ナタリー PowerPush - 銀杏BOYZ

「ボーイズ・オン・ザ・ラン」峯田和伸インタビュー

ビデオには戦場に生きる男の勇気と悲しさが詰まってる

──あと、あの「ボーイズ・オン・ザ・ラン」のビデオクリップを観たんですけど。これは本当にすごいものができたなあと思って。オフィシャルサイトでは「不細工募集」って言って出演者を公募してたけど、実際にあそこに映ってるのは不細工というよりは、うまく生きられない人たちで。もっと言えば、あそこに映ってるのは自分自身でもあるわけで、だから正直観ていて切なかった。ああいうビデオを撮ろうっていう発想はどこから?

あのね、作る前に思ってたのは「人の顔をアップで撮る」ってだけなの。それも男だけに声かけて夢とか欲望とかを喋ってもらう。夕焼けを入れたり空を入れたり、そういう抒情性は全部排除して。そこから何が生まれっかなと思って。つなげてみないとわかんないから、企画段階では何が見えんだろうなと思ってた。そんで想像以上のものができた。自分で監督やったんだけど、自分のものじゃないみたいな。でも2009年の、もうすぐ2010年になるこの国の状況が記録として残ったから、まあそれだけでいいやと思って、それだけ。

──あの映像を観る限り、みんなものすごく生きづらそうで、しんどそうにしてるなっていう印象を受けたんですけど。例えばこれを20年前に撮ってたら、きっとああはならなかったですよね。

編集の仕方もあると思うんですけど。まあ絵を観て思ったのは、みんな難民だなあって。しかもあっちの第三世界の難民と違うのは、こんだけ近代化されたビルもあって、整備されてて、銃もなくて、物質はすごいあふれてるのに難民だっていう、すっごい変な状態なんですよね。東京は戦場なんだなって思った。武器も飛び交わない戦場だと思った。

──確かにあのビデオを観ていると何かが歪んでるのは感じます。でも、あの映像が社会派かっていうとそうじゃない気もして。社会へのメッセージというよりはもうちょっと自分の内面をえぐられる感じがするんですけど。

インタビュー写真

それはみんな本音を言ってるからじゃないですかね。映ってる人達がみんな本音を喋ってる。今、じゃあ雑誌とかテレビとかメディアから本音が出てるかっつったら出てないんですよ。例えば眠れないっつって朝の5時頃テレビつけて、散らかった部屋でジュース飲みながら眠たそうにテレビつけると、「おはようございます!」ってすごい薄着の女子アナの人たちが、なんか芸人さんにでもなった感じで変なことを言って笑いながらニュースを報道して、かと思えば次にいきなり「こんな場所で殺人事件がありました」っつってさっきまで笑ってた顔がいきなりシリアスになって。本音が見えづらい。けど、街に出て話を聞くと、彼らは本音しか言ってない。こんなすがすがしいんだと思って。誰とやりたいとか、お金がないとか。言ってる内容はすごい汚かったり下品だったりするんだけど、本音を言ってるからすがすがしい。例えばこれが原宿・渋谷とか行ってすっごいおしゃれなヤツとかお金持ってそうなヤツばっかり、ジャニーズにいそうなイケメンばっかりを1000人撮って、で、夢語ってくださいって言って撮ったら、すがすがしいかなと思って。彼らはちゃんと本音言ってくれるかなと思って。あと、めちゃくちゃかわいい子。女の子限定で1000人とか。そしたら俺もっとドス黒い感じになると思う。で、たぶん今回のこのビデオには戦場に生きる男たちの勇気とか悲しさが詰まってる感じがする。

──「自分が不細工だと思う人、集まってください」って言って出演者を募集したときから、そういうものになるだろうなっていう予感はあったんですか?

「こういう感じにしたい」っていうのはあったけど、どうなるかはわかんなかった。ホームページで募集した人のは全体の1割もないよ。あとはみんな俺以外のメンバーとあとスタッフと、10チームぐらいで街で声かけて、なんか言ってくれそうな人ばっかりに声かけて、本当それだけだから。突然見ず知らずの撮影隊に捕まって、「ちょっと夢かなんかあれば言ってください」って言って心を開いてくれた人の絵ばっかり使ってるから。

成長や成熟は求めてない

──最後に、バンドの今後の予定を教えてもらえますか?

ライブは、ずっとここまでやってなかった分いろいろ溜まっちゃったから、もうワンマンでやるしかないよね。だからレコーディング終わったらすぐやろうかなと思って。アルバム出してまたツアーしたい。先のことはまだわかんないけど。

──とりあえずはアルバムの完成が楽しみですね。

うん、今はアルバムだけ作らせてくださいっていう。

──そもそもシングルで「あいどんわなだい」と「光」を出したのが2年前で、そのときに「このままアルバム作ろう」っていう話は当然あったわけですよね。それがうまくいかなかったのはどうして?

あのとき作ってたらたぶん3枚目、4枚目っぽいアルバムになってたと思う。そういうのは作りたくない。やっぱり作りたいのは1枚目。いつも1stを作りたい。で、1st作るにはやっぱりちょっといろんなとこを見直して、もう1回またゼロからやりたくて。

──その、峯田くんの言う“1stアルバム”ってどういうもの?

うーん、なんでもいいんだけど、いろんなバンドの1stあるでしょ。余力と勢いで3枚目、4枚目を作るのもいいんだけど、もう1回ゼロにして、そのときの環境や状況に合わせて1枚目を作りたいっていうのはずっとある。

──その発想はすごく銀杏BOYZらしい気がするんですけど、でもバンドって、2ndアルバムの良さもあるし3rdアルバムの良さもあるでしょう?

わかるけど、でもそれは捨ててる。1st出すっていうのをやり続けないと持たないバンドだと思う。いつも1stを作る意気込みで作んないと。俺すごい好きなバンド見てても思うけど、3枚目4枚目につれてどんどん成熟はしてるんだけどその良さというか、バンドのきらびやかな部分とか残酷な部分とかがだんだん薄れてって漂泊されてるっていうのが。

──成長したり成熟したりしますよね、バンドって。

そういうのあんまり求めてない。そういうのはやりたくない。でもそんなこと言ってもさ、1st録った25歳のときに戻れるかって言っても戻れないでしょ。時間が経つ分同じように俺も歳とって。進化するとこは進化するけど、退化するとこは退化するでしょ。その時点での1stっていうのは、ちょっと矛盾なんですけどどっか計算をしないとね。前は計算しないで作れたかもしんないけど。そういう意味では本来の1stではないんですけど、やっぱり。

──普通のバンドだったら、曲が10曲12曲あるんだったらそのまま録って出せばいいんじゃないのっていうことになると思うんですけど。

まあ、そうですよね。

──そういうバンドではないっていうことですよね。

うん。バンドはどういうやり方でもいいと思うから。メジャーだろうが自分たちでやってようが、何年に1枚出そうが。他のバンドがどうやってるかとかも関係ないし。

──そういう意味ではやっぱり銀杏BOYZの活動形態はちょっと特殊で、そのあたり自覚を持ってやってるということですね。

ハイペースでやってる人達のことはすごいと思うし、やっぱり尊敬するんですけど。俺らはなんかそうじゃなくて、溜めて溜めてできたやつを“ぶにょ”って出したいんですよね。寝かして寝かして「去年録ったやつ、このテイクでもいいんだけど今だったらもうちょっとこうできる」って思うんだったら、もう1回壊して、それで今の妥協なしの形でやりたい。それができるってことは環境に恵まれてるっていうのもあんだけど。その環境を作ったのは自分たちだし、その環境の中で贅沢にものを作れる喜びっていうのはあるんですよ。で、それがだんだん実になってきてるんで。だから良かったなぁって思ってます。

インタビュー写真

ニューシングル『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 / 2009年12月2日発売 / 1260円(税込) / 初恋妄℃学園 / SKOOL-020

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CD収録曲
  1. ボーイズ・オン・ザ・ラン
  2. べろちゅー
銀杏BOYZ(ぎんなんぼーいず)

アーティスト写真

2003年1月、GOING STEADYを突然解散させた峯田和伸(Vo,G)が、当初ソロ名義の「銀杏BOYZ」として活動。のちに同じくGOING STEADYの安孫子真哉(B)、村井守(Dr)と、新メンバーのチン 中村(G)を加え、2003年5月から本格的に活動を開始。2005年1月にアルバム「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」と「DOOR」を2枚同時発売し、続くツアーやフェス出演では骨折、延期、逮捕など多くの事件を巻き起こす。2007年にはメンバー自ら編集に参加したDVD「僕たちは世界を変えることができない」、シングル「あいどんわなだい」「光」をリリース。ボーカル峯田は「アイデン&ティティ」「ボーイズ・オン・ザ・ラン」など映画出演も多数。