GOOD BYE APRIL「HEARTDUST」インタビュー|メジャー1stアルバムの“普遍性”をみのが深掘り

GOOD BYE APRILのメジャー1stアルバム「HEARTDUST」がリリースされた。

2023年4月、林哲司プロデュースのシングル「BRAND NEW MEMORY」でメジャーデビューしたGOOD BYE APRIL。アルバムには同曲のほか、土岐麻子やヒグチアイとのコラボ曲などが収録されている。

音楽ナタリーでは「HEARTDUST」のリリースを記念して、ボーカルの倉品翔にインタビュー。倉品と同い年であるみの(みのミュージック)がインタビュアーを務め、GOOD BYE APRILが理想とするポップス、普遍性を深掘りする。

取材 / みの(みのミュージック)文 / 安部孝晴写真 / 沼田学

お茶の間に届けたい

──「HEARTDUST」は待望のメジャー1stアルバムです。倉品さんはメジャーデビューについてどうお考えですか?

約13年間、インディペンデントな活動をしていたんですが、その間に音楽業界の流れも変わって。自分たちだけでいろんなアウトプットができるので、とりわけメジャーにこだわる気持ちはなくなっていました。世代としてはメジャーに憧れていた世代なんですけどね。

──平成初期生まれの我々は、メジャーデビューにキラキラしたイメージを持っていますよね。

そうなんです。でも、それがだんだんなくなってきた。自分たちがメジャーデビューを選んだのは、林哲司さんと一緒にシングルを作れることが決まっていたからで。あとはPANAM(GOOD BYE APRILの所属レーベル)の人たちと一緒にやってみたいと思ったからですね。

左から倉品翔(Vo, G, Key)、みの。

左から倉品翔(Vo, G, Key)、みの。

──PANAMのディスコグラフィには往年の名作がずらっと並んでいます。GOOD BYE APRILがその最新地点に位置付けられるというのは、皆さんの音楽性を考えるとアツい展開ですよね。

そもそも自分のルーツはシティポップやニューミュージックにあるので、70年代にたくさんの名盤をリリースしたPANAMからデビューできて、すごく筋が通っているなと思いました。メジャーへの憧れはなくなったけど、スタンダードなポップスを作りたいという気持ちは昔からずっと変わらなくて。自分たちの音楽をちゃんとお茶の間に届けたいし、そのためにはメジャーというフィールドが必要なんです。

──GOOD BYE APRILが目指しているのは、音楽業界にまだお金があった時代のサウンドですよね。倉品さんは日本がすごく元気だった時代の音楽に影響を受けていらっしゃる。

確かに(笑)。ポップスと呼ばれるものを構築するうえで、メンバー4人の音だけではどうしても足りない部分があって。昔からストリングスを入れたり、ホーンセクションを入れたり……でも、それには当然予算がかかる。ポップスを作るにはある程度のお金が必要なので、そういう意味でもメジャーデビューできてよかったです。

左からみの、倉品翔(Vo, G, Key)。

左からみの、倉品翔(Vo, G, Key)。

──インディーでリリースした4枚のアルバムと比較して、今作でグレードアップした部分やスケールアップした部分はありましたか?

曲の作り方ですかね。前作(2022年リリースのアルバム「swing in the dark」)や前々作(2020年リリースの「Xanadu」)では、実験的な曲作りをしていたけど、今作では普遍的な楽曲を作るためのビルドアップをしました。林さんから学ぶこともたくさんあって、スタンダードポップスに必要な曲の強度について、もう一度考え直すことができましたね。

林哲司から教わったこと

──リード曲「Love Letter」では、作曲にも林さんが入られているんですよね?

はい。サビは林さんが作ってくれました。

──ヤバすぎますよね。林さんとのコライトはどのように進んでいったんですか?

デモ音源を聴いた林さんが「サビを変えたらよくなりそう」と言って、別のメロディを付けてくれたんです。それをもとに曲を完成させました。

──バンドの名刺代わりになる1曲ですよね。PANAMのバトンを受け継いでアップデートしていくというバンドの立ち位置が、この曲にも表れているというか。

聴いていただくと伝わると思うんですけど、この曲には1980年代のディスコソウルっぽいコーラスワークも取り入れていて。

──コーラス、素晴らしいですよね。山下達郎さんや吉田美奈子さんのような雰囲気を感じてニヤッとしてしまう。

ありがとうございます(笑)。

──「BRAND NEW MEMORY」は林さんの提供曲ですが、これまで誰かに曲を提供してもらうことってありました?

なかったです。

──そうですよね。往年のシティポップの制作現場では作家さんと歌い手さんが別というパターンも多いと思うんですけど、そういうアプローチがGOOD BYE APRILで見られるとは。

みの

みの

大好きな林さんだから、すんなり受け入れることができました。この曲で再確認したのは、自分がいかに林さんのメロディに影響を受けてきたかということ。最初歌ってみたときから何の違和感もなかったです。

──めちゃくちゃレアケースですよね。最も影響を受けた人から曲をもらって、ある種の既視感を持ちながらそれに取り組んでいる。これまでも林さんの作曲技法を研究されてきたと思うんですけど、今回改めて気付いた点や学んだ点はありました?

「BRAND NEW MEMORY」では、僕が作ったアレンジの上に林さんがストリングスを乗せてくれて。林さんの細やかなアレンジを聴いたら「あ、全然気付けてなかったじゃん」と思いました。裏メロが主旋律を後押しするように自分も心がけたつもりだったけど、まだまだ及ばないなと。

──「Love Letter」ではどうでしたか?

林さんが書いてくれたサビのおかげで、フックとなるメロディの大事さに気付かされましたね。自分の弱点なんですけど、フックを作るのがあんまり得意じゃなくて。最初に僕が作ったサビはAメロと地続きになっていたけど、林さんのサビはメロディの縦がしっかり出ていて、そういう部分も学びになりました。

倉品翔(Vo, G, Key)

倉品翔(Vo, G, Key)

──最近のミュージシャンは逆に、“いかにグリッドから片足はみ出すか”みたいな意識でいますよね。リズムで遊んで曲に表情を付けるというか。「Love Letter」のように、サビ頭で「タン、タン、タン」と正直に置いていくのは、勇気ある選択ですよね。

そうなんです。ビートと合わさることによって、メロディがキャッチーになる。自分がもう一歩踏み込まないといけないゾーンを教えてもらいました。