ゴスペラーズ「HERE & NOW」インタビュー|ゆかりある若手5組が表現したゴスペラーズの“現在地”

ゴスペラーズが今年9月にスタートする全国ツアーに先駆け、ツアーと同タイトルの新曲5曲を収録したEP「HERE & NOW」をリリースする。本作はそのタイトル通り、「メジャーデビュー30年目を目前に控えてもなお、ゴスペラーズの真髄は“今、ここ”にある」という意思を感じさせるような、彼らの「現在進行形」が詰まった作品である。例えば国内外で注目を集めているビートボックスクルー兼音楽プロデューサー集団SARUKANIや、浪岡真太郎と大島真帆によるソウルフルな男女ボーカルを軸にした6人組バンドのPenthouse、長崎在住の高校生ボカロP・晴いちばんら新進気鋭のアーティストが楽曲を提供。「ゴスペラーズとは何か?」というテーマに各々が対峙し、外側から「今のゴスペラーズ」に輪郭を与えていくような内容に仕上がっている。

J-POPシーンにおける「ボーカルグループのパイオニア」として不動の地位を確立した彼らが、今なお後輩アーティストたちと盛んにコラボし自身をアップデートし続けているのはなぜなのか。メンバー全員に話を聞いた。

取材・文 / 黒田隆憲撮影 / 梁瀬玉実

コンポーザー集団としての実力を見せたSARUKANI

──今回は、新作EP「HERE & NOW」について1曲ずつお話を伺っていきたいと思います。まず1曲目の「XvoiceZ feat. SARUKANI」はSARUKANIとのコラボソングですが、彼らとはどのような経緯で知り合ったのでしょうか。

北山陽一 実は、昨年7月にリリースされた「The Gospellers Works 2」のときにも「SARUKANIと何かできないか?」という話は出ていたのですが、そのときはタイミングが合わず実現できなかったんです。その後、あれよあれよという間に彼らは有名になってしまったので、今回は受けてもらえないんじゃないかと思ってドキドキしていたのですが(笑)、ようやく一緒にやることができました。

ゴスペラーズ

ゴスペラーズ

──黒沢さんは、個人的にも彼らと交流があるそうですね。

黒沢薫 はい。若手ミュージシャンたちとの集まりでメンバーのSO-SOと出会ったのがきっかけでした。彼はとても気さくで、ビートボックスをその場で披露してくれたんですよ。エフェクトとか通すわけでもなく、本当に生声でシンセみたいなフレーズを出していることに「いったいどうなってるの?」とびっくりして。なので、北山が前作でSARUKANIの名前を出したときから「よしよし!」と思ってました(笑)。

──本当にこれ、「声」だけでトラックを作っているんですよね?

黒沢 ギターやオルガンみたいな音も、全部声でやっているんですよ。

北山 もちろん、レコーディングではある程度エフェクトをかけている部分もあるとは思うんですけど、基本的にはエフェクトなしでやっているみたいです。

安岡優 「なんでこんなことできるの?」って感じですよね(笑)。

──ゴスペラーズの中で、ビートボックスやサウンドエフェクトを積極的に行っている酒井さんは、彼らにどんな印象を持ちましたか?

酒井雄二 SO-SOくんがトラックメイキングについて解説している動画とか、すぐ観に行くくらい驚きました(笑)。僕もビートボックスをやるときはありますが、基本的にはすぐ歌に戻らなければならないので、“その音を出すと声が潰れてしまうような音”は極力出さないようにしているんです。

酒井雄二

酒井雄二

村上てつや 出せるんだけど、出しちゃうと歌に響くっていうね。

酒井 「そのへんどうしてるの?」と実際にお会いしたとき聞いてみたのですが、SARUKANIでもそういう音を“のど系”と呼んでいて、ずっと出し続けられるわけじゃないと聞いてホッとしましたね。「彼らも同じ人間なんだな」って(笑)。

村上 彼らはパフォーマーとしての側面が強いと思うんですけど、今回はコンポーザー集団としても実力があることを示せたんじゃないかな。若いけどしっかりしているんだよね。もちろん、みんなでわちゃわちゃしている面もあるけど、ちゃんと地に足のついたところがあるし。やりとりをしていると芯の強さも感じられて頼もしいなと思いました。

村上てつや

村上てつや

黒沢 実は、この曲はタイトルから決めたんですよ。SARUKANIのみんなも最初どんな曲を作ったらいいのかつかめていなかったようなので、まずはタイトル決めのミーティングから始まりました。で、そのときに世代の話になり、「彼らは今『Z世代』なんて言われるけど、僕らも『X世代』なんて言われていた時期があったよなあ」みたいな話をしている中で、「曲の中に『X』と『Z』を入れてみたらどうだろう?」というアイデアが上がってきて。そこから「Xtreme VoiceZ」というフレーズが生まれ、曲のアウトラインも徐々に固まっていったという流れでした。

北山 SARUKANIにとっても、楽曲提供をするのはこれが初めての経験だったらしくて。今回、我々はできるだけ自分たちの歌や声を“素材”として提供する側に回り、歌詞やメロディは完全に任せました。「ここはこうしてほしい」みたいなやりとりは何度かあったのですが、その甲斐あって、すごくカッコいい仕上がりになったと思っています。総勢9人でのアカペラを経験したことで、ゴスペラーズとしての表現の可能性も広がったというか、だいぶ遠くまで行けたという感触を得ることができました。いつか、9人だけでこの曲をそのまま再現する日が来たらいいなと思っています。

Penthouseにしか書けない楽曲をストレートにぶつけてくれた

──続く「Summer Breeze」は、Penthouseの浪岡真太郎さん、大島真帆さんによる提供曲です。彼らとは、前回の「The Gospellers Works 2」ですでにコラボしていますよね。

北山 はい。三浦大知さんに提供した楽曲「Keep It Goin' On」のセルフカバーを、Penthouseの演奏でレコーディングしました。今回は楽曲提供のみお願いして、ゴスペラーズのいつものツアーメンバーとレコーディングしています。歌詞もメロディも「君たちの思うゴスペラーズでもいいし、僕らに『こういう曲を歌ってほしい』でもいい。歌詞も、ラブソングでもそうじゃなくてもなんでもいいよ」とお任せしたら、ブルーアイドソウル的な曲とソフトロック的な曲の2パターン作ってきてくれて。今回は、ブルーアイドソウル的な「Summer Breeze」を採用させていただきました。

安岡 僕らみんな、彼らのファンと言ってもいいくらいPenthouseの楽曲が大好きなんです。1990年代の、例えばアシッドジャズとかそういう音楽に対し、リアルタイム世代だった僕らの頃は試行錯誤しながら追いつこうとしていた素晴らしいミュージシャンがたくさんいたわけじゃないですか。でもあれから25年以上が経ち、僕らの子供世代になると、古今東西すべての音楽をフラットに聴くようになっていて。おそらくインターネットのおかげだと思うのですが、最先端の音楽も50年前の音楽も、同じ距離感で触れることができるようになったんですよね。そうすると、曲の作り方も変わってくる。もちろん彼らの才能に関しては言うまでもないのですが、こういうサウンドを力みなく作れるのは世代的な背景もあるのではないかと思いますね。ハーモニーもすごいんだよね。浪岡くんが積んでくれたんだけど。「カッコいいこと考えるなあ!」って(笑)。

──歌詞についてはどんな印象を持ちましたか?

安岡 今でいうシティポップな洗練された軽やかさがある。僕らが好きな、Penthouseにしか書けない楽曲をストレートにぶつけてくれたので、お願いして本当によかったと思っています。

村上 しかし、まさかこの曲調で「ペンキ」っていうワードを歌うとは思わなかったな。

黒沢 そうだね、この曲で一番びっくりしたのはそこかも。

安岡 この辺がPenthouseらしさでもあるよね。80'sっぽさとも言えるかも。

安岡優

安岡優

黒沢 わたせせいぞうや鈴木英人のイラストが思い浮かぶ。

安岡 わかる! あの感覚を、言葉1つでつかめるのってさすがだなあって思う。

「熱帯夜」を選んでくれるセンスの持ち主、YUUKI SANO

──「Mi Amorcito」を提供したYUUKI SANOさんは、ゴスペラーズ初のトリビュートアルバム「The Gospellers 25th Anniversary tribute『BOYS meet HARMONY』」にも「熱帯夜」で参加していた、ボーカルユニットUNIONEの一員だったのですね。

黒沢 そうです。YUUKIくんは今、いろんなアーティストに楽曲提供をしているのですが、その告知をしているTwitterを僕がたまたま見つけて声をかけました。彼はUNIONEを活動休止するときに「ソングライターになります」と言っていて、「がんばれよ」なんて励ましていたらさっそく結果を出していることに感慨深い気持ちになったんですよね。「じゃあ俺たちにも曲を書いてくれよ」と思い(笑)、TwitterのDMでオファーしたらめちゃくちゃ喜んでくれました。

北山 実は、トリビュートアルバムへの参加曲として「熱帯夜」を選んでくれたのもYUUKIくんだったらしくて。「熱帯夜」を選んでくれるセンスの持ち主なら信頼できるなと思ったんですよね(笑)。

北山陽一

北山陽一

安岡 ゴスペラーズをカバーするときに、あえてバラードを外すということは、僕らが持っている音楽性のいろんな側面を知ってくれているんだろうなって。しかも今回、バラードじゃなくてこういうラテン風味のアップテンポな楽曲を作ってくれたのがすごくうれしかったですね。そのことを直接本人に告げたら、「いや、むしろ『バラードを書いてほしいと言われたらどうしよう?』と思っていたんです」と言われました(笑)。

黒沢 YUUKIくんだけじゃなく、この曲の作家陣はみんなアカペラやハーモニーに造詣の深い方たちなんですよ。野口大志さんは高校時代にアカペラグループ・レプリカのベースボーカルとして活動していたし、佐伯youthKくんもボイパをやる人なので。

黒沢薫

黒沢薫

北山 SARUKANIでコーラスを組んだときもKoheyくんが相当喜んでくれたけど、この曲で僕がYUUKIくんの作ったコーラスに対し「こんな感じでどうかな?」と投げ返したときの興奮もすごかったです。「ゴスペラーズのハーモニーになってる!!」って(笑)。そうやって、僕らのことをよく理解してくれている人たちと、次のステップを一緒に踏むことができたのは本当にうれしかったですね。

安岡 ちなみにYUUKIくんのお母さんも、僕らの楽曲をすごく熱心に聴いてくれていたらしいですよ。