GLIM SPANKYインタビュー|デビュー10周年、こだわり抜いた初ベストで表すロックへの憧れと愛情 (2/2)

デリコとのコラボ「見せ合いっこみたいな曲にはしたくない」

──DISC 2のラストナンバーは新曲「愛が満ちるまで feat. LOVE PSYCHEDELICO」です。GLIMとデリコと言うと何度も一緒にライブをやっている仲ですが、どういう経緯でできた曲なんでしょう?

松尾 デリコのNAOKIさんと雑談しているときに「KUMIも含めて一緒に曲を作りたいね」と言ってくれて、「これは頼んだらやってくれるかも?」と思って、マネージャーに相談したうえでオファーさせていただきました。まずGLIMがサビまで全部作ったんですよ。NAOKIさんが「すごくいいね」と言ってくれて、そのサビをAメロに持ってきて合体させて、さらにサビを新しく作ることになりました。なので、サビ前まではGLIMが作ったメロディと歌詞で、サビはデリコとの共作になってるんです。

松尾レミ(Vo, G)

松尾レミ(Vo, G)

亀本 NAOKIさんの考え方として、例えば「ここはレミちゃんが歌ってここはKUMIが歌う」とか「ここは僕がソロ弾いてここはNAOKIさんがソロ弾く」みたいな見せ合いっこみたいな曲にはしたくない、普通に曲を作りたいっていうのがあったんですよね。

松尾 そう。だから歌もデュエットにならないように意識しました。

──やってみてどうでしたか?

亀本 楽しかったよね。

松尾 私は楽しすぎて、もっとデリコと曲を作りたいと思いました。いつも歌詞を書くときは机に向かって1人で悩んでいるんですが、今回は私とNAOKIさんとKUMIさんでスタジオに何日間かこもって作ったんですよね。それがすごく楽しかったです。

亀本 意外と松尾さんはそういうタイプだよね(笑)。

松尾 (笑)。実は人と作るのがマジで苦手なんですよね。(いしわたり)淳治さんはデビューからご一緒していて自分のことをわかってくれているから大丈夫なんですが、基本的には趣味が似てたり言葉が通じ合う人との制作じゃないと難しくて。でもデリコのお二人は器がとても大きいですし、どんなフラッシュアイデアでも受け入れてくれるのですごくありがたかったです。

松尾レミ(Vo, G)

松尾レミ(Vo, G)

亀本寛貴(G)

亀本寛貴(G)

LAやカリフォルニアの景色を思い浮かべながら

──「愛が満ちるまで」の歌詞にはデリコの代表曲の1つである「Freedom」を思わせる「フリーダム」というワードも入っています。

松尾 そうなんです。デリコには“自由”のイメージがあったので、もともとの歌詞の段階で入れてました。デリコには「Free World」という曲もあるし、フリーな世界というイメージが強くて。

──ほかにも、The Rolling Stonesの楽曲名を彷彿とさせる「サティスファクション」とか、ロック感のあるワードが入っていて。

松尾 そこらへんはNAOKIさんとKUMIさんと一緒に「もうロックだから“サティスファクション”って入れちゃう?」と言いながら作っていきました。曲を作りながらNAOKIさんがレコードをかけ始めたりして最高でしたね。お腹が空いたらみんなでピザパーティしたりして(笑)。

亀本 ピザは死ぬほど食べたよな。

松尾 リラックスした作曲でしたね。

GLIM SPANKY

GLIM SPANKY

──アメリカ南部を思わせる土臭いサウンドですが、そういうイメージはあったんですか?

亀本 ありましたね。NAOKIさんにもいろいろとこだわりがあったので、お任せした部分が多かったんですけど。今回僕は自分の楽器をほとんど使ってなくて、LOVE PSYCHEDELICOのスタジオにあった楽器をNAOKIさんがセッティングしてくれて僕は弾くだけみたいな感じで面白かったですね。

松尾 私が最初に作ったメロや歌詞は完全にアメリカの景色を想像して作ったんですよ。「眠っていた荒野の向こうで 貨物列車が夜明けを割く」とか「道の向こうのデイライト」とか「蜃気楼が遠くで揺らいでいる」という歌詞は自分が見たLAやカリフォルニアの景色をイメージして書いてますね。

──ロードムービーっぽい感じですよね。

松尾 そうなんです。デリコって「Freedom」のミュージックビデオもそうですし、KUMIさんがサンフランシスコに住んでいたこともあって、太陽が真上にあるようなカラッとしたアメリカのイメージがあって。その風景をお二人に共有したうえで作っていったんです。すごく難しかったのは、サビをKUMIさんと私が違うメロディを歌って成立させようとしたところ。しかも私は日本語、KUMIさんは英語で、それでも成り立つメロディ、歌詞にするためにはなかなかの技が必要でした。そういう中で「I know it's gonna be alright 愛が満ちるまで」の2行の頭を「アイ」でそろえたり。いろいろな試行錯誤がありましたね。

──どんなところでデリコとの相性のよさを感じましたか?

亀本 やっぱり音楽に対するマナーみたいなものが共通しているので、楽しくご一緒できたのかなって思います。「これはいいけどこれはちょっときついよね」というマナーがずれてるとストレスが生まれてしまうけど、そこの共通認識を持っていたので、松尾さんもストレスがなかったよね。

亀本寛貴(G)

亀本寛貴(G)

松尾 マジで最高でした。いくらでも話していられるって感じがしましたね。

亀本 どこを重んじるかって人それぞれ違うからね。

松尾 その好みがたまたま合ったのが奇跡的だなと思いました。

“パヤパヤ”歌ったら採用

──「愛が満ちるまで」はスタンダードなロックのよさが詰まった曲だと思うんですが、その前に収録されている新曲「Hallucination」はボサノバテイストでとても新鮮でした。

松尾 全然違いますよね。この新曲2曲が同じ盤に入っているいびつさが面白いと思っています。

亀本 前回のアルバム(「The Goldmine」)で「Glitter Illusion」という曲を作ったときにSoma Gendaくんにアレンジをお願いしたんですが(参照:GLIM SPANKYインタビュー|“全曲主役級”の7thアルバムで打ち出した力強いメッセージ)、僕らのディレクターが「Gendaくんと同じMUSIC FOR MUSICという事務所のNaoki Itaiさんともご一緒してみたらどう?」という提案をしてくださって。曲のベーシックな部分を作ったあと、Itaiさんにアレンジをお願いしてみました。自分たちでは作れないようないろいろなリズムや楽器が入っていて、「こういう曲があることでいいバランスになるんじゃないか」と思いましたね。

松尾 そうだね。「異国の雰囲気やジャジーな感じがありつつ、『真夏の夜の夢』(松任谷由実)の現代版みたいな世界観がいいです」とItaiさんにお伝えしたらこういうリズムが返ってきました。確かにちょっとボッサ的で、もともと私もブラジル音楽やボサノバを聴いているので、好みでもありながらモダンなポップスとしても聴ける曲だなと思いました。なかなか面白いバランスになりましたね。あと、あのコーラスね。

亀本 そう、あれ超印象的だよね。

GLIM SPANKY

GLIM SPANKY

松尾 “パヤパヤパヤパヤ”っていう。もともとはギターのフレーズだけあったパートなんですが、Itaiさんが「ここに何か声を入れたらいいんじゃないか」と提案してくれて。そこでパッと思い浮かんだのが、60年代後半に浜口庫之助さんっていう昭和を代表する作曲家の方が出した「僕だって歌いたい」というカバーアルバムだったんです。「サティスファクション」や「マシュ・ケ・ナダ」(Sergio Mendes)のカバーが入ってて。そのアルバムに女性の“パヤパヤ”っていうコーラスがたくさん入っているんですよ。私はそのアルバムが大好きで、ボッサ的な曲にも合うだろうし、そういうコーラスを入れたいなと思って“パヤパヤ”歌ったら採用されました。

亀本 松尾さんのそういうルーツも出せたよね。

松尾 そう。モダンなサウンドに“パヤパヤ”を入れることで面白くなって。実験してみてよかったですね。

──「Glitter Illusion」はDISC 2の1曲目に入っていますが、デジタル感のあるサウンドデザインが新鮮な曲でしたよね。

亀本 そうですね。Gendaくんと「Glitter Illusion」を作ってかなり手応えがあったんです。この曲はタイアップがついているわけではないんですが、アコースティックのライブでもバンドセットのライブでもわりと欠かせない曲になってきています。それもあって、Gendaくんと同じ事務所のItaiさんにお願いしてみました。

松尾 Itaiさんは私がゲストボーカルで参加させてもらったくじらさんの「BABY」をアレンジしていて、実はいろいろなつながりがあるんですよね。それもあって「Hallucination」のアレンジをお願いしたんですが、いいコミュニケーションが取れていい制作になったと思います。

「俺が弾けばロックになるんだよ」「そういうことにしときます」

──改めてGLIMP SPANKYにとってのロックはどういうものだと思いますか?

松尾 ずっと言っていることではありますが、ロックって自由なものだと思ってます。GLIM SPANKYには例えば「Hallucination」があったり「愛が満ちるまで」があったり、いろいろな振り幅の曲を作っていますが、自分としては全部が1本芯の通ったロックへの憧れとロックへの愛情から生まれているものなんですよね。何がロックかを限定せずにいろいろなものを面白いと思って、自分の感覚を信じてやっていくことがGLIM SPANKYとしてのロックの精神なんじゃないかと。私が歌えばGLIMだし、亀が弾けばGLIMだし。

亀本 僕も松尾さんと近い考え方ではあるんですが、今の自分にはロックミュージックがどうとか、ロックミュージックをどうしようみたいな考えがほぼなくて。それよりは自分たちの音楽はどうあるべきかということに意識がシフトしているので、ロックの概念については正直あまり考えてないですね。いい意味で「ロックでもなんでもいい」という感覚になってきました。でもやっぱり松尾さんが歌っていたり、僕がギターを弾いてるとロックのような匂いが出ると強く感じるので、そういうものなんじゃないですかね。「ロックとはなんぞや」みたいに哲学するのは自分の性に合ってないっていうか。

松尾 そっか、私はロックのことたくさん考えるよ(笑)。だからもう「俺が弾けばロックになるんだよ」ということでしょ?

亀本 そういうことにしときます(笑)。なんでも大丈夫なので。

GLIM SPANKY

GLIM SPANKY

公演情報

All the Greatest Dudes Tour 2025

  • 2025年2月28日(金)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2025年3月2日(日)宮城県 Rensa
  • 2025年3月8日(土)大阪府 なんばHatch
  • 2025年3月9日(日)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2025年3月14日(金)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2025年3月15日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2025年3月21日(金)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)

Extra Show

  • 2025年3月23日(日)長野県 飯田文化会館

プロフィール

GLIM SPANKY(グリムスパンキー)

松尾レミ(Vo, G)、亀本寛貴(G)による男女2人組のロックユニット。2007年に長野県内の高校で結成された。2009年にはコンテスト「閃光ライオット」で14組のファイナリストの1組に選ばれる。2014年6月に1stミニアルバム「焦燥」でメジャーデビュー。その後、スズキ「ワゴンRスティングレー」のCMに松尾がカバーするジャニス・ジョプリンの「MOVE OVER」が使われ、その歌声が大きな反響を呼ぶ。2015年7月に1stアルバム「SUNRISE JOURNEY」をリリースした。最新作品は2024年11月リリースの初となるベストアルバム「All the Greatest Dudes」。2025年2月から3月にかけてベスト盤を携えたライブツアー「All the Greatest Dudes Tour 2025」を行う。