コロナ禍は長かった!
──HISASHIさんの視点で「HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2023 -The Ghost of GLAY-」を振り返ってみていかがですか?
お客さんが盛り上がってる様子を見て、みんな日々フラストレーションを抱えているんだなと感じましたね。同時にGLAYのファンは優秀だなとも思ったし。
──優秀というのは?
コロナ禍でアリーナツアーもホールツアーもやったけど、本当にみんなちゃんとガイドラインを守るし、歓声NGだったら拍手だけで盛り上がるし。ロックバンドのファンだったら1人くらいルールを破ってもいいんじゃないかと思うくらいで(笑)。でも、GLAYの公演を止めたくないという思いがそうさせるんだろうなと考えたら、改めてライブというものはお客さんと一緒に作り上げるものなんだと感じたんです。そういうことを通して、エンタテインメントの重要性に気付かされました。
──GLAYと言えばこの数年「エンタテインメントの逆襲」を掲げて、配信ライブをしたり、声出しNGのライブ(2020年12月開催の「GLAY DEMOCRACY 25TH "HOTEL GLAY GRAND FINALE" in SAITAMA SUPER ARENA」)では「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」のオマージュを映像演出に盛り込んだり、さまざまな試みをされてました。
あー、やりましたね! 懐かしいなあ。
──HISASHIさんの感覚としては懐かしいんですね。
そうですね。このコロナ禍は長かったですよ! でも、バンドとしてはあまりネガティブに捉えてなかったんですよね。僕らの場合は、リモートレコーディングを余儀なくされたタイミングでリズムトラックの作り方を見直して、DJ MassくんやYOW-ROWくんと制作を始めたり、「Pianista」の編曲をしてくれたサクライケンタくんと制作したり、トオミヨウさんに編曲をお願いしたり。みんなでスタジオに集まってレコーディングしているほうがGLAY的には楽しかったけど、それができない状況の中で、いろんなクリエイターと一緒に制作ができるようになったのは、コロナ禍においてよかったことかもしれないですね。必要に強いられてそうなったところはありましたけど、意外とGLAYに合ってました。
──「エンタテインメントの逆襲」は成功したのか、それとも課題を残したのか。その点での評価はいかがですか?
うーん、まだ課題がある感じ。エンタテインメントは脅威には弱いなという結論かな。でも、音楽業界に限らず、演劇、お笑い、映画……いろんなエンタテインメントに関わる人たちが努力をして、逆境に打ち勝とうと活動をしていたことに希望を感じましたね。お客さんもエンタテインメントの火を絶やさないように努力をしていて。ただ、ほとんどの人にとってパンデミックなんて初めてのことだから、いろんなことを間違えるんですよね。そして、それを叩きやすい世の中になってるなとは思います。最近のSNSを見ていると特にそれを感じます。
──確かにこの数年は社会的な分断が加速しましたし、SNSで人が傷付け合うことも増えて息苦しいところがありますよね。そんな中、HISASHIさんは長年SNSでの発信をコンスタントに続けられていますが、その極意はあるんですか?
例えば、自分が思っていたことを発言して、それが炎上してしまうと発言を削除して謝罪するという構造はよく見るけど、みんな信念が弱くないかな?と思うことはありますね。本当に恥ずかしくない自分の言葉だったら削除する必要はないし、信念があるなら貫けばいい。もちろん言ってはいけないことやデットラインはあるけど、多くの人が怒られることに慣れてなくて、怖がりすぎてない?と思ったりもします。あとはSNSで投稿するとき、自分の発言がどういう影響を与えるかを考えること、発信しちゃいけないことのラインを判断することにSNSにおける“うまさ”があるんじゃないかな。とはいえ、そのバランスは難しいところですけどね。
新しいGLAYを作るためのサクライケンタ起用
──この流れで、SNSというワードが歌詞に登場する「Pianista」についてお聞きできればと思います。個人的に一番驚いたポイントは、先ほども触れられていたサクライケンタさんが編曲に携わっていることですね。サクライさんと言えば、2021年に惜しまれつつ解散したMaison book girlのサウンドプロダクションで広く注目されましたが、HISASHIさんが彼のことを知ったきっかけは?
さかのぼること2010年前後、BABYMETALやももクロ(ももいろクローバーZ)が台頭してきた頃、これまでとは異なるアイドルが日本の音楽を席巻する世界がきたなと感じたんです。BiSをはじめとするWACKグループも同時期に出てきて、僕はBiSに興味を持ったことをきっかけに松隈ケンタさんと仲よくなって。
──確かに2010年代のアイドルシーンには、従来のアイドルファン以外の方も強く反応していた印象があります。
僕ら世代の大人にとっても、かわいい女の子たちが本気でメタルをやってるBABYMETALや、Oasisやヨーロッパのロックに影響を受けたBiSの曲は響くものがあったんですよね。素直に上質な音楽をやっているなとも思ったし。あとはアイドルのライブもよく観に行くんですが、みんな本当にステージに立つ一瞬に懸けていて、ときには泣きながらパフォーマンスをしている。瞬発的に自分たちの魅力を燃やしていく姿を見て、これはすごい文化だなと思ったんです。僕が触れていた昔のアイドルとは表現方法が違うんだなと。そうやって新たなアイドル文化に触れる中で、Maison book girlにも興味を持つようになって。曲を聴くと明らかに僕らと音楽の作り方が違うんです。
──一番違うと感じたポイントは?
GLAYの音楽は日本のビートロックに影響を受けているから画一的になりがちなんです。8小節のAメロとBメロのあとに、16小節のサビがきて間奏が入るような32小節の展開が定番になってる。でもそうではない音楽があることを、僕は2010年以降に知ったんです。中でもサクライくんはワルツ的な曲だったり、5拍で構成されている曲を作っていて。そういった変わった要素をGLAYに放り込みたい、新しいGLAYのサウンドをメンバーに提示したいと思ったのが、彼に依頼したきっかけですね。
──オファーしたのはいつ頃だったんですか?
最初にコンタクトを取ったのは7、8年前じゃないかな。サクライくんにDMを送りました。
──いきなりHISASHIさんからDMが来てびっくりしたでしょうね。TERUさんも「限界突破」を作るきっかけになったスノーボーダーのラマさんにDMをいきなり送ったエピソードを話されていましたが(参照:GLAY「HC 2023 episode 1 -THE GHOST/限界突破-」特集|TERUソロインタビュー)、HISASHIさんもなかなか積極的ですね。
ははは。そのときは別にリリースの予定があったわけでも、一緒にやりたい曲ができたわけでもなくて、ただ話してみたかったというか。で、コロナ禍になって宅録がメインになったときに、今が一緒にやるチャンスじゃないかと思って声をかけたんです。
──HISASHIさんはサクライさんのどんなエッセンスを曲に入れたいと思ったんですか?
独特なリズムと変拍子、あと彼が使うマリンバの音がすごく好きだったのでそこですね。
──実際にはどんなオーダーを?
メロディを邪魔しなければオケはどんな形でもいいから、好きなようにアレンジしてと伝えました。その結果、僕が作ったデモからはガラッと変わりましたね。編曲というよりリミックスに近くて、僕らの画一的なサウンドを壊してくれるクリエイターだなと感じました。30年も同じメンバーでやってると、よくも悪くもそのバンドらしさが確立されてしまう。それはもちろんいいことなんだけど、自分はクリエイターでもあると自負しているからこそ、どこかで変わり続けたいという願望もあるんです。そしてその思いは世代が離れた人とやることで叶えられる。若い人のほうがGLAYに対する先入観がない分、壊しやすいんじゃないかな。
──そのサクライさんのエッセンスが入った「Pianista」ですが、JIROさんの弾くなめらかなベースラインが美しいですよね。あとはギターも細やかですし、ライブで演奏するのが大変そうだなと思いました。
実際のところめっちゃ大変ですね(笑)。ギターはもらったアレンジの音源をコピーしました。リズムもとにかく込み入っていて、TOSHIさんだったら絶対やってくれると思うけど。ベースにしてもドラムにしても、オケのリズムが変わるとライブでのアプローチも変わってくるから面白いですね。
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GLAYにピリオドはない