ゴスペラーズ「The Gospellers Works 2」特集|村上てつや、酒井雄二、北山陽一がセルフカバー集を徹底解説 (3/3)

08. 会いたくて(夏川りみ)
作詞:安岡優 / 作曲:黒沢薫 / 編曲:北山陽一

北山 僕は夏川りみさんのことを「歌そのものが歩いてる」と表現しているのですが(笑)、そのくらい圧倒的な歌声を持つシンガーなんです。

村上 よく飲み屋トークとして「今、日本で一番うまいボーカリストは誰?」みたいな話になったとき、必ず名前を挙げているのはりみちゃんです。非常に難易度の高い表現を事もなげにやり切ってしまうので、どれだけすごいシンガーかわかってない人も多いけど、僕自身「歌がうまいボーカリストのリスト」の上位から夏川りみを外した記憶はないです。

北山 そういう人に楽曲を提供すると、まさに郷さんと一緒。どうやっても彼女の曲になってしまうんですよね。

北山陽一

北山陽一

村上 なので、僕らがセルフカバーをする際に同じような楽器編成でアレンジし直しても太刀打ちできないなと。

北山 敵うわけがないですからね(笑)。僕らの持ち味を存分に出すため、アルバム最後の曲としてアカペラで締めることにしました。自分で言うのもなんですが、「これ、最初からアカペラの曲だったんじゃない?」と思うくらいしっくりいくアレンジになったなと思います(笑)。りみちゃんに曲を書けることの幸せは言葉で表し切れないですね。曲をお渡しして、それが返ってくるのが楽しみで仕方ない。女性なのでキーも変わっているし、まったく違う雰囲気の曲になるんですよ。

酒井 夏川さんのお酒の強さは語り尽くされているので今さら言うまでもないのですが、本当に強いんですよ(笑)。同じペースで飲んでいたらとてもついていけないので、いつも早々に離脱していますね。ほんと、敵わないことだらけです。

「おかえり」の気持ちで作ったセルフカバー集

──アルバムが完成して、今はどのような心境ですか?

北山 これは酒井さんも言っていたのですが、今回セルフカバーで取り上げた曲に関してはどれも「おかえり」と声をかけてあげたくなりましたね(笑)。アーティストに提供するときはいつも「行っておいで」という気持ちで送り出しているので。曲によっては21年くらい経って戻ってきたわけですから、それをどう迎え入れるか、ハグするのか握手するのか、いろいろあると思いますが、どの曲にもちゃんと「おかえり」と言ってあげて、ちゃんともてなしてあげることのできたアルバムじゃないかなと思っています。

──楽曲提供という形をとることで、普段のゴスペラーズとは違う魅力が出たうえに、今回セルフカバーをすることで、実験的な試みも行うことができた。そういう意味では本流のゴスペラーズ作品とはまた全然違う作品に仕上がっていますよね。

酒井 本当にそう思います。俺たちって、何をやっても肩に力が入っちゃうんですけど、今回はかなり脱力した状態で作れたアルバムです。以前、細野晴臣さんが何かのインタビューで「人に書く曲なら、カッコ悪いこともできるから」というようなことをおっしゃっていたんです。それって決して悪い意味ではなく、自分のために曲を書いているときのような緊張感から抜け出して、ベタなことから攻めたことまで、自分のやりたいことを存分にできるということだと思うんですよ。

北山 なるほどね。すごくよくわかる。

──本作での実験的な試みは、次のオリジナル曲を作る際に何かフィードバックされそうですか?

村上 レコーディング中は、ほかにもいろいろ試してみたけど作品には反映されていなかったこともあって。そういう実験も含めて今後の制作には生かしていきたいと思っています。Penthouseだけでなく、さまざまなアーティストやクリエーターからアドバイスをもらったので、作品作りのヒントみたいなものはたくさんちりばめられていた現場だったし。

北山 新しい出会いもありましたけど、「アカペラ2」を作ったときにお世話になった、とおるすさんが今回も参加してくださって。そういう意味ではこれまでの作品ともちゃんとつながっている。才能のあふれる頼もしい後輩がたくさん出てきたこともうれしいですし、僕らも体力をしっかり付けて、今回の制作で試せたことを次につなげていきたいです。

プロフィール

ゴスペラーズ

北山陽一、黒沢薫、酒井雄二、村上てつや、安岡優の5人からなるボーカルグループ。1994年にシングル「Promise」でメジャーデビュー。以降、「永遠(とわ)に」「ひとり」「星屑の街」「ミモザ」など、多数のヒット曲を送り出す。他アーティストへの楽曲提供やプロデュース、ソロ活動など多彩な活動を展開する。2019年12月にメジャーデビュー25周年を迎えることを記念して、初のシングルコレクション「G25 -Beautiful Harmony-」を発表。2021年3月に18年ぶりとなるアカペラアルバム「アカペラ2」をリリースし、同作を携えて行われたツアー「ゴスペラーズ坂ツアー2021 “アカペラ” #あなたの街にハーモニーを」の映像作品を12月に発表。2022年7月に提供曲のセルフカバーアルバム「The Gospellers Works 2」をリリースした。