ナタリー PowerPush - ゴスペラーズ
被災地復興を願う新曲で人々の心に橋を架ける
曲ができたことで僕たちも救われた
──確かにゴスペラーズとしても個々のメンバーとしても、スタイルが既に確立されていますから、こういうふうに皆さんで歌詞を書くという新しい試みができたのは、こういうきっかけがあったからではないかと。
北山陽一 そうかもしれません。以前からずっと個々でできることとグループでできることの違いとか、5人が口を揃えて歌うことと1人のシンガーとして歌うことの違いについては、ずっとみんなで話をしてきたことではありました。でも今回の震災があって、改めてグループとして何ができるのかを考えましたね。5月に1日だけでしたけど、実際に5人で被災地に行って、肌で感じたことは、僕らにとってすごく大きなことでした。
──酒井さんは被災地を訪れたときに、何を感じましたか?
酒井雄二 「“瓦礫(がれき)”って言うな」っていうのがありますね。もとは家だったりしたわけですから。木のようなもの、鉄のようなもの、布のようなものって、僕は捉えてたんですけど、車でどれだけ走ってもそういうものがあるわけですよ。そういうものに地震や津波の恐ろしさを実感させられましたし、すごみをもって迫ってくるというか、圧倒されるということ以外、全く思考が停止していました。意味づけとか解釈とかを拒まれた感じでした。
村上 どう言ったらいいのかわかんなくなるんですよ。適切な言葉じゃないかもしれないですけど、「すごい!」って言っちゃいますから。
黒沢 平穏なところと、そうでないところの差がものすごく激しくて、頭が処理できないんです。数百メートルごとに景色が変わるんですよ。木が生えているところがあると思ったら、すべて流された場所が現れて、また数百メートル進むと普通に森があって……。何か声をかけたいけど言葉が出てこない。手助けしたいけど何から手をつけていいのかわからない。今回、曲にできたことは、僕たちにとっても、ある種、救われることになったのかもしれないなって思うんです。
北山 この曲ができたことによって、いつでもつながることができるんじゃないかなって。
ツアーを通じてこの曲を届ける
──9月30日からスタートするツアー(「ゴスペラーズ坂ツアー2011~2012 “ハモリズム”」)は来年の2月まで続きますね。
村上 そうですね。このツアーで「BRIDGE」を歌って、多くの人に届けたいと思います。
北山 震災支援に関してのミーティングをしているときに、安岡が「今一番困ってるところに行って何かしたくなるのも当然のことだけど『あなたのところに行って歌うよ』と、ずっと僕らは言ってきた。今特別な何かをやるよりも、そういう今まで続けてきたことを変わらず大事にしたほうがいいんじゃないかな」って言葉が、重しのようにズシッと来たんです。
安岡 多くの人が、人とのつながりについて考えたと思うんです。たとえ大地震が起こっても消えないものがあるんだってことに改めて気づいたと思いますし、みんなの町に行って歌うことがゴスペラーズにとって唯一“消えないもの”なんじゃないかと。
──だからツアーもいつもどおり、全国各地を回ろうと思ったんですね。
安岡 はい。今回もいろんな町をツアーで訪れる予定ですが、まだまだライブに来ていただけるような状態じゃない人もたくさんいらっしゃると思うんです。でも、「来年も来てくれるんだろうか」とか「再来年も来てくれるはず」とか、もしも思ってもらえれば、ライブ会場に来られなくても、そこに橋が架かると思うんですよ。今回のツアーで、被災地の方だけじゃなくて、僕らを応援してくれてるすべての人たちにそういうことを感じてもらえるようなライブをすることが、僕らにとって今一番大事なことなんです。
歌を届け続けることで責任を果たす
──そんなふうにゴスペラーズの音楽を待ってる人がいるということを考えると、今回の全国ツアーはすごく意味のあることですし、その前にシングル「BRIDGE」をリリースすることにも大きな意味があるんじゃないかと。
村上 そう思います。シングルのリリースが間に合って良かった(笑)。
北山 ここまで伝えたいことをストレートに表現した曲は今までなかったですから、ツアーで何回も歌うことでもっともっと意味が出てくるんじゃないかと思ってます。
酒井 パン屋さんにパンがなくなると困るというのがわかりましたよね。パン屋さんにはパンがあってほしいですし、パンを作るのがパン屋さんの役目だと思うんです。ゴスペラーズの歌が聴きたいなって思ってくれる人がいるのに、ゴスペラーズが止まってしまうっていうのはカッコ悪いことなので、ツアーで全国を回って、歌を届け続けることが、責任を果たすということなんでしょうね。
村上 ツアーのファイナルが福島になったというのも、大きな意味があるような気がします。もし今回福島で公演ができなかったら一生後悔するんじゃないかと思ったんです。
──ツアーで全国の人たちに「BRIDGE」に込めた思いも届けながら、皆さんもファンの人からパワーとエネルギーをもらって、福島にパワーを届けるということになりそうですね。
村上 そうなると思います。
黒沢 でも、東北はいつもすごく盛り上がってくれる地方なので、逆に僕らが元気をもらうかもしれませんけど(笑)。
ゴスペラーズ
北山陽一、黒沢薫、酒井雄二、村上てつや、安岡優の5人からなるボーカルグループ。1991年、早稲田大学のアカペラサークル「Street Corner Symphony」内で結成され、メンバーチェンジを経て、1994年にシングル「Promise」でメジャーデビュー。シングル「永遠に」「ひとり」が立て続けに大ヒットを記録し、トップアーティストの仲間入りを果たす。毎年精力的に全国ツアーを行う一方、他アーティストへの楽曲提供・プロデュースやソロ活動なども活発に行っている。2011年6月には約2年3カ月ぶりのオリジナルアルバム「ハモリズム」をリリース。9月にリリースするニューシングル「BRIDGE」は東日本大震災の被災地支援のチャリティシングルで、収益の一部を被災地支援活動のために寄付する。