牧達弥(go!go!vanillas)×林萌々子(Hump Back)インタビュー|真逆の個性を持った2組が歌うラブソング

go!go!vanillasが林萌々子(Hump Back)をフィーチャリングゲストに迎えた楽曲「Two of Us feat. 林萌々子」を10月5日に配信リリースした。

go!go!vanillasがフィーチャリングゲストを迎えた楽曲を発表するのはこれが初。「Two of Us」はファンク、ロック、カントリーの要素を兼ね備えたラブソングで、歌詞ではすれ違いつつも思い合う男女の恋模様が描かれている。音楽ナタリーでは本作のリリースに際して、牧達弥(go!go!vanillas)と林にリモートでインタビュー。お互いのバンドの印象や「Two of Us」のレコーディングエピソードなどを語り合ってもらった。

取材・文 / 蜂須賀ちなみ

大人の男性かと思いきや少年の心を持ったgo!go!vanillas

──go!go!vanillasとHump Backの交流はどのように始まったんでしょうか?

牧達弥(Vo, G / go!go!vanillas) イベントで一緒になったのが最初でしたね。プリティ(go!go!vanillasのベーシスト・長谷川プリティ敬祐)が事故に遭って、オーラル(THE ORAL CIGARETTES)のあきら(あきらかにあきら)にサポートで出てもらったライブだったんですけど、僕とあきらはもともとHump Backの音楽が好きで、その日初めてライブを観られたんです。リハーサルからあきらと「やっぱええなあ」と話してたし、強く惹かれるものがありましたね。その日は打ち上げでちょっと挨拶したくらいだったかな。

林萌々子(Vo, G / Hump Back) そうでしたね。だけどそこからフェスやイベントで一緒になったり、牧さんがライブを観に来てくれはったりする中で交流が深まっていって。

 野音も行ったし、国際フォーラムのライブにも観に行きましたね。僕はフォークが好きで、歌と人柄がつながっているように感じる音楽に惹かれるんですけど、Hump Backの音楽はまさにそういうもので。しかも3ピースでそれを表現できるのがすごいですよね。リスペクトしてます。

牧達弥(Vo, G / go!go!vanillas)

牧達弥(Vo, G / go!go!vanillas)

 (笑顔で横に揺れながら)今、こんな気持ちです。

 あははは! ルンルンや。

──林さんはgo!go!vanillasに対してどのような印象を持っていましたか?

 2017年の「MONSTER baSH」で一緒だったんですよ。ぴか(B, Cho / Hump Back)とバニラズのライブを観に行って「カッコいい!」と思ったのと、MONGOL800のキヨサクさん(上江洌清作)のライブを観に行ったらプリさんが楽しそうに観ていたから「絶対いい人だな」と思ったのも覚えていて。だけどそのあと、さっき牧さんが話してた初めて対バンをした日に、バニラズの楽屋から大人の男性の香りがしたから、実はちょっと遠い存在に感じちゃったんです(笑)。

 恥ずかしいなー(笑)。

 でもしゃべってみたら、牧さんもみんなもめちゃくちゃ少年だったんですよね。ずっと部室みたいな感じの雰囲気で。そういえば前にプリさんに「最近泣いちゃったことってありますか?」と聞いたら、「俺ぜんぜん泣かないんだよね。……あ、でも『ペンペン』(今年7月に配信リリースされたgo!go!vanillasの楽曲)のミュージックビデオを観たときに泣いたのと、ライブ中に牧の言葉を聞いて泣いちゃったりすることもあるかな」と言っていたんですよ。私、それを聞いて泣きそうになっちゃって。

 ちょっと待って、俺も今泣きそうになった(笑)。

 私はgo!go!vanillasの楽曲もライブも大好きやけど、もっと手前の、少年4人が集まって大好きな音楽をやっているという事実が素晴らしいものだなと感じるし、自分たちもそういうふうにありたいなと憧れます。そしてそれぞれに違う個性を持っている中で、go!go!vanillasという1つのバンドの美しさが楽曲やライブにも出ているし、この前一緒にMVを撮影させてもらったときにも体感できましたね。

 今年は共同開催したイベント「go!go!⻘春Come Back」でツーマンをしたし、Hump Backの「僕らの夢や足は止まらないツアー」では仙台、郡山と2日続けて対バンをしたので、ここ1年くらいでお互いの濃い部分を知っていけている感じがあるんですよ。ももちゃん(林)とはコロナ禍に入り始めたくらいから連絡をとっていたんですけど、ちゃんと会ってゆっくり話すということはこれまではなかなかしづらかったから。

一生の仲間に

──「go!go!⻘春Come Back」も「僕らの夢や足は止まらないツアー」の仙台公演、郡山公演も延期を経て今年やっと実現したんですよね。

 はい。私たちのツアーはもともと2020年の予定だったんですけど、延期になって「いつにしようか」と連絡を取り合っているときに、バニラズの日本武道館公演と私らの大阪城ホール公演が同じ日だということがわかって。「これって運命だよね!」という話になって、今度はバニラズのほうから対バンに誘ってくれたんです。

 そうそう。でも、これだけ短いスパンで一緒にライブができたのは結果的によかった気がしますね。「どれだけ延期したとしても絶対にやりたい」という気持ちがお互いにあったからすごくいいライブができるだろうなと思っていたし。

──実際にすごくいいライブになりましたか?

 そりゃあもう最高でしたよ!

 「go!go!⻘春Come Back」はうちらのホームの心斎橋BRONZEでやったんですけど、BRONZEは自分たちにとってホンマに大事な場所なので、バニラズが「行きたい」と言ってくれた心意気がまずうれしかったですね。仙台、郡山の2日間も夢みたいに楽しくて。

林萌々子(Vo, G / Hump Back)

林萌々子(Vo, G / Hump Back)

 仙台、郡山はHump Backのツアーだったので僕らが先にライブをしたんですけど、「Hump Backのメンバーに観せたことないくらいのいいライブをしたい!」という気持ちでやりました。ポジティブな挑戦状というか。

 それは確かに感じました。

 今までいろいろなバンドと対バンしてきましたけど、あんなにハッピーな気持ちでライブができたのは初めてだったと思います。これだけライブをしてきていると、「あのときのあの感じと似ているな」と思う瞬間もなくはないんですけど、Hump Backとのツーマンはマジで「新しい!」という感じで。

 へえ……!

 さらに今回ももちゃんに「Two of Us」を歌ってもらったことで、僕は“自分の書いた曲を誰かに歌ってもらう”という初めての経験をしたんです。これはすごく大きなことだし、制作の部分でも意思疎通できたから、対バンのときよりももっと近くなったなと。もう“一生の仲間”というか。

 うれしいです。私も制作に携わらせてもらって「もっと近くなったな」「深くなったな」という感覚がありますね。

お前の歌は誰にでも歌える

──「Two of Us」はどのように生まれた曲ですか?

 今、次のアルバムの制作期間中なんですけど、この曲もアルバムの収録曲として作ったものでしたね。最近、showmoreというユニットでピアノを弾いている井上惇志くんにレコーディングに参加してもらっているので、ピアノにフォーカスした、ミドルテンポでハッピーな曲を作りたいなと思ったのが始まりでした。もともとは自分1人で歌う曲のつもりだったんですよ。だけどワンコーラス作り終えたときに「あ、次に歌うのは俺じゃない」「ここで何かアンサーがあったほうが絶対に面白い」と思って。そのときにマーヴィン・ゲイがタミー・テレルと一緒に歌っている「Ain't No Mountain High Enough」を思い出したんです。あと、椎名林檎(東京事変)さんとトータス松本(ウルフルズ)さんの「目抜き通り」も。「男女の歌い分けパートがあるコミカルな曲を作ってみたい」という気持ちが僕の中にずっとあったので、そのイメージで作っていきましたね。

──林さんにオファーした理由は?

 歌詞も全部書き終わったタイミングで「ももちゃんに歌ってもらったら、めっちゃ合うだろうな」と想像できたんですよね。だけどHump Backで歌っている感じというよりかは、FM802のキャンペーンソング「AOZORA」(ゆず、Saucy Dog石原慎也、マカロニえんぴつはっとり、Da-iCE花村想太、Vaundy、林の7名がTHE HAJIMALSというユニット名で歌唱している楽曲)のようなイメージ。「AOZORA」を歌っているときのももちゃんはいつもと違ってちょっと柔らかい声質なんですけど、そういう歌い方が「Two of Us」にも合いそうだなと思ってお誘いしました。

 誘ってもらったときはすごくうれしかったです。好きなバンドから「歌を歌ってほしい」と言ってもらえたのがうれしかったのはもちろん、ここ1、2年は私にとって歌と向き合う期間やったから「そういうタイミングなんやろな」と思ったんですよ。

──というと?

 ちょっと前の話になるんですけど、Hump Backが初めて千葉LOOKに出演したとき、店長のサイトウヒロシさんから「お前の歌は誰にでも歌えるんだよ」と言われたんですよ。そのとき、自分の中でも引っかかる部分があったから言い返せなかったんですけど、そこから「今日はちょっとうまく歌えへんかったな」という日があるごとに、サイトウさんからの言葉を思い出すようになって。

 うんうん。

 そんなときに、長野県で弾き語りをしているタテタカコさんの歌を聴く機会があったんです。タテさんの歌って、歌と表現が1つになっているというか……“表現”という言葉さえもチープになってしまうくらい、歌そのものがタテさんというような印象を受けたんですよ。そのとき「あ、こういうことかも」と気付いて。そこから「表現の手段として歌を選ぶことをやめよう」と自分の中で考えて、そういうことを課題にしながら歌っていたのがここ1、2年だったんです。

 そうだったんだ。サイトウさんは愛のある人だからね。僕もサイトウさんから凹むようなことを言われたりしたけど、全部見抜いたうえで、本人に自覚させたいからこそ強い言葉が出てくるんだと思う。

 私もそう思います。それで「あ、ちょっと乗り越えられたかな」と思えるようになった時期にまた千葉LOOKに行く機会があったんですよ。そしたらライブ終わりに、私からは何も言っていないのにサイトウさんから「なんで歌変わったの?」と言われて。「わかってんなあ。侮れへんなあ」と思って(笑)。

 あはははは! いい話や。