ゴスペラーズ「Pearl」「G30 -Beautiful Harmony 2-」特集|30年の歳月が生み出した真珠のような新作 (2/2)

キュンキュンしてもらいたい「You are my girl」の続編「Dear my girl」

──EPの3曲目に収録されている「Dear my girl」はどのように作られた曲ですか?

村上 今年はゴスペラーズのアニバーサリーだし、セルフサンプリングというか、自分たちの過去の楽曲を土台に新しいものを作れないかなと考えていたんです。どの曲でそれができるか模索していて、酒井もほかの曲でいろいろ試してみたりしていました。

酒井 例えば、アカペラ曲をチョップして新しい構成にしてみるとかね。

酒井雄二

酒井雄二

村上 そんな中、「You are my girl」という20年前の「Dressed up to the Nines」(2004年3月リリースのアルバム)に入っている曲がいい素材になりそうだと。僕らよりも音楽的知識が豊富な妹尾武さんに協力してもらい、「You are my girl」をベースにオリジナルのまま残す部分と、全然違うふうに組み上げた部分が混ざった新しいトラックを作り上げました。トラックメイキングは酒井が主導で、メロディは僕が主に担当しています。

──歌詞も「You are my girl」とのつながりを感じますね。

村上 「You are my girl」の歌詞を書いたのは安岡なので、そのエッセンスを引き継ぎつつ、相手への愛情がさらに深まった歌詞にしてほしいとお願いしました。

安岡 「You are my girl」を作ったときは、とにかく「君はかわいい」「君が好きだ」だけで1曲書いてほしい、というオーダーがあったんです。起承転結もなくひたすらそのテーマで進んでいく曲。今回の「Dear my girl」では、そんな20年前の曲に対するアンサーソングとして「毎朝目覚めたら、今でも君にラブレターを書いているよ」というメッセージを込めました。20年前の「You are my girl」を愛してくれた人に向けて、当時を思い出させる“秘密のパスワード”を「Dear my girl」の中にたくさんちりばめたので、ぜひキュンキュンしながら聴いてもらいたいです。

安岡優

安岡優

村上 ちなみに作曲にK-Mutoくんがクレジットされているのは、20年前のトラックの音源を使っているから。今回のアレンジも彼にお願いして、2024年版として仕上げてもらいました。

「四六時中お互いを想っている」僕らの関係を曲に

──「24/7」は村上さんが作詞作曲を手がけていらっしゃいますね。

村上 僕はコロナ禍でSNSを本格的に始めたんですけど、例えば深夜の4時48分にコメントを書くと、ファンの方からすぐ反応が返ってくる。SNSを通じて、ファンの方たちの「ずっと継続している思い」に改めて気付かされました。そこから「四六時中お互いを想っている」という歌詞にしています。

村上てつや

村上てつや

──ライブでも盛り上がりそうな曲ですよね。

村上 はい。曲自体は1969年から1972年くらいのアメリカンフォークやソウルミュージックを意識していて、そのあたりはかなりマニアックな部分もありますが、そういった曲を披露する場所があるのは本当に幸せだなと感じています。しかも、今一緒にツアーを回っているメンバーとレコーディングしようと決めていて、バンマスの本間将人さんにアレンジをお願いしました。1人のトラックメーカーが作り上げる世界も素晴らしいですが、今回みたいにマンパワーを集めて作り上げる面白さは格別ですね。

黒沢 バンドメンバーと言えば、「東京スヰート」のビッグバンドアレンジも、「高崎音楽祭」でビッグバンドコンサートを続けてきたからこそ生まれたアレンジだと思うんです。ファンにとって思い入れのある曲が、僕たちの歴史と一緒にさらに深みを増して、特別なものになったなと感じます。

黒沢薫

黒沢薫

カップリング集でたどるゴスペラーズの変遷

──さて、今回は5枚組のカップリングコレクション「G30 -Beautiful Harmony 2-」についてのお話もお伺えたらと思います。1人1ディスクずつ紹介していただけますか?

酒井 まずDISC 1ですが、デビュー直後はメンバーがそれぞれ曲を書いて持ち寄らないと、そもそも曲数が足りない状況でした。その結果、カップリングの曲もどんどん増えていき、「ゴスペラーズのカップリングはいい」という評価をレコード会社の中でもいただけるようになって。どういう経緯だったかは覚えてないんですけど、シングルを買ってくれる方への“お礼”のような意味合いもあって、「アルバムにはカップリング曲を入れない」というスタンスを続けていたんですよ。そういう意味でもカップリング曲には特別な思い入れがありますね。

北山 僕らにとってカップリングというものの位置付けがすごく大事だったんです。シングル候補と最後まで競り合ったけど選ばれなかった曲を、そのままカップリングとして収録することも多かったし。例えばDISC 1の冒頭に入っている「Just Feel It」はデビューシングルのカップリングですけど、「アレンジでこんなにカッコよくしてもらえるんだ!」と思った記憶がありますね。

北山陽一

北山陽一

黒沢 DISC 2に収録されているのは、自分たちの好きな音楽性をもっと前面に出してもいいんじゃないか、と思い始めた頃のカップリング曲です。いわゆるジャパニーズR&Bが音楽シーンに浸透し始めたタイミングで、僕らの音楽性やアルバムの世界観を補完するような曲が多く収録されています。例えば、「LOVE MACHINE」やジョーの「No One Else Comes Close」、「This Christmas」(ダニー・ハサウェイのカバー)など、ソウルミュージックやR&Bを志向した曲がどんどん増えていって。

村上 1つ付け加えると、DISC 1には1994年から1999年までの曲が入っていて、DISC 2には1999年から2002年までの3年間の曲が収録されています。この時期は本当にリリースラッシュでした。DISC 3はA面にはならなかったけれど、アルバムや自分たちの音楽性を補完するような曲も出てきた時期で。ギリギリまでシングル曲と競り合ったものや、高校サッカーのテーマソングやCMに使われた曲もある。スキマスイッチの常田真太郎くんに作詞とアレンジをしてもらった「バードメン」なども、この時期のリリースですね。

安岡 DISC 4には、15周年から20周年に向けての時期の曲が多く収録されています。いろいろと思い出深い曲が多いですね。この頃から、「ゴスペラーズだからお願いしたい」といろんな方面から声をかけてもらえることも増えてきました。「ウイスキーが、お好きでしょ」もその1つ。もともとは石川さゆりさんが歌っていた曲で、「今度は男性ボーカルで歌ってほしい」とオファーをいただきました。CMで使われ、ちょうどハイボールブームが始まりましたし、当時の僕らにとっては最大のヒット曲だったんじゃないかな。今でも歌うと「あのCMで歌ってたゴスペラーズだね!」と言っていただけることが多くて、名曲をカバーさせてもらったのもいい経験になりましたね。

ゴスペラーズ

ゴスペラーズ

──「永遠に - a cappella -」はどんな経緯で生まれたのですか?

安岡 このバージョンが収録されたシングル「BRIDGE」は、東日本大震災のあとに5人で作ったんです。当時、電気やマイクがない場所で歌うことが増えるだろうと考え、「永遠に」をアカペラでアレンジすれば、聴きに来てくれた方たちへのプレゼントになるはずだと。もともとは短めにアレンジしていたのですが、改めて妹尾武さんにお願いしてフルコーラスでアカペラアレンジにしていただきました。今ではいつでもどこでも、5人がそろえば歌える曲になり、すごく思い入れが強いですね。

北山 DISC 5には最近の僕たちの活動が詰まっています。英語バージョンの「HITORI」や「Forever Love」などもその一例ですね。それに、ここ最近は僕たちよりも下の世代の人たちが、レコード会社や映画会社、CMを手がける企業などそれぞれの場所で企画をする立場になってきて、彼らが「ゴスペラーズと一緒にやってみたい」と思ってくれることが増えたなと感じます。結成当時、先輩から「グループは続けるためにあるわけではないが、続かないと意味がない」とアドバイスを受けたことがあって、当時は「ふーん」って感じだったんですけど(笑)、こうして今まで続けてきたことで得られたご褒美のようなものを感じることができて、本当に感謝しています。

黒沢 それは確かにあるね。

北山 常にもがきながら続けてきたことが、ここにきて報われているのかもしれませんね。「愛の歌 2024」は「東京スヰート」と同じくビッグバンドアレンジを採用していて、ビッグバンドコンサートの経験を積み上げてきたからこそ、巨匠である笹路さんにお願いすることができたんだと思いますし。「いろは 2010」や「CENTURY」も、オーケストラとの共演というご褒美的な機会に恵まれて、そのライブバージョンをこうして皆さんにお届けできることは本当にうれしいことだなと。

村上 こうやって振り返ってみると、カップリングでもA面と遜色ないほどいい曲に仕上がっていることに、ちゃんと理由があると改めて思いますね。なかなかのボリュームですが、楽しんでもらえたらうれしいです。

ゴスペラーズ

ゴスペラーズ

公演情報

ゴスペラーズ 30周年記念祭@日本武道館

  • 2024年12月20日(金)東京都 日本武道館
  • 2024年12月21日(土)東京都 日本武道館

ゴスペラーズ 30周年記念祭@大阪城ホール

2025年1月13日(月・祝)大阪府 大阪城ホール

プロフィール

ゴスペラーズ

北山陽一、黒沢薫、酒井雄二、村上てつや、安岡優の5人からなるボーカルグループ。1994年にシングル「Promise」でメジャーデビュー。以降、「永遠(とわ)に」「ひとり」「星屑の街」「ミモザ」など、多数のヒット曲を送り出す。他アーティストへの楽曲提供やプロデュース、ソロ活動など多彩な活動を展開する。2022年7月には提供曲のセルフカバーアルバム「The Gospellers Works 2」をリリースした。2023年8月には5組のアーティストから楽曲提供を受けたEP「HERE & NOW」をリリース。同年9月から2024年1月にかけて、全国ツアー「ゴスペラーズ坂ツアー2023 “HERE & NOW”」を行った。メジャーデビュー30周年を迎えることを記念して、2024年11月に新作EP「Pearl」、12月にカップリング集「G30 -Beautiful Harmony 2-」をリリース。