音楽ナタリー Power Push - GLIM SPANKY
新しい時代目指し“ヤバい道”を行け
大人を困らせようぜ
──そして3曲目の「BOYS & GIRLS」のベースはストレイテナーの日向秀和さんです。
亀本 この曲はシャッフルビートの曲なんですが、ブルースのイナたい感じではなく、もっとゴリっと勢いのある音が欲しかったので、日向さんにお願いしました。
──この曲の「大人を困らせようぜ」という歌詞もまたGLIM SPANKYらしいなと。
松尾 まさにそのキーワードありきで組み立てた曲で、原型は2時間くらいでできました。歌いたいメッセージをひとつだけ明確に決めて、そこから歌詞を書くという、自分にとっては新しい書き方を試してみました。
──このフレーズは何かきっかけがあって?
松尾 みうらじゅんさん原作の映画「アイデン&ティティ」の中に出てくるセリフなんです。私らが高校生の頃に出た「閃光ライオット」というイベントで、出場バンドの中に、この映画に感化されちゃったバンドマンの友達がいて。彼、15分しかない持ち時間の中でいきなり服を脱いで浮き輪付けて、楽器も持たずに「大人を困らせにやって参りましたー!」って叫んで観客エリアに置いてあったプールに飛び込んだんですよ。
──あららららー(笑)。
松尾 やっちゃいけない困らせ方ですよ。次が私らの出番だったんですが、やりづらいわマイクは水浸しだわ……(笑)。もう運営側からしたらブチ壊しですよね。でも、本当に大人を困らせたなと思って。ちょっとだけ感動しちゃったんですよね。
──そこに感動するレミさんも相当こじらせてますね(笑)。
松尾 ですよね(笑)。ただ、こうしてメジャーデビューして日々を忙しく過ごしていると、なんだかたまにあのシーンが頭に浮かぶことがあるんです。だから歌にしちゃおうと思って。私自身もピーターパンシンドロームというか、大人ってズルいという気持ちを抱いたまま24歳まで来てしまった。小さい頃、テレビで政治家やら偉い人が謝罪とかしているのを観て、まったくなんのことかわからないけど「このおじさん悪そうだ」と純粋に感じていた。自分自身、大人になってしまったけれど、そういう気持ちを忘れたくないというメッセージもあります。それと、ちょうど今私の妹が高校生で進路を決める時期なんですけど、彼女を見ているとパッと見ではわからなくても、内なる闘志をガンガンに燃やしている。きっと世間にはそういう人がたくさんいる。そういう人たちにこのメッセージを届けたいという思いもありました。
──ちなみに、そのプールに飛び込んだ彼とは今でも付き合いがあるんですか?
松尾 あります。しかも彼、今でもバンドマンなんですよ(笑)。
今ならこの曲を歌える
──4曲目の「太陽を目指せ」はどんな曲でしょう。
松尾 ほかの曲はメッセージ性が強いけど、この曲は聴く人を抱きしめるような曲にしたくて書きました。みんなが忘れがちな自然の雄大さと、私がずっと持っている「どうせなら誰よりもデカい目標を掲げよう」というポリシーとを重ね合わせました。私たちは長野県の田舎で暮らしていたので、東京にいると自然の尊さを感じるし、やっぱり万物の中で太陽が一番すごい存在だなあと思うんです。だから太陽さえも目指してしまうくらいのデカい希望を持って生きたいなあという、私なりのささやかな宣言というか。このミニアルバムの中で一番温かい曲ですね。
──そしてラストは「夜明けのフォーク」ですね。
松尾 これは大学2年のときに作った曲です。大学の映画学科の先輩に「自主制作映画を撮るから主題歌を書き下ろしてくれ」と言われたのがきっかけでした。その映画の内容は、大切な友達が死ぬというけっこう暗いテーマだったんです。でも私の友達には幸いまだ死んだ人とかはいなくて、実感が湧かない。だから物語をベースに、死ぬのではなくて別れるとか、どこか違う場所へ行くというイメージで書きました。でも当時はどうしても自分の中で死に対する答えを持ち合わせていないという違和感が拭えなくて、だんだんとライブでもやらなくなって。
──それをなぜこのタイミングに?
松尾 一昨年、私がすごく尊敬していた友達のミュージシャンが亡くなってしまったんです。その子は私が知る同世代の仲間の中で一番才能があると信じていた子だったのですごくショックを受けて、しばらくの間とても前向きな気持ちにはなれなかった。でも、今ならこの曲を歌えると思ったんです。こんなときだからこそ、自分に対しても、友達に対しても、ロックは愛だ、希望だと本気で思っている自分の気持ちを示すべきなんじゃないかなって。それで歌詞を練り直して完成させました。
──この曲は解けることのない問いと向き合い続けるという意味において、各方面で評価の高かった「大人になったら」の延長線上にあるのかなと感じました。だからあの曲を気に入ったリスナーは、この曲もきっと気に入るんじゃないかなって。
松尾 ああ、それは気付いていませんでした。でも、そうだとうれしいですね。
ロックって、こんなに懐の広い音楽なんだよ
──ではこの「ワイルド・サイドを行け」をリリースして、2016年のGLIM SPANKYは文字通りどんなふうにワイルド・サイドというケモノ道を歩んでいきたいですか?
松尾 昨年はさまざまなフェスにも初出演させてもらい、年末には「COUNTDOWN JAPAN」にも出ました。今年は若い人に向けてロックの土壌を広げたいという気持ちが一番大きいですね。偉そうに聞こえてしまうかもしれないけれど、GLIM SPANKYがいろんな場所でいろんなロックを鳴らすことでもっと日本のロックの幅が広がってくれたらいいなと。
──何かそう思う動機があったんですか?
松尾 あくまで個人的な印象ですけど、例えばフェスに来る若い子って、知らない音楽に耐性がない気がして。例えば、今どきシャッフルビートの曲をやるバンドなんて少ないじゃないですか。でも私たちはやる。みんながあまりなじんでこなかったグルーヴを率先して弾いて、自分たちを受け入れてもらえる市場を自分たちで切り拓いていきたい。それをスタートさせるのがこの2016年だと思っています。どんな場所でもそういう戦いができるっていう自信がやっと付いてきたので。
亀本 だからもちろんワンマンをやらせてもらう会場の規模もBLITZより大きくしたい。そのためには、いろんな場所で新しいファンを獲得しなければと思っています。
──曲の数もそろい、状況も整ったという自負がある?
松尾 はい。だから本気で打って出たいですね。「ロックって、こんなに懐の広い音楽なんだよ」と伝えたい。そうして仲間をたくさん増やしたいですね。
亀本 去年の年末は桑田さんやみうらさんが僕らの名前を挙げてくれたけど、例えば今年の年末はさ、イケメン俳優さんとか読者モデルの人がGLIM SPANKYを好きなバンドに挙げてくれたらいいよね?
松尾 それいいかも(笑)。たくさんの人を巻き込んでいけるようにがんばります。ぜひ聴いてください!
- GLIM SPANKY ミニアルバム「ワイルド・サイドを行け」 / 2016年1月27日発売 / Virgin Music
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 2700円 / TYCT-69097
- 通常盤 [CD] / 1620円 / TYCT-60077
CD収録曲
- ワイルド・サイドを行け
- NEXT ONE
- BOYS & GIRLS
- 太陽を目指せ
- 夜明けのフォーク
初回限定盤DVD収録内容
2015/10/17 赤坂BLITZワンマン公演
- サンライズジャーニー
- 焦燥
- MIDNIGHT CIRCUS
- ダミーロックとブルース
- 褒めろよ
- WONDER ALONE
- リアル鬼ごっこ
- NEXT ONE
- 大人になったら
- さよなら僕の町
GLIM SPANKY(グリムスパンキー)
松尾レミ(Vo, G)、亀本寛貴(G)による男女2人組のロックユニット。2007年に長野県内の高校で結成。2009年にはコンテスト「閃光ライオット」で14組のファイナリストの1組に選ばれる。2014年6月に1stミニアルバム「焦燥」でメジャーデビュー。その後、スズキ「ワゴンRスティングレー」のCMに、松尾がカバーするジャニス・ジョプリンの「MOVE OVER」が使われ、松尾の歌声が大きな反響を呼ぶ。2015年7月には1stアルバム「SUNRISE JOURNEY」をリリース。10月には東京・赤坂BLITZにてワンマンライブを実施する。また2015年はJOIN ALIVE、FUJI ROCK FESTIVAL、SWEET LOVE SHOWERなどといった大型フェスにも出演し、沢山のオーディエンスを沸かせた。2016年1月に2ndミニアルバム「ワイルド・サイドを行け」を発表する。