ナタリー PowerPush - GRAPEVINE
メンバー5人の語ること
GRAPEVINEが約2年4カ月ぶりにオリジナルアルバム「愚かな者の語ること」をリリースした。バンドにとってひさびさのセルフプロデュースとなった本作は、よりダイレクトにメンバーの発想が反映された密度の濃い1枚だ。
今回のインタビューには田中和将(Vo, G)、西川弘剛(G)、亀井亨(Dr)、高野勲(Key, G)、金戸覚(B)の5人が揃って登場。制作の工程や裏話はもちろん、高野と金戸がサポートメンバーであり続ける真意も語ってもらった。後半で彼らはGRAPEVINEというバンドのスタンスについても吐露。昨年デビュー15周年を迎えたバンドの本質を改めて確かめることができた。
取材・文 / 伊藤実菜子 撮影 / 佐藤類
「かき混ぜ役」と「お茶くみ役」
──今回は前作「MISOGI」に比べると、「コヨーテ」や「うわばみ」など肩の力が抜けたような曲が増えましたね。これは何か心境の変化があってのことですか?
田中和将(Vo, G) もちろん前とは違うことをやろうっていう気持ちでいつも取り組んではいるんですけど、自分たちではあんまり変化を意識してないですね。アルバムの構想もいつものごとくなかったですし。
──アルバム全体としてのテーマも設けずに?
田中 そうなんですよ。いつもそうなんですけど、わりと1曲集中型といいますか。最初にアルバムの全体像の話をすることは一切ないですね。
──今回セルフプロデュースを選んだのはどういった経緯なのでしょうか。
西川弘剛(G) セルフプロデュースにしたいっていうわけでもなかったんですよ。曲がぽつぽつできてきたんで、自分らである程度のとこまで作ってそのあとプロデューサーに投げるかどうか考えようっていう感じでプリプロを進めてたら、結局最後まで自分らで作ることになりました。でも作業自体はプロデューサーがいてもそんなに変わらないんですよね。アイデアを出してくれる人が1人少ないっていうのと、仕切ってくれる人がいないっていうだけで。
──仕切ってくれる人がいないことでやりづらい部分はありましたか?
西川 ダラダラしてしまいましたね(笑)。それぐらいじゃないですかね。
──制作中の高野さんの役割はなんだったんでしょう?
高野勲(Key, G) かき混ぜ役ですかね。行きそうな方向に行かないようにする。寄り道したほうが面白くなるかなとかね。あんまり自分の思い描いてたようにならないほうが、より広がりがあっていいなって思うんで。こうだっていうふうに決め込まないで、うごめきながら進む感じがいいなあとは常に思ってます。
──なるほど。金戸さんはどうですか?
金戸覚(B) 役割? お茶くみ。
一同 あはははは(笑)。
金戸 お茶くみか、パシリか。あとね、何かな。部屋の掃除とか。まあそんなもんすよ。ベースラインはお茶かき混ぜながらなんとなく浮かんでくるんですよ(笑)。
なんとなくの表情で判断
──今回制作の主導権を握っていたのは誰だったんですか?
田中 今回は主に西川さんが采配を。仕切り役をやってましたよ。
──西川さん主導になったのは何か理由があって?
西川 誰もしないからしょうがなく(笑)。僕もお茶かき混ぜたいほうだったんですけど実は。
──曲ごとの作曲者が引っ張っていくのかと思ってました。
亀井亨(Dr) でも今回は、作曲といってもネタを持って行ってそれを広げていったっていう形なんで。ほとんど原型をとどめないくらい変わってるのが多いですね。
──特に変わった曲はどれですか?
亀井 そうやなあ……「虎を放つ」とか。けっこう化けたんじゃないかなと思います。最初どうしたらいいかわからない状態でずっと悩んでたんですけど、サビをツインボーカル的なアレンジにしたとこから突破口が開けて。メロも雰囲気も変えて、成功した曲ですね。
──成功なのか失敗なのかはどうやって判断するんでしょうか。
西川 えーとね……なんとなくの表情ですかね。なんかみんな不満そうな顔してるなと思ったら失敗なのかなって思ったりとか(笑)。いい方向に行ってるときはほかからもいいアイデアが出ることが多いですね、乗っかってくる人が現れるというか。
──不満そうな顔の人が1人でもいれば失敗?
西川 そうですね。まあ誰かが主導権持って「これでいいんだ」って言うのもアリだと思いますけど。
田中 ゴリ押しする人がいればね。例えばプロデューサーがいたときはそういうとこも多少はあったと思います。最初僕らにハテナが付いてても、あとから「ああなるほどな」って思えてくることもあったと思う。ただみんなでやってると、そうゴリ押しする人間もそんなにいないので。みんなであーだこーだやる、やり続けるしかないっていう感じですね。
──では今回のアルバムに収録された曲はすべて皆さん自身が納得した出来になってるんですね。
西川 おそらく(笑)。おそらくですよ。
田中 話をまとめるとそうなるんですよ(笑)。
「うわばみ」のこだわり
──「MISOGI」は収録曲がすべて英語タイトルでしたが、今作は逆に日本語タイトルが並びますね。これには何か意図があるんでしょうか。
田中 特に深い意味はないですよ(笑)。「MISOGI」のときはミニアルバムだったんで何かしら統一感を出してみたくて、すべてああいう感じにしたわけですけども。今回は最初の1、2曲の歌詞を書いたときに、なかなか我ながらいいじゃないかと思える日本語のタイトルが出てきたんで、じゃあこのまま最後まで日本語でいこうと思いまして。
──個人的にアルバムの中で意外だった曲が「片側一車線の夢」でした。過去の楽曲にはここまでカントリー調で明るいものはなかったですよね。
西川 あんまり自分的には意外じゃないんですけどね。いつかやりそうだなと思ってました。
田中 僕も全然不思議ではなかったですけど、言われてみればここまでパカーンと明るいのはあんまりないかもしれないですね。
──それでいうと「うわばみ」に入っている効果音も今までにない試みですよね。
西川 あれねえ、ほんとは「チーン」ていう音だけが欲しかったんですよ。ホテルのフロントでチーンてやるやつあるじゃないですか。で、プリプロ中にみんなでケータイのアプリで探すわけですよ(笑)。そしたら「ドカーン!」とか面白い音がいっぱいあって。そのへんから変になってああなっちゃったんですよね。
田中 まあ悪ノリですよ。
西川 「もっと面白いのあるん違うか」みたいな。その中からあたりをつけて、フリー素材をはめてみたんですけど。そのあと歌詞を書いたから歌詞もああいう感じになってるんだと思う。
田中 かなり最後のほう無理やり野球になってる(笑)。
高野 異常なこだわりを見せてたよね、あの音に。早いだ遅いだ、長いだ短いだとかずっとやってましたね。
田中 うん。気持ちよくないとね、だってね(笑)。
- ニューアルバム「愚かな者の語ること」/ 2013年4月24日発売 / PONY CANYON
- 初回限定盤[CD+DVD] 3600円 / PCCA-03818
- 通常盤 [CD] 3000円 / PCCA-03819
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CD収録曲
- 無心の歌
- 1977
- コヨーテ
- なしくずしの愛
- われら
- 迷信
- うわばみ
- 太陽と銃声
- 片側一車線の夢
- 虎を放つ
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初回限定盤DVD 収録内容
- GRAPEVINE in concert:15th Anniversary live at NHK Hall (2012.09.26)
光について / マダカレークッテナイデショー / アナザーワールド / CORE / here / Time is on your back / 会いにいく / エレウテリア / Everyman,everywhere / 鳩 - GRAPEVINE in studio:「1977」Recording Sessions
- GRAPEVINE in concert:15th Anniversary live at NHK Hall (2012.09.26)
GRAPEVINE(ぐれいぷばいん)
田中和将(Vo, G)、西川弘剛(G)、亀井亨(Dr)の3人からなるロックバンド。1993年に元メンバーの西原誠(B)を含めた4人で結成。1997年にミニアルバム「覚醒」でデビューし、1999年リリースの3rdシングル「スロウ」がスマッシュヒットを記録。2002年、西原がジストニアのため脱退。以降は高野勲(Key, G)、金戸覚(B)をサポートメンバーに加えた5人編成で活動を続けている。2010年にはギタリスト / プロデューサーの長田進と「長田進 with GRAPEVINE」名義でアルバム「MALPASO」を発表。2012年にメジャーデビュー15周年を迎え、9月に初のベストアルバム「Best of GRAPEVINE 1997-2012」をリリースした。2013年4月10日にはタワーレコード限定8cmシングル「1977」を数量限定で発売。4月24日、約2年4カ月ぶりのオリジナルアルバム「愚かな者の語ること」をリリースした。