 2017年11月26日(日)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2017年12月1日(金)東京都 東京国際フォーラム ホールA
- GRAPEVINE(グレイプバイン)
- 田中和将(Vo, G)、西川弘剛(G)、亀井亨(Dr)の3人からなるロックバンド。1993年に元メンバーの西原誠(B)を含めた4人で結成。1997年にミニアルバム「覚醒」でデビューし、1999年リリースの3rdシングル「スロウ」が大ヒットを記録する。2002年に西原がジストニアのため脱退して以降は、高野勲(Key, G)、金戸覚(B)をサポートメンバーに加えた5人編成で活動を続けている。2010年にはギタリスト / プロデューサーの長田進と「長田進 with GRAPEVINE」名義でアルバム「MALPASO」を制作。2012年にメジャーデビュー15周年を迎え、9月に初のベストアルバム「Best of GRAPEVINE 1997-2012」を発表した。2014年11月にビクターエンタテインメント内のSPEEDSTAR RECORDSへ移籍し、2015年1月に移籍第1弾シングル「Empty song」収録曲を含むアルバム「Burning tree」をリリース。また2016年2月には高野寛をプロデューサーに迎えて制作されたシングル曲「EAST OF THE SUN」「UNOMI」などを含むアルバム「BABEL,BABEL」を発表した。デビュー20周年を迎える2017年には対バンツアー「GRUESOME TWOSOME」を開催し、9月に通算15枚目のオリジナルアルバム「ROADSIDE PROPHET」をリリース。