ナタリー PowerPush - GOING UNDER GROUND

映画から受けた影響で名バラード誕生 松本素生が語る「愛」「震災」「これから」

今年4月に4人編成になって初のアルバム「稲川くん」を発表したGOING UNDER GROUNDが、ニューシングル「愛なんて」をリリースした。今作は11月5日に全国公開される映画「ハラがコレなんで」のために書き下ろされた、極上のバラードナンバー。映画の世界観とシンクロする歌詞とメロディは、松本素生(Vo, G)の真骨頂といえる仕上がりだ。

今回のインタビューで松本は、この曲が完成するまでの背景や映画「ハラがコレなんで」を観て感じたこと、東日本大震災以降に訪れた心境の変化について、率直に語っている。また、現在着々と制作が進んでいるニューアルバムについても言及。「稲川くん」という力作を経て、GOING UNDER GROUNDがどこへ向かおうとしているのか、このインタビューから感じてほしい。

取材・文 / 西廣智一

誰もいいって言わなくても俺がいいと思うから歌う

GOING UNDER GROUND(写真は10月22日に行われた「週末Diner vol.3 東京」より)

──映画主題歌の書き下ろしって初めてなんですね。

初めてですね。既発曲が映画に使われたことはあるんですけど。

──そう、そのイメージがあったので、初の書き下ろしと聞いてとても意外だったんですよ。

CMタイアップ曲はいくつかやってきたので、そのイメージもあるのかな。タイアップ曲とかいろいろやってきたけど、だんだんと曲を器用に書いちゃう感じが身に付いてきて。

──GOING UNDER GROUNDとしてのカラーを活かすというより、そのCMのカラーに合わせるような?

そうです。もちろんクライアントさんありきの話だからそれはそれでいいと思うし、職業として曲を作っているんだったらいいんですけど。でも、いろいろ経験していくうちに、バンドマンとして自分が今歌いたい曲を歌うのが一番だなって思うようになったんです。そうすると、タイアップに関してどんどん臆病になっていって。今回の「愛なんて」に対してもめっちゃ臆病でしたし。

──でも、「愛なんて」って曲からはそのタイアップに対する臆病な感じは全く感じられなかったし、映画「ハラがコレなんで」のダイジェストを観てからこの曲を聴くとより歌がスッと入ってきました。

「ハラがコレなんで」がすごくいい映画で、僕自身も観て感動したっていうのが一番デカかったかな。監督からは「この作品の最後に流れる曲を書いてほしい」って依頼されていたから、最初から曲を書く目的がはっきりしてたんですよ。

──すごく前向きな映画ですよね。

自分を差し置いて誰かのために何かをしてあげる、その思いやりをこの映画の中では「粋」って言ってるんです。よく今このテーマで映画を作ったなってまず思ったけど、実際に観てすごく感動したんですよね。なんで感動したかっていうと、ちょうどこの曲を作り始めたときに震災があって。生活者として、ひとりの父親としていろいろ考えていたら、自分の中で音楽どころじゃなくなってきて、なんとなく心の中がパニクってきたんですよ。で、曲を提出する締切が迫っても全然できなくて、結局フィルムをラッシュで4回観たのかな。4回目に観たとき、ふと「愛なんて」の歌詞に書いてあるようなことをいろいろ考えたんです。その考えたことが、映画のメッセージとものすごくリンクして、そこからはサクッと完成までいきましたね。

──そんないきさつがあったんですね。

はい。それと、曽我部恵一さんに「自分が作る曲って、まず自分がその曲の理解者であり友達じゃないと話になんないよね」みたいなことを言われて、確かにそうだなと思って。「愛なんて」ができたときも「この曲、誰もいいって言わなくても俺がいいと思うから歌う」っていうスタンスになれたっていうのはデカイですね。

時代遅れだった部分が今は重要なんじゃないか

──「ハラがコレなんで」という映画は非常に昭和感があるというか。

あ、それは僕も思いました。

──ストーリーを読んで、「この監督、2011年にあえてこれをやるんだ」って最初に思いましたし。

石井裕也監督って僕より年下なんですよ。監督といろいろ話したんですけど、僕と監督の中には2000年から2010年までって、表現も含めて混沌としていて、アイロニカルな部分が重要だったみたいなイメージがあったんですね。

──確かにそういう風潮はありましたね。

松本素生(写真は10月22日に行われた「週末Diner vol.3 東京」より)

で、2011年になったら震災とは関係なく、個人的に親しい人が亡くなったり、志半ばのミュージシャンが亡くなったりっていうことがあって、否定的なものを表現したり聴いたりするのが本当に嫌になっちゃって。結局、自分は希望のあるものを一番欲してるっていうことに気付いたんです。僕はバンドが1回ぶっ壊れたこともあるし、希望のあるものしかやりたくないなって思ってたんですよね。そのとき僕は「稲川くん」を作って、監督も出すなら今しかねえみたいな感じでこの映画を作った。さっきの昭和感っていう話にもつながってくるんですけど、ケータイじゃなくて直接話すみたいな、時代遅れだった部分が今は重要なんじゃないかなっていうことですよね。

──無機質なつながりではなくて、人と人とのつながりから生まれるぬくもりみたいな。

そう。僕は今の社会が嫌いですけど、そこで過ごしていかなきゃならないって考えたときに、人から笑われてもいいからそのぬくもりのあるもの、温度のあるものをやりたいんだってずっと思ってたんですよね。別に人を救うためにやってるんじゃないし、何も救わないとか何も生まないみたいなことがカッコいい時代もあったと思うんですけど、そういうものは今は絶対に嫌だと思ったんですよ。自分が子供の頃を思い出したときに、「変なババアにゲンコツされてたな」「駄菓子屋のババアがすげえ怖かったな」「でもあいついいやつだよね」みたいなことがあったなって。人対人っていうか。

ニューシングル「愛なんて」 / 2011年11月2日発売 / 1050円(税込) / PONY CANYON / PCCA-03479

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収録曲
  1. 愛なんて
  2. Madonna
  3. 東京 2011
  4. 愛なんて (Electric ver.)

アーティスト写真

GOING UNDER GROUND
(ごーいんぐあんだーぐらうんど)

THE BLUE HEARTSに憧れて松本素生(Vo, G)、中澤寛規(G, Vo)、石原聡(B)伊藤洋一(Key)が集まって中学時代に前身バンドを結成。河野丈洋(Dr ,Vo)が加わり、何度かのメンバーチェンジを経て、高校卒業時に5人体制となりGOING UNDER GROUNDと名乗り始める。インディーズシーンでの活躍を経て、2001年にシングル「グラフティー」でメジャーデビュー。「ミラージュ」「トワイライト」「ハートビート」など、切なく爽やかメロディで幅広い支持を集める。2005年には「トゥモロウズ ソング」をNHK「みんなのうた」に提供し、新境地を開拓。2006年7月に初の日本武道館公演を行い大成功を収める。2007年初頭には彼らの楽曲が原案となった映画「ハミングライフ」が公開された。2009年4月に伊藤が脱退。以降はサポートメンバーを迎えた形でライブを行いつつ、松本や河野はソロ活動も積極的に行っている。

2010年にポニーキャニオンへの移籍を発表。同年5月に新体制として初のシングル「LISTEN TO THE STEREO!!」をリリースした。メジャーデビュー10周年を迎えた2011年は、記念ツアー「GOING UNDER GROUND 10th Anniversary Tour 2011『Rollin' Rollin'』」を実施。4月に約2年ぶりのオリジナルアルバム「稲川くん」をリリース。5月には日比谷野外大音楽堂でワンマンライブを行い、元メンバーの伊藤と共演してファンを驚かせた。同年11月には映画「ハラがコレなんで」の主題歌としてシングル「愛なんて」を発売する。