音楽ナタリー Power Push - 田中和将(GRAPEVINE)×高野寛
ポップ職人がもたらした 普通じゃない化学反応
心に余裕がある人間に憧れて
──「UNOMI」の歌詞には「ルアー」や「リール」といった釣りにまつわる言葉が出てきますが、今までGRAPEVINEの曲で釣りをテーマにした曲ってなかったですよね?
田中 確かに。釣りがテーマの曲ってなかったですね。
──どなたかが始められたんですか?
田中 いや、特にメンバーの中に釣り好きがいるわけでもないんです。ただ僕の憧れとして「釣りをいつかやれるような余裕のある人間になりたいな」という願望が前からありまして。
高野 誰かに誘われたこととかある?
田中 今のところないんですね。高野さんはやるんですか?
高野 僕は、(高橋)幸宏さんに誘われて、1回だけイシダイ釣りに行ったことがあるんですよ。一緒に下田に行って。
田中 いいなあ、うらやましい。
高野 それはもう早起きして。イシダイ釣りって岩場に飛び移らなきゃいけなかったりして、けっこう危険なんですよ。がんばってみたけど、僕は何も釣れなかった。その日は全体的にみんな不調で、幸宏さんも1匹釣れたかどうかだったかな。それ以来、誘ってもらえなくなりました。
田中 あははは(笑)。
高野 たぶん「こいつは釣りに興味がないな」っていうのを悟られてしまったんだと思います。でも釣りができるってカッコいいよね。
田中 カッコいい。釣りって「究極の暇つぶし」と呼ばれるぐらい、時間をかけなきゃいけないし、心の余裕がないとできないことだと思うんですよ。「あれもしなきゃ、これもしなきゃ」なんて考えてるときに、魚が食い付いてくるのを待ってたりできないですよ。
高野 そうだよね。
田中 心の余裕を持てる大人になりたいな、という意味で憧れ続けてはいるんですけど、いまだにまだ、始められてないんです。
土台にあるのはキレイな三角形
──今作のプロデュースを担当してみて高野さんは、GRAPEVINEのメンバーそれぞれのキャラクターをどういうふうに認識しましたか?
高野 まず田中くんは酔っ払い。
田中 まさにその通りです。すいません(笑)。
高野 冗談です(笑)。田中くんはね、ギタリストとしては、ブルースロックの一番トラディショナルなスタイルの上にある人で、そこが西川くんと対極で面白いんですよ。印象的だったのは、楽器を録るときも必ず歌うし、歌を録るときも必ずダミーでギターを持つんです。おそらく彼のことをボーカリストと認識している方が多いと思うんだけど、彼は歌うギタリストなんです。
田中 僕、ギターを持たずに歌うと微妙にリズムが悪くなったりするんです。歌詞もド忘れするし。
高野 ギターがすでに体の一部のようになってるからだと思うんです。歌とギターは同時にやるものだっていうことが染み付いてる。そういう人は意外と少ない。
──西川さんはどうですか?
高野 まず音が太い。音は熱いけどクールだし、独特なスタイルを持ってる。
田中 フレーズもタイム感もかなり独特ですね。
高野 西川くんは常に目線が俯瞰なんですよ。自分のギターに酔ったりしない。ある意味バンドのプロデューサー的な立ち位置の人なんだと思います。今回は僕に委ねてもらってるけど、彼独特の要素っていうのは随所に出てきてると思います。それと西川くんも田中くんもギターの音色がすごくいいんですよ。今回プロデュースして、僕の中でエレキの音作りに対する考え方がちょっと変わったかな。
田中 あ、ホンマですか。うれしいですね。
高野 プレゼンスのあたりをどうするかとか、ファズの使い方とかさ。機材に対する知識やこだわりがハンパないし、2人とも全然違うスタイルなんだけど「こういうときはこういう設定」というのがちゃんとできあがっている。僕はこれまでGRAPEVINEのように歪み系の音を多用するバンドに関わったことがなかったから、新鮮でしたね。
田中 歪みは難しいですもんね。奥が深いというか。
高野 ギタートークとか、機材トークは止まらなかったですね。
──亀井さんについてはいかがですか?
高野 ドラマーでメロディアスな曲を書く人っていうのがまず珍しい。ただプレイだけを追求してるプレイヤーではなくて、亀井くんは自分で書いたメロディが頭の中で鳴っている中でリズムを刻んでいるわけだから、楽曲に寄り添うドラムを叩くんだよね。主張しすぎてない。
田中 そうですね。
高野 亀井くんのメロディとドラムがあり、田中くんの詞とスタンダードなスタイルの歌があり、そこに西川くんのプロデューサー的な目線と独特のギターがあるっていう、キレイな三角形が土台にあるんだなっていうのが、途中からすごくわかってきて。そこに今回僕がうまくハマれたかなって思っています。でも亀井くんはしゃべらないよね(笑)。
田中 確かに口数は少ないですね。飲んでるとまあ、しゃべるんですけど。
高野 あと今回の作業で唯一ややこしかったのは、サポートメンバーの勲くんの苗字も「高野」だったことかな。
田中 これはもうね。最初の顔合わせから議題に上がってたんですよ。2人をどう呼ぼうかって。
高野 勲くんは、バインの現場で「高野さん」「高野くん」って呼ばれるんですよ。だから「くん」と「さん」で分けることができなくて。じゃあ下の名前はどうだろうって話になったけど、俺のことを「寛」って呼ぶ人は全然いないから、なんだか気持ち悪くてね。
──結局この問題はどうしたんですか?
高野 うやむやなまま過ぎていっちゃったかな。
田中 プロデューサーなんで「P」を付けて、「高P」と呼ぶ案もあったんですけどね。
高野 誰も呼んでなかったよ(笑)。スケジュール表には「勲OK」とか「寛NG」とか書いてあったんだけど、2人とも名前が1文字だから紛らわしいとか言われるし……。
田中 少し離れたときにどっちのことかわからないんですよ。サインまで紛らわしかった。
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- GRAPEVINE ニューシングル「EAST OF THE SUN / UNOMI」2015年12月2日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD]1944円 / VIZL-993
- 通常盤 [CD]1080円 / VICL-37119
CD収録曲
- EAST OF THE SUN
- UNOMI
初回限定盤DVD収録内容
- LIVE IN VICTOR STUDIO presented by J-WAVE 「Hello World」
- スロウ
- 風待ち
- YOROI
- FLY
- 豚の皿
- なしくずしの愛
- 光について
- VIDEOVINE vol.3
GRAPEVINE(グレイプバイン)
田中和将(Vo, G)、西川弘剛(G)、亀井亨(Dr)の3人からなるロックバンド。1993年に元メンバーの西原誠(B)を含めた4人で結成。1997年にミニアルバム「覚醒」でデビューし、1999年リリースの3rdシングル「スロウ」が大ヒットを記録する。2002年に西原がジストニアのため脱退して以降は、高野勲(Key, G)、金戸覚(B)をサポートメンバーに加えた5人編成で活動を続けている。2010年にはギタリスト / プロデューサーの長田進と「長田進 with GRAPEVINE」名義でアルバム「MALPASO」を制作。2012年にメジャーデビュー15周年を迎え、9月に初のベストアルバム「Best of GRAPEVINE 1997-2012」を発表した。2014年11月にビクターエンタテインメント内のSPEEDSTAR RECORDSへ移籍し、2015年1月に移籍第1弾シングル「Empty song」収録曲を含むニューアルバム「Burning tree」をリリース。また同年12月に高野寛をプロデューサーに迎えて制作されたシングル「EAST OF THE SUN / UNOMI」を発表した。
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高野寛(タカノヒロシ)
1964年生まれ。1988年に高橋幸宏プロデュースによるシングル「See You Again」で鮮烈なデビューを飾る。1990年にリリースした「虹の都へ」のヒットにより、一躍脚光を浴びる存在に。90年代後半からはソロのみならず、ギタリスト/プロデューサーとしての活動をスタートさせる。また2000年に入ってからは、BIKKE(TOKYO No.1 SOUL SET)、斉藤哲也とともに結成したNathalie Wise、宮沢和史率いる多国籍音楽集団GANGA ZUMBA、高橋幸宏が結成したpupa(ピューパ)など、複数のバンドやユニットに参加。また2014年にはブラジル滞在中に自身が撮影した写真によるフォトエッセイ集「RIO」を刊行するなど、豊かな才能をさまざまな形で発揮し続けている。