ナタリー PowerPush - GRAPEVINE
メンバー5人の語ること
スタジオの空気感がちゃんと取り込まれてる
──金戸さんは今回のアルバムが完成してみてどう感じましたか?
金戸 そうだねえ……できあがったのを全部聴いたときに最初に思ったのは、よく俺が使う言葉だけどさ、空気感ていうのかな。要するにスタジオの中のいろんな感情とか起こった出来事が、ちゃんと曲の中に取り込まれてるっていうのは感じたかな。すごく特徴的だと思うんだよね、その空気感っていうの。
──その空気感はいいものですか?
金戸 よくも悪くもだろうね。だってさ、いろんなことがあるわけよ、スタジオの中にはね。例えばずっと使ってきた一口(一口坂スタジオ)が潰れてさ、違うスタジオでの音決めのとき、エンジニアがなかなかうまくいかなくてちょっと不安になったりもするわけ。でもそんな中でも「あ、これけっこういけるじゃん」ってワッて盛り上がったりもするわけ。そういうのをひとまとめに空気感って言っちゃうんだけど、それがちゃんと取り込まれたんじゃないかなっていう。
──それは今までの作品よりも感じたことですか?
金戸 うん。例えば長田(進)さんっていうプロデューサーがいて、それ以外はずっとおんなじメンツでやってきて。何かしら変化を求めるんだけど、やっぱり一定のルーティーンワークになるわけじゃない、スタジオ入ってライブやってっていう。でも今回はひさしぶりのセルフレコーディングで、場所も変わって。そういうちょっとした変化が影響してるのはすごくあるんじゃないかなって思う。ルーティーンじゃないところにレコーディングがあったって感じかな。録り方もちょっと変わってるしね。
西川 「われら」なんかは後半を先に録って、あとから前半を録るっていう変なことしてたりするんですよね。
金戸 個人的に言うとベースをあとから入れた曲も何曲かあるんだよ。
西川 そういうことをいろいろやってみたいなってのは前から思ってたんで、少しはできたかなと思います。まともな録り方はもうイヤってほどやってきたんで、ちょっとくらい変なことしても許されるかなと。
正式メンバーにこだわる理由がない
──アーティスト写真が初めて5人になりましたね、驚きました。今回はなぜ5人なんでしょうか?
西川 理由は知らないですけど(笑)。なんか犬みたいな写真を撮りたいって言われて。
亀井 「こういう雰囲気で撮りたい」って見せられた写真のモデルが犬やった(笑)。犬5匹くらい並んでる写真。
──犬の要素があると思わなかったです(笑)。これを見て、ファンは「ついに5人だ!」って驚いていると思うんですよ。
田中 「いつの間に5人になったの?」って言う人もいるでしょうね。
高野 「犬だ!」って人は1人くらいいないの?
──私はこれを見て、高野さんと金戸さんは正式メンバーも同然だなあと思いまして。
田中 ああー。まあ、それこそこの5人になる前の歴史より5人になってからのほうが長いですからね。もはやメンバー同然なわけですから(写真が5人でも)いいんじゃないですかね。
──でもGRAPEVINEは正式には3人編成なんですよね。
田中 これは単純にそのほうがフレキシブルだからですよ。お2人はミュージシャンとしてほかでも活躍されてるわけですし。
──あっ、そういう理由なんですね。
田中 そうです。特別その正式メンバーにこだわる理由がひとつもないというか。逆になんでそんな周りの人は正式メンバーにこだわるんだろうってよく思うんですよ。たぶんプロモーションでの見せ方ってことだと思うんですけど、ライブは事実ずっと5人でやってるわけですから。
──高野さんは正式メンバーになりたいっていう思いは……。
高野 なりたい? 今さら(笑)。
西川 なりたいって言われたことはないですけど、言われたらどうしましょうかねえ(笑)。
田中 しかも今さら。ふふふ(笑)。さらに年月が経てばもっと面白いことになるんじゃないですかね。だってロン・ウッドも最近まで(THE ROLLING STONESの)正式メンバーじゃなかったでしょ? あれ愕然とするじゃないですか(笑)。
──金戸さんはどうですか?
金戸 GRAPEVINEに入れてもらうのはなんだから、「金戸覚とGRAPEVINE」とかさ(笑)。
一同 ははははは(笑)。
高野 そっちのほうがハードル高そうだよね。うんって言ってくれなそう。
西川 でも「長田進 with GRAPEVINE」ならやったことありますよ。
金戸 あーそうだよね。あれはでもほら、ボーカル長田さんじゃない。
西川 えっ? 歌わないんですか(笑)。
金戸 だから「金戸覚とGRAPEVINE」は、あくまで俺はお茶くみ(笑)。
──お2人がサポートメンバーでいることがバンドにとって一番いいバランスなんですね。
高野 まあそういうことは考えないですけどね、ほんとに。一緒にやってるからメンバーにどうとかって発想がないですね。
西川 もし一緒のバンドだったらどう考えても金戸さんがリーダーってことになりますからね。
田中 一応年長者やしね。
高野 でもあんまり言うこと聞きたくないけどね。
金戸 それおかしいでしょ(笑)。
共同幻想を嫌ってやってきた
──昨年デビュー15周年を迎えられた皆さんに、ここで改めてお伺いしたいことがありまして。GRAPEVINEはデビュー当時から渋味のある曲をやってきて、ライブでも客をガンガン煽るようなバンドではないですよね。そういったスタンスを貫いているのはどういう気持ちからなのか教えていただけますか?
田中 パンクですよ。パンクに対するパンクです。
──スタイルに対する自分たちなりの反骨精神?
田中 そうです(笑)。まあ真面目な話をすると、そんなにロックのロックっぽいとこが好きじゃなかったのかもしれないなって思いますね。いわゆる若者の共同幻想的な感じと言いますか。そういうものを嫌ってやってきたような気はしますね。実際、うちのバンドはテンポが速かったり、ロックっぽかったりする曲が割合としては少ない。それだけに、ライブするときそういう曲がものすごい重宝されるんですよ(笑)。
──そういう曲を求められているという気はしてるんですか?
田中 いや、求められてるかどうかっていうことに応えるつもりは一切ないですけどね。ただライブの構成上、おっそい曲ばっかりでやってもいいんですけど、多少メリハリを付ける必要というのも出てくるわけであって。
──なるほど。求められるものに応えるつもりはないとのことですが、大衆的な存在になりたいと思ったことはないのでしょうか。
西川 なくはないんじゃないですか? 別にそのために全力を尽くさないですけど。大衆性がないわけじゃないと思ってますけどね、個人的には。
田中 何をもって大衆性と呼ぶのかは難しいとこやと思いますけどね。例えばキャッチーであるとか、セールス的に売れる売れないってことなのであれば、あんまり考えてないかもしれないですね。ただ、初期の頃はもう少しそういうことも考えつつやってたような気がします。
西川 昔のほうが1曲で全部を語ろうとしてることが多かったですね。それがもしかしたら大衆性なのかもしれないですけど、いい曲を作ろうとしすぎてるというか。いいメロディで感動的なエンディングで、みたいなね。でも最近はそういうのはどんどん取っ払えてきてるとは思います。もっとさりげなかったり、断片的だったりっていうこともできるようになってきたと思うんですよね。
- ニューアルバム「愚かな者の語ること」/ 2013年4月24日発売 / PONY CANYON
- 初回限定盤[CD+DVD] 3600円 / PCCA-03818
- 通常盤 [CD] 3000円 / PCCA-03819
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CD収録曲
- 無心の歌
- 1977
- コヨーテ
- なしくずしの愛
- われら
- 迷信
- うわばみ
- 太陽と銃声
- 片側一車線の夢
- 虎を放つ
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初回限定盤DVD 収録内容
- GRAPEVINE in concert:15th Anniversary live at NHK Hall (2012.09.26)
光について / マダカレークッテナイデショー / アナザーワールド / CORE / here / Time is on your back / 会いにいく / エレウテリア / Everyman,everywhere / 鳩 - GRAPEVINE in studio:「1977」Recording Sessions
- GRAPEVINE in concert:15th Anniversary live at NHK Hall (2012.09.26)
GRAPEVINE(ぐれいぷばいん)
田中和将(Vo, G)、西川弘剛(G)、亀井亨(Dr)の3人からなるロックバンド。1993年に元メンバーの西原誠(B)を含めた4人で結成。1997年にミニアルバム「覚醒」でデビューし、1999年リリースの3rdシングル「スロウ」がスマッシュヒットを記録。2002年、西原がジストニアのため脱退。以降は高野勲(Key, G)、金戸覚(B)をサポートメンバーに加えた5人編成で活動を続けている。2010年にはギタリスト / プロデューサーの長田進と「長田進 with GRAPEVINE」名義でアルバム「MALPASO」を発表。2012年にメジャーデビュー15周年を迎え、9月に初のベストアルバム「Best of GRAPEVINE 1997-2012」をリリースした。2013年4月10日にはタワーレコード限定8cmシングル「1977」を数量限定で発売。4月24日、約2年4カ月ぶりのオリジナルアルバム「愚かな者の語ること」をリリースした。