音楽ナタリー Power Push - ジョルジオ・モロダー特集
エレクトロディスコの父が30年ぶりに帰還! その魅力を石野卓球が語る
俺はDaft Punkの気持ちもわかるな
──「ジョルジオって誰?」と聞かれたら、端的にどう言い表しますか?
“ゴッドファーザー・オブ・エレクトロディスコ”って感じかな、俺の見解としては。でも人によって見方が全然違うものですよね。映画音楽の世界でも第一人者だし、エレクトロディスコでも第一人者で、ミュンヘンディスコというジャンルを作った人でもある。また一部では、そんなにシリアスに聴いたり、語るべきものじゃない……みたいな感じに見られていますからね。
──Daft Punkの「Giorgio By Moroder」もまさに、彼が何者なのか紹介する曲でしたが、あれはどう思われました?
よかったですよ。Daft Punkって、ナイル・ロジャースもそうだけど、そういう人にスポットを当てて、「この人、スゲエんだぜ! もっと褒めてあげてよ!」っていうの、好きじゃないですか(笑)。
──ジョルジオは「曲を一緒に作れると思ったら、語りだけを頼まれて、少しがっかりした」と言っていましたよ。
すごく贅沢な使い方だよね(笑)。でも俺はDaft Punkの気持ちもわかるな。大御所だから、ヘタに「一緒にやりましょう」と言ってOKが出たとしても、ダメ出しできないじゃないですか(笑)。
──もし石野さんがコラボする機会を得たら、何かやってみたいことはありますか?
顔だけ使うとか? 顔ジャケで(笑)。
好きなアーティストに会ってガッカリするのは嫌だけど、ジョルジオにはぜひ会いたかった
──2013年4月に東京・Billboard Live TOKYOで行われた来日公演もご覧になったそうですが、当時は彼がどんなパフォーマンスをするのかまったくわからなかったわけですよね。
そうですね。ただ、DJのクリス・コックスが同行すると告知されていたので、多分、DJショー的なものなんだろうなとは思っていました。以前クインシー・ジョーンズが来日したときも、彼がステージで別に何をやるわけでもなくて(笑)。当時はそれが理解されていなかったけど、今は普通に「プロデューサーのライブってそういうものだ」と思われてるじゃないですか。なので、ジョルジオの場合もそうなのかなと。でもまさか自分のプロデュース作品までかけると思っていなかったので、うれしい誤算というか、「これで十分!」って思いました。あと、たまに彼が流す「ピョロロロロー」っていう音が、ジジイのションベンみたいな音だなって(笑)。まあBillboard Live TOKYOというハコの特性上、みんな最初から立って踊るという感じじゃなかったので、それがもったいないと思ったんですよね。2階の1番前の席だったんですけど、あまりにもみんながじっと鑑賞しているので、立つのがはばかられるというか。1回立ったら、最後まで立ったままでいかないとまずいし、そう考えるとリスクが高いなって(笑)。
──それもあって「WIRE13」に彼を招聘されたわけですよね。つまり、石野さんが日本の若い世代にジョルジオを紹介する役割を担ったようなところもある?
実際に観る機会を与えたという意味ではそうかもしれないけど、若い世代に知ってもらえたのはDaft Punkの影響が大きいと思いますよ。僕がジョルジオを「WIRE」に呼んだのは、単純に観てみたかったんですよ。テクノのフェスみたいなものに来る子たちに、絶対に受け入れられるという確信があったんで、それをぜひ彼に体験してもらいたかった。それに過去の「WIRE」で、DJ HELLとかWestbamとか俺がジョルジオの曲を使っていて、それでお客さんが盛り上がっていたわけなので、ぜひ!という感じでしたね。
──意外にもジョルジオは2012年までDJを体験したことがなくて、「WIRE13」出演の時点でも、10回くらいしかやっていなかったはずですよね。
そうそう。だから、「僕は一番年上だけど一番キャリアが短い」と言っていましたね(笑)。でもあの人はDJじゃなくて、コンダクターですよね。実際にターンテーブルを触るわけじゃないし。
──石野さん自身、対面されたときは緊張されましたか?
緊張していたけど、聞きたいことが山ほどあったし、「うわー!!」って気分(笑)。Kraftwerkとかは、むしろ会いたいとは思わないんですよ。会っても話すことがないし、ガッカリしたくない。好きなアーティストでもいろいろなんです。でもジョルジオはぜひ会いたかった。あれだけのキャリアの持ち主で、あの年齢だから、偏屈オヤジですごくイヤな思いをするかもしれないと、覚悟の上で。そうしたら逆にものすごく物腰の柔らかい、いいおじいちゃんだった(笑)。でも、もうこんな機会は2度とないだろうから、緊張するよりも興奮していましたね。緊張しているのはもったいない。
──子供に戻った?
戻りますよね、そりゃ!
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- ジョルジオ・モロダー ニューアルバム「Deja Vu」
- 2015年6月17日発売 / 2592円 / Sony Music Japan International / SICP-4425
CD収録曲
- 4 U With Love
- Deja Vu(feat. Sia)
- Diamonds(feat. Charli XCX)
- Don’t Let Go(feat. Mikky Ekko)
- Right Here, Right Now(feat. Kylie Minogue)
- Tempted(feat. Matthew Koma)
- 74 Is the New 24
- Tom's Diner(feat. Britney Spears)
- Wildstar(feat. Foxes)
- Back and Forth(feat. Kelis)
- I Do This for You(feat. Marlene)
- La Disco
- Magnificent
- City Lights
- Timeless
- 74 Is the New 24(Lifelike & Kris Menace Remix)
- Right Here, Right Now(Ralphi Rosario Club Mix)
- Kenny(Summit Dub Mix)
石野卓球(イシノタッキュウ)
1967年生まれのDJ / プロデューサー、リミキサー。インディーズバンド・人生を経て、1989年にピエール瀧らと電気グルーヴを結成。1995年には初のソロアルバム「DOVE LOVES DUB」をリリースし、この頃から本格的にDJとしての活動も開始する。1990年代後半からはヨーロッパを中心に、海外での活動も積極的に展開。1998年にはベルリンで行われたテクノ最大の野外フェス「Love Parade」のファイナルギャザリングで150万人を前にプレイした。また、1999年からは日本最大級の屋内テクノフェスティバル「WIRE」を主宰。2006年には川辺ヒロシ(TOKYO No.1 SOUL SET)と新ユニット・InKを結成した。2010年に約6年ぶりのオリジナル作品であるミニアルバム「CRUISE」を発表。2012年には、1999年から2011年までに「WIRE COMPILATION」に提供した楽曲を集めたDISC 1と、未発表音源などをコンパイルしたDISC 2からなる2枚組アルバム「WIRE TRAX 1999-2012」をリリースした。
ジョルジオ・モロダー
エレクトロニックダンスミュージックのパイオニアとして世界的に知られる音楽プロデューサー。1940年にイタリアで生まれ、1966年にドイツに移住したのちソロアーティストとして3枚のアルバムを制作する。1974年に歌手のドナ・サマーと出会い、翌年彼女の世界的ヒット曲「Love To Love You Baby」をプロデュース。1977年に発表されたドナ・サマーの楽曲「I Feel Love」は電子音のシーケンスだけで全編構成されており、「音楽史上初めてヒットした、シンセサイザーを使用したディスコ曲」として話題を呼ぶ。さらに彼自身も「From Here To Eternity」「E=MC2」といったソロアルバムを続々発表。ディスコ音楽のプロデューサーとして知名度を高める一方で、映画「ミッドナイト・エクスプレス」のサウンドトラックを担当し、この仕事でアカデミー賞の作曲賞を受賞。これを皮切りに「フラッシュダンス」「トップガン」といった大ヒット映画の音楽を次々に手がけていく。1984年にはロサンゼルスオリンピックのテーマ曲「Reach Out」、1988年にはソウルオリンピックのテーマ曲「Hand in hand」、1990年にはFIFAワールドカップ公式テーマソング「Un'estate Italiana」を作曲。しばらく音楽活動から遠ざかっていたが、2013年にDaft Punkのアルバム「Random Access Memories」に収録された「Giorgio By Moroder」にゲスト参加したことをきっかけに再始動し、同年5月に東京・Billboard Live TOKYOで初来日公演を行う。さらに同年9月に再び来日し、国内最大の屋内テクノフェス「WIRE13」に出演。2014年にはColdplay「Midnight」やトニー・ベネット&レディー・ガガ「I Can't Give You Anything But Love」のリミックスを手がける。そして2015年6月、カイリー・ミノーグ、ブリトニー・スピアーズ、シーアなどの豪華ゲストを迎えて、実に30年ぶりとなるソロアルバム「Deja Vu」をリリースする。