ナタリー PowerPush - GRAPEVINE
自然なダイナミズムが生んだディープなロックアルバム
GRAPEVINEが1年半ぶりのオリジナルアルバム「真昼のストレンジランド」をリリースした。本作はまず、「真昼のストレンジランド」というタイトルが素晴らしい。そして、際立った個性と高い技術を両立させたメンバーが生み出すバンドグルーヴが、聴く者をまるで白昼夢のように「ここではない、どこか」へ誘ってくれる。この効果こそが、GRAPEVINEの本質と言えるだろう。
先行シングル「風の歌」に象徴される“王道のGRAPEVINE節”を軸にしながら、フォークロック、サイケデリックロック、ブルース、ハードロックなどを自在に取り込むアレンジメントも、さらに深みを増している。「この先の世界だってずっと/変わらなく続くはずだろう?/それでいい そう云えばいい/もう何も畏れはしないと」(「おそれ」)というフレーズが暗示するように、結成から17年を超えた彼らは今、「このまま突き進めばいい」という強い確信へと至っているようだ。
取材・文/森朋之
新作ではすべての曲を丁寧に突き詰めた
──このアルバムは本当に素晴らしいと思います。何か特別な手ごたえがあるんじゃないですか?
田中和将(Vo,G) このアルバムだけの特別な思いっていうのは、ないですけどね。もちろん、非常に手ごたえはありますが。
西川弘剛(G) 今までのアルバムは色だったり感触みたいなものが感じられたんですけど、今回はそれもまったくなくて。こういうアルバムだなっていうのが、ホントに言えないんですよね。
──それはつまり、音ですべてを表現できたという充実感なんでしょうか?
西川 まあ、すべての曲を丁寧に突き詰めたということでしょうね。ひとつひとつの曲にテーマやアイデアがあって、それをきちんと形にできたというか。ただ、アルバム全体ということになると、なんて言っていいかわからないっていう。
亀井亨(Dr) 今回はプリプロに時間をかけましたからね。珍しく曲もたくさんあったし、さらにアイデアを絞りながら、いろんなことを試せたというか。
田中 うん。前のアルバム(2009年7月発売の「TWANGS」)の作業が終わってから、間を空けないで今回の制作に入ったので。今までで一番時間をかけて作ってると思いますね。
西川 エンジニアさんもずっと一緒にやってたんですよ。傍から見るとかなりダラダラしてるので、本当によく付き合ってくれたと思います(笑)。
GRAPEVINEにとっての王道「風の歌」
──丁寧なプリプロの成果は、ものすごく表れていると思います。まず、先行シングルとしてリリースされた「風の歌」のことから訊きたいのですが。
亀井 「風の歌」は前のアルバムのときからあった曲なんですよ。ちょっと完成が間に合わなくて、収録できなかったんですけど。
田中 これだけはあらかじめレコーディングしてあったんです。歌だけ入れてなくて。
──どんなイメージで書いた曲なんですか?
亀井 僕らにとってのストレートな歌モノという感じですよね。アレンジもすごくストレートだと思うし。
──まさに王道ですよね、これは。
田中 仮タイトルが「王道」でしたから。
西川 アレンジが王道っていう意味ですけどね、それは。
──このタイミングでもう一度GRAPEVINEにとっての王道を確認しておこうという意識があったわけではなく?
亀井 個人的にはそういう曲もあったほうがいいだろうな、とは思いましたけどね。芯の部分をちゃんと形にしておくというか。
田中 この曲、おかげさまですごく評判がいいんですよ。「あ、やっぱり僕らはこういうバンドって思われてるんやな」っていうのを再確認できたというか。考えてみると、こんな感じの曲をシングルにするのもひさしぶりだし。
──あえて王道ではないタイプの曲をシングルにする時期もあった?
田中 そうですね。過去のシングルでいえば、「CORE」はそういう感じで出してたかもしれないです。まあ、シングルに関しては、何が正解かいまいちわからないんですけど。
バンドに対する幻想は常に抱いている
──「風の歌」は、今回のアルバムのリードシングルとしてもとても大きな役割を果たしてると思うんです。アルバム全体を流れるストーリーの中心にあるというか。
田中 あ、そうですか。
──「真昼のストレンジランド」には、一貫した物語性が感じられて。そこは意識してました?
田中 いや、歌詞を書いてるときは特に。でも、アルバムができあがったときに、僕も同じようなことを感じましたけど。同じ人間が書いてるから、その時期に思い描いていたイメージなり映像なりが出てるのかもしれないですね。
──思い描いていたイメージというと?
田中 それがこのアルバムなんですけど(笑)。まあ、なんだろうな? 強い光だったり、そこから生まれる濃い影っていうイメージはあったような気がしますね。
──なるほど。今の話もそうなんですけど、アルバムには現在のGRAPEVINEが投影されてるんじゃないかって思えるような内容もいくつかあって。例えば1曲目の「Silverado」という曲は、「理想としていた風景」がひとつのテーマになってると思うんですよ。
田中 はい。
──今、GRAPEVINEにとっての理想像って、どんなものなんですか?
田中 漠然としたものはありますけど、具体性は伴ってない気がしますね。まあ、バンドっていうものに対する幻想は常に抱いてますけどね。
──幻想?
田中 「バンドっていいな」とか「バンド“が”いいな」「バンドってなんて素敵なんだろう」っていう(笑)。それはレコーディングやツアーに参加してくれるスタッフやミュージシャンを含めてってことですけど。
──非常にバンドらしいバンドですからね、GRAPEVINEは。
田中 そう感じてもらえるんだったら、うれしいですけどね。
亀井 ライブをやってるときに、それぞれの音がうまく混ざったときは「いいなあ」って思いますよね。最近の傾向として、あまりカチッとした曲は少なくなってきてるんですよ。“キメがたくさんある”っていう曲じゃなくて、もっと自由度の高い曲が増えているというか。その中でお互いのプレイがしっかり合ったときは、やっぱりいいですよね。
今はもっと自然なダイナミズムのほうが好き
──そういえば最近のバンドって、キメが多くてリズムが細かい曲を好みますよね。
田中 そう言われるとそうですね。
──現在のGRAPEVINEはその対極にあると言えるかも。グルーヴがさらに大きく、豊かになってるというか。
田中 意外と緻密にやってるんですけど、自分たちで曲を作ったりアレンジしたりしてる中で、あまり細かいことをやると小賢しく感じてしまうんですよ。今はもっと自然なダイナミズムのほうが好きなんでしょうね。
──サウンドもバンドのダイナミズムをより強く強調する方向になってるし。
西川 そうですね。今回はこのアルバムならではの録り方というか、前のアルバムとは全然違う感じで、ちょっと派手になっているのかもしれない。エンジニアさんもずっと一緒にやってる方で、そのときによって新しいトライをしてくれていて。
──こういう音で録りたい、っていう話もするんですか?
西川 全体的なことというより、「その曲をどう録るか?」っていう感じですね。プリプロをやってるときも、「こういう感じはどう?」とか言いながら、よくレコードを聴いてますから。「いいねえ」って、そのまま1枚全部聴いちゃったり。
田中 そういうことはよくあります(笑)。
──みんなで一緒に聴くというのが大事なのかも。
田中 うん、そうですね。
西川 最近はそれぞれが音を持ち帰って、家でアレンジを加えたりもできるじゃないですか。このバンドはそういうことが一切ないですから。
田中 家で曲を作ったときも、ちゃんとCDに入れてきて、みんなで一緒に聴くっていう(笑)。
西川 ほかの方法を知らないから、なんとも言えないですけどね。ただ、ひとりでアレンジを加えて、それを次の人に送るっていうのは、なんかさみしいものがあるなって思いますけど。
田中 レコーディングはやっぱり、バンドでやったほうがいいですよ。
亀井 ジャムセッションから曲を作ることも少しずつ増えてますからね。
──本当にバンドらしいバンドですね。それがこのアルバムのダイナミズムにもつながってると思うし。
田中 自分たちがどこまでやれてるかはわからないですけどね。でも、そういうものを生み出したいなっていう気持ちはあります。
コメントカード企画「真昼の特選街」
ニューアルバム「真昼のストレンジランド」の発売を記念して、コメントカード企画「真昼の特選街」がスタート。アルバム購入者からコメントカードの募集を実施している。
コメントカードは下記の専用応募フォームほか、郵送、Twitterなどさまざまな方法で募集中。応募コメントはGRAPEVINEのメンバーが直々にすべてチェックし、メンバーお気に入りのコメントカードを作ってくれた人にはメンバーから感謝のお返しがあるとのこと。
CD収録曲
- Silverado
- This town
- ミランダ(Miranda warning)
- Neo Burlesque
- おそれ
- Sanctuary
- Dry November
- 真昼の子供たち
- 411
- 夏の逆襲(morning light)
- ピカロ
- 風の歌
DVD収録内容
- 真昼のストレンジランド (ドキュメント)
GRAPEVINE(ぐれいぷばいん)
田中和将(Vo, G)、西川弘剛(G)、亀井亨(Dr)の3人からなるロックバンド。1993年に元メンバーの西原誠(B)らを含めた4人で結成された。1997年にミニアルバム「覚醒」でデビューし、1999年リリースの3rdシングル「スロウ」がスマッシュヒットを記録。骨太なロックサウンドと文学的な歌詞で、多くのファンを獲得している。2002年に腱鞘炎のために西原が脱退。以降は3人にサポートメンバーを加えた編成で活動を続けている。また、2010年にはギタリスト/プロデューサーの長田進と「長田進 with GRAPEVINE」名義でアルバム「MALPASO」を発表し、話題を集めた。