ゴールデンボンバー「イイね」特集|鬼龍院翔が伝えたい現代社会へのメッセージ

先日全国ツアー「『金爆はどう生きるか』~意外ともう結成20周年ツアー~」を終えたばかりのゴールデンボンバーから、約3年半ぶりのシングル「イイね」が届いた。収録されているのは、結成20周年ツアーでも披露され、鬼龍院翔(Vo)がライブでの反応を踏まえてリリースを決断したという「イイね」「一曲目」の2曲。リスナーの予想の斜め上をいく視点から書かれた曲の多いゴールデンボンバーにしては珍しく、ストレートなメッセージやポジティブな空気感が詰め込まれた楽曲だ。

鬼龍院は、この2曲にどんな願いを込めたのか。楽曲に関するエピソードに加え、結成20周年という“ヴィジュアル系エアーバンド”としては前人未到の領域に踏み込んだ今の状況に対する思いを聞いた。

取材・文 / 秦野邦彦

メッセージは「今は楽しもうぜ」

──7月21日に「『金爆はどう生きるか』~意外ともう結成20周年ツアー~」がファイナルを迎えましたが、総じて今回のツアーの手応えはいかがですか?

面白いものができたと思います。ゴールデンボンバーのライブは毎回演出がすべてなんですよね。2時間半のワンマンライブの場合、普通のアーティストさんはセットリストを決めるところ、うちはさらにボケというかコントのようなものを作るので、劇団に近い活動だと思ってます。年度によって当たり外れはどうしても出てきちゃうんですけど、今年のツアーはお客さんにとても評判がいいので手応えはとてもあります。

──YouTubeでは鬼龍院さんが40歳の誕生日を迎えた際に行われた山形公演でのサプライズ映像も公開されました。

僕は自分の職業=バンドマンだと思っているので、誕生日当日にステージで歌ったり音楽を奏でられたりするのは幸せなことだと感じました。ただ、40歳とか、結成20周年という数字についてはなんとも思ってないです。事務所がちょうど結成20周年だから盛り上げたいよねということでツアータイトルに付けただけで。

──そうなんですね。ツアーの最終日には3年半ぶりのシングル「イイね」のリリースが発表されました。この曲はどういう形で制作が進んでいったんでしょうか?

ツアーが今年の4月に始まったんですけど、2月か3月ぐらいにこの曲が浮かびまして。僕には珍しく前向きな曲だったので漠然とシングルにしたいなとそのときから考えていたんです。そういう思いもあって、やりたい曲がいっぱいある中でライブツアーのセットリストにねじ込みました。僕的にはこの曲いいなと思っているけど、お客さんの感触を確かめたくて。というのも、僕が1人でリーダー業をやってると周りが考える能力を失っていくんですよ。僕が「これシングルにいいね」と言うと、何も考えずにシングルとして出ちゃう。前からその状況は怖いなと思っていて。なのでツアーでお客さんの反応を見たかったんです。何か気付くことがあれば、どんどん改良していきたかったので。その結果、この曲はいい反応があったので、ツアーが終わったらシングルで出す流れになりました。

──サビも「イイねイイね~楽しいね!」と底抜けに明るい歌詞ですね。

いつもネガティブな言葉を書いちゃう僕にしては、珍しくポジティブな歌詞です(笑)。

──昨今の世の中の停滞した空気を払拭したいという思いも感じられました。

そうですね。昔より情報がいっぱい飛び込んでくるようになって、いい話題よりイヤな話題を目にすることが増えたと思うんです。SNSを見れば誰かケンカしてるし、それが拡散されるし。それも刺激があるから広まっちゃうんでしょうけど、結果的にストレスの溜まることが多い現代社会において、そんなことはどうでもいい! とりあえず今日ぐらいは好きなメシ食って、音楽聴いて、楽しい時間にしようよという提案です。

──歌詞にある「大好きなメシと音楽」は、実際に鬼龍院さんの中でプライオリティが高いことなので盛り込まれたんでしょうか?

そうですそうです。趣味とか自分のストレスを軽減してくれるものを我慢しなきゃいけないムードがこの頃ありますけど、僕はそれをなくしたいんです。ファンレターを読むと、「ゴールデンボンバーのライブに何度も行くなんて許されるんでしょうか?」みたいな後ろめたさを感じている人が多くて。娯楽を何度も楽しむのはよくないんじゃないかと思っちゃう人もいる。いやいや! いいじゃん、好きなことを楽しめば。別にそれで人が傷付くわけでもないし、と僕は思うんです。ただ、人は社会のムードだったり、家庭のムードだったりに流されてしまう。

──なるほど。

もともとは僕の両親がそうなんです。例えば父が外出したら母が「またどこかに行って」、母が外出したら父が「家のことを置いて」とお互いに嫌味を言う。そんなの好きに行きゃいいじゃんという反面教師もあって。結局そういう閉塞感のあるムードの中での足の引っ張り合いでしかないケースが多いなと感じたんです。会社に迷惑かけられないから休まずに好きなこともあきらめて、ストレスを溜めて病気になって寿命を縮めるとかマジで納得いかない。そういうムードっておかしくない?というところから生まれた曲であり、2024年だからこそ書けた曲だと僕は思ってます。

ゴールデンボンバー

ゴールデンボンバー

──最近だとX(Twitter)で投稿に「いいね」をしたことを理由に他人から攻撃されるケースが増え、自動的に非表示にする機能が導入されて話題になりましたね。

SNSの「いいね」は歴史が古くて、それを盛り込んだポップソングもすでにいろいろある。なので決して斬新ではないですけど、すごくシンプルでポジティブな言葉だから曲名を「イイね」にしました。ほかのアーティストさんの曲では「それっていいね。どうでもいいね」みたいに韻を踏んでトリッキーに使ってるケースを見たんですが、うちは単純に「今は楽しもうぜ」という。僕なりの「イイね」を音楽に落とし込んだのがこの曲です。

CDはプラスチックの板くらいでいい

──カップリング「一曲目」は、文字通り先日のツアーの1曲目に披露されていた新曲です。

ゴールデンボンバーのツアーはいつも最終日が終わるまで、ネットでのネタバレを禁止にしてるんです。ファンの方にはSNS上でいっぱいやりとりしたいところ我慢してもらっているから、ツアーが終わったらすぐに「イイね」と「一曲目」をリリースしたくて。

──「一曲目」のコンセプトは作曲時からあったんですか?

はい。ツアーのセットリストを考える会議のときに「アイドルでいうところの『overture』みたいに、お客さんの手拍子で始まって、メンバーが1人ひとり出てきて盛り上がる登場曲があったらいいよね」という話になり。僕はアイドル文化に詳しくないので入場SEが「overture」と呼ばれるものだっていうのはよくわかってなかったんですけど、対バンとかフェスで一緒になった方々のステージを観るのは好きなので、そのことを思い出しながら流れた瞬間にテンション上がる曲を目指しました。

鬼龍院翔(Vo)

鬼龍院翔(Vo)

喜矢武豊(G)

喜矢武豊(G)

──フェスでも使われる楽曲になりそうですね。

ゴールデンボンバーにしては「一曲目」はちょっと激しすぎるかなと思ったんですけど、ライブでやってみたらお客さんも求めてた曲調だったようで、気に入ってくれてます。「イイね」も「一曲目」もツアーでやった感触がとてもよかったので、この2曲をひさしぶりのCDシングルとしてリリースすることができてうれしいです。CDを再生する機器を持っていなくても、ゴールデンボンバーがCDを出すというイベントを楽しんでもらえればいいですね。なんならCDを再生しなくてもいい。よくわかんないプラスチックの板くらいで(笑)。

──とはいえ、ゴールデンボンバーは昨年リリースのアルバムのタイトルに「COMPACT DISC」と冠するくらい、CDに対して並々ならぬ思い入れがありますよね。

ありますね。当時もCDはもう出さなくていいだろうと思っていたんですけど、「いや、逆に出そう!」という、天邪鬼精神が発揮された感じです(笑)。今回も、世間ではCD自体まだリリースされてますし、たまにはいいんじゃない?と思って。この先どうなるかはわからないですけどね。

「ゴールデンボンバーは運がよかったね」

──ゴールデンボンバーが結成された2004年から2024年までの20年間で、音楽を聴く環境も大きく変わりました。

それはすごく感じますね。

──調べたところ、2004年7月に「iPod mini」が発売され、同年の11月には携帯電話で着うたをフルコーラスダウンロードできる「着うたフル」が始まっています。

着うた! 懐かしい。1曲200円ぐらいで売ってましたよね。まだ音楽にしっかり価値があった時代だったなあ。

歌広場淳(B)

歌広場淳(B)

樽美酒研二(Dr)

樽美酒研二(Dr)

──音楽をスマートフォンで聴く時代に移行していく中、ゴールデンボンバーは「女々しくて」が大ヒット。カラオケランキング51週第1位に輝くほか、「Dance Dance Revolution」「太鼓の達人」といった複数の音楽ゲームにも採用されて、鬼龍院さんが音ゲーのリズムを研究して作ったかと思うぐらいバチっとハマりました。

確かに言われてみると、そんな感じしますね。まあ、研究はしてないんですけれども(笑)。僕はしゃべり方がオタクっぽいんでなんでも詳しそうに見えちゃうんです。でも、秋元康先生も言ってますが、「まず打つことが大事」で、ヒット曲を研究して曲を作っても、実際に売れるかどうかはわからないですから。なるべく勉強はするべきだと思いますけど、僕より音楽に詳しい人なんて山ほどいるわけですし、総じて「ゴールデンボンバーは運がよかったね」で僕は済ませています(笑)。

──なるほど。

たまに「『女々しくて』は作るときにカラオケで歌われることを意識したんですか?」と聞かれたりもするんですが、カラオケを意識してたらあんな息継ぎをできない曲は作ってないです(笑)。研究の結果とか狙いとかなく、僕はただただ自分がいいなと思う曲を作っているだけで、感性の赴くまま、こういう曲カッコいいよね、このメロディ、このノリいいよねというものを詰め込んでいるだけなんです。米津玄師さんにしてもOfficial髭男dismさんにしても、一般の方がカラオケで歌うには難しいですから。そもそも、歌いやすいようにとかアーティストはあまり考えてないと思います。自分が音楽的に納得いくものというベクトルで皆さん作っているはず。職業作家の方とか依頼を受けて曲を作る人は全部がそうではないと思いますけど、シンガーソングライター的な人はそういう人が多いんじゃないですかね。