「すべて鵜呑みにしないで、ちゃんと考えてみろよ」
──では駆け足ですが、曲ごとにお話を聞かせてください。まず1曲目の「4 Dimensional Desert」というインストゥルメンタルですが、この不思議な音は逆再生ですか?
松尾 そうです。どこの言葉か分からない感じにしたくて。
──シタールみたいな音は?
亀本 シンセです。シンセ自体の生音はシンプルなエレピのような音にして、そこにシタールシミュレーターみたいなエフェクターをかけて、僕が弾きました。
──続く2曲目の「Love Is There」については?
松尾 この曲の歌詞はLAから帰ってすぐに書きました。あの広大な砂漠の景色を見て強く感じたのは、「愛はいろんなものに宿っていて、その中で私たちは生きているんだ」ということでした。だからこそ、限定的な答えを出さず、大きなことを歌いたくなったんです。
──この曲のイントロの後ろで鳴っているジーという音は?
亀本 それもシンセですね。僕が弾いたり、打ち込んだりして。
──つまりギター以外の音色で亀本さんの活躍が増えている?
亀本 今回はよりそういう仕上がりになりましたね。僕、ロックだからといって、歪ませたギターであまり曲を埋めたくなくて。ギターロック臭を出し過ぎたくないと言うか、僕の中でのカッコいいギターロックじゃなくなっちゃう気がして。この間ポール・マッカートニーの来日公演を観てきたんですけど、彼のバンドのギタリストにせよ、そんなにずっとジャラジャラ弾いていないじゃないですか。でも、今の日本のバンドって、わりと疑いなく曲をストロークで埋めがちな気がするんです。だから今回は、まずそれを極力やめようという方式で取り組みました。
──それがアルバム全編における、強いビートの曲でも重過ぎないと言うか、ちょっとスカスカしたようなアレンジに繋がっているんですね。
松尾 隙間を恐れず、音で埋め過ぎないようにしようと、そこはかなり意識しました。無駄なものは入れないと言うか。
亀本 無意味なジャラジャラはやめたいなって。
松尾 ジャラジャラをやる意味があるときはやる、というね。
亀本 3曲目の「TV Show」なんかは、松尾さんもジャラジャラって弾いているしね。例えば4曲目の「ハートが冷める前に」も、サビ裏とか弾いてはいるけど、うっすらしかギターが聴こえない。
松尾 うん。世界的に見ると、ロックミュージックとして当たり前のことなんですけどね。
──だからこそギターがよりグッと出てくる箇所の気持ちよさは増しているし、亀本さんが弾くフレーズやカッティングのアプローチも、より引き出しが増えたと言うか、器用さが増したように感じられます。
亀本 ギターの音はやっぱり大好きだから、弾くときは超目立たせたいんです(笑)。でも、だったらより情報量の多い目立ち方にさせようと思って。
──LAレコーディングによる3曲目の「TV Show」の歌詞からは、マスメディアに対する問題意識や反骨精神が感じられます。
松尾 日々怒っていたことだったので一気に書けました。今ってインターネットも含めて多くのメディアが存在して、誰でも発信者になれる時代ですよね。いいこともたくさんあるけど、一方で、誰かがついた嘘が真実のように拡散してしまう怖さもある。そこで自分なりに思うことがたくさんあって。例えば自分たちのことも、言ってもいないことが書かれているんですよ。身に覚えのないことが。
──なるほど。
松尾 そういう経験をすると、ネットに書かれているすべてが信じられるわけじゃないんだと気付かされる。テレビのニュースだって、誰かの不倫のニュースを大きく報じている裏側で、もしかしたら本当に大事なニュースが隠れてしまっているかもしれない、とか。「すべて鵜呑みにしないで、ちゃんと考えてみろよ」と、今だからこそ言うべきじゃないかなって。と言うか、むしろ「早く言わなきゃ!」という危機感があって、それが爆発してこんな歌詞になりました。だから“TV Show”という言葉を使っていますが、テレビに限らずいろんなものに向けて歌っているんです。
とにかくロックの概念というものを広げたいんです
──5曲目の「The Flowers」にはハーモニーを奏でるコーラスが入っています。こういうコーラスって、多重録音でもっと濃くしてみたくなりそうですが、ライブで再現可能な範疇を逸脱していないですよね。
松尾 こういうとき、自分たちが演奏している画が想像できるかどうかは考えますね。特に今回はできる限りシンプルな作りと引き算を心がけました。
──6曲目の「In the air」や、10曲目の「To The Music」のような、ちょっと浮遊感のあるダンサブルな曲は、お二人が作り方の肝をつかんだと言うか、1つ得意な曲調がレパートリーに加わったような印象を受けました。
松尾 ありがとうございます。そこも自分たちの中で大事なポイントでした。引き出しが増えたし、特に「In the air」はシングルのカップリングでしたが、これからのGLIMにとって道しるべとなる曲かもしれないという期待を込めて、あえてアルバムに収録したんです。あとは東洋的なハモリですね。Aメロの東洋的なエッセンスによってサイケデリックロックとして成立していると言うか。そこも大きいと思います。
──「To The Music」の四つ打ちのリズムには、タイトルから引っ張るわけじゃないけど、The Musicを想起させる軽快感がありますね。
亀本 僕らはデビューの頃からエイトビートのイメージが強かったせいで、後からできるようになったと思われがちですけど、もともと四つ打ちも好きだったんです(笑)。四つ打ちの曲でも、ちゃんとギターのリフがあれば、ただのダンスソングではない、僕ららしいロックになるんです。
──7曲目の「愚か者たち」や9曲目の「All Of Us」は、映画やドラマからのオファーがあって生まれた既出のシングル曲ですが、主にこの2曲と「TV Show」が現実世界や社会についての曲で、それ以外の曲が、言わば理想郷についての歌だと感じられました。つまりこのアルバムは、現実世界と理想郷を往来するように構成されているのだと。
松尾 まさにその通りで、そこがこのアルバムの最も重要な部分です。現実を歌ったキーとなる曲が先にできていたので、後からドリーミーな曲を作りました。つまり、「こんな現実だけど、やっぱり私たちは愛を探している」とか「こういう世界にいたい」という思いですね。だからこそ“Looking For The Magic(=魔法を探している)”という言葉が生まれてきたのだと思います。
──そのラスト11曲目の「Looking For The Magic」では、歌詞の最後に「私は諦めないわ」というくだりがあります。これはある種、GLIM SPANKYの意思表示なのかなと思って。
亀本 僕も、これは松尾さん、自分のことを歌っている歌詞だなって思った。松尾さんの書く曲には誰かの思いを代弁するような歌詞もあるけれど、これは自分自身のことだなって。
松尾 そうだね。「大人になったら」もそうだけど、まずは自分のことを歌ったと思う。
──というのも、9月に開催された「MAGICAL WEEKEND PARTY」(東京と大阪で開催されたGLIM SPANKYの自主企画イベント)の東京公演で、松尾さんは「ロックを“古い”という人もいるかもしれないけど、うちらはこれが好きだし、ロックでもっと仲間を広げていきたい。もっと信じてやっていきたい」という趣旨の話をMCの場で強く語っていましたよね。「私は諦めないわ」という歌詞には、そうした意志が反映されているのではないかと思ったんです。
松尾 まさにその通りです。まずあのイベントについて話すと、東京・大阪と両方の公演に出てくれたReiちゃんはGLIMと共通のお客さんも多いんですが、同じく出演したDATSのようなダンスビートは、もしかしたらCreamやジミ・ヘンドリックスを聴いてきたような年配のお客さんからしたら、ロックとして捉えることができないかもしれない。でも私たちからしたら、DATSはとてもロックなバンドだし、うちらも「To The Music」や「In the air」のような四つ打ちをロックだと思ってやっている。私は、とにかくロックが好きな人のロックの概念というものを広げたいんです。
──なるほど。
松尾 ロックはこうじゃなきゃとか、革を着ていればロックとか、ロックにある種の固定概念を抱いている人が、まだまだ日本のリスナーには多い気がして。ロックって、もっと自由な音楽表現だと思うんです。私たちの音楽がきっかけとなって、誰かのロックの扉を1枚でも開けることができるかもしれないし、そうありたいと強く思っています。縦ノリこそがロックだと思っているリスナーが、GLIMを聴いて「これもロックだな」と感じてくれたらうれしいし、その逆だってあってほしいし。そういう気持ちを、ちゃんと言葉と態度で示していかなきゃなって。
──それはなぜですか。
松尾 こういう思いは何度も繰り返して示していかないと、すぐには浸透しないと思うので。毎回どのアルバムにも思いを込めていますが、私は自分の表現も、ロックの未来も“諦めない”。あとは、ロックに限らず、リスナーの皆さんの中にある、何かしらかの“諦めない”に響いてくれたらという願いも込めて歌いました。
──つまり各々の夢や目標ですね。
松尾 はい。私の言葉がきっと誰かの言葉となって、胸に留まってくれると信じて、この言葉を、歌詞の最後に、気持ちを込めて置きました。
──GLIM SPANKYはデビュー当時から「オーセンティックロックの旗手」というコピーを掲げてきました。でもこのアルバムを聴いて今日のお話を聞くと、それこそジャズにおける“ニュージャズ”じゃないですけど、“ニューロック”なりなんなり、もう一段先のコピーが必要な時期に差しかかってきたのかもしれないなと思いました。
松尾 ありがとうございます。わかりやすい言葉だと思って使っていますけど、私も最初からオーセンティックなだけのロックをやっているつもりはなくて。
亀本 それこそThe BeatlesもLed Zeppelinも、今でこそ“クラシック”とか“王道”とか呼ばれているけれど、当時はそれまでになかったようなロックを作って、歴史を塗り替えていたバンドでしたよね。僕らにとっての“王道”も、それを実現していくことだと思うんです。
松尾 そうそう。気持ち的には、まさに“ニューロック”といった思いでやっていますから。
──このアルバムを携えて、よりそうしたロックを求道していくということで。これからのGLIM SPANKYにも大いに期待しています。
2人 ありがとうございます!
- ツアー情報
GLIM SPANKY「LOOKING FOR THE MAGIC Tour 2019」 -
- 2019年3月2日(土) 長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2019年3月3日(日) 長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2019年3月10日(日) 神奈川県 Yokohama Bay Hall
- 2019年3月15日(金) 岩手県 Club Change WAVE
- 2019年3月17日(日) 福島県 郡山CLUB #9
- 2019年3月21日(木・祝) 兵庫県 チキンジョージ
- 2019年3月22日(金) 岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
- 2019年3月24日(日) 山口県 周南RISING HALL
- 2019年4月4日(木) 静岡県 SOUND SHOWER ark
- 2019年4月6日(土) 熊本県 熊本B.9 V1
- 2019年4月7日(日) 鹿児島県 CAPARVO HALL
- 2019年4月9日(火) 京都府 磔磔
- 2019年4月11日(木) 愛媛県 松山サロンキティ
- 2019年4月13日(土) 高知県 CARAVAN SARY
- 2019年4月14日(日) 香川県 高松MONSTER
- 2019年4月26日(金) 長野県 Sound Hall a.C
- 2019年4月28日(日) 新潟県 NIIGATA LOTS
- 2019年4月29日(月・祝) 石川県 金沢EIGHT HALL
- 2019年5月3日(金・祝) 北海道 札幌PENNY LANE24
- 2019年5月4日(土・祝) 北海道 札幌PENNY LANE24
- 2019年5月11日(土) 愛知県 DIAMOND HALL
- 2019年5月12日(日) 愛知県 DIAMOND HALL
- 2019年5月18日(土) 大阪府 なんばHatch
- 2019年5月24日(金) 広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2019年5月25日(土) 福岡県 DRUM LOGOS
- 2019年5月31日(金) 宮城県 Rensa
- 2019年6月8日(土) 東京都 豊洲PIT