ワンオペで苦労中の「HISASHI TV」

──最近はどんな日々を過ごされていましたか?

自分としてはコロナ禍前とあまり変わらない感じでしたね。自宅にレコーディング環境があるので、未発表のGLAYの楽曲を完成させたり。違いはコンサートができないことかな。東京ドーム公演、名古屋ドーム公演が中止になってしまい25周年の完成形が見せられなかったのは非常に残念です。でも今はお客さんの安全が最優先ですし、その意見はメンバー全員一致してました。これが絶望的な結果ではないというのはもちろんわかっているし、これから収束していく中で、エンタテインメントの可能性と、これからのGLAYをどう動かしていくかを丁寧に考えながら前に進んでいる感じですね。

──エンタテインメントの可能性と言えば、配信ライブが増えましたよね。

そうですね。僕とTERUも2月下旬にヴェネツィアにライブをしに行ったときに、到着した瞬間に中止が決まって急遽YouTube Liveで配信して(参照:TERU&HISASHI、今夜ヴェネツィアのガラス工房より無観客ライブ生配信)。コロナはすぐには収束しないと思いますし、配信ライブという新しいエンタテインメントの形は広がっていくと思っています。僕はこれをあまり悲観的に考えず、わりとポジティブに捉えている部分はありますね。

──自粛期間中、HISASHIさんは「HISASHI TV」の更新も活発にされていて、最近だと3回にわたってレコーディングの過程を披露されていました。これには何か理由があったんですか?

たぶん多くのファンの方はレコーディングで僕らが実際に何をしているのかは知らないと思うんです。僕が「関ジャム 完全燃SHOW」に出演して「ギターは楽しいもので、弾くのは難しくないんだよ」と伝えたように、「HISASHI TV」ではレコーディングも難しいことはなくて、遊びながら楽しみながらできることを伝えたくてやってみました。今後もレコーディングやDTMの楽しさを伝えることを目標に続けて行こうかと思ってます。あとレコーディングって人間くさいんですよ。

──と言うと?

1つのフレーズに対して長い時間悩んだり、メンバーと意見を交わしたり、試行錯誤した末に最初に録ったテイクに戻ったり……そういう人間くさいところってレコーディングやコンサートのリハーサルとかで出るんですよね。毎回120点みたいな内容じゃなくて、ダメな日はダメだし。「HISASHI TV」ではそういう素の部分を流すのも面白いかなと。

──「HISASHI TV」の配信で一番大変なことは何でしょうか?

ワンオペなことですね(笑)。

──そのご苦労は拝見していて感じられます。

でも、僕ですらワンオペでできてしまうような最近のオペレーションシステムを考えると、1人で発信をするのもエンタテインメントの新しい形になっているんだなと。見せ方すらも時代と共に移り変わるというか。

──確かに。配信中はびっしりと書き込みされた「カビゴン」のノートブックをチェックしながら進行されていますよね。あのノートには具体的にどういったことが書かれているんですか?

ネタですね。隔週配信だと2週間の間にいろんなネタが溜まっていくんですよ。それと、ちゃんと自分の言葉で今の時代を語りたいと思っていろいろ書き込んでいるんですけど、いざやってみると書かれていることの3割くらいしか話せていなくて。課題はいっぱいありますね。

──そんな「HISASHI TV」で今後チャレンジしたいことはなんですか?

うーん、ゲーム配信とかやってみたいですね。自分だけしかできないこともやりつつ、いろんなことに挑戦して幅の広さを見せていきたいです。

50代を目の前にしてロックをやること、
余裕を持ってそれを楽しんでいること

──今回シングルがリリースされますが、HISASHIさんの作詞作曲された「ROCK ACADEMIA」はポップなサウンドもですが、歌詞にGLAYの歴史を思わせる言葉が刻まれていて印象的でした。TAKUROさんもインタビューで歌詞について絶賛されていました。

HISASHI(G)

うれしいですね。今、自分に音楽があってよかったなと日々実感していて。この曲には音楽に対する感謝とかバンドへの感謝、置かれている環境への思いなどが全面に入ってますね。デビューから四半世紀にわたって活動して来られたことが、この曲を作るうえでの大きなきっかけになりました。

──曲の着想は何かあったんですか?

「彼女はゾンビ」のような“超パーティロック”にしようと思って書き始めたんですよ。イメージとしてはアンドリューW.K.のパーティロックというか、Primal Screamの「ROCKS」みたいな。

──確かにノリは通じるものがありますね。

50代を目の前にしてロックをやること、余裕を持ってそれを楽しんでいることを表現しようと思ったんだけど、そこに自分の思いみたいなものもどんどん入っていって。少しだけノスタルジーが入った曲になりました。

──サウンドも非常に遊び心があって。歌詞を考えると、メンバー4人だけで作られたというのも非常に意味がある1曲ですよね。

そうですね。今回はたまたま打ち込みメインの楽曲になって、結果的に4人だけで作る形になったんです。

──制作においてこだわった点はありますか?

長い曲がそんなに好きじゃないので、絶対3分で収めたかった。Blurの「Song 2」みたいな、すごい好きだしいい曲なんだけど、すぐ終わっちゃう……そういう曲にしたかったんです。

──ちょっと物足りないくらいがいいと。

そうそう。

──TAKUROさんはこの曲をライブで披露できるのが楽しみとおっしゃってました。ちなみにWOWOWの特番インタビューでHISASHIさんは、ライブ再開時には泣くだろうと話していましたが……。

うーん、実際はどうなんでしょうね?(笑) 集客するコンサートではないけど、いろんな形でパフォーマンスを見せたいという話はメンバー間でしているんです。TERUはすでにGLAYアプリで配信ライブをやってますし、将来的にはバンドで配信ライブをやる機会もあると思います。

──WOWOWの収録で無観客ライブをやってみてどうでしたか?

ライブはお客さんの前でやることが前提だと思うので、楽しかったですが不本意な部分はどうしてもありましたね。6月25日に行われたサザンオールスターズの横浜アリーナ公演の無観客ライブは観ていて完全にやりきった感じがありましたけど、本来コンサートはお客さんと一緒に過ごすことで新たな何かが生まれるものだと思ってるんです。ライブの一番の魅力は、一瞬たりとも同じ時間が訪れることはないことですから。だから僕らも動けるようになったときに、すぐライブができるようにいろんな準備をしているところです。

HISASHI(G)

コロナ禍の中でも新鮮なエンタテインメントを

──シングルのほかの曲についても聞かせてください。シングルに収録されている「Into the Wild ~密~」はベネチアからの配信ライブで届けられたバージョンなんですよね。

はい。ベネチアからこの曲を配信したときは、スタッフも少なかったし、非常にコンパクトなセッティングで、僕も片手でエフェクターボードとギターを持って、ラインでつないで音を出すような形だったんです。コンパクトなシステムでもハイパーなパフォーマンスができるし、音楽をちゃんと届けられるということがすごく自信につながって。ベネチアで披露されたバージョンの完成度が高かったのでシングルに収録されたし、WOWOWでの無観客ライブの放送にもつながったんじゃないかと思っています。

──いろいろなきっかけを生んだ1曲だと。「流星のHowl」をレコーディングした際に意識したことはありますか?

これも随分前にアニメサイズ用に作った曲なんですよ。TERUとMassくんとで作った曲なので、機械的なギターが弾ければいいなと思ってレコーディングしました。感情の部分はTERUの歌で表現されると思ったんでね。

──JIROさんが作曲した「DOPE」のレコーディングはどうでしたか?

自分に対する修行みたいでした(笑)。「48歳のお前のロックンロールはどう奏でるんだ?」みたいな課題が与えられた感じでしたし、レコーディングではほかの曲とは違う緊張感がありましたね。自分の中にはないタイプの曲ですし、いちギタリストとしてどういうふうに表現するか考えて。勝手に自分でハードルを上げてました(笑)。ギター選びから、休符の入れ方、ピックが当たるときのノイズだったり……細部までこだわって、ソリッドなものに仕上げようと試みました。ギミックなしのGLAYらしい8ビートのロックンロールが聴ける曲ですよね。そういう一面が出るのはいつもJIROの楽曲なんですよ。彼の役割が出ているというか、そもそもシングル自体が“四者四様”が確立した作品だと思います。

──今回はシングルと同時に「HOTEL GLAY」の映像作品もリリースされますが、総合演出を担当されたHISASHIさんとしてツアーを振り返ってみてどうですか?

「HOTEL GLAY」は25周年のアニバーサリーツアーではあったけど、メンバーそれぞれが分かれて演奏する演出とか、新たなチャレンジを見せられたなと。周年ツアーなのにハッピーな感じではないし、緊張感があってハラハラしましたね。映像を観直して、デビュー25周年を迎えてもどんどん進化していくバンドでありたいし、その可能性を大事にしながら音楽を作っていきたいと思いました。いつ完全復活するかわからないエンタテインメント業界ですけど、サブスクが普及し始めた頃に「GLAYアプリ」を始めたように、マイナスな局面をいかにプラスに変えられるかということを考えつつ、コロナ禍の中でも新鮮なエンタテインメントを届けたいです。それとデビュー25周年は締まってないので引き続きお楽しみに、という感じかな。