後藤輝基の実姉も参加したカバーアルバム第2弾「ホイップ」プロデューサー藤井隆が吉田豪と解説

フットボールアワー後藤輝基が歌うカバーアルバム第2弾「ホイップ」が5月17日にリリースされた。

前作に引き続き藤井隆がプロデュースを務めた本作では、後藤が音楽的な影響を受けたという実姉がゲストボーカルとしてSelfish「自由になって」のカバーに参加。またスターダスト☆レビュー「想い出にかわるまで」には、作者である三谷泰弘(esq / ex. スターダスト☆レビュー)がコーラスとピアノで加わった。これらの楽曲を含め、アルバムには藤井が後藤に歌ってほしいという観点で選んだ珠玉かつマニアックな7曲を収録。アレンジはすべて⻫藤伸也(ONIGAWARA)が担当した。

今回音楽ナタリーでは藤井の提案により、事前に後藤へ「ホイップ」に関するコメント取材を行い、そのコメントに対して藤井が回答や解説をしていくという2段階のインタビューを実施。プロデューサーとしての藤井について、レコーディング秘話、各収録曲の印象など、2人にそれぞれの視点から語ってもらった。

取材・文 / 吉田豪撮影 / 斎藤大嗣
衣装協力 / elephant TRIBAL fabrics、RattleTrap

後藤くんの色気をもっと伝えたい

──「ホイップ」、相当とんでもない作品でしたね。

藤井隆 ホントですか!? よかったー!

──藤井さんがプロデュースした後藤さんのデビューアルバム「マカロワ」(2022年5月発売のカバーアルバム第1弾)も異常な選曲だと思ってたんですけど、前作はあれでもまだこっちに歩み寄ってたことに気付きました。カップリングとはいえWinkの曲だし、とか。

藤井 ハハハハ! そうですよね。

左から吉田豪、藤井隆。

左から吉田豪、藤井隆。

──正直、今作はラスト2曲、「REALITY」と「てぃーんずぶるーす」以外まったく原曲を知らなかったです。

藤井 あれ? 安藤秀樹さん、ご存じなかったですか?

──もちろん存在は知ってますけど、曲自体は聴いたことがなくて。スターダスト☆レビューにしても代表曲なわけでもないし、SelfishはWikipediaすらなかったですからね。

藤井 え、そうなんですか!?

──公式ホームページはあったんですけど、それも20年ぐらい前で更新が止まってて、なんの情報もなくて。でも、藤井さんの一貫したセンスというか、やりたいことみたいなものはすごく見えました。

藤井 うわ、よかった!

──シティポップが世界的に再評価されている中で、今作の収録曲も1980~90年代のシティポップと呼んでもいいはずのものなのに、まだちゃんと評価されないままブックオフに並びがちというか。だからこそ藤井さんのプロデュースは、これらの名曲をきちんと現代に生まれ変わらせようとする行為に見えたんです。

藤井 結局、自分の頭の中にあるものしか出せないんですよね。そのうえで今回の選曲は、好きだけど自分で歌いはせえへんと思うものにしました。「REALITY」とか「てぃーんずぶるーす」は口ずさんだりはしますけど、やっぱり「自由になって」「スローなDanceは踊れない」「想い出にかわるまで」「はじまりの予感」「逃げたりしない」はカラオケでも絶対に歌わへんし。

──その頭5曲が攻めすぎなんですよ。

藤井 ハハハハ! そうですか(笑)。

──最後の「てぃーんずぶるーす」でようやくこっちに迎合してくれたというか、「知ってる曲が来た!」となりました。その前の「REALITY」も、聴けば世代的に「映画『ラ・ブーム』の主題歌だ!」ってわかるんですけど、歌っている人の名前も知らなかったので。

藤井 単純に自分が好きな曲を選んだというだけのことなんですけど。ただ、前作で後藤くんとツアーを回らせてもらったのが本当に楽しかったんですよ。「マカロワ」のときは女性の曲を歌ってもらったら彼の色気が伝わるんじゃないかと思ったんですけど、今度は一人称が「僕」の曲で、男性女性問わずファンの方をうっとりさせたいというか。後藤くんがステージでカッコよく見える曲がいいなと思って選んだのがこの7曲なんです。

──そんな感じでかなり特殊なアルバムなんですけど、この取材も独特なスタイルを導入すると聞きました。事前にナタリー編集部が後藤さんを取材して、そのインタビュー映像を観ながら僕らがコメントしていくという。

藤井 ぜひ後藤くんにも話を聞いてほしかったんですけど、僕だって豪さんに会いたいし(笑)。それなら、と思ってこの形になりました。

──じゃあ、チャレンジしてみましょう!

左から吉田豪、藤井隆。

左から吉田豪、藤井隆。

カバーアルバム第2弾をリリースすることについて

後藤輝基 藤井さんがまたやってくれんねやって感じですね。前作の「マカロワ」をリリースしたときにやったライブで新しい手応えがあったように僕は感じて。あのライブをまたやるためにはアルバムが必要だったというか。藤井さんからも「今回の選曲はライブを想定している」と常々聞いていましたし、前回のライブが楽しかったのが大きいと思います。

藤井 おっしゃる通りです。絶対にステージをやりたいという思いがありました。ステージをやるには新しい音源が欲しいけど、「ジェッタシー」(「ゴッドタン 芸人マジ歌選手権」で後藤が制作したBLANKEY JET CITY風の楽曲。正式名称は「ジェットエクスタシー」。)のような後藤くんのオリジナルソングに僕は手を出せない。だから自分が絶対に歌ってほしいと思う楽曲を用意した感じですね。

──基本、テーマは“色気”なんですね。

藤井 「もったいない」って思うんですよ。後藤くんの色気をもっと伝えたい。もちろんキャッチしている方はいらっしゃると思うんですけど、ほとんどの人はテレビで観るツッコミの印象が強いんじゃないかな。怖そうに感じる方もいらっしゃるかもしれない。でも僕は彼にいつも柔らかい雰囲気を感じるんです。

──後藤さんのライブを観るとわかりますよね。MCではちゃんと笑いを取るけど、歌に入った瞬間に色気が出る。

藤井 若い頃、ファンに「キャーッ」と熱狂された人が持つ特有の色気ってあるんですよね。それを現代にもう一度呼び起こしたいと思っています。

タイトル「ホイップ」について

後藤 僕が名付けたというか、名付け始めようとしたときに出た単語の1個目なんですよ。藤井さんと「タイトルは何にしましょうか?」と話していたときに、「後藤くんは今、何に興味ある?」と聞かれたので、「最近甘いものに興味がありますね。生クリームばっかり食べてます」と答えて。「例えば『ホイップ』とかね」と案を出したら(興味なさそうに)「あー、いいんじゃない?」みたいな感じで決まりました(笑)。「ホイップ」ってクリームのほかにどんな意味があるのか調べてみたら、「盛り上げる」とか「鞭を打つ」みたいな意味もあったんです。僕が歌うのは、いつもの仕事とは違う筋肉を使って自分に鞭を打つ部分もありますから。まあ、思いっ切りこじつけですけど。

──「terukinland」(アルバムの宣伝用に開設された掲示板)でずっと匂わせでホイップクリームの画像を上げ続けてましたね。

藤井 本人は匂わせを通り越して“嗅がせ”って言ってました(笑)。一緒にやってる番組でも、おやつに生クリームのお菓子を選んでいたりして、ブームなんですって。なんかかわいいじゃないですか、ホイップって。

藤井隆

藤井隆

お姉さんの歌声に思わず涙

──じゃあ、ここからは1曲ずつ掘り下げていきましょう。

自由になって(オリジナルアーティスト:Selfish[1992年])

後藤 今回の曲はすべて藤井さんの案です。だから僕はほとんど知らない曲なんですけど、このアルバムを楽しみにしてくれていた人はびっくりすると思います。収録曲の1曲目の第一声が姉なんですよ(笑)。2人いる姉のうち上の姉ちゃんなんですけど、歌手を目指していたことがあるんです。「マカロワ」をリリースしたときもインストアライブからBillboard Liveからほとんど観に来てくれて。自分が立ちたかったステージに弟が立っているのをすごく喜んでくれた。その話を藤井さんにしたら、ずっと覚えていてくれていて、2作目を作ると決めたときにはもう、姉ちゃんに入ってもらうつもりだったみたいです。「何を言ってるんだこの人は?」と思いましたけどね(笑)。そもそも家族で唯一テレビに出ていない人だから、「そんなのやるわけないやん」と思っていたんですけど、意外とすぐOKやった(笑)。

気が付いたら僕のおらんところで姉ちゃんと藤井さんとスタッフで音合わせをやってたんですよ。こういうこと、藤井さんはようやるんです! 昔も僕がいないところでウチのオカンとバラエティを撮っていたりとか(笑)。でも音合わせの現場で、姉ちゃんの明らかにだいぶ練習したであろう歌声を聴いて、藤井さんは泣いていたそうです。もちろん歌のうまさとかじゃなく、それだけ思いを込めて練習してきてくれたことがうれしかったみたいで。

姉ちゃんは顔は映ってないですけど、ティザー映像にも出演してます。2人で見つめ合って歌ってくれと言われたのがホンマに恥ずかしくて嫌やった! こんなに長いこと見つめ合ったのは49年間で初めてですよ。歌のレコーディングより、よっぽどやりにくかった(笑)。初回限定盤の裏ジャケットに後ろ姿で写っていたりとか、ピントをぼかしたりとか、デビュー当時の岡本真夜さんみたいな出方をしてるんで、ぜひ観てみてください。

藤井 後藤くんにもう1回歌ってもらいたいと思ったのは、後藤くんの上のお姉さんの存在が大きいんです。

──後藤さんに音楽的な影響を与えたお姉さんなんですね。

藤井 はい。そのお姉さんが原田真二さんをよく聴いていたそうで、そこにグッと惹かれたんです。後藤家みたいにお姉ちゃんがいる男の子ってやっぱり独特ですよね。ココリコの田中(直樹)くんもそうなんですけど、あのソフトな感じが僕が好きな要素の1つで。

──お姉さんは何をされてる人なんですか?

藤井 普通のお仕事ですよ。

──それであの歌唱力!

藤井 そうなんですよ! 2枚目のアルバムを作ることになったとき、絶対にお姉さんに歌ってもらおうと決めていたんです。断られてもいいから、1回は口説こうと思って。お願いしたら最初はもちろん「いやいやいや、とんでもないです」とおっしゃったんですけど、一緒にライブに来てくださったお子さんと旦那さんが「やったほうがいい」と後押ししてくれて(笑)。

──家族が説得してくれた(笑)。

藤井 はい。そのおかげで「家族がそう言うならやらせていただきます。NGはないです。なんでもやります」と言ってくださって。実はそのとき、お姉さんの歌声はまだ聴いたことがなかったんですけど、絶対にうまいと確信があったんです。それでも大阪でキー合わせをさせてもらったときに初めて歌を聴いてびっくりしました! もうすでに仕上がっていたから。一度でも歌手になりたいと思った人の持つ輝きはすさまじくて、やっぱり間違っていなかった、お声がけしてよかったなと思いました。

──あの歌い出しで「間違って違う曲を流しちゃった?」と思ったぐらい戸惑いました。後藤さんのお姉さんがレコーディングに参加すると聞いて、てっきりコーラス程度だと思ってたんですよ。だから、知らないゲストのソウルシンガー的な人が参加してるのかと思ったりして。

藤井 歌唱力、えげつないですよね。自分より年上のお姉さまがレコーディングするときに前日から東京に来て、ベストパフォーマンスをするために一生懸命やってくださる姿に胸を打たれて……。

──それで思わず涙が?

藤井 お恥ずかしながら。後藤くんのお姉さん、すごくおきれいなんですよ。スタイルがよくて、背も高くて、オーラがある方やから、歌手に憧れていたというのがよくわかります。そんな方が慣れないスタジオに入ってくださって、チャレンジしてくださったことが本当にうれしかった。何がすごいって、緊張して声が震えることもなく、そのときにベストを叩き出せるんですよ。やっぱりすごい一家なんだなと思いました。

藤井隆

藤井隆

──今後、お姉さんがライブに参加する可能性もあるんですか?

藤井 「大阪のインストアイベントは絶対にお願いします」とはお願いしています。“シークレットゲスト・YOKO”と先に打ち出してしまって、まずは来ていただこうと。

──これぐらい派手に参加してたら彼女抜きにはできないですよね。

藤井 そうなんですよ。このアルバムを聴いていただいて、YOKOに会ってみたいと思った方のご期待に沿えるように僕、命懸けで口説きますので。顔出しはちょっとできないんですけど。

──裏ジャケにお姉さんの後ろ姿が載っていますね(笑)。

藤井 これがすごくいい写真だったから、「使わせてもらえないですか?」って後出しでお願いして。そしたら「まあ、後ろ姿なら」とOKをいただいたんです。

──つまり、最初からジャケ撮影の現場にお姉さんを引っ張り出してたわけですか。

藤井 そうなんです。お姉さんを絶対撮りたくて。ちょっとしたビデオにもご出演いただきました。お姉さんとてるきん(後藤)が姉弟で歌う「自由になって」、すごく気に入っていて、よく聴いてます。

──ちなみにSelfishのデビューアルバム、編曲が全部船山基紀さんなんですよね。盲点だったのでちゃんと聴きます。

藤井 ぜひ!