「ゴーストマスター」は間違ってる
──成海さんのアクションも最高でしたね。
成海 脚本を読んだとき、「アクションシーンは大切だな」と思ったんですけど、自分にできるかどうか不安もあって。何日かかけてけっこう練習しました。でも、私はブチ切れる演技とか好きなんですよ。
ヤング キレる演技、最高でした。アクションの流れで「バカ野郎!」って頭突きするところとか、「こんな言い方になっちゃうの!? スゴい!!」と思って。かと思ったら、焚き火のシーンとかは「さっき鬼のような迫力だったのに、びっくりするほど柔らかい。この演技の振り幅すごいなあ」と思いました。成海さんの演技は驚きの連続でしたね。
渡邊 こんなにキャストを褒める監督も珍しい(笑)。私も映画を撮ったとき、川瀬さんの演技に「カッコいい! すばらしい!」って毎回言ってたら、苦笑いされました(笑)。でも、目の前で演技をしているのを見ると興奮しますよね。
ヤング 成海さんの場合、演技の瞬発力がすごいんですよ。誰にも打てないホームランを出せる人だと思う。すごく遠くまで、独特の軌跡で球を飛ばせる演技というか、そういうところが前からカッコいいと思っていて。だから今回、ずっと抑圧されてきた真菜が「パン!」と弾ける演技は、成海さんにぴったりだと思ってお願いしたんです。
成海 ありがとうございます。
渡邊 プライベートでもキレることがあるんですか?
成海 どうかな? キレるというより、責める感じかもしれない。
ヤング 理路整然と追い詰めていく感じ?
成海 そうですね。責めるのは得意かも(笑)。
渡邊 成海さんがパンクとかノイズも好きだという話を聞いたことがあったので、そういう要素もアクションシーンに採用してみようと思いました。
成海 すごく面白かったです。
ヤング 面白いよね。今回はそういうハードコアっぽい曲もあれば、キラキラしたJ-POPっぽい曲とか、ジョン・ウィリアムズっぽい曲があったり。1本の映画でいろんな音楽が楽しめる。
渡邊 ワンシーンの中で音楽のジャンルが複数展開する映画は、意外に少ないと思います。普通はもっと統一感があるはずで、間違ってるわけですよ、この映画は(笑)。でも、そこが面白いというか。その支離滅裂さが自分には合ってる気がしました。
「いろんな要素のある音楽にしてください」
ヤング 今回、プロデューサーが琢磨さんを推薦したんですけど、僕は「ローリング」(2015年公開の冨永昌敬監督作品)のサントラで琢磨さんを知ってたんです。それがすごく面白いサントラだったんですよね。琢磨さんは映像に音楽を上っ面で付けてないというか、音楽的な教養があるのがわかる。しかも、音色が面白くてオリジナリティがあるんですよ。だから、映画を離れても音楽として独立して聴けるスコアを作ってくれるんじゃないかという期待があってお願いしたいと思ったんです。
──アクションシーンのスコアの過激なミクスチャーも面白いですが、ホラー的なスコアではストリングスを現代音楽風に使っていましたよね。そういう幅の広さはさすがだと思いました。
渡邊 監督から「旧来の映画音楽的な要素は欲しい」と言われたので「じゃあ、弦を入れましょうか」と。
ヤング 実は僕、音楽の打ち合わせはすごく苦手で。だから最初の打ち合わせでは全然ディテールの話はしなくて、「いろんな要素のある音楽にしてください」とだけ言って、あとはお任せしたんです。
──劇中で三浦貴大さんが演じる助監督の黒沢明が熱く語るトビー・フーパー監督の映画、「スペースバンパイア」のテーマ曲の旋律を織り交ぜた曲もありましたが、それは監督の指示だったのでしょうか?
渡邊 だったと思います。ホラー映画ファンが「あっ!」と引っかかるようなところが必要かなと思って。
ヤング 物語にトビー・フーパーを入れたのは僕じゃなくて楠野さんなんですよ。僕もフーパーは好きだったので、脚本を改稿していくうえでフーパーの存在がどんどん大きくなっていった。完成してみたら、「スペースバンパイア」とこの映画はつながってるところがあると思いました。どっちも、いろんな要素が入っている映画じゃないですか。この映画はホラーだけどキラキラ恋愛映画とも言える気がして。
渡邊 そう。だから、劇伴を作り始めた頃、不穏な雰囲気を煽るような不協和音の弦がふんだんに入った楽曲を監督に送ったら、「あまり怖い音楽が多過ぎると恋愛映画の部分が薄れちゃうので気を付けてください」と言われました。
──バランスも大切だったんですね。恋愛といえば、プロデューサーの柴田と照明の鈴木が男同士で揉み合うシーンで、それまでのホラーな音楽が突然ムーディなR&Bになるのがおかしかったです。
渡邊 あそこはラブシーンだから(笑)。
ヤング 僕はいかにも“愛のテーマ”みたいなベタな曲にしたかったんですけど、琢磨さんが「ベタすぎるのはちょっと。これくらいのほうがいい」って。
渡邊 映像を観たとき、ああいうR&Bが頭の中で鳴ったんですよ。僕自身、男友達とハグしてるときにそういう音楽が鳴ってるのかも(笑)。でも、この映画はいろんな感情が入り乱れているというか、バカバカしさが沸点まで達すると逆に泣けてきちゃうところがあるんですよね。例えば屋上で麿さんが演じるベテラン俳優の轟と弟子の凡太のやりとり。凡太が「先生っ!」と叫ぶところなんて、ブラックユーモアなんだけど泣けてくる。この映画にはそういう変なカタルシスがいっぱいあって、ある意味、音楽的な作品なのかもしれないですね。これからミュージックビデオの仕事とかやってみるのもいいんじゃないですか?
ヤング じゃあ、琢磨さんのMV作ろうかな(笑)。
次のページ »
監督が梨を持って仙台に……
2019年12月10日更新