ナタリー PowerPush - ゴスペラーズ
“ハモリ”を追求した音楽の旅 5人が振り返るそれぞれの旅行記
“ハモリズム”というコンセプトがないと書けなかった曲
──ビートルズサウンドにトライしているのは安岡さん作詞作曲の「Oh Girl」です。
安岡 いわゆるブラックミュージックだけじゃないところまで旅に行くとするならば、ロックというジャンルへ。しかも、その中でハーモニーに特徴があるのはビートルズサウンドかなということで、日本でも有数のビートルマニアである亀田誠治さんにアレンジをお願いしまして。この曲ではサウンドやコード進行をTHE BEATLESっぽくするだけじゃなく、コーラスのさじ加減に徹底してこだわりましたね。ハモリすぎちゃうとブラックミュージックまで戻っちゃう可能性があるし、ハモらないとTHE BEATLESまで届かないただのロックバンドになっちゃうから。この曲はまさに、“ハモリズム”っていうコンセプトがなかったら書き控えちゃうタイプだったと思います。
酒井 そういう意味で言うと「見つめられない」もこのコンセプトのおかげで浮かび上がれた曲ではありますね。ソウルミュージックのボーカルグループ、コーラスグループへの尊敬曲として僕が10年前に作ったんですけど、当時はこれをこのままやっても単なるコスプレじゃんってことになって。でも今回のコンセプトならやっても大丈夫だし、今なら「SOUL POWER」(鈴木雅之、ゴスペラーズ、Skoop On Somebodyが中心に毎年開催しているソウルミュージックのイベント)っていう、こういう曲を発表できる場もあるので、すごくかみ合ったんですよね。
──村上さんのファルセットが染みてくる名曲だと思います。
村上 歌うのはツライですけどね、ものすごく(笑)。
黒沢 ツライんだ(笑)。ファルセットは基本はおまかせだからね。
酒井 またカラオケで歌いにくい曲を作ってしまった感じですね(笑)。
──語りがあったり、その裏でコーラスが絡み合ったりと、聴くたびに発見があるのも楽しい曲でした。
村上 確かにそういう聴きどころはボーカルグループならでは。よく聴いてみると「ここではこんなことやってんだ」みたいな。そういう何が出てくるかわからない感じっていうのは、このアルバムにはけっこう詰まってるかもしれないですね。「BLUE BIRDLAND」とかは、ホントだったら歌詞のっけないだろっていうようなすごく器楽的なフレーズもあるし、途中ではものすごいジャズのハーモニーみたいな瞬間もあるし。
ゴスペラーズとしてのルールを壊す楽しさ
──そんなジャズナンバー「BLUE BIRDLAND」は、北山さんが松本圭司さんと多胡淳さんと一緒に手掛けた1曲です。
北山 僕らが今やっている音楽の根っこのひとつは、やっぱりジャズにつながっていると思うんですよ。ジャズを作ってきた人たちの遺伝子を、人によって濃淡があるにしろ僕らは受け継いでいる。なので、今のポップスをやってる人間として、そんなジャズへの愛が滲んでいる曲になったらいいなっていう思いがありましたね。自分としてはうまい具合のさじ加減でできたなとは思ってるんですけど。
酒井 うん、ジャズでありながら、ちゃんとポップスの国へ帰国してますからね。
黒沢 ただ、さっき村上も言ってたけど、Aメロの器楽的なメロディは最初「えぇ!?」って思った(笑)。けっこう覚えるのが大変でしたね。
安岡 ジャズの国をアテンドしてくれた北山さんは、この曲ではベースボーカルをほとんど歌わなくなっちゃったんですよ。なので僕がベースボーカルをやることになって(笑)。
北山 コーラスの一番下を安岡にやってもらうところがすごく増えたんですよね、この曲は。
安岡 でもすごく楽しい曲でした。ある種、ゴスペラーズとしての当たり前のルールを壊す楽しさみたいなものがあったんで。
──黒沢さんが作曲した「恋のプールサイド」は、THE BEACH BOYS的なアプローチですね。
黒沢 2~3年前にTHE BEACH BOYS大ブームが僕の中に来まして。そのときに書いた曲なんです。これもまた当時はお蔵になったけど、今回浮上してきたタイプですね。THE BEACH BOYSもロックンロールグループではあるんですけど、やっぱりロックの側面よりは重ねまくったコーラスの海が印象的なんで、そこをフィーチャーして。音的にはゴスペラーズとして今までにやってても全然おかしくないんだけど、あまりにドンピシャすぎるからあえてやってなかったところもあって。まぁでも、このテイストを優しくなりすぎない感じでやるには今回がベストなタイミングだったかなと思います。
──しかし本家に負けないほどのコーラスのパターン数ですよね。
黒沢 自分で作って言うのもなんですけど、パターンが多すぎてやってもやっても終わらないんですよ(笑)。終わったと思ったら、まだあそこが残ってたーみたいな。個人的には北山のベースボーカルが好きですね、この曲は。ゴリゴリすぎず、でもちゃんとサビの受け答えとして存在しているっていう、実はあまりゴスペラーズではやってない感じがいいなって。歌詞にストーリー性を持たせたことで、ちょっと大滝詠一さんが透けて見えてくる感じもありますね。今だからこそできる大人の遊び感全開です。
CD収録曲
- NEVER STOP
- 愛のシューティング・スター
- BLUE BIRDLAND
- なんどでも
- Shall we dance?
- Oh Girl
- 見つめられない
- 恋のプールサイド
- 明日
- 冬響
- Dreamin'
ゴスペラーズ
北山陽一、黒沢薫、酒井雄二、村上てつや、安岡優の5人からなるボーカルグループ。1991年、早稲田大学のアカペラサークル「Street Corner Symphony」内で結成され、地道な活動を展開する。メンバーチェンジなどを経て、1994年にシングル「Promise」で待望のメジャーデビュー。2000~2001年のシングル「永遠(とわ)に」「ひとり」が立て続けに大ヒットを記録し、トップアーティストの仲間入りを果たす。毎年精力的に全国ツアーを行う一方、他アーティストへの楽曲提供・プロデュースやソロ活動なども活発に行っている。