ナタリー PowerPush - ゴスペラーズ
“ハモリ”を追求した音楽の旅 5人が振り返るそれぞれの旅行記
ゴスペラーズが2年3カ月ぶりとなるオリジナルアルバム「ハモリズム」をリリースする。デビュー以来、ボーカルグループとして突き詰めてきた“ハモリ主義”のネクストステージを目指すため、彼らは今回あらゆる音楽ジャンルへの旅に出かけた。ルーツであるソウル、R&Bといったブラックミュージックはもちろん、ジャズ、ロックなど、それぞれのメンバーの嗜好を反映させた幅広い楽曲へとトライし、それぞれのサウンドに合わせた多彩なハーモニーを構築。そこにはこれまでに見たことのないフレッシュな表情もたっぷりと詰め込まれ、グループとしての可能性がさらに押し広げられている。デビュー17年目にして開いた新たな扉。大きな手応えを感じているメンバー5人に話を訊いた。
取材・文/もりひでゆき
コンセプトは「いろんな土俵でハモリまくる」
──アルバム「ハモリズム」は、どんなコンセプトで制作が進められたのでしょうか?
村上てつや デビュー15年を経て、次に出すアルバムは基本的にメンバーの書いた曲だけで作りたいなと、まずは思っていて。で、去年の頭に3カ月ぐらい休みをもらったあと、合宿で曲を作っていったんですけど、そこではなんとなくとりとめのない感じがあったんですよ。それぞれの曲がどうのではなく、“メンバーの作る曲だけで”っていうだけではちょっとなっていう。
──もうちょっと全体をまとめるコンセプトが欲しいと。
村上 そうそう。そこで、ハモリ主義、“ハモリズム”っていうコンセプトを掲げて、いろんな土俵でハモリまくるっていうのはどうだろうかという話になり。そう考えたら、みんなすんなり腑に落ちたんですよね。
──その土俵っていうのはいわゆる音楽ジャンルってことですよね。
村上 音楽の歴史の中でのいろんなジャンル、いろんなハーモニーをマップにして、そこを歩いてみた感じですね。まずはポップス、ジャズ、ソウル、ロックっていう、ちょっとティピカルなものをピックアップしていったというか。もちろん、人の声だけで作る音楽として究極であるアカペラ、ゴスペルっていうものはど真ん中に置きつつ。とは言え、そこが一番難しかったんですけど(笑)。
──先行シングルの「NEVER STOP」は最高のアカペラソングになってますよね。しかも、それがアルバムのオープニングを飾っているのが素晴らしい。ゴスペラーズとしての“イズム”も感じますし、メッセージ的にはこの先に向けた決意表明にもなっていて。
村上 「ハモリズム」ってタイトルなのにさ、最初からハモリが出てこなかったら変ですもんね(笑)。なので、そこは頭からガツンと。
こちらから先方にお伺いして楽しむ
──そこからは本当にさまざまな音楽との邂逅が待っています。ゴスペラーズとして今までに見たことのない表情もたくさん詰まっていますね。
酒井雄二 いわゆるミクスチャーっていう文化は、よそから借りてきたいろんな要素を取り込んで「俺らの曲だぜ!」っていう感じだと思うんですけど、僕たちの場合はこちらから先方に伺いましてですね(笑)、その場所をゴスペラーズとしてしっかり楽しんで帰ってくるっていう感じなんです。その辺の違いが僕たちらしいし、面白いところなんじゃないかなって思いますね。
安岡優 いろんな音楽のジャンルに対して、みんなが真摯に歌手として向き合ってますからね。
北山陽一 ある程度グループとして物心がついたあたりから「ゴスペラーズってこんな感じだよね」っていうイメージがメンバーそれぞれにあったと思うんですよ。でも今回は「こんな曲も書くんだ!」みたいな、ある種タガが外れる感じがすごく強くて。“ハモリズム”っていう強力なコンセプトを掲げたハモリ世界紀行(笑)においては、いろんな場所にとりあえず行ってみることが重要だったんです。で、あとからゴスペラーズとしてどうしようか考えるっていう。「俺らに行けるのかな?」とか「飛行機、通ってる?」とか、そういうことを最初に考えたんじゃ面白くないですからね。今回はその感覚を共有できたからこそ、メンバーそれぞれの個性や嗜好性が色濃く投影できたところもあって。
安岡 普段だったらゴスペラーズとして書き控えするような曲がスムーズに出せたってことなんですよね。今までだって別に出しても良かったんだろうけど、今回のコンセプトがそういう部分を引き出してくれたというか。
──ゴスペラーズとして斬新なジャンルであっても、ハモリという揺るぎない軸があるからものすごく安心して聴ける感じもありますよね。
北山 ゴスペラーズっぽくするにはどうしたらいいかということに、今まで散々四苦八苦してきたんですけど、今はどんな曲であっても「ゴスペラーズっぽいね」ってところまでは持っていけるというのが大前提としてあって。だからこそ、これだけみんなで安心して散らばることができたっていうのはあると思いますね。
黒沢薫 あとはね、今までやったことのないジャンルであっても付け焼刃な感じにならないっていうのは5人だからっていうのもあると思うんですよ。例えば1人でこれだけいろんなジャンルを網羅しようとすると、どうしても「ホントはあんまよく知らねぇんだよな」って曲が出てきちゃうと思うんですけど、うちらは5人それぞれに得意なジャンルっていうのがちゃんとあるから。例えばビートルズサウンドなんかは、愛がない人が上っ面だけなぞってやるとかなり危うい感じになると思うんですよ。でもうちにはちゃんと思い入れのあるメンバーがいる。そういうところが安定性みたいなところにつながっているっていうのもあるんじゃないかなぁ。
CD収録曲
- NEVER STOP
- 愛のシューティング・スター
- BLUE BIRDLAND
- なんどでも
- Shall we dance?
- Oh Girl
- 見つめられない
- 恋のプールサイド
- 明日
- 冬響
- Dreamin'
ゴスペラーズ
北山陽一、黒沢薫、酒井雄二、村上てつや、安岡優の5人からなるボーカルグループ。1991年、早稲田大学のアカペラサークル「Street Corner Symphony」内で結成され、地道な活動を展開する。メンバーチェンジなどを経て、1994年にシングル「Promise」で待望のメジャーデビュー。2000~2001年のシングル「永遠(とわ)に」「ひとり」が立て続けに大ヒットを記録し、トップアーティストの仲間入りを果たす。毎年精力的に全国ツアーを行う一方、他アーティストへの楽曲提供・プロデュースやソロ活動なども活発に行っている。