GLAY|“トリックスター”HISASHIは「FREEDOM ONLY」をどう奏でたのか 名器を手に追求したストレートな“GLAYっぽさ”

「エンターテインメントの逆襲」をテーマに掲げ、コロナ禍においても精力的に活動を続けるGLAYが、2年ぶり、16枚目のオリジナルアルバム「FREEDOM ONLY」をリリースした。

アルバムごとに異なるコンセプトを掲げているGLAYが、「FREEDOM ONLY」を制作する上で設定したのは「自分たちのルーツ」だったという。アルバムには、古くは1997年に制作された「FRIED GREEN TOMATOES」を筆頭に、コロナ禍において人に寄り添うような温かみのある楽曲が多数収録されている。その質感はどこか1996年リリースの大ヒットアルバム「BELOVED」に近しいが、単なる原点回帰的なものではなく、30年の活動の中でメンバーが時代とともに更新してきた音楽性もしっかり根付いている。

ギミックに富んだプレイや曲を得意とする“トリックスター”HISASHI(G)は、このアルバムにどう向き合ったのか。これまで敬遠していたあるギターとの出会いのエピソードなどを交えて語ってもらった。

取材・文 / 中野明子撮影 / 映美

コロナ禍になってから街が灰色っぽく見えるんです

──2021年を「エンターテイメントの逆襲」の年にすると宣言したHISASHIさんとして、ここまでを振り返ってみていかがですか?

HISASHI(G)

僕の予想ではもうコロナ禍は明けていると思っていたんですけど、なかなかしぶといもので。ウイルスも生き残ろうと必死なんだなというのを最近ひしひしと感じてます。当初、「THE ENTERTAINMENT STRIKES BACK」(2021年3月から6月にかけて行われた配信ライブ)のあと、アルバムツアーにつながればいいなと思っていたんですけど、予想に反してウイルスが夏にも強かったという。その中でもGLAYはうまく立ち回りたいと思ってやってるところですね。サブスクが始まった頃も「GLAY版iTunes」みたいなサブスクリプション型音楽アプリを自分たちで作って、華麗に時代と共存してきたので。コロナ禍において始まった配信ライブでも、僕らが今までできなかったことをやって楽しもうという気持ちで挑んできました。

──今まで通りの活動はできずとも、新しい活路を見出して前向きだったと。

とは言いながら、知らず知らずのうちにストレスを感じていたかもしれないです。例えばライブで声を出して騒げないとか。これまで当たり前にできていたものが淘汰されてしまうというのは苦しいですけど、今は規則に基づいてライブをやっていくことを考えています。

──約1年前にお話をお伺いしたときは配信ライブが今のように普及する前で、GLAYの皆さんは開催にあたっては慎重に考えていると言っていたんですよね(参照:GLAY「G4・2020」ソロインタビュー)。ただ時を経て「THE ENTERTAINMENT STRIKES BACK」を4回行い、さらに7月31日の“GLAYの日”にも配信ライブ(参照:GLAY×プレモル配信ライブで全国に届けた願い「世の中が明るい方向に向かってほしい」)を開催されました。毎回異なるコンセプトの配信ライブを行う中で気付いたことはなんでしょう?

あの、コロナ禍になってから街が灰色っぽく見えるんですよね。

──“GLAY”ではなく“GRAY”?

そうそう。僕ですらそう感じるんだから、ファンの人やライブに来ていたお客さんなんてもっとストレスだと思うんです。そんな中でも、ステージでこんなダイナミックな音楽を奏でることができるじゃないか、自分たちはぜいたくすぎるぞと。だからみんなの代わりに僕らはマスクをしないで、思い切りパフォーマンスしようと思ってましたね。

──ステージに立っている間は自由というか、今まで通りだと。

もちろん違いはあって、お客さんの反応がないというのがこれまでのライブとの一番の違いですけど、それは乗り越えないといけない壁なんだろうなと考えていました。今は有観客ライブもできるようになってきて、有観客と配信の両輪になりつつあるような状況になりましたしね。

──GLAYはドームクラスの大御所アーティストとしては珍しく、配信ライブをたびたび開催されているという印象を受けました。

まず、僕らの場合は自分たちが演奏をしたいという気持ちが強いんです。それとリーダーのTAKUROが「バンドは演奏をするものだ」という信念を持っているので、レコーディングはもちろん、アウトプットがないとバンドとして不健康だという考えで。史上稀に見る事態なので手探り状態だから、成功することもあれば失敗することもあると思うんですけど、どちらにしても明るい兆しが見えるようなものを目指していきたいと思ってました。「THE ENTERTAINMENT STRIKES BACK」は2回目以降、お客さんを入れながら開催しましたが、みんな真面目なんですよ。全然声を出さないし、ルールも守ってくれる。ちょっとくらいは「約束は破るものだ!」みたいな気持ちになるんじゃないかと思ってたんですけどね(笑)。

──ロックの根っこにある「体制への反抗」とは真逆ですね。

うん。でも、お客さんの姿勢を通して、真面目な日本人の性質に気付かされましたね。だからこそ有観客でライブができるわけですし、ちゃんと実績を作っていきたいと思ってます。

HISASHI(G)

──ワクチンが普及して、少しずつ規制も緩和されつつありますが、エンタテインメント業界も含め社会は一進一退を繰り返している状況ですよね。

自治体の要請に従ってますが、それでコロナの感染拡大の解決に向かっているのか?と感じる部分もあるし。やっていく中で、免疫をつけていくしかないですよね。本当に状況は一進一退で、さっきもスタッフから秋に始まるアリーナツアーの動員もどうなるかわからないと言われたんです。会場を満席にするのは無理でしょうし、今の段階だと赤字なんですよ。

──それでも歩みを止めず、音楽を奏で続けるのがGLAYだと。

そうですね。明るいニュースを届けたいと思ってます。