音楽ナタリー Power Push - ジョルジオ・モロダー特集
エレクトロディスコの父が30年ぶりに帰還! その魅力を石野卓球が語る
Daft Punkの最新作「Random Access Memories」の収録曲「Giorgio By Moroder」に“語り”でフィーチャーされて以来、本格的なカムバックが噂されていた、エレクトロニックダンスミュージックの先駆者かつ映画音楽の大家ジョルジオ・モロダー。彼が75歳にして30年ぶりのニューアルバムを完成させた。「Deja Vu」(eはアキュートアクセント、aはグレイブアクセント付き)と題されたこの作品は、得意のエレクトロディスコも今流行中のEDMも網羅した、上質のポップアルバム。彼はこの作品で、長いブランクがあったにも関わらず鮮やかな手腕を見せつけている。そんな彼を敬愛し、自らオーガナイザーを務めるテクノフェスティバル「WIRE13」に招聘した電気グルーヴの石野卓球がジョルジオを語った。
取材・文 / 新谷洋子 撮影 / 上山陽介
音楽はカッコいいのになんでこのルックス?
──ジョルジオ・モロダーのことは、YMOを経由して知ったそうですね。
そうです。そもそもエレクトロニックミュージックを聴き始めたきっかけがYMOなんですけど、YMOの1st「イエロー・マジック・オーケストラ」のB面がノンストップ構成なのは、ジョルジオのアイデアを参考にしたということだったので、じゃあ聴いてみようと思ったのが最初です。それで1977年発表のアルバム「From Here To Eternity」を手に入れたら、ドラムの音がYMOとまったく同じで、「ああ、こっちが元なんだ」と。まあその頃はまだ小学生か中学1年生くらいだったので、プロデューサー買いなんてことはしていませんでしたが、Blondieの「Call Me」だったり、意外なところでジョルジオがプロデュースした曲とは知らずに触れていたんですよね。
──かなりの数のジョルジオ作品をお持ちとのことですが、買い集めるようになったのは、もう少しあとになってから?
そうですね。もともと持っていたというのもありますが、俺はコレクターではなくて、レコードはみんなで聴くものだっていうのが信条なので(笑)。マトリックス番号違いで買うとか、そういうことはしないし。「From Here To Eternity」なんかは、どこかで安く売っていたら買う、消耗品みたいな感じ。あとは、以前から持っていたプロデュース作品や彼自身のアルバムを、改めてCDで買い直したりしているうちに、気付いたらいっぱいになっていました。基本的にダンスものが好きなので、特にジョルジオの場合は12inch盤は見つけたらなるべく買うようにしていて、「あ、こんなのも出ていたんだ」みたいな感じで、けっこうな数になっていましたね。
──一番初めに「この人はすごい」と思った瞬間を覚えていますか?
正直に言うと、YMO経由で聴いた当初は、ヒゲのイメージがあんまりよくなかったんです(笑)。ほら、当時はニューウェイブの時代で、ニューウェイブ系でヒゲがあったのはUltravoxのミッジ・ユーロか高橋幸宏さんくらい(笑)。特にアルバム「E=MC2」(1979年)とかのジャケットのジョルジオは、その頃テクノポップと呼ばれていたもののルックスから、一番遠かったんですよね。音楽はすごくカッコよくて大好きだったから、「音楽はカッコいいのになんでこのルックス?」というのが理解できなかった(笑)。まあ僕らの世代は、まずディスコがあって、ディスコからニューウェイブなんかを経由してエレクトロニックダンスミュージックへ……という流れをたどったんですけど、彼の場合はディスコからエレクトロニックダンスミュージックに来ていたんで、英国の耽美な感じとかとは無関係なんですよね。でも子供にとって、見た目は大事じゃないですか。今の俺は、むしろ“ヒゲ”サイドなんですけど(笑)。
ジョルジオの音楽には全部が入っている
──特に、映画「ミッドナイト・エクスプレス」のサントラに収められていた曲「Chase」のレコードは多数所有しているそうですね。ジョルジオの作品の中でも一番好きなんですか?
そうですね。DJでもよく使います。そもそも「ミッドナイト・エクスプレス」を深夜のテレビで観たのが中学生のときで。映画で使われたバージョンとはまた違いますが、映画の絶望的な雰囲気と当時のエレクトロニックミュージックが異様にマッチしていて、いやーな気分になったんですよね(笑)。ジョルジオがやっていたことを知らなかったんですけど、トラウマ的に残っていて。で、有名な曲だからいろんなところで耳にする機会があって、一番印象に残ったのが、DJとしてベルリンへ行き始めた頃のこと。WestBamが、古典的なエレクトロディスコだけでオールナイトでDJをやるイベントがあって、そこで彼は3回くらい「Chase」をかけていたんです。てっきりリミックスし直したものだと思って、ブースで挨拶しがてら話を聞いたら、当時のままの盤で。90年代前半の話なんですけど、70年代後半から80年代前半くらいのエレクトロディスコを、そのままテクノとかとミックスして使えるという考えはあまりなかった。そういうことが一番再評価されていない時期だったんです。だから目から鱗で、もう1回聴き直してみて、そのすごさに気付いた。あと、「Chase」には長さが違うバージョンがいくつかあるので、いろいろ買い足していたら増えてしまったんです。あれも消耗品だから(笑)。最近は気軽に買えるほどあちこちで売っているわけじゃないんですけど、当時は500円コーナーに入っていたりしたので。ほら、ドナ・サマーの「I Feel Love」とかはけっこうみんながかけているし、アンセム的過ぎる。「Chase」のほうが使い勝手もいいし、曲としても好きなんですよね。
──もちろん、子供の頃に1人のファンとして聴いていたときと、自ら音楽作りを始めてからでは、ジョルジオの作品の聴こえ方も変わったんでしょうね。
それはありますね。シーケンサーの一定のリズムをダンスミュージックに持ち込んだのは、Kraftwerkではなく彼なんじゃないかと思うんです。ジョルジオ本人に会ったときにそういう話をしたら、「いやあ、いいところに気付いたねえ」と言われて、ちょっとうれしかった(笑)。もちろん当時はドラムマシーンがまだなかったので、生ドラムと合わせてダンスにしていた。それまでのシーケンサーの使い方はもっと実験的なものが多かったんですけど、自動演奏をフレンドリーなものにしたのは彼が最初でした。その影響で、Kraftwerkの曲「Metropolis」も超ジョルジオっぽかったりするし、YMOも然り。YMOとKraftwerkも自分のルーツではあるけど、一番好きなのはジョルジオだったなと、彼に会ったあとでつくづく感じました。大人になって聴き直して気付いたんです、ジョルジオの音楽には全部が入っているってことに。結局元を正すと、ここなんだなっていう。
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- ジョルジオ・モロダー ニューアルバム「Deja Vu」
- 2015年6月17日発売 / 2592円 / Sony Music Japan International / SICP-4425
CD収録曲
- 4 U With Love
- Deja Vu(feat. Sia)
- Diamonds(feat. Charli XCX)
- Don’t Let Go(feat. Mikky Ekko)
- Right Here, Right Now(feat. Kylie Minogue)
- Tempted(feat. Matthew Koma)
- 74 Is the New 24
- Tom's Diner(feat. Britney Spears)
- Wildstar(feat. Foxes)
- Back and Forth(feat. Kelis)
- I Do This for You(feat. Marlene)
- La Disco
- Magnificent
- City Lights
- Timeless
- 74 Is the New 24(Lifelike & Kris Menace Remix)
- Right Here, Right Now(Ralphi Rosario Club Mix)
- Kenny(Summit Dub Mix)
石野卓球(イシノタッキュウ)
1967年生まれのDJ / プロデューサー、リミキサー。インディーズバンド・人生を経て、1989年にピエール瀧らと電気グルーヴを結成。1995年には初のソロアルバム「DOVE LOVES DUB」をリリースし、この頃から本格的にDJとしての活動も開始する。1990年代後半からはヨーロッパを中心に、海外での活動も積極的に展開。1998年にはベルリンで行われたテクノ最大の野外フェス「Love Parade」のファイナルギャザリングで150万人を前にプレイした。また、1999年からは日本最大級の屋内テクノフェスティバル「WIRE」を主宰。2006年には川辺ヒロシ(TOKYO No.1 SOUL SET)と新ユニット・InKを結成した。2010年に約6年ぶりのオリジナル作品であるミニアルバム「CRUISE」を発表。2012年には、1999年から2011年までに「WIRE COMPILATION」に提供した楽曲を集めたDISC 1と、未発表音源などをコンパイルしたDISC 2からなる2枚組アルバム「WIRE TRAX 1999-2012」をリリースした。
ジョルジオ・モロダー
エレクトロニックダンスミュージックのパイオニアとして世界的に知られる音楽プロデューサー。1940年にイタリアで生まれ、1966年にドイツに移住したのちソロアーティストとして3枚のアルバムを制作する。1974年に歌手のドナ・サマーと出会い、翌年彼女の世界的ヒット曲「Love To Love You Baby」をプロデュース。1977年に発表されたドナ・サマーの楽曲「I Feel Love」は電子音のシーケンスだけで全編構成されており、「音楽史上初めてヒットした、シンセサイザーを使用したディスコ曲」として話題を呼ぶ。さらに彼自身も「From Here To Eternity」「E=MC2」といったソロアルバムを続々発表。ディスコ音楽のプロデューサーとして知名度を高める一方で、映画「ミッドナイト・エクスプレス」のサウンドトラックを担当し、この仕事でアカデミー賞の作曲賞を受賞。これを皮切りに「フラッシュダンス」「トップガン」といった大ヒット映画の音楽を次々に手がけていく。1984年にはロサンゼルスオリンピックのテーマ曲「Reach Out」、1988年にはソウルオリンピックのテーマ曲「Hand in hand」、1990年にはFIFAワールドカップ公式テーマソング「Un'estate Italiana」を作曲。しばらく音楽活動から遠ざかっていたが、2013年にDaft Punkのアルバム「Random Access Memories」に収録された「Giorgio By Moroder」にゲスト参加したことをきっかけに再始動し、同年5月に東京・Billboard Live TOKYOで初来日公演を行う。さらに同年9月に再び来日し、国内最大の屋内テクノフェス「WIRE13」に出演。2014年にはColdplay「Midnight」やトニー・ベネット&レディー・ガガ「I Can't Give You Anything But Love」のリミックスを手がける。そして2015年6月、カイリー・ミノーグ、ブリトニー・スピアーズ、シーアなどの豪華ゲストを迎えて、実に30年ぶりとなるソロアルバム「Deja Vu」をリリースする。