今できる最大限のことをやっていくと、
新たな活動方法が見え始める

──自粛期間はどんな日々を過ごしていましたか?

主に音楽制作をやっていましたね。これまではアルバムやシングルに向けてスケジュールを切って曲を作っていたんですが、自粛期間中は時間があったので機材をそろえて、締め切りを気にせず自由に制作して。Logic Proの機能の1割程度しか使えてなかったのを勉強して、今では7割くらいまで使えるようになりました。あとはライブができないのなら自分でやろうと「GLAYアプリ」でライブ配信ができるようにシステムを変えてもらって。コロナの影響における不便さを新鮮に感じつつ、僕ってこんなに家にいられる人間なんだと発見したり(笑)。

──この状況に適応されていたと。

はい。GLAYでリモートレコーディングの形でアルバム1枚作れたらいいねと話しているんです。これまではスタジオに入って作ることが多かったんですが、メンバー間でデータのやり取りをして、交換日記のように音を重ねて作る方法で作っていて。この手法でのアルバム制作はGLAYとしては初めての試みです。今できる最大限のことをやっていくと、新たな活動方法が見え始めるんですよね。自宅からアコースティックライブを配信したとき、これまであまりGLAYの曲を弾き語りでゆっくり聴かせる機会がなかったのでファンに喜んでもらえたみたいで、今後シリーズ化していきたいです。

──最近はさまざまなアーティストが配信ライブをされていますが、TERUさんの中で配信ライブを行う際のポリシーはありますか?

自分としては、例えばインスタライブなどで音楽を無料で届けるという形に関しては一歩引いて見ていましたね。そのやり方を続けていたら音楽業界が破綻してしまうという怖さを感じたんです。音源にしてもライブにしても、商品としてちゃんと届けられるようなクオリティを保って、お金を発生させることを意識しています。もちろんファンの子たちも無料で楽しめるのはうれしいでしょうけど。それよりも演奏や演出のクオリティを上げて、観た人が感動できるようなものを提供していくことがミュージシャンとしての役目なんじゃないかと思うんです。配信ライブは新たなエンタテインメントの形として始まったばかりなので手探りですが、その都度最大限のものを提示していきたいですね。

今回は空を出さないぞ

──まだまだ予断を許さない状況ではありますが、そんな中で「G4」シリーズの最新作「G4・2020」がリリースされます。この中でTERUさんは「ダイヤのA actII」のオープニングテーマでもある「流星のHowl」の作曲をされています。

「ダイヤのA」とのタイアップはもう5回目で、4作目までは高校野球や夏の甲子園大会をイメージした明るい曲だったんですが、今回は自分の気持ちの変化があってこれまでとは違う曲調にしました。

──曲も歌詞も“敗者の目線”で作ったそうですね。

はい。改めてアニメを見直してBGMを聴き込んでいたら、意外とドロドロとしたマイナー調の音が多くて。「ダイヤのA」は高校球児たちの苦悩の日々を描いているし、ただ明るいだけのストーリーではないんです。それで敗者をテーマに、マイナーかつEDM調の曲でその世界を表現してみようと思いました。作ったデモを「ダイヤのA」の製作陣に渡したら「すごくいい」という返事をいただいて。スポーツアニメの曲というと明るくてアップテンポなイメージが強いですが、意外に評判がよかったんです。それとマイナー調のEDMというGLAYっぽくない作風に対してリスナーから「え、これGLAYなの? カッコいい」みたいな反応もあったし、僕としてはしめしめと(笑)。

──TERUさんが手がけられたこれまでの「ダイヤのA」のテーマソングとは真逆なタイプですよね。これまで歌詞はTERUさんご自身が書かれていたところ、今回はTAKUROさんが手がけられています。TERUさんの楽曲をTAKUROさんが作詞されるのは珍しいのでは?

僕が「ダイヤのA」の歌詞を書くと必ず「青空」が出てきちゃうんですよ。「今回は空を出さないぞ」と思っても、歌詞を書いているうちに青空が出てきちゃって(笑)。ポジティブで前向きすぎる自分の性格だと、歌詞とはいえなかなかネガティブなことが書けない。それでTAKUROにお願いしたんです。

──そんな事情がありましたか(笑)。

そうなんです。

──曲の話に戻りますが、TERUさんが作曲されるシングル曲の幅はどんどん広がっていますよね。今回のようなマイナー調でダンサブルな楽曲というのは、今までのレパートリーにはなかった気がします。

ありがとうございます。長年僕はシングル曲を書くのには向いていないと思ってたんですが、TAKUROから2014年の「GLAY EXPO」のテーマ曲を書いてくれと言われて「BLEEZE」を作ったときに手応えを感じたんです(参照:GLAY「BLEEZE~G4・III~」インタビュー)。「僕でもシングル曲が書けるんだ。じゃあがんばってみよう」と。そのときに1つ決めたことがあって。メンバーも音楽的に成長しているし、常に新しいサウンドにチャレンジしていきたいだろうから、それとは違う部分だったり抜けたところを補おうということ。

──確かに「COLORS」は王道のGLAYバラードという風情で、TAKUROさんの曲と思いきや、作曲されたのがTERUさんだと知ったときは驚いたのを覚えています。

僕の作る曲に関しては、メロディラインが切なくなるのが特徴で、それがうまく今のGLAYとハマってるんだと思います。同時に最近はDJ Massくんとも一緒に曲作りをしているので、サウンド的にもさらに進化していますね。

──TERUさんから見たDJ Massさんの魅力はどんなところですか?

一番好きなのは、作る曲や音が切ないところなんです。それとメジャー感のある音をうまく取り入れてくれるので、GLAYにもぴったりくるだろうなと。TAKUROもMassくんとデモを作っていて、コラボの進化形が見え始めているところだし。WOWOWでのライブ収録でもサポートで入ってもらって、今はアレンジも一緒に作れるチームになっているので、Massくんは“もう1人のGLAY”みたいな感じになっています。

TERU(Vo)

HISASHIは楽しんでいるんだな

──ご自身以外の楽曲についてもお伺いしたいのですが、HISASHIさん作詞作曲の「ROCK ACADEMIA」を聴いたときの感想はいかがでしたか?

今までのHISASHIの作風だとちょっとピリッとした、時代に釘打つような切り口の曲が多かったところ、すごくストレートで垢抜けているという印象でした。歌詞を読んで、デビュー25周年を迎えた中で、HISASHIがロックを楽しんでいるんだなと感じました。それとHISASHIの曲に関しては、今までは息継ぎができなかったりするタイプの曲が多くて歌うのが難しかったんですよ(笑)。それが今回は本当に気持ちよくリズムに乗れて歌えました。ただメロディはHISASHIらしくトリッキーなので覚えるのが大変で、プリプロで歌ってたら本人に「よくそれ歌えるね」って言われて(笑)。デモのHISASHIの仮歌も素晴らしすぎて、曲にすごくハマっていたので、それを超えるのが大変でした。だから自分としてはゲームをクリアするような感じで歌いましたね。

──JIROさんとTAKUROさん共作の「DOPE」はどう聴きました?

JIROは昔から変わらず、メンバーだけで構築できるサウンドが好きなんだなあと。それと一貫して自分が作った曲は、コーラスをあまり入れたくないと言うんです。僕はサビでコーラスを厚くして、ちょっとキラキラした曲に仕上げることが多いので、こういった曲は歌っていて新鮮ですね。

──この曲はTHE PREDATORSっぽいサウンドですよね。

そうなんです。以前、JIROはTHE PREDATORSとGLAYの曲は分けて作ってたらしいんですけど、どこかのタイミングで「THE PREDATORS用に作った曲だけどGLAYでもどう?」って曲を持ってきたことがあるんですよね。それがうまく採用されたことを機に垣根がなくなったみたい。この「DOPE」はTHE PREDATORSでやってもカッコいい曲だと思います。

──そして今回のシングルには「Into the Wild」はリミックスが3トラック収録されています。それぞれ聴いていかがでしたか?

素直にDJの方々のセンスはすごいなと感動しました。みんなそれぞれの個性があるので、どれもまるで違う曲になった印象です。僕の中では歌メロに対してのコード感というものにこだわりがあって、メロディとコードが合わないときは調整するんですが、リミックスだとそういうことは無視してノリのいいコードをぶつけてくるのが面白いなと。それと昔から80KIDZが好きで、いつか彼らにGLAYの曲をリミックスしてほしいなと思っていたので長年の念願が叶ったというか。ファンの方からどんな反応があるのか楽しみです。

──リミックスはどれもかなり大胆にアレンジされていて、改めて「Into the Wild」は懐が深い曲なんだなと思いました。

メロディがシンプルで、淡々としているのがいいんでしょうね。メロディや歌詞だけを際立たせるのではなく、曲全体をしっかり聴かせる構成になっているので、どこを切り取っても面白いリミックスになる。実際に自分でリミックスをしてみたんですが、これがけっこうサマになってたんですよ。せっかくサイトでステムデータを公開しているので(※GLAY 58th Single「G4・2020」発売記念「Into the Wild」Remix企画)、ファンの方にも試してもらいたいですね。ファンの方はこれだけのトラックが音が重なって曲が構成されていることに驚いていたみたいです。今回のステムだけで26トラックとかありましたから。この数を見たら我々の苦労をわかってもらえるんじゃないかな(笑)。

──これをきっかけにリミックスの楽しさを知る人が増えるといいですね。

そうですね。ただ、ステムデータのボーカルトラックだけ聴いてる人も多いみたいで(笑)。レコーディング中にたまに自分の歌だけ抽出して聴く場合もあるんですが、いまだに慣れないですし、丸裸にされた自分を見られている感じで恥ずかしいです。

TERU(Vo)

今僕らが届けたいロックを感じて

──今回のジャケットは横尾忠則さんが手がけられていますが、コラボのきっかけはTERUさんだとか。

はい。1998年にポスターを手がけていただいたこともあるんですが、縁があって2年前にひさしぶりに対談したんです。あれほどキャリアのある方なのにまだすごい制作意欲があって、いまだにいい意味での狂気的な感覚をお持ちなので、いつかまたコラボしたいと思っていて。デビュー25周年を締めくくる予定だったドーム公演が中止になってしまったり、コロナの影響で社会が大変な状況にある中で、普通のジャケットで「G4・2020」を表現することは難しいなと考えていたんです。そこで、今日本が変な状況になってることなどを含めて、アートで表現できるのは横尾さんじゃないかと。

──すごいインパクトですよね。まさに横尾アートというか。

自粛期間中、部屋の模様替えをしたときに、家にあった横尾さんの絵を壁に飾ったんです。それを観ていたらすごくパワーがみなぎるというか、目から入ってきた情報で盛り上がる感じがあった。その感覚を今回のジャケットで味わってもらいたいと思っています。僕らからは「ロック調のジャケットを描いてほしい」というお願いだけで基本はお任せ。メンバーも全会一致でオファーしたら、狂気を孕んだデザインが上がってきてさすがだなと。個人的には、デビュー25周年を象徴するシングルのジャケットを世界的な芸術家に描いてもらったことがお祝いのようでうれしかったです。

──シングルと同時に「HOTEL GLAY」のライブ映像作品が発売されますが、ご覧になっていかがでしたか?

ライブをやることが当たり前だった日々を改めて思い出すと、周りの方々の協力あってのステージだったんだなと思うし、ファンの子たちがいてのライブなんだなと実感しました。当たり前だと思っていたことが、実はなかなかできないことだったんだなと感じています。ライブはお客さんが目の前にいてこそ発揮できるものもあるし、そこで起きるマジックを楽しみながらステージに立っていたので、この映像作品を観ながらまたこういうライブができる日がくることを願っています。

──そうですね。まだ12月の札幌ドームは開催の可能性がありますし。

ええ。今、僕らは曲を聴いてがんばろうと思ってもらったり、安らいでもらえたりするような音楽を作っていこうと考えながら過ごしていて。今回のシングルはその気持ちが形になったものです。今僕らが届けたいロックや、今後のGLAYを感じてもらえるんじゃないかと思います。