ゴスペラーズ「The Gospellers Works 2」特集|村上てつや、酒井雄二、北山陽一がセルフカバー集を徹底解説

ゴスペラーズが、三浦大知のソロデビュー曲「Keep It Goin' On」や郷ひろみの「五時までに」、夏川りみの「会いたくて」など、これまで他アーティストに提供した楽曲のセルフカバー集「The Gospellers Works 2」をリリースした。

アレンジはメンバー自身が関わった曲もあれば、今をときめく音楽家集団Penthouseや、YouTuberとしても活動中のとおるすなどゴスペラーズの“DNA”を受け継ぐ気鋭のアーティストが手がけた曲もあり、J-POPシーンに残る数々の名曲の新たな魅力を存分に引き出している。そこで音楽ナタリーでは、村上てつや、酒井雄二、北山陽一の3人によるセルフカバー集の解説をお届け。楽曲提供した当時のエピソードや、セルフカバーする際に気を付けたこと、こだわったことなどざっくばらんに語り合ってもらった。

取材・文 / 黒田隆憲

01. DONUTS(テゴマス)
作詞:安岡優 / 作曲:村上てつや / 編曲:宇佐美秀文

村上てつや この曲はオファーをいただいてから、テゴマスの2人の声を思い浮かべながらメロディを書きました。彼らの持つ“永遠の少年性”みたいなものを、楽曲の中でなんとか表現したいという気持ちもありましたね。今回それをセルフカバーしたわけですが、むしろこのくらいの年代にまでなったからこそ、てらいなく歌えたところもある気がします。「押し入れの中から昔のドーナツ盤(レコード)を見つける」という、要するにテゴマスの親の世代が経験してきた恋愛エピソードに思いを馳せる設定じゃないですか。今、まさに自分たちがその年齢に達しているわけだし……酒井さんも今年で50歳になるわけでしょ?

酒井雄二 ついに50歳ですよ(笑)。こういう曲を、もし20年くらい前に歌っていたら、すごくラブリーな感じでお客さんに受け取られていたと思う。若い頃は「かわいい」とか「あざとい」とか、そういう言葉で形容されることにすごく抵抗があるじゃないですか。テゴマスのようなアイドルグループだったら、そのあふれ出るようなラブリーさを見せることもできる曲なんですけど、僕らは今の年齢だからこそこんなふうに歌うことができたのかなと思います。

村上 もともと楽しい曲調なんですけど、コーラスもオリジナルよりさらにシンプルなアレンジを心がけて。月並みな言い方ですが「楽しい曲にできたな」と思います。

村上てつや

村上てつや

北山陽一 アルバムの1曲目として包容力もありますよね。もし「Keep It Goin' On feat. Penthouse」を冒頭に持ってきたら、方向性がだいぶ絞られる感じはするかも。

酒井 ああ、確かにね。それだと「今回、攻めたアレンジで来るのかな?」と聴き手に思わせてしまっていたかも。

北山 そもそも提供曲だし、当時は自分たちがこうしてセルフカバーするなんて思ってもみなかったけど、やってみたら自分の年齢も忘れて本当に楽しく歌えたというか。あと、ゴスペラーズは5人いるから、2人で歌っていたものを5人で分担するので、人数でも勝てたかなと(笑)。リードボーカルが変わるところを、ゴスペラーズなりに5色に書き換えられたのも楽しかったですね。

02. Keep It Goin' On feat. Penthouse(三浦大知)
作詞:Jam / 作曲:黒沢薫、宇佐美秀文 / 編曲:Penthouse

酒井 飛ぶ鳥を落とす勢いでまさにブレイク前夜ともいえるPenthouseとは、なぜかご縁があってご一緒することになりました。ボーカルギターの浪岡真太郎くんは、「アオペラ」(音楽原作プロジェクト「アオペラ -aoppella!?-」)界隈でも制作に参加していたりしてね。もう1人のボーカルの大島真帆さんも「ゴスペラーズ、好きです!」と言ってくださるなど、本当に素敵なメンバーなんですよ。Penthouseは東京大学の音楽サークルで出会って結成されたというだけあって、今回のアレンジでもすごく「アカデミックな音楽的バトル」を見せてくれている。ゴスペラーズって、いつも何か新たな挑戦をしたりコラボをしたりすると「まだ早かったね」なんて言われがちなグループなんですよね。でも「Penthouseは今だろ!」と黒沢が力説していました。今のタイミングでこの曲が世に出ることにワクワクしています。

黒沢薫

黒沢薫

村上 レコーディング現場にももちろん立ち会ったんだけど、彼らは本当に音楽好きが集まったという感じで、まったくビジネスっ気のない会話をするんですよね。僕らもさんざん「素人集団」みたいなことを言われたけど、「出てくる音がよければ何が悪い?」みたいな(笑)、今思えば生意気なところがあったと思う。彼らの様子を見ていると、そんな自分たちが20代だった頃のことなんかも思い出したりして……それがすごくうれしかったし、実際に出てくるサウンドもフレッシュな彼ららしくて腑に落ちましたね。非常に思い出深いセッションとなりました。

北山 もともと「Keep It Goin' On」は三浦大知くんのデビューシングルなのですが、僕らがPenthouseをフィーチャーしてセルフカバーしたことで、大知くん、Penthouse、そしてゴスペラーズの楽曲に生まれ変わったわけですよね。であれば、いつかどこかでこの三者でライブなんてできたら最高だろうなと思っています。

03. Special Love(ジャニーズWEST)
作詞:黒沢薫 / 作曲:黒沢薫、竹本健一 / 編曲:Mori Zentaro

村上 この曲は、ジャニーズWESTが自分たちよりもちょっと上の年代を想定したラブソングが歌いたいということで、「ゴスペラーズらしい直球の楽曲をください」とリクエストされたのを覚えています。

北山 いわゆる「ジャニーズWESTへの当て書き」じゃなくてね。

村上 「ゴスペラーズの皆さんが、自分たちの新曲を作るような気持ちで書いてほしい」と。コーラスも含めてそういう曲を目指しました。

北山 普通、提供曲というのは、提供する相手の音楽性など考えながら当て書きで作るものなんですけど、今回は「それはやめてほしい」とのことだったので、自分たちが本気でオリジナル曲を作るつもりで仕上げてお渡ししました。

村上 音源を聴かせてもらったときには、スキルの高さに驚いたのを覚えています。今のアイドルたちは、歌や踊りは当然として、トークもお笑いも芝居もできちゃうんだから本当にすごいよなあって。

北山 ジャニーズのボーカルグループが、僕らでも歌ってハモるのが難しい楽曲に果敢にチャレンジして、クオリティの高いものに仕上げてくれたことの意味は大きいですよね。彼らの次に登場するボーカルグループたちにとっても、越えるべき指標ができるわけですから。そうやってアカペラの未来に思いを馳せると、楽しみなことばかりです。

酒井 セルフカバーをやる身としては、さらにそれを上回る楽曲に仕上げなければ……というプレッシャーは大きかったけどね(笑)。真っ向勝負というよりは、ちょっと別の角度からカバーしてみた曲。音楽には寿命や正解なんてなくて、アレンジ次第ではいくらでもよみがえることを証明できたかなと。僕らならではの角度でカバーしてみたので、ぜひ聴き比べてみてほしいです。