音楽ナタリー Power Push - 田中和将(GRAPEVINE)×高野寛

ポップ職人がもたらした 普通じゃない化学反応

経験したことなかったGRAPEVINEの手法

──シングルの1曲目「EAST OF THE SUN」は、亀井さんが作曲した楽曲ですが、高野さんはどの段階から制作に関わったんですか?

高野 亀井くんが作ったデモをみんなで聴くところからですね。この曲、最初のデモはすごくシンプルだったんだよね。

田中 僕らの場合、最初は「この曲をどうしたいか」みたいな取っ掛かりを探すことが多いですね。けっこうデモから変わったりするんですよ。今回は高野さんも含めたみんなでデモを聴きながら「どうしていこうか」って試行錯誤し始めて。

高野 そう。曲をどっち側に持っていくかって話はしたね。

田中 作った本人はわりとイメージなく作ってることが多いんですよ(笑)。モチーフがないときはどういうイメージにして、この曲がどういう曲なのかをみんなで探していくんです。

──「EAST OF THE SUN」はどういうイメージに固まったんですか?

田中和将(Vo, G)

田中 どうやったかなあ……。初期のジョン・メイヤーみたいな感じとかって話をして。スティーヴィー・ワンダーみたいな、変なシンセが入ったりだとかっていう話をしてたような気がしますけど、忘れましたね(笑)。

──忘れてしまうものなんですね。

高野 僕も忘れちゃいました。そういうやり取りを数限りなくしましたからね。

田中 現場でいろんなことを試すんですよ。「ああでもない、こうでもない」って演奏して。「時間が来たから今日はこの形で一旦持って帰って」みたいな。

高野 僕が今までやってきた常識だと、普通バンドの場合、プリプロをやったらわりとそれに忠実にレコーディングをするんです。でもGRAPEVINEの場合は、プリプロをしてからもまだ作り込んで、レコーディングのときはまた全員でガッツリ、ゼロから作るって感じ。

田中 そうか。世の中的にはプリプロから差し替えるだけっていうバンドも多いらしいですからね。

高野 GRAPEVINEみたいなやり方を僕は経験したことなかったね。

田中 我々の解釈としては、プリプロはあくまでも青写真といいますか。設計図であって、「本物は新たに作らないとダメ」というイメージなんですけどね。

高野 GRAPEVINEはスタジオでセッションする緊張感みたいなものをすごく大事にしてるんだよね。ベーシック録音のとき、彼らはアナログで録ってるから細かいやり直しが効かないんです。一度全員が同じビジョンを持つためにプリプロをしてるんだなって。

田中 うん。まさにそうですね。

高野 今どきのレコーディングって一個一個の音を重ねていくものと、勢いでパッケージングしちゃうものの、どっちかになりつつある。でもGRAPEVINEはそのどちらでもなくて、ものすごく丁寧に音楽を作っている印象ですね。

「ただいい曲」で終わらせない

──シングルのカップリング曲「UNOMI」も同じく亀井さん作曲のナンバーです。この曲の制作も皆さんでイメージを固めるところからスタートしたんですか?

田中 そうですね。でもこの曲は「EAST OF THE SUN」よりもイメージがハッキリしてたかな。

左から高野寛、田中和将(Vo, G)。

高野 すでにメロディが呼んでる何かをみんな感じ取っていたんだよね。ただいい感じに作業が進んでいたんだけど「これ、ただのいい曲だとつまらないんじゃないか」みたいな話も出てきて。どうしようってなったときに「わかった。ちょっと試してみていい?」って僕が切り出して、ギターを擦ってみたんです(笑)。

田中 ただいい曲で終わりそうなときって、展開だったり音色だったり、いろいろ探すんですよ。今回は高野さんが擦ってくれたから。

──ただいい曲は作りたくないんですね。

田中 普通に終わっちゃう曲に対して、「で、どうした?」って思っちゃうんですよ。

高野 その気持ち、僕もすごくわかる。今は「ポップスの王道」みたいに言われてるけど、僕も昔は「ひねくれてる」って散々言われ続けてきたから。

田中 いや、今でも相当ひねくれてると思いますよ(笑)。

高野 付き合いが深まった人とか、ちゃんと聴いてくれてる人はそう言ってくれるけど、パブリックイメージは王道のポップなんだよね。

田中 曲の作り方やアレンジの仕方とか、プレイヤーは高野さんの普通じゃない部分に気付いてると思うんですけどね。

高野 まあ表面的に伝わってなかったとしても、僕らがこだわった部分が何かしらのスパイスになって、聴き手のフックになってくれてるんじゃないかという気はしてるんです。

GRAPEVINE ニューシングル「EAST OF THE SUN / UNOMI」2015年12月2日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
初回限定盤 [CD+DVD]1944円 / VIZL-993
通常盤 [CD]1080円 / VICL-37119
CD収録曲
  1. EAST OF THE SUN
  2. UNOMI
初回限定盤DVD収録内容
  • LIVE IN VICTOR STUDIO presented by J-WAVE 「Hello World」
  1. スロウ
  2. 風待ち
  3. YOROI
  4. FLY
  5. 豚の皿
  6. なしくずしの愛
  7. 光について
  • VIDEOVINE vol.3
GRAPEVINE(グレイプバイン)
GRAPEVINE

田中和将(Vo, G)、西川弘剛(G)、亀井亨(Dr)の3人からなるロックバンド。1993年に元メンバーの西原誠(B)を含めた4人で結成。1997年にミニアルバム「覚醒」でデビューし、1999年リリースの3rdシングル「スロウ」が大ヒットを記録する。2002年に西原がジストニアのため脱退して以降は、高野勲(Key, G)、金戸覚(B)をサポートメンバーに加えた5人編成で活動を続けている。2010年にはギタリスト / プロデューサーの長田進と「長田進 with GRAPEVINE」名義でアルバム「MALPASO」を制作。2012年にメジャーデビュー15周年を迎え、9月に初のベストアルバム「Best of GRAPEVINE 1997-2012」を発表した。2014年11月にビクターエンタテインメント内のSPEEDSTAR RECORDSへ移籍し、2015年1月に移籍第1弾シングル「Empty song」収録曲を含むニューアルバム「Burning tree」をリリース。また同年12月に高野寛をプロデューサーに迎えて制作されたシングル「EAST OF THE SUN / UNOMI」を発表した。

高野寛(タカノヒロシ)

1964年生まれ。1988年に高橋幸宏プロデュースによるシングル「See You Again」で鮮烈なデビューを飾る。1990年にリリースした「虹の都へ」のヒットにより、一躍脚光を浴びる存在に。90年代後半からはソロのみならず、ギタリスト/プロデューサーとしての活動をスタートさせる。また2000年に入ってからは、BIKKE(TOKYO No.1 SOUL SET)、斉藤哲也とともに結成したNathalie Wise、宮沢和史率いる多国籍音楽集団GANGA ZUMBA、高橋幸宏が結成したpupa(ピューパ)など、複数のバンドやユニットに参加。また2014年にはブラジル滞在中に自身が撮影した写真によるフォトエッセイ集「RIO」を刊行するなど、豊かな才能をさまざまな形で発揮し続けている。